なぜ英語嫌いが生まれるか
2010年3月01日
2010年3月01日
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関西大学教授 田尻悟郎 Tajiri Goro 生徒の素朴な質問![]() 「英語教育」2010年3月号(大修館) → 目次はこちら → 定期購読はこちら From "The English Teachers' Magazine" March 2010 Vol.58 No.13 (Taishukan) 「なぜ英語を勉強しないといけないの?」 皆さんは、生徒にこう言われたらどうお答えになるだろうか。「今やグローバルな世の中になってきたので、世界の共通語たる英語は今後必ずや必要になる」とか、「最近は英語ができるかどうかが昇進の基準となっている会社が増えてきた」、「英語ができると、世界の人々と話ができる」などと言う先生は、“教員病”である。何とか生徒を説得しようとしているからである。これは、商品を買ってくれない消費者に、「この商品を買わないと世界の動きについていけない」とか、「この商品を買うといいことがある」と言って説得するのと同じである。 対して一般企業は、商品が売れない場合、売れない理由をつきとめ、消費者のニーズや嗜好を調べ、それに対応した商品に作り変える。スーパーやデパートに行くと、次々と新商品が出ているのは、それを実行している証拠である。 「なぜ英語を勉強しないといけないの?」という質問は、英語が好きではないという意思表明である。ならば、まず説得する前にその発話の元となった生徒の気持ちを考えてみるべきであろう。 英語嫌いの原因上述の言葉には、3つの要因が考えられる。(1) 本人の努力不足で英語が分からない。 このタイプの生徒は、叱責したり皮肉を言うのではなく、一緒に勉強を頑張ろうと呼びかけるとよい。そして、具体的に何をしたらよいかを明示する。そのためにはまず、3年修了時にどんなことができるようになってほしいかを考え、逆算して学期ごとの到達目標を決定する。その上で、各学期の can-do list を作成し、生徒に配布する。 生徒に can-do list を持たせ、それぞれの項目ができるようになったかどうかを確認するスタイルの授業ならば、生徒もやるべきことが見えてきて、取っつきやすくなる。 しかし、何かができるようになるためには多大な労力が必要である。生徒にそれを促し、生徒がその努力をしている時、寄り添って励まし、できるようになるまでアドバイスと応援をしてやれば、生徒は次第に教師に対して心を開き始める。 (2) 英語学習を頑張っても、成果が出ない。 努力はしているが成果が出ない生徒は、力のつかない家庭学習を繰り返していることが多い。暗記のためにひたすら単語を書いてはいるものの、それが単なる作業になっており、それらの単語が英文の中にあっても意味が思い出せなかったり、英作文の際に頭の中のどの引き出しにしまったか忘れてしまって使えない。 このタイプの生徒には、文単位で覚える練習をし、覚えた文を応用する練習をしてから、自己診断単語テストをしてみるよう勧めてみるとよい。練習はしていても、本当に覚えたかどうかを確認せずに進んでいる生徒は、学習の成果が出ず、いらいらすることが多い。 また、今なすべきことを考えず、タイムリーではない、ピントが外れた勉強をしている生徒もいる。人の話を最後まで聞かないタイプだったり、そそっかしい子だったりするが、熱心で一生懸命に家庭学習に取り組んではいる。経験上、これらの生徒も学習に魂が入っておらず、写すだけ、書くだけで頭を使っていない場合が多い。 こういう生徒のためには、学習メニューを出して家庭学習の内容をコントロールしてやったり、Read and Look upやセンスグループ(意味の固まり)ごとに和訳した英文を、和訳を見ながら英文に直して音読させたり書かせたりすると、語句の意味に注目するようになり、成果が上がる。 いずれにしても、努力しても成果が出ない生徒は、学習方法を間違っている場合が多い。私は中1の5月は1ヶ月かけて授業で家庭学習を体験させたが、それぐらいしないと、生徒は何をどのように勉強したらいいか、分かっていない場合がある。 生徒の成績が上がらない時は、その原因を探り、的確なアドバイスを与えないといけない。1対多の授業スタイルを取り続けると、生徒一人ひとりを見る機会がない。その上家庭学習を把握していないと、テストを返却する際、成績が芳しくなかった(2)のタイプの生徒に「勉強不足だ」とか、「ちゃんと勉強したか」などという声かけをしてしまう恐れがある。そういう言葉をかけられた生徒は、失望と苛立ちから英語が嫌いになり、冒頭の「なぜ英語を勉強しなければならないの?」という言葉を吐くようになる。教師が1対1で生徒と向き合わないと、 もう1つの解決策としては、テストを早めに作り、同じフォーマットで何種類も練習問題を作成し、生徒に渡す方法がある。そして、練習問題で自己診断をし、間違った問題の解決策を練り、対処法を練習の中で身につけていくようにするとよい。 私は大学の外国語科目で、リスニングであれ、リーディングであれ、まず問題を解いてみて、分からなかったり間違ったりしたものを、次回からどうすれば克服できるかを考えさせ、対処計画書を提出させている。そして、次回からその練習に入り、一人ひとりできるようになったかを確認するという授業スタイルを取っている。それでこそ、できなかったことができるようになるのであり、それが学習のモチベーションとなる。 (3) 英語の授業がつまらなくて苦痛である。 私が大学に来て3年が過ぎようとしている。その間、大阪府下の学校を中心に、北は東北、南は九州まで、全国の小学校、中学校、高等学校で180回ほど授業を見てきた。残念ながら、中高では50分を通して惹きつけられる授業は数少ない。英語以外の教科を見る機会も多く得ているが、どの教科も生徒が主体となっていると見ていて楽しいし、教師主導の授業は15分ぐらい経った時点でため息が出始める。 昨年、ある中学校で飛び込み授業をさせていただいた。その授業では、教科書本文を読ませ、「この主人公に関して分かる8つの情報を書いてください」とだけ指示した。7つはその主人公に関して書かれている部分を読めば分かるが、もう1つは主人公以外の登場人物の描写部分から割り出さないといけない裏情報だった。 生徒たちは8つめの情報が分からず、何度も何度も本文を黙読し、友だちと話し合っていた。すると、ある男子生徒(以下、A君とする)がはっとして顔を上げ、私の方を向いて手を挙げた。私は彼の書いた答えを確認し、「8つめの情報、第一発見者が現れました!」と大きな声で他の生徒たちに伝えた。この言葉でさらに生徒たちは刺激され、話し合いは活発化した。 数分経って、A君の前の席にいた生徒が、ヒントをくれと頼んできた。A君には、「答えは言ってはいけないよ」と言っておいたので、彼はヒントを工夫した。すると、しばらくしてからA君の前の男子生徒が「分かった!」と叫び、A君はその答えを聞いてうなずいた。それ以降、立ち上がってA君のところにヒントを求める生徒が続出し、教室は熱気を帯びた。 授業後、A君は私のところにやってきて、「今までの3年間で一番楽しい授業でした」と言った。実はその前の英語の授業で、彼がクリスクロスの最中に指名されないことでふてくされて、勝手に座ってしまったのを私は目撃していたので、気にはなっていた。 その後の研究協議では、先生方が「A君が話し合い活動に参加してびっくりした。彼は普段なかなかクラスメートと関わろうとしない」と言われ、私自身がびっくりしてしまった。 その学校の学習重点目標は、「関わり合い」である。しかし、研究成果はまだ期待するほど現れてはいないと先生方がおっしゃっていたので、A君を中心に「学び合い・話し合い」が活発化したのは、驚きだったようだ。これは全くの偶然だったが、A君でなくとも、8つめの情報発見者のもとには生徒が集まるだろうと予測していた。話し合い活動は、教師がさせるものではない。教師の指示発問が良質であれば、生徒は自ら考え、自然発生的に話し合いが始まる。考え、気づき、認め合う場面がある授業では、英語学習の楽しさを感じる生徒が多い。 授業のキーワードは、「伸長感」「達成感」「満足感」である。伸びていく手応え、今までできなかったことができた時の喜び、スピーチなど苦労して準備したものを成し遂げた感動、教師にほめられた時の満足感、友だちを手伝って感謝された時の嬉しさ、ひとりで苦しんでいる時に友だちが救いの手を差し伸べてくれた時の安心感など、英語の授業が好きになる要素は、教師主導の授業では生まれてこない。1つの授業は、準備に9割の労力を使い、残りの1割は授業当日、「我慢と観察」に費やす。それが、英語好きの生徒を増やすのではないだろうか。 (4) 英語の先生が嫌い。 いくら英語の指導技術があっても、教師と生徒の信頼関係がなければ、深まりのある、生徒が伸びていくいい授業はできない。 生徒が教師を嫌いになるのは、以下のような原因がある。 ①教師の人間性に問題がある。 ②教師のフラストレーションやストレスが生徒にぶつけられている。 ③教師に指導力がない。 ④教師の容姿・服装などを、生徒が受け入れられない。 ⑤「大人」や「教師」への反発。 ⑥教師の何気ない言葉、行動が生徒を傷つけている。 このうち①、②は問題外である。③は、教科の指導力よりも、むしろ生徒指導や学級経営、学年経営の知識・技能が関わる。急速に変化する世の中の動向に応じた指導法が共有されるためには、現場の教員と大学などの教員養成機関、教育委員会等が協力していく必要がこれまで以上に高まっている。生徒間のトラブル解決のための支援、悩みに対する適切なアドバイスなどができる教員に対しては、生徒はその担当教科を頑張ろうとする傾向がある。 ④は気をつけたい。思春期の生徒は、教師が思っている以上に外見を気にする。自分のことだけでなく、人のことも嫌いになりやすい時期である。容姿は簡単に変えられないが、服装や頭髪など、清潔なイメージを持たれるよう、心がけたい。 ⑤の大人不信の生徒は、親や身近な大人の言動に失望している可能性が高い。若い先生は特にこのタイプの生徒の攻撃対象になりやすいが、最初は反発を受けても、あまり自分を責めない方がいい。その先生の責任ではないからである。それよりもむしろ、嫌われても嫌われても、その生徒のためにできることを考え、用意し、語りかけるとよい。ただし、あまり多くを要求したり、しつこくなることは避けたい。 最終的に教師と生徒の信頼関係は、教師の誠意の量で決まる。「君のことも他の生徒と同様、大切に思っているよ」というメッセージを粘り強く送り続けたい。 ⑥に関しては、次項で詳しく説明する。 授業における教員の指示・言葉かけ我々は、無意識のうちに生徒を傷つけたり、生徒の意欲をそいだりしていることがある。前述のクリスクロスや、起立しての音読などは、できない生徒が最後まで立ち続ける可能性があり、そういうことがきっかけで英語嫌いになる生徒もいる。また、せっかく生徒が頑張ったのに正当な賛辞がなかったり、一方をほめてもう一方をほめなかったり、あるいは間違った答えを言った時にぞんざいな対応をしたり、どうしても発言したい生徒を発言させなかったり、発言したくない生徒を指名したり、自分が生徒の時にいやだったことを忘れてしまって、生徒にやってしまっていることがある。 現・神戸外国語大学の玉井健先生の前任校での授業を見せていただいたことがあるが、発音がとてもきれいな学生を玉井先生はほめられなかったので、授業後にその理由を伺ったら、「発音が上手になりたいと思っている学生はたくさんいるが、1人を全体でほめると、ほめられない学生は自分はダメなんだなと思ってしまう可能性があるから、個別にほめる」とおっしゃった。 また、その授業の最後に、レポートを提出させられたが、最後に提出した学生のレポートを見て、玉井先生はこうおっしゃった。 「なあ、自分はこれで本当に納得してるかい。もう1週間待ってあげるから、納得できるレポートを仕上げておいでよ。」 その学生は、こっくりとうなずいた。大きく心を揺り動かされる出来事だった。 私がこの3年間で見た授業で、「自分もこんなことをよくやっていたな」と思って胸が痛くなる場面がいくつかあった。以下に数例挙げる。 (1)「おい、そこ、集中力が切れてるぞ」 中学生の集中力は15分程度しか続かない。集中力が切れた生徒を叱るのは、一利もない。集中力が切れる頃に、体を動かしたり、脳をリフレッシュさせる活動を入れたり、英語に関する脱線ネタを披露するとよい。 脱線ネタは、「英語一口メモ」を作成し、思いついたことや見聞きしたことを書き綴っておくとよい。その時にヒットしている映画や歌のタイトルを授業に結びつけるだけでも、生徒の脳は活性化する。 (2)「おい、そこ、終わったら次にやるべきことを考えなさい」 授業では個人差、ペア差、グループ差が出るので、終わった生徒を遊ばせない準備を教師がしておかなければならない。それをせずして、終わった生徒が集中力を欠いたことを叱責していては、頑張って早く終わった子が叱られるということになる。それでは教師と生徒の信頼関係は築けない。 (3)「ちゃんと話し合いをしなさい」 話し合いは、その価値のあるトピックや内容を用意しなければならない。いい指示・発問があれば、生徒は答えが分かった時や何かに気がついた時、しゃべらずにはいられなくなる。そうして自然発生的に始まる話し合いは熱気を帯びる。生徒が興味を持てないことや、よく理解できていない段階で話し合いを強要したりすることも、英語嫌いを作る要因となり得る。 (4)「終わった人は友だちを助けなさい」 ペア・グループ活動では、fast learnersがslow learners を助けることが多いが、それは fast learners がやるべきことを終えて満足していることが必要条件である。自分が1つの課題をクリアした段階で、まだクリアしていない友だちを助ける生徒は本当に心根の優しい子であり、その子がすごい。普通は、誰しも人よりも先に行きたいと思うものである。そういう子に「終わったら友だちを助けなさい」と命令すると、その生徒は教師に対して反発心を抱く。2つ、3つと課題をクリアして余裕が出た時に、「あの子はまだ1つ目だから、手伝ってあげてくれるかな」と頼むと、自分はその子より2つ進んでいるから、まあいいかと思って手伝ってくれる。そのうち、教えることの面白さを知り、手伝ってあげた友だちに感謝されたという体験をしてくれたら幸いである。 紙幅の関係でこれぐらいにとどめておくが、教師の言動に生徒が腹を立てたり傷ついたりした場面を目撃したことは他にもたくさんある。これは、当の授業者は気がついていないことが多い。一度、自分の授業を録画してみるとよい。愕然とするぐらい、生徒の声を拾っていなかったり、生徒の気持ちに気がついていなかったりする。 授業の録画は、教室の後ろからだけでは意味がない。教室の前から、生徒の表情を写さないといけない。そして、同時進行で再生してみると、教師の言動に対して生徒がどう反応したかがよく分かる。同時進行は無理だとしても、生徒の反応を写した録画を見ると、ネガティブな反応を示した時、教師は何をしたのかをもう一方のビデオで確認することができる。 英語嫌いの生徒は、本人の努力不足が半分、教師の指導ミスが原因であるのが半分と考えた方がいいのではないだろうか。 |
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