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英語教育

墨塗り英語教科書と
戦後の教材・題材史

和歌山大学教授 江利川春雄
Erikawa Haruo
   
「英語教育」2006年12月号(大修館)→ 目次はこちら 定期購読はこちら
From "The English Teachers' Magazine" December 2006 Vol. 55 No. 11 (Taishukan)

多文化主義とグローバル化

1969年改訂(1972年度実施)の中学校学習指導要領は、題材を英語圏だけでなく「広く世界の人々」にまで広げるよう求めている。こうして、英語教科書の脱英米化と多文化主義は1970年代から徐々に進み、1980年代から本格化する。

1972年度の中学用をみると、三省堂のTotal English: Junior Crown Seriesでは、アメリカ人のVincentがソビエト・ロシアに住むStanislasと当時最先端のカセットテープで声の文通をしている。東西冷戦下にあって、平和共存への願いを込めた先駆的な題材である。

アジア、アフリカ、中南米出身の登場人物は、1981年度の中学用で12%の課に登場し、1993年度用では32%に急増した。高校用では、若林俊輔氏らのThe New Century English Series I(1982年度版)が「諸外国の宗教・文化・人種などの相違を偏見にとらわれずに認め、相互理解を深める」(編修方針)として、多文化主義を打ち出した。この1980年代からは中・高を問わず、キング牧師に代表される人権問題や、酸性雨や森林伐採などの地球環境問題を扱う教科書が増えた。

1993年は国際先住民年だった。同年の中学用教科書には、ニュージーランドのマオリ族、オーストラリアのアボリジニ、北極圏のイヌイットなどが登場した。また、多言語事情の面からアメリカを考える教材もあった。時代は確実に変化した。

「役に立つ英語」論の流れ

題材論とは別の角度から戦後の英語教科書史をながめると、会話重視の根強い潮流が見えてくる。

戦後の「役に立つ英語」論は1955年に日本経営者連盟が出した要望書から始まる。これを受けて、文部省は1960年に英語教育改善審議会を発足させた。その答申には「今後5カ年間、文部省主催で現職教員がhearingと speakingの力をもっと身につけるように再訓練すべきである」とある。そのために助成金を出し、英語漬けの研修を行った。現在の「英語が使える日本人」育成計画とそっくりである。

1969年改訂の中学校学習指導要領では「聞く・話す」を中心にした「言語活動」が強調され、従来の文法シラバスからの脱却が図られた。中学用教科書のタイトルは一斉にReadersをやめ、明治以来の「読本」を脱した。翌年改訂の高校学習指導要領では「英語会話」が新設された。「英会話を教えられる教師が何人いるんだ」などと陰口をたたかれたが、当時の教科書を読み直してみると、なかなかよくできている。たとえば、田崎清忠氏らのOral English Workshop(1973年度版)をみると、冒頭でリズムやイントネーションを本格的に指導するなど、会話の基礎固めに効果的な構成となっている。

1981年度時点での高校用検定教科書を数えると、英語会話が4種類だけだったのに対して、英文法は22種類も刊行されていた。これが現場のニーズだった。にもかかわらず、文部省は1978年の学習指導要領改訂(1982年度実施)によって、カリキュラムから英文法を一掃してしまう。

1989年改訂の学習指導要領から「コミュニケーション能力」の育成を謳っているのはご承知のとおり。語彙も時間数も削減され、中学用教科書のページ数は中国の半分以下になった。

英語との言語的距離が遠い日本のような特異なEFL 環境で、英文法の時間を廃し、オーラル重視に転換したことが正しかったのだろうか。1993年度から高校入学時の英語学力が低下し続けているという深刻な報告もある(斉田ほか 2003)。

戦後英語教育は60歳の還暦を迎えるが、安泰な老後はだいぶ先のようだ。


◆参考文献
磯辺ゆかり・江利川春雄(2006)「『墨ぬり』英語教科書の実証的研究」『和歌山大学教育学部紀要・人文科学』第56集.
江利川春雄(2002)「英語教科書の50年」『英語教育 Fifty』大修館書店.
斉田智里ほか(2003)「高校入学時の英語能力値の年次推移」STEP BULLETIN. Vol.15.

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「英語教育」2006年12月号



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【特集】日本人はどんな英語を学んできたか
    ―教科書の定番教材から見て―

戦後、日本人はどのような教材で英語を学んできたのか。そこにはどんな英語観が見られるか。代表的な教科書・教材を、テーマ別、第1課比べなど、様々な視点から読み直すと――

墨塗り英語教科書と戦後の教材・題材史
江利川春雄
代々の「第1課」読み比べ:
This is a pen.〜Hello!〜そして
青木昭六
いちばん変わったのは女性の役割と地位:
中学教科書が映すジェンダー政策の変遷
高橋美由紀
永遠のジャック&ベティ:
会話教材をめぐって
佐藤惠一
教科書が描いてきた「世界」は…:
人権・地球環境・平和ってどれくらい定番?
室井美稚子
教科書の中の「偉人」列伝
東川直樹
昔の英語教科書から何が見えるか
斎藤兆史
教室で教材をこう活かす:教科書に出ていないことをどう調べ、どう活かすか
山本良一
[資料]〈学習指導要領の変遷と教材の変化〉対照年表
磯辺ゆかり
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本書を読むための留学基礎用語

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第2章 こんな理由で留学させてはいけない
第3章 「成功する」留学先を選ぶために
第4章 留学先の情報収集には、絶対手抜きをしない
第5章 子どもの留学中に親がしてはならないこと
第6章 どんな子どもが留学先で嫌われるのか
第7章 ただ今、「親子留学」が急増中
第8章 低年齢児が行くサマースクールの実態
第9章 「成功する」留学に必要な親子の絆

おわりに

巻末付録
 [1]留学情報収集に役立つサイト一覧
 [2]ホームステイ先に書く手紙の文例

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