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発音指導における教師の役割
怪しい発音指導の正体


関西国際大学教授 有本 純
Arimoto Jun
   
「英語教育」2005年12月号(大修館)→ 目次はこちら 定期購読はこちら
From "The English Teachers' Magazine" December 2005 Vol. 54 No. 10(Taishukan)


指導書のタイプ

先に述べた通り、発音教本を読み、付属のCDを聞いただけで発音が上達するのは無理なことが、お分かりいただけたはずである。書店では、多くの発音教本・指導書を見かけるが、おおむね以下の4つのタイプに分類できる。

1)調音音声学に基づき、専門用語を用いた解説が示されており、英語のネイティブスピーカーの発音について述べられている。教師には理解できるが、通常の学習者には適していない。
2)英語音声学の素人が、英語圏に滞在した経験に基づき、自分の耳にはどのように聞こえたか、また、そのような発音をするための方法が述べられている。しばしば、誤解を招くような記述(巻き舌で発音すると英語らしくなる)も見られる。
3)さまざまな工夫を凝らしたカナ表記を用いて、日本語との距離を近づけようと試みたものもあるが、やはりカナで表記する限り、日本語の発音になる危険性を含んでいる。カナ表記を用いる場合、教師による指導が無い場合は、相手に通じないカナ読みになってしまう。
4)フォニックスの手法で綴り字と発音を組み合わせた教本であるが、調音の説明が分かりにくく、例外的なルールが多い、等の問題点がある。

いずれの場合も、教師が直接指導に当たらなければ、学習者は正しい発音を習得することが困難である。

意味不明の説明

多くの指導書に見られる怪しげな記述、および教師の間で信じられている不思議な発音指導の説明を例に挙げて、問題点を議論してみたい。

(1) エの口でアを言う
/æ/の調音法では有名なものである。確かに母音四角形では、日本語のエとアのほぼ中間点にこの母音が位置していることから、このような説明が生み出されたのではないかと推測できる。しかし、このような説明を聞いて調音できる生徒が現実にいるとは考えにくい。また、実際エの口でアを言うと、やはりアにしかならないはずである。

(2) /i/を長く伸ばすと//になる
日本の教科書および英和辞典の多くは、/、i/という表記を採用している。学習者から見ても、2つの母音の違いは「長さ」にあるという誤解を抱かせるに違いない。教師もそう思い込んでいることがある。英語音声学の立場からは、緊張母音と弛緩母音の差であると説明できる。従って、厳密に言えば長さの違いではない(正確な表記は/i、I/である)。一方、EILの立場からは、長さで区別したからと言って、通じない訳ではない。結果として、「怪我の功名」とでもいうべきで、この指導は問題にはならない。同様のことは、/u、/においても言える。

(3) 歯で下唇を噛む
/f、v/の調音を説明しようとしているが、噛んでしまうと隙間が無くなるので、摩擦音は出しにくくなり、逆効果である。「軽く乗せるように」という説明に切り替え、その接触位置を持続させることの方が大切である。

(4) 舌を上下の歯で噛む
/θ、ð/の説明であるが、舌の位置は上下の歯で軽く挟まれるだけで、隙間が無くては摩擦音は作れない。あるいは、舌先が上歯の裏に触れているだけでも調音できる。舌先の位置が歯茎に接近していると/s、z/になるが、最近舌先がさらに前寄りになり、歯裏に接近して/θ、ð/と区別ができない学生が増えている。

(5) 強く発音する
強勢の指導でよく耳にするが、学習者には強さという感覚が捉えにくく、声の大きさに置き換わることが多い。強さは呼気の速度に関係しているが、そこまで厳密に考えず、声の大きさ・母音の長さ・声の高さの複合体として実現すれば、聞き手には強勢として受け取られる。

(6) 疑問詞付きの疑問文では下降調
イントネーションの指導で、疑問詞付きの疑問文には上昇調と下降調の2種類があるにも拘わらず、下降調だけしか指導されていない。

What is your name?

下降調は確かに普通の言い方であるが、時には事務的で冷たい響きになることがある。この例文では、警察官が不審者に尋問している場面で「名前は何だ」という状況が考えられる。逆に、低い上昇調を使うと、迷子の子どもに「坊や、名前は何て言うの」と問いかける優しさや暖かさが表現される。

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「英語教育」2005年12月号



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基本的な指導法に新しい工夫を加えて 小菅和也
なぜ生徒は発音を間違うか? 牧野武彦
もっとプロソディを! 野中 泉
リスニングに役立つ音声指導 弓谷行宏
発音指導における教師の役割:
怪しい発音指導の正体
有本 純
10段階発音指導を検証する 浅見道明
田中敦英
<コラム>  
英語らしく聞こえる発音のコツは? 野中 泉
IPA利用の勧めと発音指導の注意点 三浦 弘
「濡れた」からletterへ:
日本語を活用した発音指導
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どうしてもネイティブに聞き取って
もらえなかったあの発音
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アルファベットとIPA 三浦 弘

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■目次
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第3章 学習開始時に動機づけを喚起する
第4章 動機づけを維持し保護する
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