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UG-based SLA 研究と英語教育
――言語理論の立場から

大阪大学教授 岡田伸夫 Okada Nobuo
   
「英語教育」2004年9月号(大修館)→ 目次はこちら 定期購読はこちら
From "The English Teachers' Magazine" September 2004 Vol. 53 No.6 (Taishukan)

UG-based SLA研究の英語教育への利用

UGは言語の普遍性をとらえ、パラメータは言語の多様性をとらえる。以下、UG-based SLA研究の成果が英語教育に貢献するケースをいくつか具体的に見てみるが、いずれもパラメータ値の違いに起因する相違を含むケースである。
 
下の(5)にあがっている意味類の動詞は二重目的語構文で使うことができる。
(5) i. 与える:give、hand、lend、pass、pay
ii. 情報を伝える:tell、read、show、teach
iii. 手に入れる:buy、get
しかし、give、tell、buyとそれぞれ同じ意味類に属しているdonate、report、purchaseは二重目的語構文で使うことができない。
(6) a. John gave / donated a painting to the museum.
b. John gave / *donated the museum a painting.
(7) a. Bill told / reported the story to them.
b. Bill told / *reported them the story.
(8) a. They bought / purchased a car for their son.
b. They bought / *purchased their son a car.

Pinker(1989)は give と donate、tellとreport、buyとpurchaseの振る舞いの違いを次のようにとらえる。言語獲得途上の子どもは、まず、二重目的語構文で使われる特定の意味類に属する動詞が、1音節の動詞に限られているか、多音節の動詞でもよいかに着目する。二重目的語構文で使われる「与える」という意味類に属する動詞は、give、pass、handなどの1音節語だけなので、この意味類に属する動詞には「1音節語でなければならない」という音韻制約が課せられていると判断する。この音韻制約の有無はパラメータの2つの値でとらえることができよう。
 
日本人大学生・大学院生の中には上の(6)-(8)のbの文でdonated、reported、purchasedを使ったものを誤って文法的と判断する者がいる。これらの大学生は中・高で6年間、大学院生なら8〜10年間、英語を学んできているのだが、この音韻制約は獲得していない。しかし、彼らにこの音韻制約を教えると、donate、report、purchaseを二重目的語構文で容認する間違いは減る。
 
この例は、日本の中・高・大で通常の授業を受けている限り、二重目的語構文で使われる動詞に課せられる音韻制約を獲得することはないということと、この音韻制約を明示的に教えるとある程度成果があがるということを示している。いろいろな動詞の二重目的語の文を今まで以上に大量に授業の中で与えることはむずかしいだろう。明示的に文法規則を与えるほうが確実だろう。
 
パラメータ値の違いに起因する相違を含む例をもう1つ見てみよう。道具は英語ではwith、日本語では「で」で表わされる。しかし、次の(9)aでは道具のタオルがwithとonの両方で表わされている。
(9) a. When Charlie takes a bath, he dries his body with a bath towel. I dry my hands on a hand towel.
b. チャーリーが風呂に入るときには、バスタオル体を乾かす。私はハンドタオル手を乾かす。
中右(2002)は、タオル掛けに掛かっているタオルをそこに掛かったままで使うときには、道具のタオルが場所と見なされ、onで導かれるという。
 
大学生に次の(10)a、bの空所に前置詞を入れさせるとほとんどの者が両方にwithを入れるが、上の(9)を使って道具の場所化という現象を説明した後で、(10)bの空所に前置詞を入れさせると、正しくonを入れることができるようになる。
(10) a. Frieda wiped her mouth (  ) a napkin.
b. Frieda wiped her feet (  ) a door mat.
英語では道具はwithで表わされ、場所はonで表わされる。日本語では道具も場所も同じ「で」で表わされる。英語に見られる道具の場所化も一種のパラメータを設けて説明することができるだろう。日本人の大学生が道具が場所化する条件を自分で発見することはあまり期待できないので、こちらから教えたほうがいいだろう。
 
最後に、もう1つ別の例を見てみよう。次の(11)の動詞は、本来、移動を表わす動詞であり、次の(12)に見られるように、到着点や方向や通過点を示す句と共起することができる。
(11) go、come、arrive、rise、fall
(12) John went to / toward / by the station.
 
次の(13)にあげる動詞は運動の様態を表わす動詞であり、次の(14)に見られるように、必ずしも位置の移動を伴うとはかぎらない。
(13) walk、jump、run、swim、float、spin
(14) The penguin rolled / skidded / bounced / slid / spun in one place on the ice for a solid minute.
   
しかし、運動様態動詞は、到着点や方向を示す句と共起すると、移動の意味をもつことができるようになる。次の(15)に対応する日本語は、次の(16)aであり、(16)bではない。
(15) The bottle floated into the cave.
(16) a. ビンは洞穴の中へ浮かんで行った。
b. *ビンは洞穴の中へ浮かんだ。
 
英語ではGOと運動様態を融合(fuse)し、運動様態動詞1語で表現することがあるが、日本語ではGOと運動様態を別々の語で表現する。もっと詳しく言うと、運動様態を表わす動詞を‘-te’形にして移動を表わす動詞の前に置く。あるいは、次の(17)bに見られるように、運動様態を表わす動詞を連用形にして、移動を表わす動詞と融合させ、1語の複合動詞にする。
(17) a. John jumped into the pond.
b. ジョンは池に飛び込んだ
言語にはGOと運動様態の融合を許すものと許さないものがある。太田(1996)は、両者の違いを融合の有無を示すパラメータでとらえ、日本語は[−融合]、英語は[+融合]とする。GOと運動様態が融合しない日本語を母語とする英語学習者は、たとえば上の(16)aの日本語の意味を英語で表わすときに次の(18)を使うことがよくある。
(18) The bottle went into the cave floating.
(18)は特にぎこちないわけではないが、次の(19)の日本語の意味を表わす(20)の英語は自然ではない。
(19) ジョンは駅に歩いて行った。
(20) ?John went to the station walking.
(20)より次の(21)のほうが自然であるが、それは英語でGOとwalkの融合が強固だからだろう。
(21) John walked to the station.
  
原理とパラメータのアプローチが説明するのは核文法の獲得である。このアプローチは、現実の文法から核文法を引いた広大な周辺部の獲得についてはほとんど何もいわない。Chomskyは、核文法のある種の条件を緩和したり、類推を働かせたりして、周辺部ができると言うが、広大な周辺部の獲得の説明にも本格的に取り組まなければならない。そうして初めて第一言語獲得と第二言語獲得の全体像を見ることができるだろう。

【参考文献】
Bley-Vroman, R. (1989). What is the logical problem of foreign language learning? In Gass, S. & Schachter, K. (eds.), Linguistic Perspectives on Second Language Acquisition, Cambridge University Press.
Flynn, S. (1996). A parameter-setting approach to second language acquisition. In Ritchie, W. C. & Bhatia, T. K. (eds.), Handbook of Second Language Acquisition, Academic Press.
梶田優(1992). 動的文法観の基盤. 1992年3月 JACET 月例研究会における講演.
中右実(2002). なぜ IN A CAR なのに ON A BUS なのか―英文法の心理と論理. 2002年度 JACET 関西支部講演会における講演.
太田朗(1996). 動詞の意味と統語構造―日英語の比較. Studies in English Linguistics & Literature, 12, 1-33.
Pinker, S.(1989). Learnability and Cognition: The Acquisition of Argument Structure. MIT Press.

(大阪大学教授)


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