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外国語指導に意外なヒント満載 『通訳の技術』という表題からは、通訳志望の一般の人々や大学生を対象に書かれたものと思われてしまうかもしれないが、本書の内容がより広く、外国語教育者・学習者に対して持つ意義は決して小さくない。シャドーイング指導の学校英語教育における急速な広がりに見られるように、近年英語教育は通訳訓練に指導のヒントを積極的に求める傾向にある(私も)。この背景には次のようなことがある。 第一は、通訳者の高度な訓練プログラムは、留学経験や海外生活を必ずしも前提としていないことがある。通訳の世界は、できさえすればそこに至る過程は問題としないからだ。ゆえに「国産」のプログラムのみでも、その成功者はこのレベルにまでゆけるということを彼らはプロ通訳としての職業的存在によって証明し、我々はそれに勇気づけられるのだ。 第二は、日本通訳学会の活動に見られるように、通訳界がその訓練法の応用言語学的価値に気づき、積極的な教育研究と啓蒙活動を始めたことがある。プロ通訳を見て、ただ羨望の溜息をついていた我々の、その高みに一歩でも近づきたいと思う願いは、教育現場での訓練法の実践という形で叶えられつつある。生半可な力では不可能と思われていた方法が、ちょっとした工夫を加えることで我々にも使えるならばWhy not? である。 筆者の小松氏は、西山千・村松増美・國弘正雄などと並んでいわゆる第一世代の通訳者であり、日本のプロ通訳界の創世期を担った人物である。さりげないアドバイスにもふんふんと肯けてしまうのは、沖縄返還交渉や数々の日米交渉に立ち会ってきた通訳者の、実体験に裏打ちされたことばだからこその為せる技と言えるだろう。 内容は、職業としての通訳の諸形態、認知面の解説、訓練法、英語学習への応用、通訳界の現況と幅広く、通訳に関して知りたいと思うことは本書で十分カバーされている。何よりも説明が懇切丁寧だ。理論面に物足らなさはあるが、これは学問としての通訳理論研究そのものがまだ端緒についたばかりであることにもよる。むしろ、読者が著者の解説を読みながら、通訳者が迷う、あるいは決断を迫られる瞬間をとらえ、分析的に考えることでその点が補われるのではないか。 忘れてならないのは付属の音声教材である。必ずしもよいとは言えない音源は、実際の会議やインタビューから採録されたものが多く、それがスタジオで教材として録音されたものとは異なるリアリティを感じさせてくれる。 日々、外国語学習への応用方法を模索する教師や学習者には、意外なヒントわんさかの本と言える。それがどこに転がっているかは、読者諸氏それぞれのお楽しみとしておきたい。 (神戸市外国語大学教授 玉井 健) >>『通訳の技術』を 購入する(Amazon.co.jp) 出典:「英語教育」2006年2月号(大修館) From "The English Teachers' Magazine" February 2006 Vol. 54 No. 12 (Taishukan)