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本・教材レビュー

Book Review

子どもの英語学習
―習得過程のプロトタイプ

山本麻子 著
A5判 iv+246pp.
本体3,800円
風間書房

 
 


自分で言語のルールを発見して使っていく喜び


本書は、イギリスに移り住んだ日本人家族の3歳前後の子どもがいかに英語を習得していくか、長期にわたって調べた研究成果を紹介している。とかく子どもは何の努力もなく簡単に言語を習得できるように考えられがちだが、いかにそのような結論が誤りであるかを、著者は具体的なデータに基づいて詳しく示している。例えば、英語の語順の習得では、3歳児でもすでに日本語の基幹部分がかなり身についているので、特に英語学習の最初の頃は日本語の影響が多分に出るようである。複数形や冠詞の習得でも、日本語の影響により日本人児童は英米人児童と比べて習得に時間を要する。と同時に、現在進行形 -ing や過去形、三単現 -s などの形態素の習得順序は、英米人児童と同様の結果が出ている。子どもの場合であっても、いかに第二言語習得が母語の影響や対象言語の発達的な要素の交わりによって形成されていくかが分かり、言語習得のダイナミズムを感じさせてくれる。

また、よく子どもは恥ずかしがらず間違いを気にしないなどと言われるが、本書のデータはそれがいかに間違った考えであるかを示している。多少の個人差はあるが、多くの場合、始めの頃発話が全くないということがあり、声を出して返答するということに抵抗を示すようである。また恥ずかしさを隠すためか、発話にささやき声や裏声を使ったりすることも見られる。そして1年ないし2年を経た頃に、やっと表立った言語使用と発達が見られるようになるのである。こういうデータを見るにつけ感じるのは、言語習得は子どもにとっても決して「簡単」なことではないということである。

著者は結論として「子どもの言語に関する能力を見る時には、過大評価することも、過小評価することも、どちらも避けなくてはならない」と警告している。短期間で母語話者なみの英語力を身につけるように過大な期待をしたり、また子どもの想像的な言語能力を無視して一定表現を何度も繰り返させて覚えこませようとしたりすることは、まさに過大評価・過小評価にあたることである。本書のいたる所で、子どもが長い間苦労して英語の基本語順を発見し、それを使って話し、そして相手に理解してもらえる喜びを発見する過程が示されている。そこに言語学習の本質とすばらしさを感じることができる。「言語学習というのは、本質的に、環境との戦いの中で自分で言語のルールを発見していくものだ」との主張は、具体的なデータに基づくものとして説得力のあるものであり、思春期にさしかかった子どもや大人の英語教育に携わる者にとっても、肝に命じておかなければいけないことであろう。

(上智大学専任講師 和泉伸一)

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出典:「英語教育」2005年9月号(大修館)
From "The English Teachers' Magazine" September 2005 Vol. 54 No. 6 (Taishukan)

 

 
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