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本・教材レビュー

ほんとうの『ゲド戦記』 英文で読む『アースシー物語』 Book Review

ほんとうの『ゲド戦記』
英文で読む『アースシー物語』


本橋哲也 著
A5判 224pp.
本体1,600円
大修館書店
 
 


「ポスコロ」で「カルスタ」なファンタジー論?


……驚いた。ホミ・バーバやスピヴァックなどのポストコロニアル理論書翻訳、『本当は怖いシェイクスピア』『カルチュラル・スタディーズへの招待』の著作で知られる本橋哲也氏による、ル・グウィンの名作ファンタジー『ゲド戦記(アースシー物語)』全6巻ガイド本である。

『ゲド戦記』やファンタジー文学への興味から、本書を手にとる人の中には、「帝国主義」「階級」「ジェンダー」などの切り口で注解する本書に、多少の違和感を覚えられる人もあるかもしれない。これは、「ポスコロ・カルスタ」による、ファンタジー文学乗取陰謀ではないのか?

一般には主人公の名前をとって、『ゲド戦記』として知られている本シリーズを、『アースシー物語』と呼ぶ著者の意図はなにか(「アースシー」はゲドたちが生きる世界全体の名前である)? たしかに3巻までに限れば、ゲドが主人公にみえる。しかし全6巻を通してアースシー世界全体をみると、女性や異人種、下層階級、老人、龍もまた、ゲドに勝るとも劣らない重要な役割を果たしている(4巻以降のゲドはどちらかといえば脇役である)。著者は、階級やジェンダーの問題を含めた、より広く多角的な視点から、「ゲドの物語」ではなく、アースシー世界全体の物語として、原作を読もうとしている。

本書は、全6巻の各巻に各1章をあて、各ユニットは、ストーリーの紹介、キーワード解説と、原文の重要場面引用、その日本語訳(本橋氏訳)で構成されている。この構成により、高校生レヴェルの英語で読める文学作品を、テーマに即して読んでいくための手法が、具体的に示される。

物語への「ガイド」としては、難解にすぎるという批判はありうるかもしれない。しかし、意想外な手法で、一見難解にみえる概念を用いてこそ、明らかになる作品の側面もある。

この一例として、本書におけるジェンダー分析をとりあげたい。3巻以前では、男性の魔術は高尚なものとされ、女性の魔術は妖しげなものとされている。しかし4巻以降、このような魔術観は、男性が支配力を強めていった歴史のなかで、男性の優位を正当づけるために、あとになって捏造されてきたものに過ぎないことが明らかになる。魔法の名で呼ばれるもののなかにも、女性差別が包含されていたことが、作品の内部で批判され、解体されていく。この点を筆者は実に細心に解き明かしていく。

本書は、英語教育やファンタジー研究、批評理論などの場で、激しい賛否両論をひきおこすだろう。楽しみだ。

(筑波大学准教授 吉原ゆかり)


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出典:「英語教育」2007年8月号(大修館)
From "The English Teacher's Magazine" August 2007 Vol. 56 No. 5 (Taishukan)


 

 
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