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[座談会]
英語教育は国語教育と連携できるか
その基盤を探る

         
松本 茂
松本 茂
Matsumoto Shigeru
(立教大学教授)
山田雄一郎
山田雄一郎
Yamada Yuichiro
(広島修道大学教授)
大津由紀雄
大津由紀雄
Otsu Yukio
(司会/慶應義塾大学教授)
 
三森ゆりか
三森ゆりか
Sammori Yurika
(つくば言語技術教育研究所所長)
   
「英語教育」2006年5月号(大修館)→ 目次はこちら 定期購読はこちら
From "The English Teachers' Magazine" May 2006 Vol. 55 No. 2(Taishukan)

英語の直通チャンネル

松本
先生のモデルはCummins(1976)のものとどう違うのでしょうか。

山田
カミンズのモデルを純理論的とすれば、私のものはそれを現実化しているといえます。英語学習を通して、日本語によって育てられた基底能力をいかにして共通基底能力に育てるかに主眼が置かれているからです。

基底能力部分を育てる点では、「経験」の豊富な人間はこの部分が大きくなるということが言えます。日本人が第二の言語として英語をやる場合を考えますと、英語による直接経験は難しいけれども、間接経験を利用することはできる。間接経験の最も手軽な方法は、本を読むことですね。だから本をたくさん読む。これは何語でも構わないと思います。

私は、現在の英語教育は出入力チャンネルを育てる視点が希薄だと考えています。たとえば、バイリンガル的な置き換え(A=B式の暗記的学習)、これも出入力チャンネルの成長を阻害する可能性が高いと思います。辞書を引いて、この単語はこういう意味ですと理解する。これはある意味で仕方のないものがありますが、それをそのまま覚えるという学習の仕方を捨てなければいけないのではないか。たとえば、家族の写真を見せながら、She is my daughter.と言うとき、大学生が25人のうち23人まで「彼女は私の娘です」と訳したんです。普通、日本語なら「これがうちの娘です」というふうな言い方になるわけですね。だけど英和辞書的な発想で、あるいは暗記的な勉強をしていると、she が出てくると常に「彼女」と訳してしまう。

大津
そうすると、「これがうちの娘です」と言えるようになると何か変化が起きるわけですが、それは図3でいうと、点線が実線になるわけですか。

山田
現行の方法では、cからaを通ってつながろうとするわけですね。これは一種の迂回路ですから、cをできるだけ消して、なるべくbという回路で下の基底能力につなげるようにする必要がある。

大津
このcの経路を断ち切るためには、今どういうことをすればいいのですか。

山田
それが難しいところですが、現実的な問題でいいますと、教師がこういった方向に対応できるかどうか。だからこれから最も大切になるだろうと思うことの一つが、教員養成です。それも組織的な、日本語と英語の両方を訓練するような教員養成が大切だろうと考えています。

今のところ私は学生たちはもちろん、あるいは小さな子どもを相手にする場合でも、ことばを勉強するときに「覚えてはいけない」と言っています。ではどうするかというと、自然に身につくまで発音をしたり書いたりする。ことばというのはそうやって勉強しないといけないということですね。

日本語の介在はどこまでか

松本
英語の力と日本語の力を両方つけるのであれば、置き換えは必要ないと思います。写真の女の子をみて概念的に sheととらえているということが大事で、うまく訳せるようになるというのは、かなりできるようになった段階の話でしょう。

日本語に訳すという練習ではなく、概念的に理解するような練習の量をふやしたほうがいいと思います。こういうコンテクストでは「この犬は」と訳すが、こういう心理的距離の場合は「あの犬は」になりますといったことを説明していては、中学生レベルでは、かえって本来の意味がわからなくなるんじゃないでしょうか。

山田
そうでしょうか。逆に「あの犬は僕の犬です」という日本語を英語でどう言うか。She is my dog. でもいい。あの犬といったら常に that dog でなければいけないわけではない、そういう感覚を育てたいわけです。

大津
松本さんがおっしゃった、英語学習の始まる段階では、なるべく日本語を介在させないで英語を使えるようにするという考えは、山田さんも納得ですか。

山田
ええ、直接意味から英語に結びつくような指導とか学び方をしたほうがいいと思います。この意味というのは、日本語になる前の意味ですね。

大津
それが最終的な目標であっても、初期段階からそういうことが可能だと考えますか。

山田
ええ、最初にdogが犬だというふうに便宜的に教えることは必要だと思いますが、それから離れていくための作業がやがて要るようになるわけですね。その離れる作業は、1対1の対応の期間が長ければ長いほど難しくなる。だから便宜的に用いるものはできるだけ少なくすべきだと思います。

大津
松本さんは、初期段階でも1対1対応が存在することは望ましくない、あとから日本語が入ってきて、日本語と英語はこういうふうに違うということに気づくことがあってもいいかもしれないけれども、少なくとも中学生段階では、日本語が入ってこないのがいちばんいいということですね。

松本
ええ、概念的にわかるようにすることが大事で、文法的なことも、生徒自身が「こういうことなのか」とおぼろげにわかっていくように授業を組み立てたほうがいいと思います。

三森
私は英語教育に関しては素人ですが、中学生で英語を始めるときに、日本語を介在しないで学べるものなんですか。たとえば犬の絵をみせられてdogと言われたときに、日本の子どもの頭に全く「犬」という日本語が浮かばないんですか。

松本
個人差もあるでしょうが、単語と単語を置き換えていくという作業ではなくて、ダイアログやイラストがあって、どういうストーリーだということを頭のなかに自分なりに落とし込んでいければ、それほど難しいことではないと思いますね。

三森
つまり日本語でいちいち訳させないだけで、頭のなかで日本語になっているのはかまわないというか、それを否定するのはたぶん無理だと……

松本
否定するのは無理かもしれないですが、日本語を意識させない訓練をしておかないと、大人になっても常に英語を日本語に置き換えていくという作業になってしまうということですね。

大津
私は最初は日本語と英語が学習者の頭のなかに共存していて、両者が関連づけられながら進んでいくほうがいいと思っているんですよ。ある段階になるとそれぞれが独立したかたちになってきて、英語も日本語を介在しないで使えるようになる。それはやはり、経験じゃないかと思います。

松本 茂 松本 茂(立教大学教授)
コミュニケーション教育学専攻。中教審外国語専門部会委員、文科省SELHi企画評価会議協力者、文科省読解力向上に関する検討委員会委員、NHKラジオ「ものしり英語塾」講師なども務めている。
山田雄一郎 山田雄一郎(広島修道大学教授)
専門は言語政策、英語教育。いろいろな言語に関心がある。著書:『英語教育はなぜ間違うのか』(ちくま新書)、『日本の英語教育』(岩波新書)、『外来語の社会学』(春風社)など。
大津由紀雄 大津由紀雄(慶應義塾大学教授)
専門は言語の認知科学(生成文法)。言語教育に関する言論活動も行う。教育関係の著書:『小学校での英語教育は必要か』(編著、慶大出版会)、『探検Iことばの世界』(ひつじ書房)など。
三森ゆりか 三森ゆりか(つくば言語技術教育研究所所長)
読解と作文を中心とした言語教育実施。日本への言語技術の導入を目指す。著書:『絵本で育てる情報分析力』(一声社)、『外国語を身につけるための日本語レッスン』(白水社)など。

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「英語教育」2006年5月号


「英語教育」2006年5月号
月刊「英語教育」について

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【特集】英語力と国語力をともに育てるには

英語よりもまず日本語の力をつけるのが先では?−いや、英語も教えることで日本語力もつく−小学校に英語を導入するなら国語と連携しては…。今どんな実践が可能なのか。教育の場での様々な可能性を探り、提案する。

<座談会>英語教育は国語教育と
連携できるか:その基盤を探る
大津由紀雄・三森ゆりか・松本 茂・山田雄一郎
国語科と連携した英語授業:
帝塚山高校の実践から
 
米崎 里・楳田美惠子
学校ぐるみの「言語技術」授業:
麗澤中学・高等学校の実践
竹政幸雄
日本語に活きる英語活動:
岩倉南小学校の実践から
村上昌子
ダイアローグ原理の教育へ:
転換を迫られる国語教育
村松賢一
英語も国語も、「言語教育特区」の試み:
沼津市立の全小・中学校で
白畑知彦

■英語教育時評
■授業のここにフォーカス
■イギリスで見た日本人児童の英語習得
■大学の英語の授業をデザインする
■菅先生に聞こう! 授業の悩みQ&A
■新しい教室英文法

◆<巻頭エッセイ>American Sports Diary
◆Table Talk on ELT
◆映画から読み解くアメリカ
◆今月の時事英語[若者ことば編]
◆テーマ別ネイテイヴの表現

大修館よりオススメの新刊

英語教師のための「学習ストラテジー」ハンドブック

英語教師のための「学習ストラテジー」ハンドブック

大学英語教育学会 学習ストラテジー研究会 編著
1,680円 (A5判・288頁)

「学習ストラテジー」とは、学習者が英語を効率的に学ぶための方略であり、また学習者が上手にコミュニケーションをするための方略でもある。本書は実際の授業の中で「学習ストラテジー」をどのように活用して指導していけばよいか、実践例をまじえて提示するハンドブックである。37の具体的なレッスンプランがすぐ授業で使える。

はじめに
1.「生きる力」と「学習ストラテジー」
2.学習ストラテジー指導の必要性
3.本ハンドブックの構成

第1部 解説編

第1章 学習ストラテジーについて知っておきたいこと
第2章 学習ストラテジーを指導すれば、生徒が変わる
第3章 授業で学習ストラテジーをどう指導するか
第4章 指導した学習ストラテジーをどう評価」するか


第2部 レッスンプラン編

第5章 レッスンプランの概要
第6章 中学用レッスンプラン集
第7章 高校用レッスンプラン集

参考文献
索引
執筆者一覧

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