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英語教育エッセイ

国内外で活躍する英語教育業界関係者によるエッセイコーナー

いま求められている英語教員像とは?

2010年2月01日


田園調布学園大学教授
久村 研
Hisamrua Ken


英語教員像の輪郭

英語教育の最新版
「英語教育」2010年2月号(大修館)
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From "The English Teachers' Magazine" February 2010 Vol.58 No.12 (Taishukan)

標題の「いま求められている」という修飾語を強調するとすれば、英語教員に関して明確に方針が打ち出されているのは2点だけである。「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」(2003)で示された「英検準1級、TOEIC 730、TOEFL 550以上」と、2013年から施行される高等学校学習指導要領の「授業は英語で行うことを基本とする」ということである。いずれも英語教員の英語力を求めているものである。

行動計画発表の翌2004年に、大学英語教育学会教育問題研究会(教問研)は、全国60の都道府県・政令都市の教育委員会(教委)の英語指導主事を対象に、「英語教員採用の際に重視する項目」について調査を行った(回答数21件)。その結果、重視している順位は、人物(43.7%)、教職としての資質能力(29.4%)、英語授業で必要な資質能力(20.6%)であり、英語力は6項目中第4位で、わずか4.8%であった。ところが、「採用重視項目」に強い影響力を持つ項目を特定するために、AMOS で共分散構造分析を行ってみると、全体で4位であった英語力が、「採用重視項目」では最も影響力を持つという結果が出た。その原因を分析してみると、英語力の下位5項目のうち、「ALTとコミュニケーションができる」と「英語で授業ができる」の2項目に回答がほぼ収束していることが判明した。つまり、回答者はこの2項目が、「採用重視項目」の必要条件であるという共通認識を潜在的に持っていると解釈できた。

一方、2001年に英語教員研修研究会(TERG)、2007年に教問研が行った全国の現職英語教員対象の調査では(回答数はそれぞれ1,278件、2,897件)、「英語力より授業力の方が重要である」とか、「英語能力試験でいい成績をとっても実際の授業には役に立たない」とか、「英語力があるからといって授業力があるとは言えない」という意見が、自由記述で多数寄せられた。こうした意見から、現職英語教員が求めているのは、英語力よりは授業力であると考えられる。上述の「採用の際に重視する項目」で言えば、現職英語教員は、英語授業で必要な資質能力を求めていると言える。

「いま求められている英語教員像」を記述しようとしても、以上のように文脈が整理できない状態である。英語教員像の輪郭が定かに特定できない。簡単に要約すると英語力と授業力を兼ね備えた教師、というごく一般的な言い方になってしまう。しかし、英語教員に必要な英語力・授業力とは具体的にどのようなものなのか、その専門領域や基準は特定できるのか、そして、その力はどのようにつけるのかという課題は依然として解決できていない。

教師の成長

2008年度で試用期間後に正式採用とならなかった公立の新人教員は315人(精神疾患などによる依願退職88人を含む)で、過去最多である。彼らの多くは、「自分の指導力に自信を失い、鬱になるケースがある」(文部科学省)とのことであった。しかし、この結果には、学校内や教委の研修で、指導力に自信を持たせるような指導や支援がなぜできなかったのか、という疑問が残る。

一方、教委から指導力不足と認定された現職教員は306人で、4年連続で減少しているとはいえ、そのうち40~50代のベテラン教員が8割を占めた。彼らは、「個々に応じた学習指導ができない。自分本位で同僚とのトラブルが絶えない」とか、「授業を指導書にしたがって進めるだけで、生徒の学力向上に関心がない。授業以外で生徒に指導することを避ける」という理由で指導力不足とされたという。これを逆に言えば、教科書を自在にこなし、同僚と協調しながら、個に応じた生徒の学習指導を行える教師、が求められていると考えられる。教壇に立って20年、あるいはそれ以上経過しているベテラン教員であるにもかかわらず、求められる教師になるための研修機会や、スクリーニング機能は、その間どこにも存在しなかったのであろうか。

「教師は現場で成長する」と言われる。指導力不足教員はどこにも存在する可能性はあるが、正式採用とならなかった新人教員や、指導力不足とされたベテラン教員の現場は、成長するための要件が十分整っていなかったと推測する。はじめから指導力を備えている教員などいない。経験と研修を重ねながら教師は成長するものである。教員研修を「訓練」や「指導」という上からの視点で考えている限り、訓練を避けたり、指導を嫌ったりする教員が出てくる。今後は、「教師の成長」という観点から、教員教育のパラダイムを再構築していく必要がある。

研修と評価

2003~05年度にかけて、文科省は各教委に教員評価制度の導入を要請した。これまでのところ、東京都をはじめとする各教委のウェブサイトで見る限り、概ね自己申告と業務評価の2本立てで制度を運用し、研修を評価の対象として含めている教委はほとんどないようである。教員が参加した研修の成果は、教室や実際の職務に反映しにくい、というのがその理由である。研修実績を自己申告表に記載する欄はあるが、評価の対象となっていないというのが実態であると考えられる。

一方、全国101の都道府県・政令指定市・中核市の教委の英語指導主事対象に2008年度に行った教問研の調査では(回答数32件)、評価可能であると英語指導主事が考えている研修形態が明らかになった。「年間目標を定め、各教員が校内で研究授業を定期的に行う」、「自己評価チェック・リスト、研修記録、内省などを活用する」、「授業改善のためのアクションリサーチを実施する」の3項目で、これらはいずれも学校内で可能な研修であった。

教師の成長という観点から考えると、研修は必要不可欠なものであり、だからこそ評価の対象にすることが重要である。確かに、学外の研修に参加することは、生徒と日常業務から離れることを意味し、その成果は直接教育に反映しにくいとも考えられる。しかし、学校内で行う研修なら、それぞれの教育現場に即した課題を設定し、同僚との協力関係を築くことができるので、自己の成長過程も把握しやすくなるであろう。英語指導主事が評価可能とした学校内研修によって、教員の成長段階を評価するという観点を導入することは、意義あることと考えられる。課題は、学校内研修とその評価をどのようにシステム化するかということである。

専門能力の段階別基準

海外に目を転じると、ニュージーランド(NZ) では1997年に各学校に職能評価制度(PMS:Performance Management System)を導入した。その3年後には、教師の専門性スタンダードを導入し、PMS と統合させた。スタンダードは原則3段階(初任教員、中級教員、経験ある教員)とされ、各学校では段階ごとに達成基準を設けている。つまり、PMS は職務査定の色合いが濃いが、スタンダードは教師の資質能力の基準を示すものであるから、教員は通常の職務とともに、自らの教科力や授業力を維持・向上させるために、学校内で研修することになる。筆者が2008年7月に訪問した中等学校では、教員にアクションリサーチを課し、その成果を評価の対象としていた。

またある小学校では、教員全員の合議で能力基準を4段階(初任、育成、実践、熟達の各教員)に分け、育成レベルを実践レベルに引き上げるために、育成教員と実践教員がペアを組み、そこに熟達教員が4~5週ごとにサポートに入るという3者の連携関係を構築していた。研修方法は、3者の協議に基づき、期待される結果を設定し、授業評価目標を立て、その目標に沿って主要なタスクを決めて授業と校内研修を進めるというものである(久村、2008)。

イングランドでは5段階のキャリアステージ(資格取得段階、初任教員、中堅教員、優秀教員、上級能力教員)を設定し、それぞれに基準となるベンチマークを特定している。教員は、NZと同様、学校内の職能評価を受けながら研修を継続し、常にキャリアアップを図るようシステムが設計されている。アメリカでは、各州が独自に設定している専門性スタンダードのほかに、全米教育専門職基準委員会(NBPTS)が、優秀教員育成のための基準によって教員成長の指針を示し、全国レベルの上級教員資格認定証を交付している。

こうした傾向は特に上述の国々に限らない。OECD(2005, Teachers Matter)の報告でも、教師教育と教師の成長を評価するスタンダード化を進める国が増大しつつあると記されている。この背景には、教育の質は国際競争力を左右するという考え方がある。現実的には、フランスやスペインなどを除き欧米の国々の多くは、養成課程は「閉鎖制」で教員の採用はポジション・ベース、教員の離職率が高く、そのため教育の質の説明責任が問われるなどの理由があげられる。わが国で教師教育のスタンダード化が進まないのは、養成課程が「開放制」で、採用はキャリア・ベース、給与と職務が比較的安定しているので離職率が低いことなどが原因であると思われる(参照:文科省、2004)。

海外と状況が異なるとはいえ、自らの目標を意識させ、実践の省察と自己評価、及び、研修の自己管理を教員に促すことは、教師の成長という観点から見れば不可欠な要素である。この意味で海外の事例は示唆に富む。

基準化の可能性

2008年の教問研の調査では、英語教員の段階別基準導入の可能性も探ってみた。英語教員の専門能力を4段階(新任、育成、中堅、指導)と想定し、TERG の2003‐04年度、教問研の2006‐07年度の調査結果と、「語学教育実習生のためのヨーロッパ・ポートフォリオ(EPOSTL)」(Newby 他、2007)を参考に、自己評価 Can-do リストの形式で22項目を作成した。30教委の英語指導主事が、各項目について、最もふさわしいと考える段階を選択してくれた。

集計・分析の結果、指導主事レベルでも段階別専門能力基準という概念に馴染みが薄いことが判明し、統計的な処理では確たる解釈はできなかった。しかし、想定回答と対照してみると、40~80%の確率で重なる項目が半数強発見された。

例えば、新任教員の能力として、
  • 学習指導要領で求められていることを理解できる(60%)
  • (S)授業展開の基本となる指示を英語で言うことができる(80%) *(S)=speaking
など4項目。育成教員の能力として、
  • 生徒の興味・関心を取り入れたListening活動を計画し実践できる(40%)
  • TTで授業中の役割分担をこなし、授業全体をコントロールできる(60%)
など5項目。中堅教員の能力として、
  • (R)英語を使って各課のトピックに関する生徒の知識から課全体の内容を予測させることができる(50%) *(R)=Reading
  • 教室外における学習者の自主学習を手助けする方法を知っており、自律性を促進することができる(50%)
など3項目であった。しかし、指導教員にふさわしい項目は現れなかった。

日本の教育界では、これまで教員をキャリア段階別に分けるという考え方がなかった。学校は、校長と教頭という少数の管理職のもとに大半の教員がいるという「なべぶた型」組織であった。2007年度の学校教育法の改正により、「副校長」「主幹教諭」「指導教諭」などの役職が設定され、ピラミッド型に転換する方向が示されたが、いまだ浸透していないようである。2008年度には副校長・教頭84人、主幹教諭89人が希望降任制度を利用した。これは、制度が先行し、意識改革を伴う対応策を積み残していることが原因ではないかと考えられる。

2008年度の調査結果は、こうした背景を物語っていると解釈できる。しかし、半数強の項目が、想定回答と比較的高い確率で一致したということは、専門能力を段階別に設定する可能性が示唆されたと考えられるが、指導主事でさえ段階別基準に対する認識が十分とは言えない状況で、英語教師の成長の指針となる基準の研究・開発とその普及活動をどのように進めるかは難問である。

日本版 EPOSTL の開発

英語教師成長の段階別基準の研究開発とその普及の糸口になると考えられるのは、前述の EPOSTL である。EPOSTL とは、欧州評議会が2001年に出した「ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)」の教育実践ツールとして開発された「ヨーロッパ言語ポートフォリオ(ELP)」の1つで、語学教育課程の履修生に、ELP の理念を植えつけることを目的として、教員養成専門家からなる国際チームによって2007年に開発されたものである。

EPOSTL は、教育に関する個人履歴と意見、自己評価 Can-do リスト、教職に関する個人業績などの資料集の3部で構成されている。自己評価リストは、7領域(Context, Methodology, Resources, Lesson Planning, Conducting a Lesson, Independent Learning, Assessment of Learning)に分類され、その下位項目は合計197に及ぶ。履修生は定期的に自己評価項目に答えることによって、教職に必要な知識、将来の教育者としての成長、教師の自律について考えるよう奨励される。EPOSTL は2008年11月現在、すでに11カ国で翻訳され、利用されている。

EPOSTLの自己評価リストは、CEFRの6段階の最上級熟達レベルC2(因みに、英検1級はC1レベルとされる)を基準に作成されているため、日本の英語教職課程の実情に合わなかったり、レベルが高すぎたりする項目が数多く含まれている。また、日本には CEFR に準じるような外国語能力の参照基準枠が存在しない。学習指導要領が、ある意味でその役割を果たしていると考えられるが、CEFR のように具体的・明示的で指導しやすい基準にはなりえていない。日本版EPOSTL の開発には、CEFR に準じるような英語力の参照基準枠も必要となる。

最近の大学における英語教育の動向を観察すると、学生の英語運用力の基準として、TOEIC、TOEFLなどのスコアのほかに、CEFRを指標として活用する傾向が見られるようになった(茨城大学、大阪大学外国語学部、など)。CEFR は、「日本の英語教育にも応用は十分可能である」(福田、2009)と指摘されており、また、日本版 CEFR の開発をめざしているグループもある。今後、小学校から大学までの一貫した英語教育における英語運用力の参照基準枠が、CEFR に準拠して開発される可能性がある。

このような動向を踏まえ、CEFR の研究と平行して日本版EPOSTLを開発することによって、養成段階から省察・自己評価・自己学習管理の方法を身につけるよう促すことができる。また現職教員にも、教職としての英語力と授業力の成長を測る実践ツールとして利用されることになると考えられる。

日本版EPOSTLの開発のためには、その妥当性と信頼性を検証する研究者と教育実践者間の連携、基盤となる仮定や原則に関する統計的・量的研究の収集などが必要である。今後こうした連携のネットワークと研究の推進が期待される。

◆参考文献
Newby, D., et al. (2007) European Portfolio for Student Teachers of Languages. ECML, Council of Europe
OECD (2005) Teachers Matter
久村 研(2008)「NZ の教員教育をめぐって」. JANTA Bulletin. 日豪 NZ 教育文化学会
福田浩子(2009)「日本の英語教育におけるCEFRの応用の可能性」.『茨城大学人文学部紀要』
文部科学省(2004)”Attracting, Developing and Retaining Eective Teachers“ Japanese Country Background Report

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