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英語教育エッセイ

国内外で活躍する英語教育業界関係者によるエッセイコーナー

教師のゆとりは生徒のために

2009年5月27日


栃木県小山市立旭小学校教諭
山中伸之
Yamanaka Nobuyuki


ヒマそうにしているから話しかけられる

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From "The English Teachers' Magazine" June 2009 Vol.58 No.3 (Taishukan)
ある日の昼休みのことです。

昇降口のそばに立って、子どもたちの姿を目で追っていたところに、転入してきて間もない5年生の女子が通りかかり、話しかけてきました。

「先生、どうしていつもヒマなの?」
「えぇ! ヒマじゃないよ!」
「そう? だっていつも休み時間ぼ~っと見てるだけじゃん」
「それはね、けがする子がいないかなとか、けんかする子がいないかなとか、見ているんだよ」
「へ~? 先生、絆創膏なんか持ってるように見えないよ」
「実はちゃんと持ってるよ。本当は保健の先生だ」
「うそ~。じゃあ、見せて」
「今は持ってない!」
「意味ないじゃん。やっぱりヒマなんだね」

別の日の昼休みのことです。

職員室前を歩いていると、6年生の男子が話しかけてきました。

「先生、この委員会の紙は何先生のところへ持っていけばいいか分かりますか?」
「えぇと……、これは委員会の担当の先生に聞かないと分からないんじゃないの?」
「やっぱりそうですか」
「聞けばいいじゃない。ほら、あそこにいるよ」
「聞きたいけど、何だかさっきから忙しそうにしてるんで聞きにくいんですよ」
「大丈夫だから聞いて来なさい」
「えぇ、まあ、また後で聞きます」

教師は子どもたちに忙しそうに見られてはいけません。ヒマそうにしているから、子どもたちは話しかけやすいのです。

ちょっと気になることやちょっと心配していることなど、チャンスがあったら先生に話そうと思っている子どもたちは意外に多いものです。その子たちが「先生に話してみようかな」と思ったときに、話しかけやすい状態にあるか話しかけにくい状態にあるかということは、子どもを理解し子どもとの人間関係を築き、場合によっては子どもの救援サインに気付いたりする上で、大きな違いをもたらすでしょう。

忙しそうにしていると同僚も話しかけにくい

実はこのことは教師と子どもとの関係に限ったことではありません。

私の勤務する県の教職員協議会が行った教職員へのアンケート調査の項目に、
○今後力をつけるための手段として、あなたが望むものは何ですか(複数回答可)
というものがありました。選択肢が5つあり、最も多かった回答が、
・総合教育センターなど、校外での研修に参加する
というもので、48.9%の教職員が選択しています。そして、これに次ぐのが、
・校内で他の教師から助言やアドバイスを仰いだり、意見交換を行ったりする
というもので、選択した教職員の割合は45.9%とこちらも高い数値になっています。

このことから、同僚や先輩や上司との会話を通して自分の力をつけたいと思っている教職員がかなりいるということが分かります。

ところが、現実にはそれは難しいのかもしれません。

例えば、次のような記事があります。
○「東京都教職員互助会などの調査では、先生が相談できる相手で最も多かったのは『家族・友人』で83.5%。『上司・同僚』は14.1%しかない。」(毎日新聞 2009年2月4日 東京朝刊)
また、次のような記事もあります。
○「東京都内の小学校の20代の新任女性教員は『周りの先生に相談したくても、忙しそうな姿をみると遠慮してしまう』と明かす。」(毎日新聞 2009年1月28日 東京朝刊)
これらのデータや記事から、同僚や上司に相談したいと思っていても、相手の忙しい姿を見るとつい尻込みしてしまう教職員の姿が浮かびあがってきます。それは結局、教職員の資質能力の向上を鈍らせ、ひいては子どもたちが向上的に変容していく機会を奪ってしまうでしょう。

事務処理を効率化して時間を生み出す

本当は忙しくてもヒマそうに見せることは、子どもたちや同僚のためにも大事なことです。

しかし、本当は忙しいのにヒマそうに見せることはなかなかできるものではありません。心にゆとりがなければそれは行動に表われます。つい足早になってしまったり、子どもたちへの応対もぞんざいになってしまったりすることでしょう。

ですから、できればヒマそうにするのではなく、教師が本当に時間にゆとりをもって子どもたちや同僚に応対できるようになれば、これに越したことはありません。学校の教育活動を精選し、教師がゆとりをもって子どもたちに向き合う時間を確保することができたら、どんなに素晴らしいことでしょう。

でも、実際にはそれは大変難しいということは誰もが分かっています。

どうすればよいのでしょうか。

答えは簡単です。一つ一つの仕事にかける時間を短くすればよいのです。仕事を効率化するのです。ただし、かける時間を短くする仕事は、子どもたちに直接対応する必要のない、主として事務的な仕事でなければなりません。子どもたちに直接対応する必要のある仕事の時間まで短縮してしまっては本末転倒です。

また、効率化するというのは手を抜くということではありません。時間を短くしても仕事の質を落としたのでは何もなりません。質は落とさずにかける時間を短縮する工夫や技が必要です。

このような考えにもとづき、昨年3月に『できる教師のすごい習慣』(学陽書房)という本を上梓し、仕事を効率化するちょっとした工夫を紹介しました。

お陰様でご好評をいただき版を重ねております。ということは、何とかして日々の仕事を効率化し、時間を生み出そうと考えている先生方が、現に多いということでもあるでしょう。

お読みくださった読者の方々からは「ハンドルに付箋紙を貼るというのはおもしろい」「早速、朝の打合せのメモを大きく書いています」など、概ね良好なご感想をいただいています。

仕事を効率化して生まれた時間に、子どもたちと話してみてください。話題がなければ、ただ子どもたちのそばにいてみてください。そばにいるのを煙たがられたら、遠くから子どもたちを眺めてみてください。

わずかな時間でも、1週間、1か月と続ければ非常に多くのことが見えてきます。子どもへの理解が深まり、子どもたちとの会話が始まり、場合によっては救援サインに気付くこともあるでしょう。それをきっかけにして同僚との会話が増え、悩みの共有や実践の交流が始まり、行き詰まっている教師を助けることにつながるかも知れません。

事務処理を効率化して時間を生み出し、物理的にも精神的にもゆとりをもつことは、これからの教師にとっては、むしろ積極的に取り組まなければならないことの一つになっていると言ってもいいのではないでしょうか。

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