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英語教師は理系に学ぼう

英語教師・英語教育関係者が知っておくべき英語使用の現場についての文章を掲載

徳田皇毅『理工系学生が会社に入る前に読む英語の本』(2008年、日本工業英語協会)

コラム

2009年05月14日

理工系学生が会社に入る前に読む英語の本コラム「理系に学ぼう」の第一弾は、理系英語のための概説的入門書ともいえる『理工系学生が会社に入る前に読む英語の本』(徳田皇毅著、2008年、日本工業英語協会)を取り上げます。

この本で述べられていることで、英語教育関係者が傾聴すべきポイントを私なりにまとめれば、

(1) 会話重視への警鐘、

(2) 基礎教育としての学校教育の重要性、

(3) Output重視試験の重要性、

(4) 「商品」になる英語とならない英語の違い、

(5) "Awkward"でない英語を書くための修養、


といったことになるかと思います。


(1) の会話重視への警鐘に関して、徳田先生は「会話ができる」だけでは英語ができるとはいえないということを確認します。「企業の活動にともなって発生するあらゆるレポート、契約書などのドキュメントはすべて書面として作成されます。書面にないものは存在しないのと一緒です。どれだけ話せても書けなければゼロなのです」(36ページ)とは徳田先生の言葉です。そういえば会社で一番英語を使うのは、会話でなくemailの読み書きだともよく聞くことです。英語の断片をつなぎあわせて「何となく」通じさせてしまうような英会話力では、レポート・契約書はおろか、emailでもきちんとは書けないわけですから、「会話」を重視するあまり英語を書くことの重要性をきちんと教えていない英語教育はこの点からも見直さなければならないのかもしれません。


(2) の基礎教育としての学校教育の重要性については、徳田先生は学校英語教育が「文法重視」、「実践軽視」となるのは当然と断言されます。


仮に中学、高校でみなさんが英語に費やした時間のすべてを、会話を中心とした「実践形式」の授業に使ったとしましょう。6年後に待っているのは、悲惨な結果です。数百の単語しか持たず、文章はまったく読めない。できるのはせいぜいせいぜい海外旅行に行ったときに困らない程度の英会話力です。(40ページ)


あまり「会話」を目のかたきにするのも中庸を欠きますが、文法によって、どんな文でも聞き・読み、話し・書くことができること (=言語の創造的使用能力) が重要であることに対しては私も全面的に賛成です。

また社会での「実践」が商的、法的、工学的、理学的、医薬的などなどと様々な分野に展開している以上、そういった「実践」を学校でやることは現実的でなく、実践諸分野の英語の基礎になることをやることが学校の役割だとも主張されています。


(3) のOutput重視試験の重要性もこれまでの論点とつながっています。コンテクストや一般常識の助けを借りての「なんとなく」の理解を四択の中から選ぶようなinputの試験では、著者が考える英語力は測れないわけです。ですが多くの試験はやはりinput重視です。試験の実施には


(a) 妥当性 (そのテストが目的能力をきちんと測っているか) 、

(b) 信頼性 (そのテストは何度実施しても同じ結果がでるような安定したものか) 、

(c) 実施可能性 (現実的に実施しやすいか)


の要因があるとしばしばいわれます。私からすれば (a) > (b) > (c) の順番で大切だと思うのですが、現実はしばしば (c) > (b) > (a) の優先度で試験が実施されます。こういった私たちの思考と慣習の惰性にも深刻な反省が必要かもしれません。


(4) の「商品になる英語」とは「何とか通じる英語」ではなく、取引相手に信頼感を与えるような、ある程度の品格をもった魅力的な英語のことです。これに関しては137ページから実際の和文英訳を通じて、「商品にならない英語」と「商品になる英語」の差が実感できるようになっています。日本語慣用につられて妙な英語になってしまう「つられ訳」の指摘も傾聴に値します。


(5) の"awkward"でない英語を書くには、というポイントでは、仕事で使う英語 (本書では技術英語) は特殊な英語であるが、その特殊な英語も広汎で深い英語使用のバックグラウンド (つまりは教養) があってはじめてきちんと書けることが説明されています。


以上のように、伝統的な学校英語教育の姿勢を擁護しながらも、英語教育がもっとライティングを志向するべきことを主張し、ライティングで「商品になる英語」「"awkward"でない英語」を目指すならば、おそらくは伝統的な学校英語教育では不十分であることも述べたと思われる本書は、英語教師が目を通しておくべき本の一冊かと思います。


英語教師は「英語が好き」「留学が夢」でいいかもしれません。旅行や語学研修での英語使用をもっぱら英語教育の目的のように考えてしまうのも仕方ないのかもしれません。ですが理系の社会人は、英語を使うためにお金を使う (例、旅行、語学研修) ことではなく、お金を稼ぐために英語を使うことを目的としています。「出費を伴う英語」ではなく「お金を稼げる英語」について英語教師ももう少し考えてもいいのではないでしょうか。



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コメント

柳瀬先生のおっしゃるとおりだと思います。特に個人的には、(3) のOutput重視試験の重要性がとても大切かと思います。しかしながら、今のどの試験形式をとってしてみても、一般的な言語能力を測るものとしては、進化をしていますが、仕事に使える英語力に関するもので、「これこそは!」と思えるものがまだまだないように思います。「仕事ではすくなくともこのくらいの話題まで話してほしい」「少なくともこのくらいのレポートはかけてほしい」という感覚的なものが数値でわかるものをぜひいつか開発される日をまっています。そこを基準にどうすべきか考えた指導要領が作られてもよいのではないでしょうか。
「職人技」も技能のレベルで測れれば、その格付けが出来て、ほんとうに「英語が出来る人」を見つけやすくなるのではないかと、ぼんやり考えています。
すみません、陳腐な考えであるのに、長くなってしまいました。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ご無沙汰しております。
ビジネス英語を教えている者として、理系の英語でも共通点があるように感じます。
ビジネス英語では「ビジネスの促進・遂行のため」という目的があり、ビジネス・ライティングでその本領が発揮されます。理系の英語でも目的があって、そのためのテクニル・ライティングであるように思います。
こうした英語は、ESPとして捉えられることが多いのですが、教育面ではそれでもよいのかもしれません。しかし、研究面では「英語+専門知識」のほかに一定の目的を伴うコミュニケーションとの認識がないとこうした英語の現象が捉えきれないというのが私の持論です


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