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投稿エッセイ

訳読を通じた英語読解力養成

2009年6月12日

はじめに

高等学校の新学習指導要領が2009年3月9日付で告示された。10年ぶりの改訂となり2013年度より本格的に実施される予定だ。それに先駆け、幼稚園、小学校、中学校の方は2008年2月15日に公開されている。幼稚園は2009年度、小学校は2011年度、そして中学校は2012年度から改訂された内容に基づく教育が行われる。現行の指導要領からの「生きる力」を育むという基本路線を踏襲しつつも、授業時間と内容の約三割を削減するといった「ゆとり教育」からの脱却を目指したものであることが今改訂の大きな特徴のようである。外国語教科である英語に関して言えば、授業時数を増やすだけでなく、習得すべき単語数を増やし、文法・訳読よりも実践的コミュニケーション能力の育成を更に重視するような方向性が提示された。「聞く」「話す」「読む」「書く」の四技能を総合的に学ぶよう意図されている。その中で本稿は「読む」技能に焦点を当て、英語読解力の養成における訳読の可能性について考察したい。この改訂の流れとは逆行する形に見えるだろうが、実際に日本の英語授業で依然として用いられている訳読を軽視するよりもコミュニケーション活動を補完する立場として捉えてみる。まずは現在における英語教育の流れを見ていきこのことを論じてみたい。


英語教育概観

実践的コミュニケーション能力育成への潮流
それまでの読み書きを中心とした授業からコミュニケーション能力重視の姿勢への転換は89年度版学習指導要領の施行に遡る。外国語を用いてコミュニケーションを積極的に図ろうとする態度を育成することに重点が置かれ、「聞く」、「話す」技能を独立した領域として扱うことで音声重視への方向性が確立し始めた。その次に改訂された98年、すなわち現行版で「実践的コミュニケーション能力」の育成に力を入れることとなった。以下に中学、高校それぞれの学習指導要領解説外国語編でこの能力がどのように定義されているかを記す。

「『実践的コミュニケーション』とは、単に外国語の文法規則や語彙などについての知識をもっているというだけではなく、実際のコミュニケーションを目的として外国語を運用することができる能力のことである。」(中学校学習指導要領解説)
「『実践的コミュニケーション』とは、外国語の音声や文字を使って実際にコミュニケーションを図ることが出来る能力である。すなわち、外国語を使って、情報や相手の意向などを理解したり自分の考えなどを表現したりして、通じあうことができる能力である。」(高等学校学習指導要領解説)

上記目標の達成に向け、四技能を有機的に関連付けるコミュニケーション活動を教室で行うよう求められている。次に今回の改訂でどのように変わるのかを見ていく。

学習指導要領の改訂
改訂に伴いどのように英語教育は特徴付けられていくのかを見ていくと、「使える」英語を身に付けられるようにすること、すなわち英語運用能力を高めることがまず根底にある。これは既存の路線を踏襲していると言えよう*1。

また変更もしくは新たに導入された内容として、小学校への英語活動の導入、大幅に増加した単語量(中学校で1200語、高等学校で1800語、合わせると六年間で3000語)、そして高等学校において英語による授業の実施といったことが主に挙げられる。一方授業時数の増加に伴い扱うべき言語材料の量も増えるというわけでなく、単語量の増加以外はほとんど変わらない。これは繰り返し学習による学習事項の定着を重視し、言語の運用面を強化する狙いがある。

言語材料のうち文法に関しては用語や用法の区別などの指導が中心になることの無いよう、コミュニケーション活動と連動する形での指導をこれまで同様に強調している。一方今回は語順や修飾関係等における日本語の構造との違いを意識させることが指導内容に含められた。これは母語である日本語との比較を通じて、新学習指導要領全般において重視する「言語に関する能力」を育成することにつながるものとして捉えられている。

読解力を養成するとは
ここから「読む」技能である読解に焦点を当てる。読解とは端的に述べると、文字を媒体として書き手からの伝達内容を読み手が解読して理解することである。新学習指導要領で扱われている「コミュニケーション能力」の考え方に沿うと「読む」技能は他の三技能と相互に関連させた言語活動を通じて向上させようとする。そうすると、文法説明の中で学習対象となる文構造の形式と意味を理解した後にその構造の含まれた文章を読んでいくというようなボトムアップ処理の読み方よりも、文脈情報や背景知識を用いたトップダウン処理の読み方がむしろ求められると言えよう。書き手からの伝達内容を理解できない、もしくは理解が困難になった際、それを理解するのに必要な文法説明がなされるといった相互補完の形となるようだ。

しかしながら、このやり方だと伝達内容の解釈が表面的なもので終わってしまう危険性はないだろうか。学習者は文構造の理解を軽視しがちとなりいわゆるフィーリングに頼り過ぎて読み進めていく恐れはないだろうか。このことは筆者が勤める大学で英語講読の授業を行った際にも多くの学生に見受けられた。またトップダウン処理中心での読み方に慣らされてしまうと、より複雑な構造、抽象的な内容に対応できないのではないかと考えられる。例えば多義語や一語で複数の品詞機能を持つ単語、また袋小路文の解釈をする際に学習者は誤った解釈を修正できないかもしれない。もしくは誤っていることすら気づかない可能性もあろう。中学・高校ではそこまで懸念する程抽象的な文章を扱わないとする考え方もあるだろうが、学習者の読解プロセスにおいて文構造を重視させる機会を持たせることの必要性は否めないだろう。

よってコミュニケーション能力を育成していく枠組みで「読む」技能を伸ばすことも重要ではあるが、文法規則に則って語義に品詞的役割を正確に与えながら読み進めていく文法解析(parsing)処理の重要性も否定できないと考えられる。方法としては様々なやり方があるが、訳読による読み方を授業で適度に組み込むことでボトムアップ処理がトップダウン処理を補完し読解力を特に正確さの面で向上させる余地はあるだろう。以下にその論拠を述べよう。

訳読(正式には「文法訳読法-Grammar-Translation Method」)とは
ここで改めて訳読の定義に触れよう。米山(2003)によると、文法訳読法は実際的な英語運用能力の養成よりも、言語構造の理解を深め、言語感覚を豊かにすることで教養を高めることを目指す教授法である。古くは中世ヨーロッパのラテン語の教育にまで遡ることができ、現在においても日本の英語教育の中で依然として用いられている。文法規則をまず先に教えた後、英語を文単位で訳していく。日本語で授業はほとんど行われ、コミュニケーション活動は伴わない。よって英語の「読む」「書く」技能の向上には関わるが、「聞く」「話す」の方に対しての貢献はないと考えられている。鈴木(2005)を参考にこの教授法の長所と短所を以下に述べよう。

長所

  • 学習者の知的レベルに合わせて高度な内容を扱うことができ、教養を高められる。
  • クラスサイズが大きくても対応しやすい。
  • 母語と外国語の相違点が明らかになる。

短所

  • ほとんど母語による授業のため、外国語の運用能力が育たない。
  • 一文単位で訳すことに終始し、文章全体の内容理解に至らないことが多い。
  • 読解した内容について意見を交わしたりする活動が少ないため、外国語によるコミュニケーション能力の育成が十分とは言えない。
  • 教師中心の一方的な授業になりやすい。

コミュニケーション能力の「読む」技能との関わり
短所にも挙げられているように、コミュニケーション能力の育成を主目的とする現行の英語授業の中では訳読による教授法だけでは十分な成果を発揮しないと言えるだろう。しかしながら、米山(2003)にあるようにこの教授法の目的の一つは言語構造の理解を深めることにある。英語から日本語へ訳す過程において意味を正しく捉えるためには構造理解が欠かせない。文法解析の結果として訳された日本語は英語を正しく解釈できたかどうかの指標となり得るだろう。もしその日本語が不自然なものとなった場合に、何が問題として生じたのかを特定する必要が出てくる。また自然な日本語であっても模範の訳文と比較して違いを見出した場合、誤った解釈の原因を探ることでより深い構造理解に発展させることが可能と言えよう*2。特にこの部分において訳読による授業方法は効果的であると考えられる。教師側にとっても学習者が正確に理解しているのかを確認しやすい。更に、日本語と英語の構造を比較することで「言語に関する能力」の涵養に寄与することも期待できよう。以上の理由から、正しい文法解析を通じての読解の正確さと「言語に関する能力」を養うために訳読は有益と言えるだろう。

昨今の英語教育では、言語理解と産出における流暢さを向上させることが言語運用能力を養成していく上で特に重要視されている。しかしながら、流暢さを高めるあまり正確さを犠牲にしてはならない。ただ通じれば良いという考え方では、伝えたい内容を伝達する成否はコミュニケーションの相手に依存し過ぎることになるだろう。そうすると、「読む」「書く」技能における正確さの重要性は特に増す。学習者に正確さを向上させることを促す文法訳読法はそういった意味で重視してよい教授法ではなかろうか。最後に、既述した短所を克服できるような授業の工夫の仕方を述べたい。

訳読の短所をどのように克服するか
短所1:ほとんど母語による授業のため、外国語の運用能力が育たない。
ここで強調したいのはあくまで訳読を導入する際にコミュニケーション活動を補うという形で行うということだ。コミュニケーション活動の中でも特に正確さを養う目的で授業に組み込むことで学習者に形式と意味の結びつきをより強化できるように働きかけられよう。

短所2:一文単位で訳すことに終始し、文章全体の内容理解に至らないことが多い。
訳すことで原文の意味を日本語に捉え直すという作業に加えて要約を書かせてみるのはどうだろうか。段落ごとに区切って要約させてもよいし、文章全体を訳し終えた後でもよい。学習者に要約をするよう事前に指示を与えることで、文単位の内容理解から文章全体への内容理解へと発展するだろう。その際に要点の理解度を問う演習問題も課すと更に効果的になると思われる。

短所3:読解した内容について意見を交わしたりする活動が少ないため、外国語によるコミュニケーション能力の育成が十分とは言えない。

既に述べたが、外国語によるコミュニケーション能力の育成に関して補う形で訳読を活用してはどうだろう。長所にもあったように訳読を通じて英語と日本語の相違点が明確になることは、コミュニケーション能力の向上に様々な形で寄与すると思われる。例えば時制と相の概念については、口語表現よりも文語表現の方により多種に渡って例が見受けられるので特に焦点を当てて取り扱うことができよう。これは「言語に関する能力」を養うという観点からも有益であると思われる。

短所4:教師中心の一方的な授業になりやすい。
学習者中心へと持っていくことは決して困難ではない。グループを作り同じ部分を訳させて競わせたり、教師が訳の説明をするのではなくグループごとに訳す場所の割り当てを決めて担当のグループが協力して訳の発表及び説明を行ったりといったようなことは簡単にできるだろう。他の学習者の訳し方を知ることで、発表を聞く側もそれとの比較からいろいろと学ぶことが期待される。また発表の際に聞き手に分かりやすく説明させることで文法規則や語彙についての知識をより深められよう。


終わりに

この度改訂される学習指導要領の中でも外国語によるコミュニケーション能力を涵養していくことが重視されている。過去において非難の的に上がっていた訳読による教授法はますます肩身の狭い存在となっていくかもしれない。しかしながら、本稿ではこの教授法を、コミュニケーション活動を十分補える存在として扱うよう提案してきた。コミュニケーション活動の成否はどうしても流暢さの方に偏重してしまう傾向があるように思える。ただ通じればよいという考え方を学習者に抱かせないためにも、訳読を通じての正確さの養成は意義のあることではないだろうか。それをきちんと定着させることで補完できる部分を多く見つけ出すことができると思う。筆者も一教師として様々な工夫を取り入れていきたい。



1. ただ今回は四技能のバランスの取れた向上を目指す中でコミュニケーション能力を養成するということは実践性を当然に伴うものであることから「実践的コミュニケーション能力」という表現を単に「コミュニケーション能力」というように言及し直した。

2. その際なるべく意訳を避け、多少不自然でも英語の構造を反映した形で訳すよう学習者に指示する必要もあるだろう。


参考文献
鈴木寿一(2005)「英語教授法概説」,小寺茂明・吉田晴世(編著)『英語教育の基礎知識-教科教育法の理論と実践』大修館書店
米山朝二(2003)『英語教育指導法事典』研究社

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投稿者: 志手 和行



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