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英語教育関連本・教材レビュー

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ラヴレターを読む—愛の領分

2009年1月25日


ラヴレターを読む —愛の領分
中村邦生/吉田加南子 編
四六判 266pp.
本体1,800円
大修館書店

灼爛たる命のあかし



時の擦過を潜り抜け、いまなお赫々とした光を放つ17人の愛の手紙がここに集められた。大岡信、浦雅春、佐々木幹郎ら17人の執筆陣が、それぞれに相貌の異なる愛のドラマを、深い洞察を添えて私たちの前に伸べ広げてくれる。書き手も読み手も失われたいま、もはや抜け殼と化したはずのラヴレターが、これほど深く胸を打つのは、背後に覗く空虚や渇きや裏切りが、重い闇となって私たちの生を包むからだ。

ラヴレターとは、どのように熱烈な思いを書き綴ろうと、それは書き手じしんの姿を映す鏡にすぎない。別居する妻オリガに八百通を超える手紙を送りながら、修辞や作為、自己韜晦で埋め尽くしていたチェーホフは、何よりもそのことを知っていたに違いない。そして数百通もの求愛の手紙を送りながら、フェリーツェやミレナと三度にわたる婚約破棄にいたったカフカ。彼ばかりではなく、たしかにいかなる愛の場合においても、交わされる手紙は、「欠落感をかかえた危機にある者どうしが補完的に相手を呼び寄せるのだが、そこにあるのは自分の問題の複製」(中村邦生)にすぎないのだ。

欲望にゆがむ醜い自己の像を凝視し得た者だけが、代償としての創造の羽ばたきを得ることができる。矢田津世子に宛てて、肉体の欲望を捨て仕事のなかに生きることを誓う坂口安吾、恩師エジェに宛てた自虐的な愛のことばを、小説に結実させたシャーロット・ブロンテ、絶対の愛の確証を求めながら得られず、傷ついた自らの肉体を描きつづけたメキシコの画家フリーダ・カーロ、師ハイデガーの愛の視線をむなしく求め、苦悩によって思想を導かれたハンナ・アーレントの軌跡が、それを物語っている。ワイルドが同性愛の罪に問われた獄中から美青年ダグラスに書き送った手紙は、自らの招いた悲劇から目を逸らすことのない彼の美学を伝えて胸を打つ。

ことばは虚偽であり、刹那の輝きにすぎない。しかし、性の奔流となって繰り出されたことばは、封印された書簡の内でおのずから力を帯び、愛の姿態をかたちづくる。だが、ひとたび冷ややかな現実と触れあえば、たちまち苦悶や諦めや恨みの相貌に姿を変える。かなわぬ遠い距離が愛をはぐくむこともある。永久に満たされないと知るゆえに、悲哀が岡倉天心とインドの薄幸の詩人プリヤンバダを結びつけたが、岡倉の死で断絶。憧れは永遠に萎れることなく封印された。それを喜びとすべきだろうか。死によってしか褪色をふせぐことのできない、愛の悲しい本質がそこにある。

それにしても、なんと灼爛たる命のあかしだろうか。魂のことばを失おうとしている私たちの時代は、ラヴレターという鏡に映る、私たちじしんの顔をも、見失おうとしているのかもしれない。

(昭和女子大学教授 平井杏子)

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出典:「英語教育」2009年1月号(大修館)
From "The English Teacher's Magazine" January 2009 Vol. 57 No. 11 (Taishukan)




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