英語教育関連本・教材レビュー
注目の英語教育関連本・教材のレビューを毎月掲載。
シルヴィアン・グレンジャー 編著
船城道雄/望月通子 監訳
A5判 295pp.
本体3,500円
研究社
学習者コーパスとは何かを教えてくれる名訳書
「コーパス」ということばが広く一般に知られるようになったのはここ3、4年のことだろうか。2003年に放送が始まった NHK 外国語講座に「コーパス君」なる生き物が登場してから、今では学生でも「コーパスって聞いたことがある!」と言う。しかし、そこに「学習者コーパス」という変種がいること、そしてそれが SLA および教授研究に大きな役割を果たす可能性を持っているものであることはあまり知られていない。
学習者コーパスとは、第二言語学習者のアウトプットを大量に収集し、コーパス化したものである。本書は学習者コーパスに特化した業界初の専門書、Learner English on Computer(1998)を監訳したものである。原書が出版されてから10年を経ての翻訳本の登場は、この歳月の間に学習者コーパスに対する注目が徐々に増してきたということを表わしているだろう。今こそ、日本においてもより広くそれが知られるべき時が来たということではないか。
本書は15編からなる論文集である。それらは3部に分けられ、第1部は「学習者コーパスデザインと分析」、第2部は「学習者の文法・語彙・談話の研究」、第3部は「学習者コーパスの教育への応用」とされている。
第1部の第1章では、編著者の S. Granger 氏が学習者コーパスの基本概念や構築に際しての留意点、SLA 研究の中での学習者コーパス・データの位置づけを記している。その際に、長らく SLA 研究分野のバイブルと言われ続けている R.Ellis 著、Studiesin Second Language Acquisition(1994)を随時参照している点で、本書はまさに「学習者コーパスと SLA を結び付ける1冊!」と言えるだろう。また、続く第2章「学習者コーパス分析のためのコンピュータツール」は、邦訳版用に原著者のF. Meunier氏本人が情報を最新のものに加筆修正している。この点が、本書の価値をさらに大きく高めていると言える。
第2部は8編の研究事例集だが、中でも興味深いのはフレージコン(phrasicon;phrase+lexicon)の使用を学習者 vs 母語話者で比較し、その抽出方法も丁寧に示している第5章だ。L2 発達に果たす連語の役割は近年ますます多くの注目を集めているところだろう。
また、辞書や教科書の編纂に母語話者コーパスを用いることは今ではいたって普通のこととなったが、学習者コーパスの方はまだまだその利用は少ない。第3部では、学習者コーパスならではのエラー情報などを生かしたその応用可能性を知ることができる。
全体を通して日本人学習者への言及はわずかしかないが、だからこそ我々が今後行うべき研究へのヒントが十分に得られる1冊である。
(獨協大学外国語学部専任講師 木村 恵)
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出典:「英語教育」2008年6月号(大修館)
From "The English Teacher's Magazine"
May 2008 Vol. 57 No. 3 (Taishukan)
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