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英語教育エッセイ

国内外で活躍する英語教育業界関係者によるエッセイコーナー

学校のテストは何のために行うのか

2009年10月05日


上智大学教授
渡部良典
Watanabe Yoshinori


テストの良し悪しはその目的で判断する

テスト問題を見せられて、この問題はどうでしょうかと尋ねられることがある。これは大変難しい質問である。対象はどのような生徒なのか、学習段階は、指導内容は、何よりもそのテストで何をしたいのか、これらがわからなければ判断はできない。どのテストも先生方の苦労の結晶である。一見して不適切だと思っても即答は控える。英文が与えられていて下線部和訳の問題がある。良いテスト問題なのかどうか、これだけを見て判断はできない。対象は中学2年生、教科書の既習の一部からの引用で読解力を見るための問題だとわかれば辛うじて、それはおかしいと判断できる。授業での既習事項を日本語で覚えているかどうかを調べるのが目的ならばこの問題である程度わかるでしょうとは答えることができる。この目的は英語教育の目的として適切なのか疑問には思うが、これはテストとは次元の異なる別の課題である。
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From "The English Teachers' Magazine" October 2009 Vol. 58 No. 7 (Taishukan)

テストは教育活動の一環である

私たちはいろいろな目的をもってテストをする。第1のそして最も重要な目的は、抽象的な言語能力を導き出しそれに得点という目に見える形にする操作手順である、というのが教科書的な模範解答である。これがテストの定義だと言うこともできる。操作手順を通して得られた得点を使って成績をつける、合否の判定を行う、指導の成果を検証するなど様々な意思決定を行うという第2の目的もある。教育効果を調べるための教育指導(instructive)、管理運営(administrative)、研究(research)の3つの分け方も行われることがある。本稿で扱うのは第1の教育指導上のテストである。

教育上の言語テストは能力や到達度を測定するための単なる道具ではない。教育活動の一連の流れの中の重要な構成要素である。1回のテストでも教員は実に多くの仕事を行っている。そこに指導内容・方法、生徒の観察などあらゆる要素が反映されるからである。テストの題材を選んで、問題形式を決める、生徒にテストの実施を予告し、テストを実施する。ペーパーテストならば実施監督をする。スピーキング・テストならば面接を担当し、リスニング・テストならば録音問題を作り音量を調整し点検しながら流す。テスト終了後は答案を回収して採点し、コメントを書く。結果を記録する。答案を返却する。結果に基づいて、点数の低い生徒には課題を出すなど手当ての仕方を決める。これら具体的な行動の裏で多様な意思決定を行っている。予告するのがいいのか抜き打ちがいいのか、頻度はどのくらいが適切か、応用問題にはどの教材を選べばよいのか、どのようにすれば生徒は勉強しやすいのか、様々な疑問を解決しながらテストを準備し、そして実施している。

テストというのは、単発的なある一定の時間をとってその時間生徒がある特定の課題に応答するプロセスを指すのではない。教育の一環を成す重要な一部である。例えばライティング能力を知るために、トピックを与えそれについて15分、20分の時間内に書かせる必要は必ずしもない。トピックを事前に予告してアウトラインを書いてこさせる、それを教室に持ち込むことを許可する。生徒にとってみれば心理的に楽になるのみならず、その方が実際の言語使用に近いテストにもなる。そして書かせっぱなしではなく改訂させる。教育指導の一部だからである。

授業者は最適のテスト作成者である

目的に応じたテストを作り実施して意思決定を行うという一連の作業は、授業の運営と並行関係にあり、そして互いに深い影響関係にある。テストはまるで授業を映し出す鏡のようである。テストを見て価値判断をするのは大変難しい。しかしテストを見ると授業がどのようなものなのか想像がつく。授業がわかるようなテストでなければならないとも言える。何を学んでほしいのかが明確でなければテストもあいまいなものになる。冒頭の例に引き続いて、もしテストで読解技能をテストしたいなら、授業でどのような読解力を生徒たちにつけさせようと指導してきたかによる。行間を読む推論能力が習得できたかどうかを知りたいならば、既習の英文とともに未習で同レベルの英文を与えて習得した技能が使えるかどうかを試さなければならない。既習と未習で配点に差をつけるか、どちらの配点を多くするのか、これらもやはり授業の目的、すなわちテストの目的次第である。このような複雑な作業を適切にできるのは授業を担当している教員でしかありえない。

もちろんテストである限り最低限満たすべき条件がある。信頼性と妥当性である。妥当性は目的との整合性といってもよい。妥当性測定したい知識や技能をテストの対象とすること、これらは教室で行うテストでもやはり大切な条件だ。しかし、自分の生徒や学生を対象にしたテストの場合、これらはさほど難しいことではない。事前に同僚教員同士で内容が適切かどうかを確認したり、テストの直後に生徒に白紙を渡してコメントを書かせるだけでもよい。

信頼性とは安定した測定値を得ることである。安定した測定値を得るためには何でもできる限りのものを得点化する、そして1回だけではなく複数回テストを繰り返す、これらを行えばある程度安定した測定値を得ることができる。誤差は致し方がない。どのようなテストでもそれはつきものだ。自由英作文などいわゆる主観テストの採点でも、例えば、名前を隠しA~Eの5段階の山に振り分け、答案の上に得点を書いて、次の日にまた名前を隠してもう一度同じ手順で採点し、2度の点数を記録しておいたり、スピーキングでも発表させたり、面接したりしてすべて得点化するなど、様々な機会に測定を繰り返すことによって安定性が得られる。

言語教育のテストは学習効果を狙うのが当然

教室で行うテストで必要なのは測定だけが目的なのではない。また何を学んだかを確かめるだけが目的ではない。生徒に復習する機会を与えることもテストの重要な目的である。採点した答案を返す、返却の際に答え合わせをして復習する、勉強の習慣をつけさせる。これらは客観的な得点を出すのと同じくらい、あるいはそれ以上に重要な目的であることも多い。テスト活動は教育活動と並行関係にあると述べた。当然のことながらテストに関する一連の活動に応じてその効果に関して様々な疑問がわく。生徒に勉強させるために予告はどうすればよいのか。テストを受けさせることは既習事項を定着させる契機となるのか、テストの返却は早いほどいいのか、自己採点をさせるとそれだけ学習効果は上がるのか、多肢選択形式と短文作成形式では学習効果に差があるのか、テストには学習への動機づけの効果があるのか。

これらはどれも重要な研究課題である。ところが期待して専門書を開いてもこれらの素朴な疑問に対する解答を見つけることはまれである。多くのテスト研究は客観的な測定値を得るにはどうすればよいかが最重要課題だからだ。しかし私たちが知りたいのは、どうすれば生徒たちの英語の習得を最も適切に促すことができるのか、そのためにテストはどのように使えばよいのか、そしてどうすれば狙った効果が得られるのかである。テストの多くは習得を促すどころか邪魔をしているのかもしれない。

現在のところ非常に限られた研究成果であるが、解答がないわけではない。例えばテストはすでに動機づけられた学習者をさらに動機づける契機とはなるが、やる気のない学習者をテストで動機づけるのは難しい、テストは生徒に習得したことよりもむしろ習得していないことに気づく契機となる、など条件付きだがある程度はわかっている。これらは教育上有意義な情報になる。それは実践的な意義だけでなく教員にも研究者にもさまざまな重要な課題となるはずだ。そしてこれらの疑問を解決するには私たち各自が自分の教室で目の前の生徒たちとのかかわりの中で確認するのが最適の研究方法である。

テストに診断の機能を持たせることが重要

教育活動と並行関係にある良いテストを作るためには、学習者と学習内容を熟知している必要があり、信頼性、妥当性も重要である。加えてテストという教育活動は生徒の到達度や実力を表すだけではなく教員の指導力をも表しているという視点を持つことも必要である。教える者は同時に学ぶ者でもあり、学ぶ者は教えることによって最も学ぶことができる。この観点からすると生徒にもっと自己評価や相互評価をする機会を与えてもよいだろう。客観的な測定値を出して成績をつけるための情報を得るためではない。相手や自分の言語行動を詳しく観察させる習慣をつけさせて言語習得の契機を与えるためである。教室内ではある学習者のアウトプットは他の学習者のインプットとなる。

さらに教員の作る言語テストは同時にまた教員の指導力を試す機会でもある。テストの専門研究では診断テストは最も作るのが難しいテストである。しかし定期テストのように目的が明示されていて、具体的な到達目標が明確であり、それを実現するためのシラバスが設定されているというのは、診断テストを行うには絶好の条件だと言ってよい。生徒が何を学んだのか、何を学んでいないのか、何ができて何ができないのか、これらを知ることはテストの大変大きな役割である。これがどこまでできているかは教員の指導力を表している。学習の診断としてのテストの役割を与える場合、英語力をもっと広く見る必要がある。それには学習方略、学習スタイルと勉強方法の適合性なども含めて診断し、英語力向上につなげられるような方策を練ることができればさらに有益である。

言語テストにおける情意的な要因の重要性

最近欧米で一般向けに書かれた心理学や教育関係の出版物に理性を機能させるための情(emotion)を強調している本が多い。第二言語習得でも John H. Schumann がThe Neurobiology of Affect in Language(1997)で Damasio(1994)のDescartes' Errorを援用しながらKrashen以来初めて外国語の習得における情意的側面の意義を体系的に扱っている。言語テストでも McNamara & RoeverがThe Language Testing: social dimension(2006)という本年度国際テスト学会賞受賞作品の中で、言語能力は個人の心理特性ではなく社会的な相互関係で形成されるものであると主張している。

言語テストの研究は個人の心理測定から、人と人のやり取りを観察しながら個人の言語能力を理解する方向に向かっている。教育学の分野では student-involved assessment for learningという言葉が使われることも多くなっている。これまでは、英語という言語の知識や技能が関心の対象であったし、これは今後も変わることはないだろう。しかし教育活動の一環としてのテストの役割を考えた場合、知情意のうち情的要素の役割が非常に重要であるにもかかわらず、あまり考慮されてこなかったように思われる。しかし情緒が教育に大切な役割を果たしているというのは私たち日本人にとっては大変馴染みのあるわかりやすい考え方だとも思うのである。英語教員にとって受験者を知るということは個人の学習者の言語能力だけを知るということではない。目の前にいるのは知識、理性のみならず好き嫌いといった感情とともに全人格をもった具体的な生徒である。今後、他者との相互関係で生きる生徒一人ひとりの英語力を理解するためのテストが、もっと真剣な研究と実践の対象となるに違いない。そしてこれは極めて健全な方向だと思う。

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