本書は「教えられたように教えるな」というテーゼを英和辞典の領域で見事に実践したものである。著者の八木氏は「まえがき」で英和辞典を評価する場合、今までの記述の不備がどれほど修正されたか、古い語彙・語義・用法がどれほど排除されたかという点が重要であると説く。氏が同書で間違った例として挙げておられるWoman as I am(「譲歩」の意味ではwomanの位置にはgradableなものがくるのが普通)やI had my wife die.(「have+目的語+原形不定詞」で受身の意味を表すにはon meを付けるか、あるいは相応の文脈が必要)などは未だにこのまま正しい英語として教えられているのではないだろうか。
少し紹介すると、5章のI'm easy.(=I don't mind.)では、某辞典(旧版)のI'm easy whether to go to the movies or stay at home.という例は誤りだと指摘されている。私のインフォーマントも同意見でI'm easy about going to the movies or staying at home.と訂正した。8章の「forget it/forget about itの成句的意味展開」ではphraseology研究の先駆者らしく両者の違いが小気味よく述べられている(ただ、p.219の(10)"Aren't most good actors intelligent?" "They have to be. If they're not, forget it―the really good ones." の後半は「頭がよくなければ俳優になるのはあきらめなさい。いい俳優になるのはね」という意味だと思う)。9章の「because節主語構文」(Just because you're older than me doesn't mean you can tell me what to do.)では「いろいろな節や句が主語になり得る」という主張が見られるが、ここから氏の言語に対する記述的な姿勢を見て取ることができる。
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