私立小学校における、インターネット教材を活用した高学年授業
2008年8月31日
2008年8月31日
![]() 「英語教育」2008年9月号(大修館) → 目次はこちら → 定期購読はこちら From "The English Teachers' Magazine" September 2008 Vol. 57 No. 6 (Taishukan) 伊藤 扇 Ito Ohgi 近年、小学校英語に関する議論が盛んであるが、英語授業が長年行われてきた私立小学校では英語活動にどのような工夫が試みられているのか、一私立小学校の現場から、その実践例を報告する。 慶應義塾の小学校である幼稚舎は1874年に創立され、現在に残る舎史資料や当時の写真によれば、明治・大正時代から外国人教師らによる英語授業が行われてきた。福澤諭吉の教育理念である『独立自尊』の教えを重視し、「6ヵ年担任持ち上がり制」と「教科別専科制」を特色として、児童一人一人の成長と発達を長い目で見守る。個々の児童が持つ様々な可能性に気づかせ、「自分のできること」を引き出し、さらなる成長を促す場と機会の1つとして、英語教育も実践されている。 1・2年生では、身体を動かしながら、歌や表現活動で英語に慣れ親しむことに主眼が置かれ、3・4年生では、「話す」「聞く」を中心とした言語的要素を含み、知的好奇心に働きかける教材が導入される。5・6年生になると、個々の興味や関心が出てくると同時に、「歌は子どもっぽい」「失敗したら恥ずかしい」といった精神面の変化が見られる。新しい知識を驚くほどの速さで吸収する児童がいる一方で、苦手意識を持つ児童には、強みを褒め、励まし、英語への恐怖心を取り除いて中学につなげることも、英語教師の重要な役割となっている。限られた時間の中で、できるだけ多くの発話体験をさせ、個に応じた英語学習の基礎作りを目指して、週2回の授業となる4年生から、1クラスを3分割した12名ずつで授業が行われる。 中学・高校への連携慶應義塾の一貫教育は、1つの小学校から3つの中学校、そして5つの高等学校へとつながっており、英語教育に関しても、その一貫性が長年課題となってきた。幼稚舎で何を学んだのか、現在ではその情報が少なからず共有され、中学・高校の教員に授業の一部を受け持ってもらう形も定着した。中学では英語未習者と共に「アルファベットからもう一度」スタートするのが現状だが、6年生の授業には音声だけでなく、識字力につながるreadingやwriting活動も組み込まれているので、中学英語との連携は、今後も検討が必要である。また、幼稚舎には20年以上続く独自の英語検定『イングリッシュプロ』があり、4年生から6年生までの各学期に一度、各自が練習してきた会話表現を教師と1対1で試すという機会を持つ。慶應義塾の中学・高校の一貫校英語教師も参加し、合格するとカードにステッカーをもらい、修了時には舎長と記念写真を撮る。競争が好きで、がむしゃらに頑張る子や、マイペースを貫く子など、取り組み方は様々だが、音感の良い児童期に、英語を自らの耳で聴き、音をまねて話し、平易な単語や文章に慣れる、という学習の基礎となる習慣がつき、児童の動機や達成感にもつながっている。 この他、高学年には英語科で独自の「レポートカード」を作成し、児童の英語学習の到達度、すなわち何を勉強し何ができるようになったのかをマークとコメントで伝えている。言語要素をどれだけ理解し、運用できるようになったか、ということだけで評価するのではなく、個々の強みや良い点を挙げ、あくまでも学習動機につなげることを重視している。また、希望者には英国・米国への国際交流プログラムが設けられ、子どもが異文化の中に行き、子どもの視点で違いを肌で感じ、直接見聞きする機会を作っている。そこでは、ことばが分からないながら、人と接し、話し、分かり合いたい、と願う子どもの本能的な力を垣間見ることができる。 『ランゲージチャンネル』を活用した授業高学年の英語については、授業や教材の工夫が私立学校の研修会でも常に話題に挙がる。特に6年生は、コースブックを1冊持たせただけでは、やる気を引き出すのは容易ではない。知的好奇心をそそる内容を盛り込み、楽しみながら知識を獲得させ、言語活動への参加を促す必要がある。多種多様な情報に囲まれた現代の子どもは、漠然としたイメージだが「外国語を使えるようになりたい」という望みは強い。昨今の音声教材や視覚を活用したインターネット教材は、子どもの特性を生かし、動機につなげる強力な武器となり得る。普段の授業スタイルに変化を持たせる意図で、『ランゲージチャンネル』(http://www.l-ch.tv)の"New Elementary Step"を活用した英語活動では、6年生が嬉々として発話・聴解活動に取り組む。コンピュータと1対1になる前に、大画面を通して全体でチャンツや会話表現を練習すると、学習効果はさらに増す。発話への抵抗が薄まり、ポイントの表現や発音への具体的な指示が児童の関心を引く。6年生ともなると、難易度が「やや高め」の方がやる気に火がつき、興味をそそられるようだ。英語の音を「あくまでも楽しむ」ように導くと、苦手意識を持つ子どもでも、音声と画像を通して発話活動に参加する。疑似体験でも、「できた!」という達成感につながる活動が重要だ。 コンピュータを使い慣れた今の子どもは、ヘッドホンを着け、1対1になっても、自分のペースで進められるプログラムに全く躊躇する様子はない。音をまねると同時に、視覚から文字も入ってくるので、英語独特の「音と綴りの関係」を認識するという体験もできる。個人差に対応し、一字一句を理解したい子どもは、日本語の辞書機能で意味を確認しながら「聴く」「話す」練習をする。 まず、チャンツで発話に慣れた後、基本表現を確認する。文レベルで音を聴くので、子どもたちの発音は巧みで、新しい単語との遭遇に素直に喜ぶ。会話文は最初、「難しい」と言うが、何度か聞くうちに、「言えるかもしれない」と言い出し、交替で発話できる役割練習に続く。速いと感じる場合は一時停止を使い、カラオケの歌詞のように、変わる文字の色に合わせて音読させる。平易なlisteningとspeakingのチェックテストの後は、単語入力に挑戦。ここまでくると「英語は大文字で書き始めるんだ!どうやって入力するの?」と大騒ぎ、まさに楽しみながら学習を進める児童の姿が見られる。 既習内容は「役割練習」シートを用いて、教室で寸劇を楽しみながら復習し、場面を想定した発話活動を体験させられる。6年生になると、文字を認識し、語句を理解しながら発話したがる傾向が強いので、oral readingやwriting活動を組み合わせて定着を図ることも一案である。『ランゲージチャンネル』では、多様な小学校授業サポートプログラムが無償で提供されており、低学年でも発話量を確保し、楽しみながら「個」のペースで進められるプログラムもある。ダウンロード用に用意されたピクチャーカードは、教師の工夫次第で子どもたちが大好きな様々なゲームに活用できる。 *
小学校の英語が中学校と決定的に異なるのは、児童が楽しみながら、時間をかけて言語に触れる、まだその余裕がある、という点であろう。子どもは「聴く」「話す」(厳密にはmimickingの域だが)の2つを使った活動を好む。成長と共に警戒心や羞恥心が現れ、同時に言語要素の習得を目指した複雑な活動が増えるため、個人差が出てくる。強い「子どもの論理」、すなわち「これでいいじゃん」という物事の捉え方や、間違っても別に不便はないという彼らの言い分は、外国語の定着には壁となっていよう。文字と音が首尾一貫しない英語のwritten textは、単語の発音でさえ、小学生には難しいものだが、感覚的な学習を通して、子どもなりに言語や事象を捉える、という体験は、潜在的な彼らの「芽」につながるものと信じている。 |
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