「音読」こそがすべての基本
―音読指導で生徒の英語力を向上させるためのQ&A
2009年11月04日
2009年11月04日
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京都外国語大学教授 鈴木寿一 Suzuki Juichi
Q1:なぜ授業で音読指導が必要なのか?この問いに答えるために、まず、これまで心理言語学研究で明らかになったことを簡単に述べます。文章を黙読して理解するまでには、眼球による文字知覚後、①その文字の塊(単語)を長期記憶内のスペリング情報と照合し、その単語が検索され、②単語を頭の中で発音(音韻符号化)する、③その単語の意味を想起する、という順序で単語認知が行われます。ここまでは低次処理過程(ディコーディング)です。次は高次処理(文章理解)過程で、統語、意味、スキーマ、談話などの各処理が行われて文章の意味を理解します。②の音韻符号化は、母語でも外国語でも、黙読時の文章理解に不可欠であることを心理言語学は明らかにしています(門田、2007)。一方、脳科学は、音読時に活性化する言語理解を司るウエルニッケ野と言語産出を司るブローカー野が黙読時にも活性化すること、つまり脳内での音韻符号化の存在を示す直接的証拠を提出し、心理言語学の研究成果を支持しています(川島、2003)。 また、人が文章を黙読して内容を理解する際の注意資源には限りがあることもわかっています。熟達した読み手(母語話者や上級外国語学習者)は、①~③を瞬時に行えるほど、その処理が自動化しているので、ほとんどの注意資源を文章の内容理解のために向けることができ、内容をスピーディに正確に理解できます。しかし、母語話者でも小学生などの熟達していない読み手や、中学生や高校生のような初級外国語学習者の①~③は自動化しておらず、注意資源のかなりの部分が低次処理に使われ、文章理解(高次処理)がスローで不正確なものになるのです。脳科学からの説明は本号の溝畑先生の記事(p.17)をご参照下さい。 文章理解には①~③の処理が高速に行われることが不可欠で、音読はそれを可能にします。音読によって、スペリングと発音の結びつきを強化するとともに、学習した語彙や文法などを内在化でき、また、ワーキングメモリーも鍛えることができます。その結果、文章理解の低次処理と高次処理が高速化して文章理解力と発表能力の基礎ができあがるのです。以上のような理由で、音読は外国語としての英語学習に必要不可欠なのです。 Q2:音読指導で英語力は伸びるのか?伸びます。ただ、多様な方法で大量に行うことが必要です。Miyasako(2008)は授業時間の4分の1から3分の1を音読指導に充てた結果、内容理解テストの得点と理解を伴った黙読速度の向上を報告しています。宮迫氏は一連の研究で、音読力が全般的な英語能力と相関があることや音読力が向上すると英語力が向上すること、特に成績下位の生徒の伸びが大きいことを実証しています。(詳細は Miyasako(2008)の参考文献を参照)本誌2009年2月号の拙稿でも紹介しましたが、2回程度の音読指導クラスと大量音読指導クラスを比較したところ(対象は高校1年生と3年生)、リスニング力と理解を伴った黙読速度で後者のほうが有意に向上しましたし(鈴木、1998)、日を置いて繰り返し音読練習を行うと、英語力に関係なく新出表現の定着と読んだ英文の要約に効果がありました(七野、2006、高橋、2006、高橋、2007)。 音読は単語認知の自動化と語彙や文法の内在化を促進し、4技能の向上に効果を発揮します。 Q3:音読指導で入試に対応できるか?対応できます。最も有効な対策と言っても過言ではありません。科学的な根拠はQ1で述べましたので、ここでは、教育現場での実践研究の結果だけを略述します。鈴木(1998)と安木(2001)は、多様な方法で大量に音読指導を行うと、形式的に1~2度音読指導を行った場合に比べて、センター試験模試や本番の得点、記述模試の得点が統計的に有意に高くなることを実証しています。多様で大量の音読練習が文法や語彙の内在化、リーディングにおける低次処理の高速化、より多くの注意資源の高次処理への充当を可能にし、文章の意味理解が進んで、入試の読解問題でも、他の問題でも、より高い得点が取れるのです。Q4:「音読に適した教材」のみ音読させるべきか?答えは「いいえ」です。「音読に適した教材」として、会話文、物語、詩などが挙げられ、適切でない教材として、大学入試で出題される論説文などが挙げられることが多いようです。確かに、音読の基礎トレーニングには前者が適切で、後者は適切でないかもしれません。しかし、書きことばは音声言語から生じたもので、論説文に限らず、どんな文章でも、筆者が何らかの目的を持って、頭の中で音声化したことばを書き記したものですから、音読に値しない文章などないと筆者は考えています。また、外国語の場合は文法や語彙の習得は黙読だけでは自然には起こりませんが、音読はそれを可能にします。特に大学入試の英文や日常会話レベルを超えた内容のある話しことばを理解するためには、語彙力や文法力が必要です。それらを強化するためにも、教室で教師が指導する精読や精聴用の教材の英文は、会話文、詩、物語文に限らず、論説文でも、生徒に音読させる必要があります。また、高校では入試を意識して生徒の学力レベルよりかなり高いレベルの教材が使われ、単に読ませて問題を解かせ、和訳や説明だけで、音読指導がない授業が多いようですが、両者のギャップを埋めるためにも何度も音読させ、和訳が課された箇所は特に徹底的に音読させると、そこで用いられている、まだ十分に身についていない語彙や構文の理解を促進し、定着させることができます。そして、その英文の日本語訳を英語に直す復文練習とその後の自己添削は、大学入試の和文英訳問題に対する効果的な対策となります。 Q5:音読指導は授業のどこで行うべきか?内容理解後と次の授業の最初に復習として行うのがいいです。内容理解前の音読指導は、「発音とスペリングの結びつけと、これから読む英文の内容理解」が目的であると思われますが、効果的とは言えません。1度や2度の音読だけでは発音とスペリングの結びつけが進まないのは、生徒にモデルなしで音読させると、まともに音読できる生徒が少ないことからもわかります。では、教師の後について音読することで内容理解は進むでしょうか。筆者の勤務校の英語専攻の1回生に対して高校1年レベルの英文を筆者の後について1回音読させてから日本語で要約させた場合と、筆者の朗読を聴きながら英文を2回黙読させてから日本語で要約させた場合では、後者がリスニング2回に対して、前者はリスニング1回、リピート1回の計2回で、英語に触れた回数は同じですが、要約の出来具合は、前者のグループより、後者のグループの方が優れていました(p<0.01)。この結果は、内容理解前の音読は英文の内容理解を進めないということを示しています。言い換えれば、日本人英語学習者の場合、少なくとも大学1回生より下の高校生や中学生の多くにとって、音読することと意味を理解することを同時に行うのは難しいということです。音韻符号化が自動化していない学習者にとって、音読と意味理解はどちらもきわめて認知的な活動であるため、同時にそれを満足に行うことはできず、内容理解後の音読に充てる時間が減って逆効果になります。 スペリングと発音の結びつけと意味理解を同時に行うには、まず、教材の英文の内容に関する質問を1、2問ずつ与えて、教師が句や節単位にポーズを入れて朗読して聴かせながら、何度も黙読させて内容を理解させます。この手法は、自力で頭の中で音読することが十分できない学習者を支援し、スペリングと発音の結びつけにも役立ちます。同時に英文の内容理解を助けますので、時間の節約にもなります。 また、脳科学は、音読を2分間した人は、しなかった人に比べて、直後の記憶作業が20%向上することを明らかにしています(川島、2003)。したがって、授業の最初に前時に指導した英文の音読指導を行うことは、英語授業へのウォームアップと復習を兼ねることができて一石二鳥です。また、指導したその日だけ音読指導をするより、次の授業の最初に音読指導をもう1度行うことは分散学習になり、効果が大きいのです。 * 音読指導で気をつけるべきことはいろいろありますが、毎年たくさんの授業を見せていただく中で、気になっていることを最後に述べておきます。 1つは、音読指導が孤立したり、「終着駅」になっている授業が多いことです。音読後は、本文についての英問英答(教科書は閉本が効果的です)のほか、本号で竹下先生、東谷先生が述べておられるようなアウトプット活動を課すことが必要です。そうすれば、「音読をしっかりやれば、それらの活動がうまくでき、生徒が音読練習に熱心に取り組むようになり、英語力が向上する」という英語学習の好循環が生まれます。 2つ目は、教師の後について1、2度言わせただけで、バズ・リーディングやペアによる音読練習が行われている授業が多いことです。音読練習中の生徒の音読を聴きますと、単語の発音、強勢の位置、ポーズの位置などが全く間違っている場合が非常に多いのです。もっとモデルを与えた音読をさせる必要がありますが、Listen and repeat だけではだめで、いろいろな手法を使って段階を踏まえて指導する必要があります。その方法については38ページでも触れました。また安木先生の記事や安木(近刊)などをご参照下さい。 3つ目は、意味や状況を考えない、聴き手を意識していない音読が多いことです。I'm tired. や I'm sleepy. などを大声で言ったり、逆に、活き活きと読むべき文を無表情に音読させずに、意味や使用状況を考えた音読や、聴き手に意味を伝えることを意識して、強調すべきところや、ポーズの位置や長さにも注意を払った音読をさせることが大切です。理解も進み、英語がことばとして頭に入ってきます。そのためには、教師自らがそのような音読をして生徒に聴かせることが必要です。 ◆参考文献 門田修平(2007)『シャドーイングと音読の科学』コスモピア 川島隆太(2003)『脳を育て夢をかなえる』くもん出版 七野真希(2006)「実証的研究:パッセージの繰り返し提示と音読練習による重要語句・フレーズの再生への効果」『第46回外国語教育メディア学会全国研究大会発表論文集』103‐109. 鈴木寿一(1998)「音読指導再評価―音読指導の効果に関する実証的研究」『外国語教育メディア学会関西支部研究集録』7,13‐28. 高橋愛紗(2006)「音声を併用したフレーズ・リーディングと音読が言語産出に及ぼす影響」『第46回外国語教育メディア学会全国研究大会発表論文集』173‐180. 高橋愛紗(2007)「音声を併用したフレーズ・リーディングと音読が言語再生と保持に与える影響」『英語教育研究』30,61‐69. 関西英語教育学会 Miyasako, N.(2008) ”Is the Oral Reading Hypothesis valid?“ Language Education and Technology, 45, 15‐34. 安木真一(2001)「フレーズ音読の効果と問題点」STEP BULLETIN 13, 84‐93, 日本英語検定協会 安木真一(近刊)『英語力がぐんぐん身につく!驚異の音読指導法54』明治図書 |
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「英語教育」2009年11月号 |
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