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英語教育エッセイ

国内外で活躍する英語教育業界関係者によるエッセイコーナー

英語教師よ、好奇心をいだけ
—シンガポールとクアラルンプールで多文化体験

2008年7月31日


英語教育の最新版
「英語教育」2008年8月号(大修館)
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From "The English Teachers' Magazine" August 2008 Vol. 57 No. 5 (Taishukan)
千葉商科大学教授
酒井志延
Sakai Shien


シンガポール中心部

英語が母語だというシンガポール

シンガポール市内は狭いので、多文化を短時間で体験できる。MRTのブギス駅(地図[1])で降りて少し歩くとスルタン・モスク(地図[2])がある。高い塔がミナレットで1日5回、アザーン(祈りの告知)を流す。その時間に居合わせると異国情緒に浸れる。周りを見るだけだが、観光客も敷地内に入ることができる。礼拝堂で何度も立ったりひざまずいたりしてお祈りをしている信者を見ることもある。イスラム教は偶像を認めない。信者は像に向かって祈るのではなく、メッカの方向に祈る。そのモスクの周辺は、イスラム文化に満ちた界隈だ。

イスラムを満喫したら、ブギスの駅に戻り、北の方に歩いて行くとリトル・インディアがある。カレーのにおいが立ちこめる。通りには装飾用の金細工屋が軒を並べる。インド系の人はこんなに金で飾るのが好きなのかと驚く。サリーやパンジャビドレスの店もある。ヒンドゥー教の祈りに欠かせないジャスミンの花輪が街をいっそう華やかにしている。

その街の外れに、スリ・ヴィラカリマン寺院(地図[3])がある。屋根の上に所狭しとばかりに極彩色の神が並べられている。シヴァがいる、カーリーがいる、神聖な動物である象もいる。そこだけでなく、塀の上にもずらっと並んでいる。一神教とは異なり、多神教の神々はそれぞれが個性を持っている。見ているだけで、神話の世界が浮かんでくる。

異文化を知る楽しみの1つに、自分が持っている固定観念が壊されて新しい考え方ができるようになることがある。イスラム圏では、赤い新月のマークを見ることがある。これは赤新月社であり、赤十字社に相当する。赤十字社は国際的でどこの国にもあるように思ってしまいがちだが、イスラム圏には赤十字社はない。赤十字社のシンボルには十字が使われ、その昔、キリスト教徒の集団である十字軍はイスラムに敵対したからである。

この地の英語教育について見てみる。シンガポールは、多民族・多文化の社会だったはずだ。しかし、今のシンガポールは英語一色である。そのことをナンヤン大学のDr. Chewは、次のように説明した:シンガポールの言語政策は、多言語政策→二言語政策→単一言語政策へと変化した。独立後の60年代から70年代にかけては、多民族国家を維持するために、複数ある言語をそのまま使う現状維持の政策であった。70年代から、多言語政策をやめ二言語政策に変えた。二言語とは、主に英語と北京官話を話せということで、その運動をSpeak Mandarin Campaignという。二言語政策は軌道に乗ったが、1998年のアジア経済危機が起こり、それ以降は、英語を第一言語とする単一言語政策になった。当時は、まだ英語の異種である'Singlish'を話す人が多かった。そのため、文科省に当たる官庁は、標準的な英語を普及させるために、"Speak Genuine English. Singlish is an enemy."とまで言ったそうである。その結果、シンガポール人にとって英語は第一言語となっている。

街角で多言語ぶりを見てみる。デパートに行って実演販売している人を見かけたら、そのパフォーマンスを見てみよう。客が中国系だと見ると中国語で実演をする。マレー系と見るとマレー語で話し、その他にはSinglishで話しかける。

今度は、二言語から単一言語政策への移行を見てみよう。街の本屋に行くと、親子が本を見ながら話しているのに出会うことがある。よく聞くと、親がSinglishで話し、子どもが標準英語で話している。その現象をDr. Chewは、「我々は一世代でSinglishから標準英語に移行した」と言う。

英語教育を強化し始めたマレーシア

プトラジャヤのモスク。高い塔がミナレット
プトラジャヤのモスク。高い塔がミナレット
世界の大きな都市のそれなりのホテルでは、英語が通じる。しかし、ぼくは英語を母語としない国では、「こんにちは」、「いくらですか」、「ありがとう」、「さよなら」などの簡単なことばは現地語を使おうと心がけている。去年、タクシーに行き先を告げ"How much?"と聞いたら、"Twenty."だったが、いいかと応じた(20リンギット=700円程度)。次は、同じ距離をマレー語で「ムラッパ?」と聞くと、"Ten."だった。やはり、現地語を覚えると得があると再確認した。

マレー語には固有の文字言語がなかった。それで、アルファベットで自分たちのことばを表記することにした。英語からの借用語は、聞いたとおりにローマ字で表記することにした。そのために英語の綴りと若干違う表記になった。次の単語の元を類推してみよう。teksi、kafe、kamera、bas、polis、benk、ais、kaunter、tiket、tren、 stesen、servis、famasi、buku。答えはtaxi、cafe、camera、bus、police、bank、ice、counter、ticket、train、station、service、pharmacy、bookである。英単語を知っている人には、簡単に類推できる。restoran など、英語もこうならないかと思うほどである。なお、日本はJepunと綴る。

マレーシアは2020年までに先進国入りすると表明している。その決意の表れは、英語教育に見ることができる。2002年に突然、小学校も中学校も1年生から算数・数学そして理科は英語で教えると決めた。指導は算数・数学そして理科の教師が当たる。友人のマレーシアの英語教育学者は、2006年に日本に来て講演し、「いまだ教育現場は混乱している」と述べたが、今年、聞いた話では、少しずつ混乱は収まりつつあるようだ。この強引と思える言語政策を実施することができるのは、隣の「母語は英語である」と謳うシンガポールと経済的な差が広がりつつある焦りがあるからだ。この政策はその後検証されるだろうが、その報告は日本の早期英語教育のあり方に参考になることが多いだろう。この言語政策をタイでもまねようという動きがあるそうだ。

先進国入りする決意は、別な形でも見ることができる。産業構造を一次産業中心から、IT 技術を中心とした付加価値の高い産業構造に転換しようとしている。そのために、KLからKL 国際空港にいたる約50キロ平米にわたる丘陵地を切り開き、首都機能を大幅に移転した街プトラジャヤを建設している。王宮や連邦議会はKLに残し、後の首都機能はプトラジャヤに移転の予定だ。

プトラジャヤは、都市計画に沿って作られている都市なのだが、イスラム国独特のタマネギ型の屋根を持つ建物が多いので、四角い高層ビルだけが林立する都市より人間味を感じさせる。法務省の建物の上にもタマネギ型の屋根があり、それを見たとき、この国をイスラム法で治めるのだなと、改めて感じた。

「何のために英語を勉強するんですか」と聞かれると、「苦労して相手を理解する姿勢を持つことがお互いの理解、ひいては世界の平和に寄与するのです」と答えることにしている。異文化を理解する気持ちを学習者に強く持たせることは、英語教師の務めだと思う。しかし、外国を見て回らない教師からだれが異文化理解を学ぼうと思うだろうか。

「英語教師よ、好奇心を持って旅せよ」。

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20章 文と文のつなぎ方(2)——つなぎ語(1)
21章 文と文のつなぎ方(3)——つなぎ語(2)
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