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“小学校英語”三部作ついに完結 小学校への英語教育導入をめぐる論争は、「小学校英語」必修化の是非に局面を転じて現在も進行中である。この論争の火付け役の1人、大津由紀雄氏の小学校英語三部作、ついに完結である。小学校英語是か非かで始まったかに見えた「暮れの慶應シンポ」が、結局、日本の英語教育政策全体の問題へと展開したのは必然であり、また、それがシンポの企画者である編著者の意図だったことが本書により明らかになる。 前2作と同様、当代の論客を幅広く集めて、大津氏自身の旺盛な好奇心と懐の深さを示している。「小学校英語」という問題がなければ、これほど日本の英語教育の本質について多角的に論ずることもなかっただろう。それでも、本書のラインナップには不満が残る。 日本語教育での学識を土台に多文化共生社会に対応した言語の教育を提唱する野山広氏の論考は貴重だが、「本流・国語教育」からの論者は見つけられなかったものか。小学校英語を論じて、母語教育の土台や国語力の重視を主張する意見は枚挙にいとまがないが、なぜか、「本流・国語教育」関係者からまともに論じられた例を読んだことがない。ここは、同じくことばの教育であり、誰もがその重要性を否定しえない国語教育の側から、直球で英語教育政策を論じてほしかった。 もう1つの不満は、学校教育全体の教育課程の視点から英語教育を語る教育学者による論考が含まれていない点である。学校教育としての英語教育を論ずるのであれば、縦軸で外国語教育制度を論ずる「計画的言語教育の時代」の山田雄一郎氏のように、横軸の教育体系の中で英語教育を論ずる視点も取り上げてほしかった。関連して、全体に英語教育の実践現場の情報が不足であり、柳瀬陽介氏の言う「内在的原理」という観点からの捉えが弱いのが気になる。その点、直山木綿子、田尻悟郎、菅正隆3氏の論考は救いである。 本書は、編者大津氏の旺盛な好奇心とサービス精神並びに気配りで編集されているが、構成にはいささかの無理を感ずる。第一部は本当に「英語教育政策を考える」ことになっているか。また、第三部では「ことばの教育を考える」締めくくりとして、英語教育の土台となるべき国語教育にメスを入れる視点を明確に打ち出すべきであったと考える。 最後に、原理なき英語教育からの脱却を目指し、「小難しい議論より日常の実践」を重視する風潮を憂える大津氏自身が「英語教育の威を借りた言語教育」の実践例を披露するに及び、計画的な言語教育政策というものが古今東西を通じ眉唾であり、良質な教育現場はどんな政策にも振り回されることがないことを、氏自身が感じ始めているとしか思えないのである。実践をもって共闘するものに幸いあれ。 (岐阜大学教授 松川禮子) >>『日本の英語教育に必要なこと 小学校英語と英語教育政策』を 購入する(Amazon.co.jp) 出典:「英語教育」2006年11月号(大修館) From "The English Teacher's Magazine " November 2006 Vol. 55 No. 10 (Taishukan)