英語教育関連本・教材レビュー
注目の英語教育関連本・教材のレビューを毎月掲載。
ジョーゼフ T. シップリー 著
梅田 修/眞方忠道/穴吹章子 訳
A5判 778pp.
本体 6,000円
大修館書店
英単語の軌跡を辿る楽しさ
待ち焦がれていた形の語源辞典が出版された。教育現場で役立つことは勿論、英語の語源に興味・関心をよせる人達にとってもまさに福音と言える。一つ一つの言葉の奥義を「読んで」実感できることは実に楽しい。民族の歴史も言葉の歴史から辿れるからだ。
その意味で、訳書の形で本書を世に出した訳者達の熱意、出版社の見識と英断に敬意を表したい。
本辞典の主な特徴として、次の諸点を指摘することができよう。
1)「語源」=originsとして捉え、その解説が実に分かりやすい。
2)語義の変遷が詳しく、今日的語義成立の詳細な背景が分かる。
3)語形成のメカニズムを、具体的に解説。語彙力増強に大いに資する。
4)英単語のさまざまな事実やエピソードを通して、言葉に託す人間の深層心理を探索できる。
5)音推移、二重語、人名などを扱うAppendixが充実している。
以下、本辞典の特徴の一端を具体的に探って見ることとする。
まず、shrine(神殿)。中世を通じ、書き物に関するあらゆることは聖職者と関係していた。そして、「(高価な筆記用具や写本を入れる)文庫(L. scrinium)→厳重に保管されて安全→殉教者や聖人聖遺物を納める物」を経て現在の意味を獲得したと書かれている。まさに、この語義の変化の道筋の知識は語彙の背景にある民族の文化を理解するうえで欠かせない。
英語を母語としてきた人々は、語根を核として、語根の意味を方向づける接頭辞、品詞を決定する接尾辞によって多くの単語を生み出す。この営々と築き上げてきた英単語構成の「からくり」は彼らの英知の結晶に外ならない。具体例として、著者は語根 scribe、script(書く)をもつ14の英単語をあげている。その検証、説明たるや見事である。
また、adderを引くとmad as a hatter が挙げられ、hatter(帽子屋)はすべてmadかと一瞬思うと、このhatterはadderの訛りだと説明される。次に、hat、hood、hut はゲルマン諸語に共通の同系語で、「頭(head)の保護」がその基本的概念であると、アングロサクソン語、オランダ語、ドイツ語、ゴート語で複眼的に例証する。
本書の参照(〈 〉)は、多くの関連情報を提供する。achieve を参照すると、ラテン語 caput がフランス語を経て英語の、chief、mischievous、captain、capital、cape などになったことが分かる。楽しい発見である。
adderの項末に(→auction)とあり参照すると、著者は異分析に触れ、人間らしい過誤とも言える adder 誕生の秘密を紹介する。
命名には親の大きな願いが託される。「太郎と花子」が英語では「John と Jane」に当たることを知るのも楽しい。語源名の併記もまさに頼もしい。
(元流通経済大学教授 瀬谷廣一)
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出典:「英語教育」2010年2月号(大修館)
From "The English Teacher's Magazine" February 2010 Vol.58 No.12 (Taishukan)
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