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UG-based SLA 研究と英語教育
――言語理論の立場から

大阪大学教授 岡田伸夫 Okada Nobuo
   
「英語教育」2004年9月号(大修館)→ 目次はこちら 定期購読はこちら
From "The English Teachers' Magazine" September 2004 Vol. 53 No.6 (Taishukan)

SLAにおけるUGの利用可能性

現在のSLA研究で問題になっていることの中に、子どもの母語獲得に際して働くメカニズムが大人の第二言語獲得に際しても働くか否か、働くとしたらどのように働くかという問題がある。
 
第二言語獲得においてUGが働くか否かという問題に関しては、完全アクセス、部分アクセス、無アクセスという3つの仮説が提案されている(Flynn 1996)。完全アクセス仮説は、第二言語獲得途上の大人は、母語獲得途上の子ども同様、UGの原理とパラメータに完全にアクセスできるという仮説である。部分アクセス仮説は、第二言語獲得途上の大人は、母語の文法を通してUGの原理とパラメータに部分的にアクセスできるという仮説である。無アクセス仮説は、第二言語獲得途上の大人は、母語獲得途上の子どもとは異なり、UGの原理とパラメータに全然アクセスできないという仮説である。
 
部分アクセス仮説ないしは無アクセス仮説に立つBley-Vroman(1989)は、大人の外国語習得には、子どもの母語獲得とは異なり、
(3) a. 成功が保証されていない
b. 完全に成功するケースはまれである
c. 到達度、学習方略に個人差がある
d. 成功に達する前に「化石化」する
e. 高いレベルに達した学習者でも明白な文法性判断を下すことができない
f. 教授や練習が効果をあげることがある
g. 否定証拠が有効・必要な場合がある
h. 情緒要因が影響する
などの特徴があるという。Bley-Vromanは、大人の外国語習得と子どもの第一言語獲得の間には「基本的な相違」があるという仮説を立て、子どもの言語発達には( i )普遍文法と( ii )言語領域固有の学習手順が関与するが、大人の第二言語獲得には( i )母語の知識と( ii )一般問題解決体系が含まれるという。この仮説に立てば、大人の第二言語獲得は、子どもの母語獲得より、大人の言語以外の知識・能力の習得に近いと言えるかもしれない。

しかし、第二言語獲得を主として一般問題解決体系によって説明しようとするアプローチには次のような致命的な難点がある。まず、このアプローチは、第二言語獲得者が文法を構築するときに用いる「道具」が何であるかを述べているに過ぎず、最終的に学習者の脳中に蓄えられる文法内容が何であるかについては何もいわない。また、このアプローチは、文法が類推のような学習方略によって獲得されることを含意するが、第二言語にも生得的、普遍的な原理やパラメータが含まれているという事実を説明することがむずかしい。


SLA研究と英語教育

SLA研究と第二言語教育との間には直接的な関係はない。第一言語獲得の研究と第一言語教育との間に直接的な関係がないのと同じである。実際、SLA研究に携わる人の中には第二言語教育に関心をもっている人もたくさんいるが、第二言語教育とは関係をもたず、第二言語獲得の論理問題と第二言語の発達の過程を純粋に科学的に研究しようとする人もたくさんいる。
 
しかし、SLA研究の過程で第二言語教育に役立つ知見や示唆を見つけることは不可能ではない。日本の中・高における英語の学習時間は限られている。その中で最大の効果をあげるためには効率を考えざるをえない。SLA研究からは、どの学習段階にある学習者にどのような入力を提供するのがよいか、どのような文法事項を集中的に教えるべきか、どの段階でどの誤りを正すべきかなどに関する直接的、間接的示唆が得られる。
 
原理とパラメータのアプローチは、個別言語の文法の核の外に広がる広大な周辺部についてはほとんど何も言わない。英語教員の1人として言えば、英語が、より基本的な規則・構造から、より周辺的な規則・構造へと展開していくメカニズムを説明する普遍文法があれば、英語教育のどの段階でどの文法構文をどのように導入すべきかに関して有益な示唆が与えられると思う。
 
たとえば、梶田(1992)の動的文法理論は次の2種類の規則を想定する。
(4) a. タイプXの規則は任意の文法の任意の段階で可能である。
b. ある言語の習得段階ウにおいてタイプYの規則が形成されていれば、同じ言語の i +1の段階ではタイプZの規則が可能である。
(4)のaとbは生得的、普遍的な原理であり、本稿でいうUGの1例である。UGというと、チョムスキーのUGを思い起こすことが多いが、UGをそのように限定して考える必要はない。


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「英語教育」2004年9月号



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最近、進展が著しい第二言語習得研究。その最新動向を取り上げながら、英語教育にその成果をどのように活かせるかを探る。

教室第二言語習得研究と英語教育 小柳かおる
UG-based SLA 研究と英語教育:
言語理論の立場から
岡田伸夫
知っているのに使えない!?:
第二言語習得の順序
酒井英樹
中間言語語用論と英語教育:
教室内で語用能力の習得はどこまで可能か
高橋里美
バイリンガル教育の現場から 湯川笑子
第二言語習得研究の動向 大場浩正
[コラム]バイリンガルの脳ってどうなっているの? 山鳥 重
臨界期神話? 大津由紀雄

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