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英語教育エッセイ

国内外で活躍する英語教育業界関係者によるエッセイコーナー

私の理想の「英語教室」
— 教科専用教室のすすめ

2008年11月30日


関西大学教授
田尻悟郎
Tajiri Goro


英語教室が必要な授業と不要な授業

英語教育の最新版
「英語教育」2008年12月号(大修館)
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From "The English Teachers' Magazine" December 2008 Vol. 57 No. 10 (Taishukan)
音楽は音楽室、美術は美術室、体育は校庭と体育館、技術は技術室、家庭科は調理室と被服室。これらはどの学校にもある教室である。上記の教科と同じ「技能科目」である英語には、なぜ英語教室がないのだろう。

語学は、以下の4つの段階を経て進んでいく。
CategoryA : 意味・構造理解
CategoryB : 暗記
CategoryC : 入れ替え
CategoryD :
初めて聞くこと/読むことを理解する、頭の中の言葉を言う/書く
教科書に出てくるキーセンテンスを解説したり、本文を和訳したり構造分析したりする授業は、Category Aに属する。

Bの活動としては、音読や筆写が挙げられる。Cの活動は、パターンプラクティスや重要表現を応用したゲームなどがある。Dの活動は、メールや手紙で外国の人とやり取りをしたり、ALTと1対1で会話をしたり、ノートを通してALTと意見交換したりすることなどである。

入試はCategory Dである。初めて聞く英文を理解し、初めて読む長文を理解し、自分の考えを英文で表すことを要求されるからである。我々は、生徒がCategory Dの活動ができるようになることを目指して授業をしているのであるが、残念ながら、私が知る限り我が国の英語教育では、Category Aに最も多くの時間が割かれている。Category Aの活動にも、生徒が英語を使ううちに気がついたことをまとめ、生徒同士でそれをシェアしたり比較したりすることで知的な学習をするチャンスはある。しかし、教師がそれを奪い、まだ一度も使ったことがない英語表現を黒板にまとめ、写させるだけの、教師主導のCategory Aの活動が中心となれば、生徒は静かに板書を写すだけの、頭を使わない活動をするだけである。このような授業では、普通教室でこと足りる。

英語学習では、Category B、Cの活動をたくさん行い、Category Dの活動で到達度を確認し、正しく理解していなければCategory Aに戻り、練習不足であればCategory BやCに戻る、という手順が必要である。語学は、Category A~Dがバランスよく行われてこそ、成果が上がる。

そのような授業では、口頭練習もたくさん行われる。音読などでは、生徒の声は合唱練習に匹敵するぐらい大きくなり、インタビュー活動でも大きな声が出る。視聴覚教材を駆使した授業では、音が教室から漏れるときもある。また、私はよくALTが来ると個別インタビューテストを行ったが、待っている生徒は一生懸命練習をしているので、教室が生徒の声で溢れた。個別ドリルでも、ペア学習でも、グループ活動でも、夢中になった生徒の声は大きなノイズを作り出す。そうなると、隣近所の教室には大きな迷惑がかかる。特に、道徳や国語の授業をしている先生には、とても迷惑がられる。

かくして、生徒が英語力を伸ばす授業では、音楽室のような防音効果のある部屋が必要になってくる。つまり、英語教室は、従来のインプット一辺倒の授業から、生徒が考え、トレーニングをし、その成果を検証する授業に変わったときに必需品となる。英語教室は、力がつく英語授業のシンボルたる存在なのだ。

英語教室を持つことのメリット

1)教材・教具を置いておくことができる
英語授業の成否のカギを握っているのは、fast learnersである。英語は個別指導をしてこそ学力が伸びるが、教師が全ての生徒を一人ずつ指導することは困難である。そのとき、fast learnersが先生役をして友だちに教えてくれる状況が生まれれば、多くの生徒を救うことができる。

教え合い活動が充実するためには、教師がfast learnersの信頼を得ておかなければならない。そのためには、伸長感、達成感、満足感を味わえる授業を行い、活動を早く終える生徒用に、よりレベルが高くて面白い教材を用意しておくことが肝要である。英語教室があれば、棚や引き出しにそういう教材を常備しておくことができる。

授業は、individual work、pair work、group work、the whole class workがあるが、全体活動以外は個人差、ペア差、グループ差が生まれる。それらに対応するために複数の教材を用意しておくことは、「習熟度別授業」に他ならない。

また、プリント類を多めに印刷しておき、英語教室にストックしておくと、授業中にプリントが足りなくなって教師が職員室に走ったり、生徒を職員室に行かせることを避けられる。生徒を職員室に送ると、そこにいる誰かが自分のやっていることを一旦打ち切ってその生徒に対応しなければならない。それは、職員の和を乱しかねない。

2)機器類を固定化できる
授業で使用するDVDプレーヤー、テレビ/モニター、CDプレーヤー、実物投影機などは、確保や持ち運びが大変である。そこで、予算申請をして少しずつ機器をそろえ、英語教室に据え付けるととても便利である。

私はさらにそこに自分のパソコンを持ち込み、授業中に生徒の反応を見たり、生徒に意見を聞くなどして、その場でプリントを作り替えていた。また、時にはカラープリンタで必要なものを印刷してやることもあった。生徒はパソコン画面上で自分の点数を確認することもでき、現時点での立ち位置を知ることが英語学習に対する大きな動機付けにもなった。

3)英語の掲示物を充実させることができる
一口に英語の掲示物と言っても、いろいろなものがある。例えば、語順一覧表。英語学習における一番大切なものの1つに、英語の語順を知ることがある。しかし、一朝一夕に英語の語順を覚えられるはずはなく、反復して見たり、使ったりすることが必要である。英語教室があれば、壁一面を使って語順表などを掲示することができる(本誌2005年10月増刊号参照)。

次に、代名詞表。代名詞は、中学1年で導入するが、果たしてどれぐらいの生徒がマスターしているのだろうと考えると、いささか心許ない。代名詞の学習では、主格の人称と単複、それに続くbe動詞などの学習に加え、主格、所有格、目的格、所有代名詞、再帰代名詞などの形がある。これは習得までにかなり時間がかかるものであり、3年かけてマスターさせるという長期的展望が必要であるが、意外に見落とされている点である。代名詞表を教室に掲示し、常に参照できるようにしておく必要があるのではないだろうか。

3つ目が、フォニックスの表。ch、ph、sh、th、tch、dge、ng、ai、au、ar、areなど、生徒にとって読むのが難しいものを教室に掲示しておくと、単語の読み方を確認するときに使える。イラストがついていると、さらに明るい雰囲気を作り出す。

語順一覧表、主格代名詞+be 動詞の一覧表、主格代名詞+do/doesの一覧表、フォニックス特殊編の一覧表は、私の生徒が教え合い学習をするときによく使っていた掲示物ベスト3である。fast learnersはよくslow learnersにこれらの表を指さしながら教えていたし、表の前に友だちを連れて行って英作文のしかたなどをマンツーマンで教える生徒もいた。このような光景を見ると、生徒同士の学び合いに英語教室の掲示物がいかに大きな役割を果たすかを確認できる。

次に挙げるのは、これが最も一般的な掲示物のイメージであろうが、バーチャルな英語の世界を作り出すもの、例えば外国の写真や地図、ポスターなどである。オーストラリアの地図には、南北が逆になっているものもあり、現地ではDown Underではないことを感じさせる。

また、ハロウィーンやクリスマスの掲示物も、生徒の心を躍らせる。毎年おもちゃ屋などで買い足してきたものや、手先の器用なALTが作ってくれたオーナメントは、今でも重宝している。特にALTたちが作るものは、彼らの国や地域の特徴が見えて興味深い。

4)昼休憩や放課後の学びの場となる
放課後や休憩時間に、授業中に終わらなかった学習の続きをやりに英語教室に来る生徒は少なくない。特にfast learnerがslow learnerを連れてくるケースが目立つ。これは、授業中に fast learnerが教えるうちに、だんだんslow learnerが理解し始め、その日のうちに続きをやってしまいたいと思うからであろう。

また、ALTとのインタビューテストに合格せず、昼休みや放課後にALTに頼み込んで英語教室で再テストしてもらう生徒がよくいた。おかげでALTは常に大忙しだったが、生徒と信頼関係ができていくので、慣れない異国の生活でも「自分を必要としてくれる人間がいる」という喜びと、「仕事をしている」という充実感を味わっていた。Category B~Dの活動では、ALTがいると分担して生徒の面倒を見ることができるので、大いに助かる。

5)昼休憩に映画や音楽鑑賞ができる
英語教室にはCDやDVDをストックしておくことができる。生徒はそれらを聞きたいし、見たいので、昼休みに集まってくる。約束事は2つ。ちゃんと片付けをすること。勉強している生徒のじゃまにならないこと。

あるとき、転勤したばかりの学校の英語教室で、CDが1枚見えなくなった。前年度まで様々な問題があったようで、カギをかけてある特別教室がいくつかあったが、私は敢えて英語教室には施錠しなかった。全校集会で、CDが1枚見あたらないので、心当たりのある人は教えてほしいという旨のお願いをしたところ、集会後に私のところに集まってきた3年生の女子生徒たちが、「先生もカギをしたら」と言った。私は、「そんなことしたら、みんな入りにくくなるでしょ。英語教室でリラックスしたい子はたくさんいるじゃない。もしあのCDが盗まれたとしたら、それは私が信頼されていないということ。カギをかけていなくても何もなくならないようになるために、誠実に働くからね」と答えたところ、彼女たちは「じゃあ、うちらが見張っとく」と言った。そんなことしなくていいよと答えたので、実際彼女たちが監視している姿は見なかったが、おそらく彼女たちは私を試したのであろう。そのCDは戻ってこなかったが、幸いそれからは何も紛失しなかった。

英語教室があると、昼休みなどに生徒と話をする機会が増え、彼らの考えを知るチャンスとなる。
英語教室に入る前に
その壱  忘れ物がないかチェックすべし

必要なものは持ったか確認。教室に忘れていたら、すぐに取りに帰るべし。

家に忘れてしまったら、田尻に英語で報告してから、忘れ物記録簿に何を忘れてしまったかを記入すべし。忘れ物が十個になったら、その次から家に取りに帰らされると覚悟すべし。

他のクラスの友だちに借りるべからず。

宿題を忘れたら、放課後英語教室に来て、その日にすませてしまうべし。いずれにしても最後までやらせられるので、あきらめてなるべく早いうちにやってしまうべし。

その弐  気合いを入れて入るべし

勉強は君たちの仕事。今この瞬間も、保護者は君たちを食べさせるために働いている。自分の買いたいものを我慢し、子どもに飯を食わせ、服など必要なものを買ってやり、小遣いを与える。その親が君たちに期待しているのは、「幸せな人生を送ってほしい」ということ。楽をして幸せになることなどない。努力すべし。英語教室は修行の場。自らを鍛える場である。「楽あれば苦あり」と「苦あれば楽あり」では、どっちがいいか?

英語の力は集中力を持続できる力、つまり持久力で決まる。気が抜けているとけがをするので注意すべし。服装を正し、深呼吸をして、気合いを入れて入るべし。
英語教室入り口の言葉

英語教室の確保のしかた

1998年から3年間勤務した中学校は全校生が1000人を超える大規模校であったため、教室数も多く、私は授業のたびに授業で使う物を入れたスーツケースを引っ張って教室間を移動していた。テレビもビデオも教室据え付け型ではなく、私の身長より高いキャスター付きのテレビ台を運ぶのは重労働で、4棟あった校舎の間を移動するときは特に大変であった。最初の2年間は我慢したが、3年目に1学級減になったので、4階の一番端にあった空き教室を使わせてもらうことになった。それからというもの、英語教室があることがいかに素晴らしいかを実感する毎日だった。

その次の中学校は、全校50名ほどの国准僻地小規模校。教員数も少なく、家庭科は非常勤講師の先生が週に1日来るだけであり、被服室がほとんど未使用状態だった。被服室を使うのは年に数回と聞いたので、頼み込んで裁縫の授業がある時以外は、英語教室として使わせていただくように手配した。

最近は少子化などの影響で、空き教室を持つ学校が増えてきた。せっかく空いている部屋があるのであれば、英語教室を作るチャンスである。ただし、場所は音楽室の隣が理想であり、普通教室の中にあると、生徒の音読の声や音楽などで他クラスに迷惑がかかる。

最後に勤務した中学校は、宅地造成地域が多く人口が増えており、教室が足りなくなっていた。しかし、どうしても英語教室がほしい。その頃はもはや英語教室なしで授業をするなど考えられなくなっていたので、作戦を練った。

〈ステップ1〉 授業で生徒の音読を軌道に乗せ、近隣の教室で授業する先生に嫌がられる。

〈ステップ2〉 他教科の先生にどんどん授業を見に来てもらい、生徒たちの音読の声は合唱の音量に匹敵することを実感してもらう。

〈ステップ3〉 職員会で英語教室が必要な理由を説明する。

〈ステップ4〉 ここまでの時点で英語教室を確保できれば幸運だが、そうではない場合、クラスを2つに分けて2教室を使ってやる習熟度別授業より、1つの教室でティームティーチングをするほうがメリットが多く、成果が上がることを理由を添えて力説し、空いた教室をいただくという作戦がある。

(1)習熟度別授業で教室が複数ある場合、担当教員は休みにくい。一方の先生が授業をし、自分は年休を取るということは気が引けるし、生徒が平等に教育を受けられないことにもなる。これは、小さな子どもさんを持つ女性の先生にはディレンマとなる。

(2)最初から最後まで2教室に分けていると、お互いの学習の成果が見えにくい。定期的に原学級に戻し、お互いどれぐらい伸びているかを実感させ、ライバル心をあおるという機会を持つ必要がある。ならば無理して2教室に分けることはないではないか。それは1つの教室でもできる。個別学習の際は2人の先生が役割分担をし、生徒にどちらのコースに行くか選ばせればよい。

(3)教え合い・学び合いで生徒は伸びる。fast learnersは合格した喜びを友だちにも味わってほしくて、友だちを助け始める。その中には slow learnersも多い。教えるうちに理解が深まり、分からないことは何度でも聞き返すことができるのが教え合い・学び合い学習の利点。これは、学力にdiversityがあるときに生まれやすい。

(4)私がアメリカで見た習熟度別コースは、教師と親子が相談して決めていた。自分の子どもは理解が遅いので、無理して分からないままで卒業させたくないので、1年多くかかってもいいからちゃんと知っておくべきことをマスターしてから卒業させたいという親がいれば、飛び級を希望する親子もいた。つまり、全員が同じことを習得して卒業するが、その年数に差があってもよいというのが習熟度別学習の理念だった。日本の場合、格差を生み出していないか。

(5)全員がこれはできるようになってほしいという最低ラインは必要。それをクリアした生徒が暇をもてあまさないように、2つ目、3つ目の教材を用意しておけば、全員が共通到達ラインを超え、さらにトップ層が突き抜けていく可能性がある。これぞ、習熟度別ではなかろうか。それは、1つの教室でできる。

読み返してみて、何という詭弁だと思うが、実際これで英語教室をゲットした。皆さんも試されてはどうだろうか。

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