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英語教育エッセイ

国内外で活躍する英語教育業界関係者によるエッセイコーナー

英語学習におけるトレーニングの重要性

2008年9月30日


英語教育の最新版
「英語教育」2008年10月号(大修館)
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From "The English Teachers' Magazine" October 2008 Vol. 57 No. 7 (Taishukan)
広島修道大学教授
山田雄一郎
Yamada Yuichiro


人は、自分の母語については無意識にこれに対処する。誰もそれをどのようにして身に付けたかを説明できない。母語は、人から教わるものではない。音韻規則も構文規則も、一つひとつの単語の使い方や組み合わせも、全て自ら発見するのだ。

比べて、第二の言語の場合はどうだろうか。母語と同じようにとはいかないまでも、母語に次ぐ環境に置かれ、いつのまにか2つめの言語を習得する子どもたちもいる。もちろん、それがその社会の通用言語であることが前提だ。

では、自分たちの社会で用いられていない言語を学ぶ場合はどうだろうか。言うまでもなく、われわれの英語学習はこれにあたる。そしてそれが簡単な作業でないことは、たいていの人が経験を通して知っている。

言語能力の獲得と維持

かつて拙著『英語力とは何か』(大修館書店、2006)で、平均的な日本人が上級レベルの英語力を獲得するには、毎日5時間、週あたり30時間の勉強を44週続けなければならないという話を紹介した。それも、専門的な指導者、テキスト、指導法、学習意欲などの条件がそろってのことである。

もちろん、これを学校での英語教育と比べるつもりはない。ただ、この話は示唆的である。その内容が学校英語教育の限界を示していることは明らかだが、同時にそれは、学校英語教育のあるべき姿について考える手がかりにもなっている。

もう3年も前のことである。ダラム大学(イギリス)のM.バイラム教授がある講演で、「学校だけで全てがまかなえるわけではない」という主旨のことを述べられた。言語学習は、教室で教師と生徒が向き合う時間だけでは完結しない、社会の後押しがなければならない、という意味だ。

当然ながら、日本にはその環境がない。それでも近頃は、「日本人の英語力云々」と国民総動員的な議論が喧しい。バイラム教授は、日本人全体に期待できる英語力は、ヨーロッパの共通参照枠(CEFR)にあてはめてA2くらいと予想した。A2とは、「ごく身近な事柄についての文章や使用頻度の高い表現であれば理解できる」程度の力である。世界と渡り合うには、いささか心許ない能力である。これが、日本との比較で取り上げられたデンマークの場合だとC1、つまり「かなり複雑な話題について、自分の意見を言葉に詰まることなく述べることができる」ようになるとも言われた。

この話を聞いて、「A2で十分だ、どうしていけないのだ」といぶかる読者もいるかもしれない。しかし、よく考えてほしい。仮にわれわれが必死の努力でA2レベルの英語力を手に入れたとしても、使う機会がなければそれを維持することができない。言語能力は相手の存在、すなわち環境によって保証されるもので、それを欠いては獲得も維持も難しいのだ。

学校でできることは何か?

教室はあくまで人工的な英語環境にすぎない。教室を一歩離れた外の世界には、その人工的な環境すらない。巷には「英語らしき物体」が散在してはいるが、ちょいと捕まえて「英語です」と差し出せるような代物ではない。

もう1つ、平均的な学習者が、学校教育の3年や5年で「英語ペラペラ」になることは決してない。言語の学習は、そのような半端な時間をはるかに超える長丁場なのだ。だから、たいていの学習者は、学べど進歩の見えぬ学習高原のただ中で道を失い意欲をなくし、やがては撤退する羽目に陥る。

さて、ここまで述べたことを前提にすれば、教師も学習者もおよそ次のような覚悟を持って事に当たる必要がある。

(1) 英語の習得には、膨大な時間がかかる。
(2) 学習者は、その時間を意欲と努力でつながなければならない。
(3) 日本の社会が英語を必要としない以上、英語を使う環境は学習者自身が作り出さなければならない。

このように考えたとき、われわれ英語教師には何ができるだろうか。教師は、何をし、何をすべきでないのか。教師一人ひとりの立場や言語観が違う以上、一様の答えを期待することはできない。私の場合だと、次の点を心に置いて教壇に立つだろう。

(1) 学校英語教育は本質的に基礎教育であり、テスト中心主義や会話学校のまねごとになってはいけない。
(2) 基礎教育では、発音・語彙・構文法などをていねいに指導し、その定着を図り、もって将来の英語学習の土台を作ることを目指す。
(3) 指導は、常に学習者の発見を促すよう配慮する。
(4) 学習の定着は、暗記ではなく、トレーニングによってもたらされる。

いずれも目新しいものではない。基本に返ろうと言っているだけだ。しかし、現在の英語教育では、その基本の訓練がうまくできていないのではないか。

例えば、中学校の検定教科書では繰り返しと応用練習が意外なほど少ない。各レッスンは、新しい文法項目の導入で忙しく、既習の項目が何度も取り上げられることはない。しかも会話教材が多いから、同じページですら同一構文の繰り返しは少なくなる。

結果、教師は忙しい。時間内で所定の教材を理解させて一通りの練習をさせたかと思えば、次の時間にはまったく別の文法項目が現れる。発音や読み書きをていねいに指導する余裕は、まずない。学習者にしてみれば、毎時間完結を求められているようなものだから、定着どころか理解すら不十分なまま次のレッスンを迎えることにもなりかねない。教室という場所で何ができるか、何をすべきか。教師の覚悟と方針は、ますます重要になってくる。

トレーニングの重要性

トレーニング(なかでもドリル、すなわち反復練習)は、言語学習の基本である。言語は、発音、語彙、構文法のルールを理解した上で、個々の項目について何度も繰り返して練習しなければならない。同じ単語を書き、発音し、辞書を引き、テキストを読み、聞いたものを書き取るといった地道な作業をのべつ繰り返す必要がある。

もちろん、教師はそのようなことはよく承知している。学習者も、たいていは感づいているはずだ。ただ、どんな練習をどこまで続ければよいのかとなると、誰も正確な答えを知らない。そして、それが迷路への一歩となる。なぜか。それは、誰でも手早く成果を手に入れたいからだ。目標ははっきりしている。その善し悪しは問わない。曰く、入試に合格したい、会話ができるようになりたいと。

このように、目標がはっきりしているがそれに至る道筋が見えない場合、手段は直接的、短絡的になりやすい。「出る単」式の勉強や受験問題集を「解く」ことに精を出すのがそれだ。会話本を片手に定型表現を覚えるのもその1つだ。それでは心許ないと会話学校に行き、さらに高じてアメリカやイギリスへ語学留学に出かけるのも同類だ。どれも、迷路の出口を探して懸命なのだ。

ただし、目的と手段を混同したこのような方法が功を奏することは少ない。それは、手段の短絡性と関係がある。この項の最初に述べた通り、言語の学習はドリルによって支えられる。そして、目的あるいは結果に直接結ぼうとする上述の方法は、残念ながらトレーニング、とくにドリル型訓練の軽視につながりやすい。それは、このような手段に頼ろうとする学習者の多くが、即効的な方法として「暗記」を選ぶからである。

暗記はドリルの対極にある。ドリルは理解を前提とした反復練習である。暗記は反復練習ではない。一度で覚えてしまうのが理想である。一度では無理でも、できるだけ早く呑み込んでしまうのが暗記上手というものだ。ドリルは結果に至る無数の過程をつなぐ作業である。暗記は結果に直接手を伸ばし、あわよくばすぐにもそれをもぎ取ろうとするものだ。だから、過程に手間暇かけるのを嫌う。

このあたりまで来ると、英語は覚えなければどうにもならないではないか、という反論が現れても不思議ではない。単語は覚えるしかない、英語は覚えて使うのが一番だというのは、その通りである。問題は、どうやって覚えるかである。

結論を言おう。覚えるのは結果であればよい。優先されるべきは、4技能を中心にした反復練習である。ルールを理解した上で十分に訓練すれば、記憶は結果として生まれる。それは身体で引き受けた記憶だから、定着は本物だ。

もう一度、繰り返す。記憶は訓練の結果であればよい。対象を覚えることに腐心すれば、暗記型の学習になりやすい。それで取りあえずの結果は得られるかもしれないが、訓練を軽んじた学習はどこまでも付け焼き刃である。実際のコミュニケーションに必要な応用力や判断力、瞬発力は期待できない。それに、記憶はやがて薄れていく。その維持エネルギーが膨大でやがて支えきれなくなることは、われわれの経験に照らすまでもない。

どんなドリルがよいのか

ドリルが重要だとして、ではどんなドリルがよいのかとなると、意見は分かれる。ドリルの形式や中味は、何を目標にするかによっても変わってくる。だから、英語力を育てるためのドリルはこうあるべきだと述べたところであまり意味がない。しかし、話は具体的でなければわかりにくいので、私自身が開発中のドリルの特徴を紹介し、みなさんの判断の参考にしていただこうと思う。

私が考えているのは、「英語力を育てるための完成型ドリル教材」である。完成型とは、全体として基礎的な知識や技能が次第に積み上げられていくように作られた教材という意味である。英語の知識の全くない人でも、これを順次消化すれば、必要な英語技能があらかた身につくようになっている。だから、言語材料の中身と配列は、例えば中学校の検定教科書の内容とは直接関係がない。私の教材では、現在の中学校では扱われない仮定法や分詞構文も取り上げている。英語の出入力チャンネルを育てるために必要だと私が判断したものはすべて組み込まれている。それらを細かく述べる余裕がないので、以下(1)〜(5)の特徴記述でおおよそを想像していただきたい。ドリルの実例(部分)も1つ示しておく。
完成型ドリルの例(1)

(1) 形式:ディクテーション
(2) 導入語数:約5000(組み合わせて利用するため、実質は約7000〜8000)
(3) ドリルの配列:文字→単語→単語の組み合わせ→文→文の組み合わせ
(4) レッスンの総数:280余
(5) 各レッスンの所要時間:10〜15分

以上は、英語力を育てるためのドリルの話である。繰り返すようだが、学校英語教育はあくまで基礎教育だ。それは、より高いものを目指して飛び立つための土台作りの場でもある。その点からすると、われわれのまずなすべきは、「基礎の何であるか」を見極めることである。開発中の教材は、そのための小さな試みにすぎない。

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英語を身に付けるためにまず大事なのは、基礎的な訓練を「体で覚える」まで行うことである。学校教育の現場において、限られた時間の中で、個々の生徒の学習意欲を持続させつつ、継続的な訓練を習慣づけるにはどのように指導すればよいのか。入門段階を中心に、中級以上の学び直しも含めて、「英語の基礎体力」の訓練法を提案。

英語学習におけるトレーニングの重要性
山田雄一郎
楽しく、たくさん、自分のことを書いてみよう —自主的な学習につなげる工夫
柏村みね子
ふうけもん流「話すための基礎体力作り」
大坪久子
音読指導のバリエーション —「考える音読」と「虫食い音読」で知識を技能に
久保野雅史
動作や作業を利用したTPRによる語彙学習
清水一郎
「聞く力」を高めるための毎日のトレーニング
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読書力は総合力 —「英語を読むこと」への抵抗をなくすために
高瀬敦子
リーディング・ストラテジーを意識した読解の訓練
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[コラム]
基礎体力増強のための「サーキット・トレーニング」
原田康也
心も体もはずむ気持ちで、業間エクササイズを取り入れよう!
鞠子佳香

■英語教育時評
■アノ先生・ヒロ先生の日々の授業にひと工夫
■日本の英語教育200年<新連載>
■木綿子先生の小学校・英語活動のお悩みQ&A
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■英語教育 ここだけの話

◆ワシントンDCで活躍するプロフェッショナルたち
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松永淳子/
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(田口 徹)
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若者ことばを英語で言いたい
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英語教師としてこの本は読んでおきたい —プロ英語教師のための英語学習の活力源
(田邉祐司)
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(濱岡美郎)
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メディアを英語の授業に役立てたい
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『英語教育』を読むための基礎用語を知りたい(1)英語教育一般
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<コラム:リスト作成のためのテクニック>
オリジナル「英語基本例文集」を作成したい
(明石達彦)
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【特集II】2008年度の英語教育 総括と展望
英語教育日誌[2007年4月〜2008年3月]
(伊村元道)
英語教師のマルチメディア教材活用法 —ネットワークを活用した外国語学習の現状と小学校英語教育におけるマルチメディア
(柳 善和)
2008年度入試の特徴とその対策
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英語教育図書 —今年の収穫・厳選12冊
(柳瀬陽介)


■特別記事・英語教育への提言
小学校英語学習者の追跡調査と小・中英語教育への示唆(日本児童英語教育学会(JASTEC)関西支部プロジェクト・チーム)


■資料
『学習指導要領(案)』への要望書 (日本外国語教育改善協議会)
英語教育関係刊行図書一覧
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