英語教育ニュース
Contents
英語教育学会
English-related Organizations
ETJ
English Teachers in Japan
ESUJ
日本英語交流連盟
英語教育ニュースでは英語教育に関する非営利団体・学会をサポートしています。
詳しくは
ください。
姉妹サイト
ELTBooks.com
英語教材購入サイト
姉妹サイト
ELT News
ネイティブ教師向け
【特別記事】
教師のためのメディア・リテラシー
―コロンバイン高校事件の背景を読む―
立命館大学教授 朝尾幸次郎 Asao Kojiro
「英語教育」 2004年11月号(大修館)→
目次はこちら 定期購読はこちら
From "The English Teachers' Magazine" November 2004 Vol.
53 No.9 (Taishukan)
◆銃撃事件の背景
これを考える手がかりとなるのがBrown, Brooks and Rob Merritt. No Easy Answers: The Truth behind
Death at Columbine. NY: Lantern Books, 2002.(邦訳『コロンバイン・ハイスクール・ダイアリー』太田出版、2004年)である。著者のひとりブルックス・ブラウンは犯人ふたりの友達で、とりわけクレボールドとは小学校からの親友で家族ぐるみのつきあいがあった。ハリスからはWebページで「殺す」と脅迫されていた。しかし、その後、和解し、事件当日、最後にことばを交わした人物となった。この本でブラウンはふたりがなぜ銃撃に及んだのか、彼の目から詳細に綴っている。銃撃事件の背後にあったものは、当初言われていた、マリリン・マンソンの音楽でもなければ、テレビゲームでもインターネットでもなかった。
その背景はふたりを受け入れようとしない学校への憎悪である。ブラウンとクレボールドは小学校で成績が優秀だったため、選ばれた生徒だけを集めた特別校に入学する。特別校に入学することで親も鼻が高い。しかし、そこで行われていたのは生徒が他人の作品をこっそりこわす、いじめ、足の引っ張り合いであった。ブラウンは結局、さらに別の小学校に転校するものの、以後、宿題はしなくなり、成績は低迷する。
中学卒業後、地域の有名校であるコロンバイン高校に進学した彼は新しい学校生活への希望をいだく。しかし、そこで見たものはやはり陰湿ないじめであった。アメリカの高校ではフットボールの選手が花形である。そのフットボール選手が非体育系の生徒に対し、執拗にいやがらせ、いじめを行う。最上級生の4年生が床にベビーオイルを塗り、1年生を転がして笑い立てる。学校がこれをやめさせたのは1年生の女生徒が腕を折ってからのことであった。レスリング部の生徒は教室から教室への移動の途中、生徒を床に四つんばいにさせ、床に置いた1セント銅貨を鼻で押しながら進ませる。教師はそれを見ても「男の子だからしかたがない」と笑うだけであった。事件の背景は小学校、中学校、高校での陰湿ないじめ、学校側の無策による憎悪の蓄積であった。
子どもによる犯罪が起きると、その原因を安易にインターネットに求める傾向がみられる。しかし、インターネットが普及した1995年以来、人口比で見た少年刑法犯がきわだって増加しているわけではない。チャットは危険だという。しかし、電話が初めて世に現れたときにも実は同じようなことが言われていた。新しいメディアが世に現れると、それを危険視する動きは歴史のなかで繰り返されてきたことだ。
マイケル・ムーアのBowling for Columbineは銃社会アメリカを告発したドキュメンタリー映画である。この題名は示唆的だ。事件当日、ハリスとクレボールドは早朝、ボーリングの授業に出席するはずであった。しかし、ふたりは欠席し、銃撃の準備をしていた。「ふたりがマリリン・マンソンやテレビゲームに熱中していたことを理由にそれが銃撃事件の原因だというのであれば、ふたりが受講していたボーリングも原因だとなぜ言わないのか」これが題名にこめたムーアの主張だ。
◆共同体の変容
ハリスとクレボールドが心酔していたマンソンなどの音楽が事件の原因だったという声に対してブラウンは次のように言う。「彼らの音楽が暴力的なのはなぜか。答えは簡単だ。私たちの社会そのものが暴力的で、音楽はその反映なのだ。(中略)音楽は兆候であって、原因ではない。暴力的な音楽はある日突然現れて、社会に暴力をまき散らしたのではない。社会が暴力的な音楽を生み出したのだ。それは暴力的な音楽を魅力あるものとさせるものが社会に起こっているからだ」「この事件を引き起こしたのはいじめと不正だということを知ってほしい。子どもたちの声に耳を傾けようとしなかった親と学校がその原因となったのだ」
銃撃事件の背景に見えるのはアメリカの学校における共同体の崩壊である。学校が学びを生み、友情を育てる場ではなくなっている。
それはわが国でも起こりつつあるようだ。過去10年間、大学で推薦入試の面接を行ってきた。「高校でいちばん力を入れて取り組んだ、心に残る思い出は何ですか」とたずねると、だれもが例外なく「文化祭」と答えた。「〜の授業」と答える生徒はいなかった。生徒にとって教室は意味のある活動の場ではなくなっているようだ。
以前であれば、子どもたちは自分たちの住む地域と学校で友達を作った。今、その共同体は変容し、地域社会と学校は生徒にとって生活の一部でしかない。生徒は塾やネットワーク上など学校外で幾重にも重なった人間関係を作っている。今、生徒にとってその共同体は携帯電話のアドレス帳のなかにある。変容した共同体のなかで居場所を失った生徒は、メール、チャットを使うことで、別の場所に共同体を作り出しているのである。生徒が携帯電話でメールをやりとりするのは共同体を維持しようという行為にほかならない。
◆メディア・リテラシー再考
教師はメディア・リテラシーを単にインターネットを利用する場合の諸注意、いわば交通ルールのように考えてはならない。現在進みつつある共同体の変容にメディアがどのようにかかわりあっているのか、その洞察がなければ核心をはずすことになるだろう。ほんとうの意味でのメディア・リテラシーとはメディアが社会とどのようにかかわりあうかを理解することだ。携帯電話やインターネットにだけ没入している生徒はおそらく家庭や教室に居場所を見いだせないでいるのだ。
これがわかれば、教室を学びの場にする道もおのずとあきらかになる。ハリス、クレボールドと同じ心情をいだいていたブラウンは高校でただひとつ打ち込めることがあった。カルーザー先生の演劇クラスである。先生の指導で演じた「フランケンシュタイン」では全員で配役、照明などの役割をこなし、たがいにたわいもない話を交わしながら、一体となって演劇を作り上げていく。
今、私たちの授業は学びを生み出す共同体になっているだろうか。メディアと学びの問題を追及していけば、このことに帰着する。私たちの英語の授業がカルーザー先生の授業と同じような意味のある学びを生み出しているのか、それが私たちの課題となるだろう。
(立命館大学教授)
「英語教育」2004年11月号
月刊「英語教育」について
定期購読申し込み
【特集】生徒と教師のための知っておきたい心理学
教室運営、生徒指導など、学校ではカウンセリング的な能力や信頼関係の築き方などが必要となる場は多い。そして教師自身もいま、様々なストレスで悩むことが増えている。現場の日々に活かせる心理学を紹介。
生徒と教師を元気にする心理学とは
小野瀬雅人
生徒に自信を持たせる方法
都築幸恵
子ども1人ずつに支援隊を!:
生徒を支えるシステム作り
田村節子
[インタビュー]
教師のためのストレスマネジメントとは
中島一憲
スクールカウンセラーの仕事
三好和子
特別に支援の必要な子どもにどう対応するか
難波 愛
[コラム]
コーチングに学ぶ上手な話の聞き方
川窪茂子
教師の駆け込み寺「悩める教師を支える会」
諸富祥彦
教室の心理学 キーワード&ブックガイド
編集部
●特別記事
教師のためのメディア・リテラシー:
コロンバイン高校事件の背景を読む
朝尾幸次郎
●〈巻頭エッセイ〉世界を味わう
■小学校の英語教育はいま…
■ゆかいな仲間たちの「授業見学」
■研究と現場を結ぶ 英語の使い方
■〈リレー連載〉英語教育時評
●大地の声:ネイティヴ・アメリカンの智慧の言葉
●シェイクスピアの12か月[11月]
●A Kiwi's View of Japan
●柴田元幸の洋書びっくり箱
他
大修館よりオススメの新刊
事典現代のアメリカ
小田隆裕、柏木博、巽孝之、能登路雅子、松尾弌之、吉見俊哉 編集
16,800 円 (A5判・1548頁 )
アメリカはなぜ好かれ、そして嫌われるのか?
政治・経済・歴史・社会からサブカルチャー・日常生活まで、激動するアメリカの多彩な相貌とその底流をなすものを見据えるべく110項目を取り上げ、各分野の第一線の専門家106名が解説。アメリカについて知るとともに、アメリカを通して現代世界を考え、身のまわりに環境化されているアメリカを捉え直すための、広範な関心に応えた画期的なアメリカ百科の誕生! 全文収録の付属CD-ROMにより、全文検索をはじめ、多彩な検索が可能に。
【本書の特色】
1.第一線の執筆陣による信頼度の高い内容
2.幅広い関心に応える多角的な視点からの編集
3.歴史的なパースペクティブの重視
4.多彩な検索機能
5.充実した写真・図版・資料
6.約300もの関連サイトへのリンク集
→大修館書店ホームページ「燕館」