My parents always say that all Japanese boys are to become brave and strong soldiers in future. So I will try to do my best to train myself through military training.(中学校1年用)
Our country, Nippon, is in Asia, and is the strongest in the world.(中略)Our language will be used more and more in the Greater East Asia.(高等女学校2年用)
“the Greater East Asia”とは、日本が支配しようとした「大東亜共栄圏」のことである。削除・修正の対象が教材の中の「題材」に関する部分であるのは、題材こそが国家や社会が期待する人間像に深くかかわるからである。教え子がイラクのような戦場に送り出されるいま、戦後英語教育の開始にあたっては、どんな教材に墨が塗られたのかを思い起こしたい。ただし、「墨ぬり」の目的は戦争への真摯な反省からではない。「進駐してくる米軍の目から、教科書のなかの軍国主義的なところを事前に隠してしまおうというのがねらい」(久保田藤麿・当時文部省青少年教育課長)だったという。過去の教育内容に対する反省の弱さを、戦後英語教育は出発点から抱えていた。これが、後々まで尾を引くことになる。
1947年度には、新制中学校の発足に間に合せるべく、文部省がLet's Learn English を刊行した。アメリカ人の男女が一緒に歩く表紙は「男女共学」の新時代を象徴していた。翌1948年に出たJack and Betty の表紙では、男女が手まで握っている(図2)。やがてフォークダンスが運動会の定番となる。学校の民主化は、米軍のジープと「オクラホマ・ミキサー」に乗ってやってきた。あのダンスは恥ずかしかった。坊主頭の少年には、ちょうちんブルマの少女がまぶしすぎた。
図2 Let's Learn English と Jack and Betty
1949年度からは民間の検定教科書時代に入る。2006年度分までの中学校外国語用だけで149種類もあるため、本稿の考察では採択率の高い教科書を優先したい。採択率は1963年度の中学用ではJack and Betty の開隆堂が64.8%と、2位の三省堂22.8%を大きく引き離し、1978年度の44.5%まで首位を守っていた。1967年度に登場した東京書籍のNew Horizon は1981年度に首位を奪う。
Jack and Betty はアメリカ中産階級の日常生活を描くことに徹した親米教科書として有名だが、それは時代の反映でもあった。1949年5月に実施された時事通信社の世論調査によれば、日本人が「もっとも好きな国」はアメリカが断トツの62%で、2位のイギリスは4%でしかない。逆に、「もっとも嫌いな国」はソ連の53%で、アメリカ「嫌い」はたった1%だった。「冷戦」体制に日本人の意識もスッポリはまっていたわけだ。もっとも、アメリカの対日占領政策も巧妙で、いまの対イラク政策とは大違いだった。
教材には、「どんな次世代を育てるか」という思いが込められている。Jack and Betty の初版をみると、Jack の父親は自動車会社の技術者だった。汗と油にまみれて物作りに励むことが、戦後復興期の理想像だったのである。ところが、『経済白書』が「もはや戦後ではない」と宣言した1956年版では、父親はソファーに座って優雅にパイプをくゆらせている。給料が上がったのだろう。後継のNew Prince(1966年度版)になると、主人公の Roy は父親の職業である医者志望で、あこがれの階層が上昇している。New Horizon(1972年度版)をみても、これまた主人公 Mike は父親と同じ医者志望。これでは、子どもが塾に行くはずだ。
Copyright (C) 2008 eigoTown.com Ltd., All rights reserved.
All other trademarks are the sole property of their respective owners.
No reproduction or republication without written permission.
本ホームページに記載の文章、画像、写真などを無断で複製することは法律で禁じられています。