英語教育関連本・教材レビュー
注目の英語教育関連本・教材のレビューを毎月掲載。
大学英語教育学会 監修
森住 衛/神保尚武/岡田伸夫/寺内 一 編
A5判 304pp.
本体 3,200円
大修館書店
会員の総力を挙げて挑んだ大仕事
大学英語教育学会が会員の総力を挙げて挑んだ大仕事である。この大仕事は,これから順次出版され全13巻に及ぶ。スタートである第1巻は「その方向性と諸分野」というサブタイトルの元に,前半は方向性について論じ,後半は諸分野の内容についてのコンサイスな概要になっている。読む方からすれば,第1巻でシリーズの全体像を把握し,そのあとは読者の専門と関心に応じてそれぞれの巻に飛ぶことができる。よく練られた構成である。
少し内容を紹介しよう。「大学英語教育学の考え方」「大学英語教育と初等・中等教育との連携」「大学英語教育と関連領域との連携」「言語政策と大学英語教育」「英語教育政策」「大学英語教育と教員養成・現職教員研修」と非常に幅の広い分野をカバーしている。大学という視点からそれぞれの分野の本質的な方向について,現代的な問題の提示と今後の方向を明らかにしようという問題意識に溢れている。
英語教育を全体的に展望すれば,大きな領域を占める中学や高校の英語教育については,常に問題が指摘され,完全とは言えないまでも何らかの改善の対策は取られてきた。多くの場合その改善の要求は,外部からのプレッシャーとしてなされた。例を挙げれば,この原稿を書いている時点では,大学入試センター試験が終了し,60万人近い高校生や過年度卒業生が受験している。それぞれの高校では,その成績の結果について受験生とそれを担当した英語教師も含めて,一喜一憂の光景が繰り広げられている。こういう状況に比べれば,大学の英語教育は微風地帯であったことは否定できない。もちろん大学の英語授業の改善について大学自体の中からの動きは,次第に顕著になって来ている。
私は大学の英語教育の方向性と諸分野を論じた第1巻を拝読し,大学の先生方の中から,小,中も含めた英語教育改善のためのグランドデザインをうちたてようという意志を感じさせられた。まだ道は遠いが,今回のような企画を通して諸分野における問題意識が明瞭化されることを歓迎したい。そしてそれぞれの専門分野からすぐれた専門家を動員し組織できることは,大学英語教育学会の底力であろう。
現在の状況は,世界が大きな曲がり角を迎え,教育そのものについても根本的な改革が必要な時に来ている。私たち日本が最先端を走っていたと思われる分野でも,いつの間にか遅れをとっていたということも出始めている。競争に勝つことだけが教育の目的ではないが,私たち全体が「心を引き締めなければならない時代」に入って来たことは確かであろう。ともあれ,教育は国家百年の大計である。これから次々と発刊されるシリーズに期待したい。
(京都外国語大学教授 齋藤栄二)
>>『大学英語教育学』を購入する(Amazon.co.jp)
* *
出典:「英語教育」2010年4月号(大修館)
From "The English Teacher's Magazine" April 2010 Vol.59 No.1 (Taishukan)
→過去の書評一覧はこちら