もしも大学入試に英語がなかったら
2010年1月18日
2010年1月18日
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東京都立西高等学校主幹教諭 秦野進一 Hatano Shinichi 教育課程及び教員定数に与える影響編![]() 「英語教育」2010年1月号(大修館) → 目次はこちら → 定期購読はこちら From "The English Teachers' Magazine" January 2010 Vol.58 No.11 (Taishukan) 舞台は公立の進学校のA高校である。 20**年、センター試験・各大学の入試科目から英語がはずされることが発表になった。英語教師の間には受験の制約を受けずに授業ができると好意的にとらえる者もいたが、行く末に不安を覚える教師も多かった。数日後、A高校では教育課程を再検討する委員会が開かれた。英語科代表が、「高校教育は受験のためだけのものではない」と授業時数削減に反対するが、「入試科目でない英語に多くの時数を割くことはできない」という意見が大勢を占め、また保護者・生徒から「受験に必要な科目の授業を増やしてほしい」という強い要望もあり、現行の3年間で16時間という英語の授業時数が、3年間で6時間へと大幅に削減されてしまう。他の学校の中には必修最低単位の2時間まで減らされた学校もあった。 授業時数削減が意味するのは教員数の削減である。新教育課程の完全実施までの3年間でA高校では英語科の教員数が10人から3人に減ることになってしまった。しかし少人数制の導入による教育内容の充実を教育委員会に強く訴え、1、2年生の英語の授業は30人学級で実施できることになる。それでもA高校では6名が異動することになった。しかしどの学校でも英語教師が余るので異動はスムーズには進まない。退職による自然減では到底追いつかないペースで英語教師の余剰状態が日本全国で続く。英語科の新規採用はもちろんゼロ、講師も失職、教育委員会は副免許状を持っている英語科の教員に小学校や他教科に転向することを勧奨し、さらに希望者には行政職への異動を特例措置として認める方針も打ち出す。予備校でも大量の失業者が出て社会問題化する。他校への異動のない私立校では事務職や警備員等へ配置転換されるケースも出てくる。英語教育に見切りをつけて管理職試験を受験した教員も多く出た。さらに次の新学習指導要領ではついに英語が必修科目からはずされることになり、数年後のリストラ第2弾も確実になる。日本中で英語教師のため息が聞こえる中、ある老舗出版社では英語教育関連の月刊誌の廃刊が検討され始めた…。 授業内容に与える影響編授業内容は英語が入試科目から外された理由により変わってくる。舞台はやはりA高校である。①実用のための英語学習が不要となる場合 例えば科学技術の進歩により、瞬時にあらゆる言語を通訳・翻訳する技術が開発され、広く世の中に普及したと仮定する。この場合、英語学習の目的は実用から教養、研究等のためのものに大きくシフトする。それでもヨーロッパですでに使われていないラテン語が知識人たちの教養として学ばれているように、日本でも特に進学校と呼ばれる学校を中心に英語がそのような地位を得ることになる。A高校でも授業時数は減ったが、英語を教養として学ばせる必修の授業と、大学で英語学や英米文学を学ぶ生徒を対象に教える選択の授業に分けて設置されることになった。授業内容には異文化理解、名文といわれる過去の文学作品や論説文を読むことなども含まれた。中にはオーラル中心の授業を選択科目として置いた学校もあったが、英語を学ばなくても外国の人々と自由に意思の疎通ができるような現状が進むと授業を選択する生徒が減っていき、自然に消滅していった。また受験以外にあまり関心を持たない生徒や、そもそもあまり学習意欲のない生徒の多い学校では以前にも増して英語の指導が難しくなった。 ②実用のための英語学習の必要性はあるが、ほとんどの生徒が学ばなくなった場合 例えば1974年に発表された外国語教育改革に関しての提言(いわゆる平泉試案)が多くの識者の支持を得て現実のものとなった場合を想定する。その結果、外国語教育を行う高校と行わない高校とに分離され、外国語教育を行う高校では志望者のみに課し、毎日少なくとも2時間以上、毎年1か月にわたる集中学習を行うことになった。 この場合、英語教育の目的が教養から実用へ大きくシフトされる。あえて英語を学ぶことを選んだ生徒に求められるのは何より意志伝達手段としての英語の習得である。A高校のシラバスでは「読むこと」では海外の論文や学術誌を読む力、「書くこと」ではレポートや論文を英語で書く力、「聞くこと」では英語での授業を理解したり、TV・ラジオの放送を聞き取る力、「話すこと」では日常会話力から会議やディベートで意見を主張する力を養成することなどが示された。今までと比べ、「聞くこと」「話すこと」に充てる時間が大幅に増え、4技能のバランスの取れた内容になった。また「話すこと」の活動は10人程度のクラスで実施された。A高校では、英語の授業は月~金曜の7、8時間目に特別科目として設置し、夏休みに1日3時間で30日間の集中講座を設けた。初年度は1年生の2割にあたる60名の生徒が希望したので2クラス、スピーキングのときは5クラスで授業を行ったが、年を経るごとに履修をやめる生徒が続出し、3年生では帰国子女と外交官・商社員志望の生徒中心で20人ほどになった。 さて最後に入試科目に英語があることの是非、及びメリット・デメリットについて考えてみたい。国際化が進展している現実世界において、世界共通語になりつつある英語が入試科目に置かれているのは至極当然のことであると思う。今でも少数ではあるが入試に英語を課さない大学もあるが、他の多くの大学が追随しないのは、大学教育を受ける者にとって英語は必須であると考えられているからであろう。そしてそのことが生徒の学習の大きな動機付けになっていることは英語教育にとって大きなメリットであると思う。強制されて学習してみてその面白さに気づくということも勉強にはある。なぜその教科を勉強しなくてはならないのかという疑問に対して一つの明快な答えが用意されているのは英語の大きなアドバンテージであろう。しかしそのために入試で高得点を取ることのみが英語教育の究極の目的であると考えられ、教育内容にまで影響を及ぼすようになるとデメリットとなってしまう。ただしその場合でも試験で問われている英語力が、学校教育で目標とする英語力、および社会で必要とされる英語力とかなり近いものになっていれば、これはそれほど大きな問題ではなくなる。現在のセンター試験はかつての共通一次試験と比べると、リスニングテストや、広告から必要な情報を読み取る問題、意見の要旨をまとめたものを選ぶ問題などがあり大学入学後や実生活で必要とされる英語力を測る問題が多くなってきている。語強勢や文強勢を問う問題が実際の音声を伴わずに出題されているなどまだ改善の余地はあると思うが、まあこの問題ならと思われるレベルに向かっているのではないか。残念ながら4技能のうち、「話すこと」だけは相変わらず入試においても、授業においてもあまり扱われておらず、社会の要求と一番ギャップのある部分だと思うが、これは大人数の教室で教え、そして評価することの難しさが主な理由なので、今後しばらくは課題であり続けるであろう。 入試で問われる英語力、学校教育で目標とする英語力、そして社会が求める英語力の三者が大きくかけ離れたものになったとき、英語教育に対する不平・不満は大きくなり、外圧となって英語教育界を襲ってくる。そのような事態を招かないためにも我々英語教師は、英語が入試科目である状況に安住せず、自分たちの教育内容が社会の要求、大学の要求を反映したものになっているか、またもう一方で、入試の英語が学校教育で育てようとしている英語力をきちんと測るものになっているかということの検証を怠らないようにすべきであろう。 |
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