教師を動機づける講習を志向して
—教員免許更新制の予備講習報告 神奈川大学
2008年10月31日
2008年10月31日
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神奈川大学外国語学部教授 高橋一幸 Takahashi Kazuyuki なんで突然に…!?![]() 「英語教育」2008年11月号(大修館) → 目次はこちら → 定期購読はこちら From "The English Teachers' Magazine" November 2008 Vol. 57 No. 9 (Taishukan) 記録的猛暑の8月早々の3日間、朝から夕方まで計18時間、神奈川大学で試行実施した教員免許状更新講習(教科指導の充実)を受講してくださったA先生からいただいた礼状の冒頭部分である。さもありなん。法律には施行以前にさかのぼって「不利益(?)」を及ぼさないという「不遡及の原則」があるはずなのに、突然決まって即実行。「なんで私が…」と思って当然、多くの教員が抱いた偽らざる心境であろう。 校種にかかわらず授業で一番大切なことは、児童、生徒を学習に動機づけること。その前提は、指導する教師自身が授業に動機づけられていることである。「どうすれば、現職の先生方を授業に対して動機づける一助となる講習ができるだろうか…?」実施に当たり、同僚の久保野雅史准教授とともに考えたのはこのことだった。 講習の目的講習の対象は現職の中高の先生方。教えることのプロである。しかも、経験30年のベテラン教員も多数おられる。講師からの一方的な理論の紹介や技術の伝達のみ(assimilate)の、現場に還元できない研修では先生方の不興を買うのは5年間の英語教員悉皆研修の経験からも明らかである。新たな知識を自己の既存の知識や経験と結びつけ、自ら咀嚼しそれを再構成したときに、初めて真の学びが起こり、知識が生きた技能として内在化(accommodate)される(Roberts 1998)。実践から理論を吟味し、理論を踏まえて実践を科学する、そんな講習会をめざした。テーマは「新学習指導要領をふまえたコミュニケーション能力育成のための授業設計と指導」、定員は40名で先着順。北は北海道、南は九州からも参加いただいた。以下、要項のイントロである。 「本講習では、新学習指導要領の趣旨もふまえて、4技能のコミュニケーション能力を育成する授業および評価方法改善の具体的視点を受講者に提供するとともに、グループ討議等を通して自己の指導を内省し、模擬授業演習(マイクロ・ティーチング:MT)を通して実践力を高めることを目的に、講義・討議・演習を実施します。せっかくの夏休み、受け身の研修でなく、受講者の主体的な参加を求め、参加者全員でともに学び、ともに創る講習会にしたいと考えています。」 試行講習プログラム〈1日目:8月4日(月)〉 1.開講式とオリエンテーション(8 :50〜10 :20)[担当講師:高橋、久保野]講師の自己紹介とアシスタントを含むスタッフの紹介、講習の概要説明、中高別グループ分け、受講者の自己紹介、個人目標設定などを話し合う。また、受講者に事前に郵送で連絡した3日目の MT のテキストについて補足説明する。 2.「生徒の学力の現状と授業改善の指針:新指導要領の趣旨をふまえて」(10 :30〜12 :00)[高橋] 文科省全国学力調査(教育課程実施状況調査)とスピーキングテスト(特定の課題に関する調査)の結果分析を基に、生徒の学力の現状を分析し、授業の問題点と改善の方向を模索するとともに、新学習指導要領改訂のポイントを整理する。 3.「授業改善の方法:アクション・リサーチのすすめ方」(13 :00〜14 :30)[高橋] 実践しながら授業改善を図る「アクション・リサーチ」の理念と方法を解説するとともに、講義2.での問題提起もふまえて、「問題点の特定→仮説の設定→実践→効果の検証と内省」(reflective cycle)の手順を具体的事例に沿って検討する。参加者は個々の授業改善のポイントを考え、グループで情報を共有する。 4.「コミュニケーションに資する文法指導:教師のための文法理解」(14 :40〜16 :10)[久保野] 新指導要領でも指摘されているように、文法指導とコミュニケーション重視の指導は二律背反するものではない。文法用語の記憶と問題演習に終始することなく、コミュニケーションに生きて働く文法指導のあり方について、具体的な文法事項を取り上げて参加者とともに考える。また、教師として座右に置きたい文法書も紹介したい。 5.まとめと諸連絡(16 :10〜16 :30) 第1日目の研修(講義やグループ討議)を通じて感じたこと、気づいたこと、疑問に思ったことなどを自己の授業実践に重ね合わせてふり返り、「ポートフォリオ」にまとめて提出する(翌日、講師がコメントを書いて返却)。また、2日目以降の課題を連絡する。 〈2日目:8月5日(火)〉 6.「コミュニケーション活動再検討:活動設計と指導上の留意事項」(8 :50〜10 :20)[高橋]現在、中高の教室で実施されている「言語活動」を質的に分析し、その問題点を抽出するとともに、生徒のコミュニケーションへの積極的態度と実践的な能力を養うための活動の設計について、具体的実践例の紹介も含めて考える。 7.「教科書の創造的活用法:導入、音読・暗唱からプレゼンテーションまで」(10 :30〜12 :00) 教科書本文は、日本語に訳すためだけの題材にあらず。英文を「理解」するとはどういうことなのか、その意味を考える。指導法としては、生徒の主体的な気づきを促す導入法、段階的な音読練習から、最終的には自分のことばで内容を再生し人前でプレゼンテーションできるまでの、基礎・基本をふまえ、創造的活用へと導く指導過程を例示する。 8.「望ましいテスティング:指導と評価の一体化をめざして」(13 :00〜14 :30)[久保野] 指導が変わればそれを評価するテストも変わる。テストを変えればその前提となる指導が変わる可能性も大である。生徒の学習意欲を高め、授業への積極的参加を促す波及効果のある出題、生徒の知識・技能を正しく測る出題とは? 講師が作成した中高の定期考査問題の実例も示し、具体的に検討する。 9.「グループによるMT準備Ⅰ」(14 :40〜16 :10)[中:高橋、高:久保野] 中・高のグループ別に2教室に分かれて、3日目のMTの教材研究、指導案作成等の準備を行い、必要に応じて講師が助言する。各自が事前に準備したアイデアを持ち寄り、意見交換して1つの指導案にまとめ上げる過程で多くの気づきや学びが生まれることを期待したい。 10.まとめと諸連絡(16 :10〜16 :30) 2日目の研修をふり返り、「ポートフォリオ」にまとめ、最終日への課題を確認する。 〈3日目:8月6日(水)〉 11.「小学校外国語活動と中学英語教育:学校英語教育の今後を考える」(8 :50〜10 :20)[高橋]次期教育課程では、小学校高学年に週1時間(年間35時間)の「外国語活動」が総合学習から独立した1つの領域として必修化される。初日の講義2.で解説した中学校新指導要領も小学校外国語活動を前提としており、今後、中学校英語教員は小学校の動向を把握しておかねば効果的な指導を行うことはできず、このことは高校英語教員にとっても無縁なことではない。本講義では小学校「外国語活動」の現状と今後の方向を展望する。 12.「グループによるMT準備Ⅱ」(10 :30〜12 :00)[中:高橋、高:久保野] 午後のグループ別MTの確認やリハーサルを含む最終準備を行い、必要に応じて講師が助言する。 13.14.「グループによる MT 実施と授業分析・協議」(13 :00〜16 :10)[中:高橋、高:久保野] 各グループ25分間の MT を実施し、授業について良かった点や更なる改善点を話し合う。 15.まとめと閉講式(16 :10〜16 :30) 3日目の研修をふり返るとともに、MTの個人分析レポート、および最終レポート「研修を終えての自己の授業のふり返りと9月以降の授業改善への指針」の内容と提出方法について連絡する。学長からの受講者へのねぎらいの挨拶に続き、文科省指定の受講者アンケートも実施した。 なお、合否評価については、文科省から客観テスト実施が望ましいとの示唆があったが、我々はMTの授業設計への寄与と演習における個人の指導力、事後の授業分析と内省能力、また、研修中毎日書いていただいたポートフォリオ、および最終レポートでの自己の授業のふり返りと今後の授業改善への具体的指針などを質的に評価した。 受講者の反応と本制度の課題次に示すのは、中学校のB先生の最終レポートでのこれまでの授業実践のふり返りである。「単元の指導計画を立てずに授業を組んでいた。また、学習後の生徒の姿を描くことができないままに、生徒の学びを支えることよりも、その時々の思いつきで活動を組み入れて授業を構成してきた。生徒から"わからない"と言われることを恐れるあまり、基礎的な学習事項の定着に着目するだけで、生徒の可能性の芽をつぶしていたのではないか。(中略)"英語で表現しよう! 英語を使おう!"と言うばかりで、授業で自分自身がどれだけ英語を使ってきただろうか…。」研修で得た新たな視点を加えて自分の実践を客観的に見つめ直しておられる。 B先生の9月以降の授業改善への指針(具体的仮説は省略)は、(1)「単元の指導計画を考え、先の見通しを持って授業構想を練る。」(2)「インプットからアウトプットへ向かう学習活動を工夫する。」(3)「生徒対生徒の学習活動を意識的に取り入れ、集団で学び合う力を養う。」(4)「生徒の運用能力を高めるために自分自身ができるだけ多く英語を使う」ことの4つである。自己の授業を客観的に分析、内省できる教師(reflective practitioner)には行く手が拓け、今後の授業改善への指針が具体的に見えてくる。 「私にとって3日間の講習内容は新鮮で、目からウロコでした。大上段に語られるものでなかったため、構えることなく、へそ曲がりな私も素直に自分を見つめるいい機会を持つことができました。生徒の変容あってこその授業。私は大変容を遂げました。夏休みの間に小変容になってしまいそうですが、気づいたことを大切に授業していきたいと思います。」冒頭に紹介した自分の生まれ年を呪ったA先生の礼状の続きである。当事者である教師にとって突如始まった免許更新講習だが、「不利益」でなく「益」をもたらしたなら、受講者・講師双方に汗を流した甲斐があった。 さて、来年度から正式スタートする免許状更新講習、今年はそのモデル的なプログラム開発を集めるべく、文科省の求めに応じて試行実施に応募し認可された大学等、全国101機関で実施されている。しかし、年間対象者数は、管理職や主幹教諭、指導主事などの免除対象者を除き、神奈川県だけでも3,000人を越える(県教委の試算)。県内で今年度試行するのは横浜国大と、神奈川大を含む私立大学5校の計6校のみだ。マスコミ報道によると、全国での対象者は毎年およそ10万人という。従来からの教員研修を担い続ける教育委員会には、新たな講習を実施する物理的余力はないようだ。ことは教員の身分に関わること、果たして毎年すべての対象教員を受け入れられるのだろうか? 数百人収容の大教室で講師がマイクを通して講義する、形だけの講習にはなってほしくない。思いつきでなく、先の見通しを持って導入された制度であることを願うばかりである。 ◆参考文献 Roberts, J. (1998) Language Teacher Education. London: Arnold. |
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「英語教育」2008年11月号 |
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