インプットとアウトプットをいかにつなぐか
2009年1月31日
2009年1月31日
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門田修平 Kadota Shuhei はじめに![]() 「英語教育」2009年2月号(大修館) → 目次はこちら → 定期購読はこちら From "The English Teachers' Magazine" February 2009 Vol.57 No. 12 (Taishukan) 本稿では、まず大量かつ適切なレベルのインプットがあれば、第二言語習得は確実に生じるというインプット重視の考え方(input理論)について解説する。その上で、アウトプット(output)をプラスすることが、第二言語習得には不可欠であるという立場(output理論)について検討する。そうして、インプットとアウトプットを効果的につなぐタスクとして、シャドーイング(shadowing)・音読(oral reading)の重要性について検討し、これらのトレーニングがアウトプット(特にスピーキング)のどういった能力を支えるのかについて考察したい。 インプット、アウトプット活動と第二言語習得門田(2007)は、できるだけシンプルに、英語など外国語の学習・教育に関わる基本問題をまとめると、図1の2つの解決すべき課題に集約できるのではないかと指摘している。
課題(1)の言語インプットとは、学習システムに「入力される」言語資料をどうするかという、「教材」の量と質に関する問題で、これが、学習システムをうまく作動させるための大前提である。学習者の「レベルに合った」ものを「大量に」インプットする必要がある。また、課題(2)の学習システム(learning system)とは、学習者の誰もが心内に備えている一種の言語習得装置である。習得対象言語の発音・語彙・構文などの新情報を、知覚(perception)、理解(comprehension)し、記憶(storing)して、知識として内在化(internalization:定着)するための下位システム(subsystem)を含んでいると考えられる。 この図式をベースにして、これまで提案されてきたインプット理論、およびアウトプット理論を位置づけると概ね図2のようになる。
インプット理論については、既に1970年代に広まったWinitzによるOHRメソッド、Postvskyによる実践例などを総称した理解中心の考え方(comprehension approach)と、Asherによる全身反応法(TPR:total physical response approach)がパイオニア的存在である(Winitz, 1981)。前者は、スピーキング(発音)を課さないで、もっぱらリスニングを通じて、言語の発見的学習に従事させようとしたものである。これに対し、後者の TPR は、命令文を聞き取ると同時に、その意味内容を動作を通じて黙々と表現させる方法である。近年でも、京都外大の鈴木寿一氏を中心に、TPR 研究会が開かれ、教育現場にどう取り入れるかが検討されている。 こういったインプット重視の考え方をまとめて、Krashenは、有名な第二言語習得(SLA)理論を展開し、①習得・学習仮説、②モニター仮説、③自然な学習順序仮説、④情意フィルター仮説とともに、⑤インプット仮説(input hypothesis)をその中心に位置づけた。この仮説では、現在の学習者の学力レベルを仮に「i」とすると、学習者へのインプットは「i+1」という、それよりも若干上回るレベルのものが適切で、このような理解可能なインプット(comprehensible inputs)を提供することが第二言語習得のポイントであると考えた。このようなインプット重視の立場は、その後、言語インプットが、いかに取り込まれてインテイク(intake)されるかに着目し、習得の前提となるインプット処理原則(input processing principles)をまとめたVanPattern(2004)などに受け継がれている。 現在のインプット重視の最たるものは、多読(extensive reading)であろう。Day and Banford(1998)は、第二言語習得において、多読がいかに有効であるかを論じた。また、上記のインプット仮説を提唱した Krashenも、近年はもっぱら自由な自発的読書(FVR: free voluntary reading)の効用を、実証データを交えて報告している(Krashen 2004)。わが国でも、酒井・神田(2005)などがすすめる「100万語多読」では、①辞書は引かない、②分からないところは飛ばす、③つまらなくなったらやめる、という3原則を標榜し、積極的に英語学習に活用しようとしている。また、酒井(2008)は、多読による大量のインプットがあればもう辞書も文法も不要だとさえ述べている。さらに、多読のみならず、朗読音声および生音声の英語を大量に処理させる多聴(extensive listening)を標榜する雑誌も刊行されるようになった。これらはすべて、「大量かつ適切なレベルのインプットだけで、学習システムは十分に作動して、言語獲得が生じる」という立場をとるものである。 以上のインプット説に対し、アウトプット理論の提唱者であるSwain(1995)は、カナダのイマージョンプログラムにもとづいて、豊富なインプットがあっても、言語使用の十分な機会がなければ、言語理解という意味的操作(semantic use)能力は身についても、正確な文法的操作(syntactic use)能力にはつながらないと主張した。そしてこのアウトプット活動こそが、「スピーキングにおける自動性」(fluent automatic production)の獲得には不可欠であると述べている。白井(2008)は、アウトプット活動の意義として、Swainと同様に、①自動化が促進される、②自分の言語能力のどこに問題があるかに気づかせる、③ある表現が通じるかどうか検証できる、④アウトプットが自身に対するインプットになる、という4点を挙げている。④が果たして適切なインプットになるのかどうかは議論の余地があろう。また、①は、門田(2007)の言うシャドーイング・音読の効用と同じものである。このようなアウトプットタスクの例として、吉田・白井(2007)は、3行英文日記をつけることを、また村野井(2006)は、読んだり聞いたりした内容を要約する方法(summarizing)や、英文をメモを取りながら繰り返し聴く作業のあとで、元の英文を復元させる方法(dictogloss)などがあると指摘している。このようなアウトプット重視の考え方に立てば、「インプットだけでは学習システムは十分には作動せず、それをサポートするアウトプット活動をプラスして、初めて言語の形式面の獲得が生じる」ということになる。 しかしながらここで確認しておくべきことは、白井(2008:149)も指摘しているように、アウトプットそのものが言語能力の向上につながったという研究成果は、これまであまりないということである。十分なインプットなしにアウトプットばかりに重点を置いても、当然ながら効果は期待できない。 インプット活動とアウトプット活動をつなぐシャドーイング・音読筆者は先に、シャドーイングと音読のトレーニングには、音声および文字のインプット処理と、アウトプット(スピーキング)とをつなぐ役割が期待できるのではないかと述べた(門田、2008a)。シャドーイングは音声インプットにもとづいて、音読は文字インプットにもとづいて、それぞれどのような発音が含まれているかを知覚し(これを音声表象(phonetic representation)の形成と呼ぶ)、その後それを声に出す練習である。ともに、繰り返し練習することで、話しことばや書きことばの意味の理解に至る前段階の処理を、苦もなくできる(自動化)ようになる。そしてそのことが、声に出して復唱したり、心の中で復唱したりするプロセスを高速なものにし、その結果、英語の語彙・構文などを丸ごと記憶できるようになると主張している(門田、2007)。復唱という、アウトプットに関わる調音プロセスを鍛えることで、逆にリスニングやリーディングにおける音声表象形成を自動化し、語彙・構文などの学習事項の内在化をはかろうとする方法である。事実、シャドーイングが、学習者の調音スピードを速くし、この高速化が、語彙チャンクの定着に寄与することを示すデータもその後報告されている(三宅、2007)。シャドーイング・音読トレーニングが支えるスピーキング能力吉田・白井(2007)は、親の転勤などで英語圏に連れて行かれた子どもが、一定の沈黙期(silent period)のあと、周囲の驚きをよそに、流暢な英語で話し始める傾向があることを指摘している。この沈黙期には周りの発話の理解に終始するのではなく、実は聴取した入力音声を心の中で繰り返すという復唱が重要な意味を持っているのではないかと考察している。これは、言語獲得システムが音韻ループに存在するというBaddeley(2002)、門田(2007)などの主張と一致するものになっている。門田(2008b)は、第二言語におけるスピーキング(文産出)を可能にするメカニズムとして次の3つを仮定している。 (1)単語を素材に、文産出のための統語規則を適用した文構築(rule-governed sentence production) (2)構造的(統語的)プライミングにもとづく文構築(primed sentence production) (3)語彙チャンク(lexical chunks; 連鎖フォーミュラ、プレハブ表現、軸スキーマという言い方もある)をもとにした文構築(formulaic sentence production) 以上の中で、(1)は、Chomskyなど生成文法学者による主張のとおり、文法規則を駆使しながら、聞いたことのない新たな文を生成できる能力で、人の言語能力の創造性を示すものである。第二言語においてもそのような文産出を行う能力は必要であろう。しかしながら、文産出を可能にしてくれるのはそれだけではなく、実際のところは、会話において既出の構文が頭の中に残っていてそれを再度使用したり(上記(2))、頭の中に丸ごと蓄えている構文や語彙のまとまりを土台にして、文をつくることも多いのではないかと思われる。この(3)の文構築プロセスに、シャドーイング・音読トレーニングを繰り返して語彙チャンクや構文を丸ごと定着させる方法が効果的ではないかと考えられる。The thing [fact/point] is that...、That reminds me of the time when...、I think it important to do... のような決まり文句や、kick the bucket、rain cats and dogsなどのイディオムなどは、ちょうどプレハブ住宅を建てるときに、半ば組み立てられた建材をもとに家を建てるのと同じで、このほうが、話し手にとって、文構築の認知負荷を軽減させ、自身の話の中身に注意が集中できるようになる(門田、2008a)。 近年では、このような語彙チャンクが担う役割についても、第二言語習得の観点から検討が進められている。Schmitt(2004)は、英文のリーディングにおいて、特定の単語に対する眼球の停留(fixation)の回数が、このようなチャンク内に位置している場合、チャンクの外にある場合よりも、有意に少なくなることを確かめている。さらに、Schmitt(2004)は、英文を、一度に1語ずつパソコン画面に表示して、自身のペースで読ませる自己制御読み(self-paced reading)を用いた結果について、報告している。それによると、既に知っている語彙チャンク内に出現する語句は、未知のチャンク内の語句よりも、有意に処理時間が短いという結果を得た(419ms vs. 458ms)。語彙チャンクが、それ全体として丸ごと認識されている可能性を示唆する成果である。 しかしながら、語彙チャンクをもとに、アウトプット(スピーキング)能力を身につけられるようにするには、その内部構造に目を向ける必要がある(白井、2008)。次例は、Tiger Woods 選手が子どもの頃からゴルフクラブを握っていたという英文である。 When he was 18 month old, Tiger began going to the golf course with his dad. All day long he hit ball after ball on the driving range. day after day、year after year などのチャンクは学校でも既に習って知っているが、このような ball after ball はどうしても意味が把握できないという学習者がいた。語彙チャンクをもとに文産出を実行するには、その内部構造に着目し、どのような入れ替えが可能なのか認識しておくことが必須である。 おわりに現在の英語の学習・教育では、コミュニカティブ・アプローチが主流を成している。これは、従来型の文法訳読法に代わって、確かにコミュニケーション能力(communicative competence)を開発しようとするものである。しかし、学習者の側で、その理解・産出にある程度の自動性が確立されていなければ、教室内での練習では使えても教室外で実際に使える能力には結びつかない。この自動性を獲得するためには、繰り返し学習による、宣言的知識の手続き知識化(無意識化)を目指したドリルが不可欠である。ただし、従来のような書記言語をもとにした英文和訳のドリルではなく、素材は音声言語を中心としたものにすべきである。シャドーイング・音読を何度も繰り返し実行することで、そのインプット中の語彙や構文に幾度となく遭遇し、外的復唱を行うことになる。そうすることにより、インプット処理を、スピーキングなどアウトプットに転化するための準備状態が整うのではないかと考えられる。今後のさらなる研究・実践に期待したい。◆引用文献
Baddeley, A. D.(2002)Is working memory still working? European Psychologist 7: 85-97. (関西学院大学教授) |
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「英語教育」2009年2月号 |
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