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ネイティブ教師向け
墨塗り英語教科書と
戦後の教材・題材史
和歌山大学教授 江利川春雄
Erikawa Haruo
「英語教育」 2006年12月号(大修館)→
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From "The English Teachers' Magazine" December 2006 Vol.
55 No. 11 (Taishukan)
日本人主体の題材へ
朝鮮戦争(1950‐53)特需をバネにした高度経済成長と、1964年の東京オリンピックの成功で、日本人は自信を持ちはじめる。逆にアメリカのイメージは60年安保闘争とベトナム戦争によって悪化した。所得倍増でテレビを手に入れた日本人は、アメリカ人の悪役レスラーを空手チョップでなぎ倒す力道山に拍手喝釆を送るようになった。
こうして、1960年代には教科書の題材にも日本ものが目立ってくる。ハーン文学の傑作 “Mujina” はその代表である(図3)。New Prince シリーズの看板役者として、1962年の初舞台から1986年の千秋楽まで、8期中7期を勤めあげた。目鼻立ちは良くないが、希代の名優である。
図3 根強い人気だった“Mujina”
New Prince English Course 2 (1984年度版)
文学といえば、1968年に川端康成がノーベル文学賞を受賞し、記念講演は「美しい日本の私」だった。これをまねて、国鉄(現 JR)は「ディスカバー・ジャパン」運動の副題を「美しい日本と 私」にした。本音は大阪万博後の乗客減を挽回するためで、現実の日本は公害列島と化していた。「美しい日本」などという美辞麗句の裏には、今も昔もうさん臭い意図が隠されているようだ。
筆者が使った1969年度版New Prince Readers 1の表紙は自由の女神で、Jack and Betty時代から続く親米路線の最後を飾るものだった。その後はNew Princeにも日本人が増えていく。1972年度版には米国にホームステイ中の日本人ナオミが登場。着物姿でモテモテだが、芯は強い。いよいよ帰国という彼女に、Ben 君は「アメリカ人になって僕たちと一緒に暮らそうよ」と口説く。しかしナオミ嬢は “I like your country、 but I also like Japan.”と断り、日本人としての意地をみせた。この年、日本は中国との国交正常化を実現し、アメリカの思惑を超えて独自外交を展開しようとしていた。いつまでも言いなりにはならない。
1978年度版では、海外赴任中の日本人オカさん一家がBrown一家と並んで主役の座を占めるまでになった。おまけに、父親のBrown氏は空手の黒帯で、母親の趣味は日本人形の収集だというから、日本の株も上がったものだ。
この年にはNew Crownが登場し、日本人の視点と異文化理解を大胆にとりいれて、その後の題材論に大きな影響を与えた。とりわけ、Little BoyやFat Manという軽妙な英語が、実は広島と長崎に投下された原爆の名前だったとする1990年度版の“Two Visitors”は、ことばの魔力と被爆の悲惨さを考えさせる逸品だった。
高校用でも、1980年代には日本文化を積極的に発信しようとする教材が目立つようになる。たとえば、VISTA English Series I(1982年度版)では、鎌倉と箱根、日光、京都、長崎、札幌の5編シリーズで外国人に日本を紹介する設定だった。
1989年告示(1993年度実施)の中学校学習指導要領は、「国際社会に生きる日本人としての自覚を高める」という方針を打ち出し、日本人の生活や文化を海外に発信する教材を推奨している。こうした目標は、戦時下1943年の中学校規程で「国民的自覚ニ資スル」と掲げられて以来である。
かくして、1993年度の中学用教科書では日本人が登場する課が全体の74%にも達し、アメリカ人の53%を大きく上まわった。前回の指導要領に基づく1981年度版教科書では、アメリカ人が63%、日本人が62%だったから、その後に主客が逆転したことになる。教材の設定場所でも、1993年度版では日本が40%となり、1981年度版の18%から倍増した(江利川 2002)。
題材内容では、日本人が海外で「国際貢献」する題材が増えた。たとえば、青年海外協力隊の活動(Everyday 2, Total 3)や、日本人医師のネパールでの医療奉仕活動(Sunshine 3)などである。また、俳句、将棋、囲碁、落語などの日本の伝統文化を積極的に発信する題材も増えた。文学では宮沢賢治の『注文の多い料理店』と『銀河鉄道の夜』が合計3つの教科書に登場したのを筆頭に、『夕鶴』『浦島太郎』なども載せられている。
ただし、日本中心の題材は、戦時下の『英語』のように、日本を過度に美化し、ナショナリズムを煽るものであってはなるまい。真の国際理解には、自国の負の歴史を直視することも不可欠である。その点で、中村敬氏らの高校用First I・II(1989年度)が台湾統治下での日本語強制の問題や、東南アジアでの日本軍の残虐行為に言及したことは、英語教材史上の特筆すべき試みだった(図4)。
図4 消された教材“War”
にもかかわらず、教材“War”は検定合格後に一部政治勢力の横やりで差し替えさせられた。それに対して、英語教育界の多くは無関心で、必ずしも有効な反撃ができなかったという。そうした体質はどこから来たのか。思い返せば、戦後英語教育の再出発に際して「墨塗り」という隠蔽によって過去の清算を怠ってきた。そうした歴史に遡って自己点検を行うべきではないだろうか。
「英語教育」2006年12月号
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【特集】日本人はどんな英語を学んできたか
―教科書の定番教材から見て―
戦後、日本人はどのような教材で英語を学んできたのか。そこにはどんな英語観が見られるか。代表的な教科書・教材を、テーマ別、第1課比べなど、様々な視点から読み直すと――
墨塗り英語教科書と戦後の教材・題材史
江利川春雄
代々の「第1課」読み比べ:
This is a pen.〜Hello!〜そして
青木昭六
いちばん変わったのは女性の役割と地位:
中学教科書が映すジェンダー政策の変遷
高橋美由紀
永遠のジャック&ベティ:
会話教材をめぐって
佐藤惠一
教科書が描いてきた「世界」は…:
人権・地球環境・平和ってどれくらい定番?
室井美稚子
教科書の中の「偉人」列伝
東川直樹
昔の英語教科書から何が見えるか
斎藤兆史
教室で教材をこう活かす:教科書に出ていないことをどう調べ、どう活かすか
山本良一
[資料]〈学習指導要領の変遷と教材の変化〉対照年表
磯辺ゆかり
[アンケート]「心に残る教材は?/こんな教材を!」
淺川和也/伊村元道/大内由香里/
川畑松晴/
黒田龍之助/ 鈴木孝夫/新里眞男/
沼野充義/林 一
■英語教育時評
■パソコン教室に学習サイトを作ろう[最終回]
■イギリスで見た日本人児童の英語習得
■授業のここにフォーカス
■菅先生に聞こう! 授業の悩みQ&A
■大学の英語の授業をデザインする
[最終回]
◆<巻頭エッセイ>American Sports Diary
◆Table Talk on ELT
◆映画から読み解くアメリカ
◆今月の時事英語[若者ことば編]
◆テーマ別ネイティヴの表現
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はじめに
本書を読むための留学基礎用語
第1章 この20年で留学事情はこんなに変わった
第2章 こんな理由で留学させてはいけない
第3章 「成功する」留学先を選ぶために
第4章 留学先の情報収集には、絶対手抜きをしない
第5章 子どもの留学中に親がしてはならないこと
第6章 どんな子どもが留学先で嫌われるのか
第7章 ただ今、「親子留学」が急増中
第8章 低年齢児が行くサマースクールの実態
第9章 「成功する」留学に必要な親子の絆
おわりに
巻末付録
[1]留学情報収集に役立つサイト一覧
[2]ホームステイ先に書く手紙の文例
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