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英語教師は理系に学ぼう

英語教師・英語教育関係者が知っておくべき英語使用の現場についての文章を掲載

井口道生『科学英語の書き方・話し方』(2009年、丸善株式会社)

コラム

2009年09月14日

英語一般に関することから、科学者が英語を書く場合、そして話す場合のノウハウについてまで読みやすいエッセイ風にまとめた本。著者は1963年以来アメリカで活躍する日本人物理学者。学術誌や国際委員会報告書のeditorの経験も深い。丸善株式会社が出版した著者の『英語で科学を語る』(1987)、『英語で科学を書こう』(1994)、『続 英語で科学を書こう』(1995)の素材を基にしながら、内容を刷新した本書は、理系の人間はもとより、英語教師といった文系の人間が、科学というフィールドで英語を使うのはどういうことかを学ぶための格好の一冊だ。

本書の内容は、英語一般に関すること(第2章、第4章)、科学者が英語を書くこと(第3章)、科学者が英語を話すこと(第5章)の三つに大きく分けられる。英語一般に関することは、英語教師にも有益な内容を含んでおり、科学者の英語使用に関しては、書くことと話すことの特性の違いを明確に区別して書いていることを大きな特徴としている。

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英語一般に関しては、各種表現の使い分けの説明などが面白い。例えば “These calculations show that …” と “We find from these calculations that …” の使い分け。あるいは「知る、理解する」に関する know, learn, acquaint, recognize, discover, uncover, understand, comprehend, apprehend, realize, appreciate, perceiveの使い分け。もしくは日本語の「含む」に対応するcontain, include, comprise, be composed of, consist of, constitute, belong toの使い分け。さらには「考える」ことに対するspeculate, deliberate, imagineの使い分け。はてまた形容詞の使い分け (exact/accurate/precise)、そしてdifferent from よりもdifferent thanが好まれる場合などである。私たち英語教師はこれらの違いをなんとなくはわかっているだろうが、きちんと説明せよと言われると戸惑うことも少なくない。これらに関する著者の記述は、英語教師にも有用であろう。


科学のために英語を書くことについては、論の構成といった大きなレベルから、表記法といった小さなレベルまでさまざまなエッセイが用意されている。

論の構成に関しては、あくまでも読者の理解しやすさを目標として内容を配置し構成することを著者は力説する。したがってAbstractについては(著者の専門の物理学の場合)、読者がそれを読んだだけで、論文で扱われている問題を自力で解けることができるぐらいに前提と結論を明示することを勧めている(実際、FermiやFeynmanといった学者はそのようにAbstractを読み、問題を自分で解いていたという)。また、本論については適宜 “flags for the reader” と呼ばれる、論の構成や展開を明示的に示す文を入れることを勧める。Conclusionに関しては、AbstractやIntroductionで使った同一の文は原則として使用しないこと、そして必要に応じてrecommendation (勧告) と outlook (展望) を含めることを推奨している。

表記法に関しては、例えば、文頭に数量記号を用いることは可能な限り避けること、小数点を含む数値は複数形で表記すること (例 0.1 amperes, 1.23 amperes)、足し算や掛け算の記号の前後には空白を置くこと (例 x + y = z )、しかし割り算記号の前後には空白は不要であること (例 x/y ) などなどの様々なことが説明される。これらの表記法は、「英語」と言えば「会話」と一つ覚えで答える通俗的な英語教育観では、「細かすぎる」と言われてしまうことなのかもしれないが、科学者が論文という媒体で「コミュニケーション」を図る場合に、これらは存外に重要なことである。


英語を話すことに関しては、日本の科学者は苦手に思う人も多いが、科学者が国際会議で英語を使うことは実は簡単なことだと著者は説く。著者は多くの「コツ」を伝授し、日本の科学者の積極的かつ効果的な英語プレゼンテーションを勧める。

また俗語に関する著者の以下の考えなどは、私は見識だと思う。

私は、物理学者としての生活のうえで、俗語を知らなかったために重大な損をしたことはかつて一度もない。座談中にでてくる俗語が理解できないときには、意味はたずねることにしている。そして意味が理解できたら、もうそれでよしとし、決して自身からは使わない。物理の講演のなかで、固体の光学的スペクトルをスライドで示しながら、 “The exciton peak is hell of a lot stronger in this material.” などと言うのは、本物のアメリカ人ならともかく、日本人にはまったく似つかわしくないと思う。(176ページ)

あしかけ45年にもわたりアメリカで物理学者として活躍しながら、英語に対する並々ならぬ関心を抱いてきた著者の知恵が凝縮されたこのエッセイ集が、平易な日本語で読めるのはありがたい。物理学の知識は特に必要ないので、英語教師にもお薦めだ。



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