コラム・エッセイ View All Columns

英語教育エッセイ

国内外で活躍する英語教育業界関係者によるエッセイコーナー

英語教師に求められる力
—「行動計画」から「免許更新制」へ

2008年6月30日


英語教育の最新版
「英語教育」2008年7月号(大修館)
目次はこちら
定期購読はこちら
From "The English Teachers' Magazine" July 2008 Vol. 57 No. 4 (Taishukan)
田園調布学園大学教授
久村 研
Hisamura Ken

早稲田大学教授
神保尚武
Jimbo Hisatake


20〜21世紀の変わり目の数年間は、教育問題が政治の重要な争点の1つになった時期である。首相、文科大臣、文科省の公的審議会や私的懇談会、例えば、「中央教育審議会」「大学審議会」「教育職員養成審議会」「教育課程審議会」等の他に、「教育改革国民会議」「21世紀日本の構想懇談会」「英語指導方法等改善の推進に関する懇談会」(以降「英語改善懇」)「教育再生会議」等が次々に設立された。

同時に、「教育改革」「教育基本法」「ゆとり教育」「学力低下」「学級崩壊」「少人数学級」「教員評価」「総合的な学習の時間」「小学校英語」「英語教育改革」「英語公用化」「教員免許更新制」等々の話題がマスコミをにぎわした。

この流れの中で、「英語」と「英語教育」は主要な論点の1つであり、「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」(2003、以降「行動計画」)となって政策化された。また、教育改革に向けた動きの中で、「教育基本法」の改正と、いわゆる改正教育3法が成立し、2009年度から「教員免許更新制の導入」が決定された。

「公的に」求められている力

英語教育改革の論旨は、これまでの英語教育ではグローバル化した国際社会で働くことのできる有為な英語の使い手は育てられない、従って、各学校段階において、今後の国際社会で生きていく上で求められる英語によるコミュニケーション能力の指導を推進する(「英語改善懇」2001)、ということである。

この考え方に沿って、「行動計画」の中で初めて英語教員の英語力が、「概ね全ての英語教員が、英語を使用する活動を積み重ねながらコミュニケーション能力の育成を図る授業を行うことのできる英語力(英検準1級、TOEFL 550点、TOEIC 730点程度以上)及び教授力を備える」と明記された。つまり、英語力に関しては、英検準1級程度以上で、英語で授業を行える力を国として初めて求めたことになる。

一方、教授力に関しては、「英語改善懇」の報告書(2001)に「21世紀に生きる日本人に求められる英語力」を育成するための指導の指針が記述されている。恐らく、「行動計画」にある教授力はこれをベースとしていると考えられる。「英語改善懇」の報告書の中では文章化されているため、それを要約するのは危険を伴うが、あえて項目化すると次のようになる。
  • 英語学習のモティベーション(動機付け)を高める
  • 学校段階に応じた適切な教材及び指導方法を工夫する
  • 国際社会で日本及び日本人が果たすべき役割について認識させる
  • 学習指導要領に示された内容に習熟させる
  • 積極的に英語を使って意思疎通を図ろうとする意欲を生み出す
  • コミュニケーションの技術としての英語力を育成する
  • 生徒や授業のねらいなどに応じて様々な指導が行えるような総合的実践力を備える
  • IT 機器などを利用して、生徒が表現力を高める機会を増やす

「専門家」が求めている力

金谷(1995)によると、英語教育についての実証的研究は少なく、英語教師についての実証的研究はなおさら少ない。その原因は、実証的研究軽視の風潮(伝統?)、研究の難しさ、研究方法についての訓練不足、教師を研究対象とすることへのタブー視があげられるという。つまり、これまで英語科教育法のテキストや英語教育誌などで語られてきた英語教師像は、欧米の文献、個人的な経験や信念(ビリーフ)、個別の事例などに基づき、実証的な研究に裏付けられているものはほとんどないということである。

例えば、聞く力は、「BBC、ABC、CNN、NBC などのテレビのニュース放送番組が90%以上わかり、日本語のニュース放送番組と同じように情報源として十分に使うことができる」、読む力は、「Timeとか Newsweekとかの英文週刊誌を定期的に1部購読し、興味を持つものを中心に毎週記事の1/2以上は読み、必要な情報を受け取ることができる。時事問題の記事であれば、未知語については推測で読み進めることができて、辞書を使うことはまずない」(国吉、1995)などの指摘は特にめずらしいものではない。国吉はこれらの指摘に加えて、「TOEFLでいえば600点以上の力でないと無理ではないかと思う。このような力を持った英語教員でないと勤まらない時代が目の前にやってきている」と述べている。

この指摘の10年後、「行動計画」4年目の2006年に文科省が行った中学と高校の英語教師の語学力に関する調査では、英検準1級や英語能力測定テストの「TOEIC」で730点以上、「TOEFL」で550点以上を取ったことがある英語教師の割合は、中学で全体の24.8%、高校で48.4%という結果であった。

だからといって、英語や英語教育の専門家の述べてきたことが的外れであるということではない。「行動計画」や「英語改善懇」が求めている力にしても、現実とのギャップは大きいが、いずれも期待値あるいは到達目標値と考えれば、肯ける内容も多い。英語力ばかりでなく、授業力、教授力、指導力などと言われる力についても同様である。重要なのは、どのように理想あるいはビリーフと現実との橋渡しを行うか。どうしたら英語教師の質的水準を総合的に向上させることができるかを模索することである。英語教師の力を特定する、つまり、基準化するには、いかに困難であるとしても、実証的な研究方法をとる以外に今のところ考えられない。

英語教員対象の全国調査

2007年10月から12月にかけて、大学英語教育学会(JACET)教育問題研究会(教問研、代表:久村研)では、科研費(代表:神保尚武)を受けて全国の中学・高校の英語教員を対象に質問紙による調査を行った。

調査項目は、免許更新制の条件整備(8項目)と更新講習の制度設計(16項目)として望むこと、及び、英語教員の英語力(10項目)と授業力(8項目)の基準の妥当性である。免許更新制の質問項目は、前年度の試行調査(関西以北の小学校〜高校の教員702名から回答)等を経て厳選した。英語力と授業力については、1997年以降教問研で行ってきた養成課程、教育実習、英語教員採用基準等の調査結果、及び、英語教員研修研究会(代表:石田雅近、清泉女子大教授、2000〜2003年度)による研究成果に基づいて、項目を特定した。

質問紙送付数は4729校(9458通)、回答数は2897通(回収率:30.6%)で、全国すべての都道府県から回答を得た。さらに、回答が2000通を超えた段階で、中間集計を行い、その結果に基づき、自由記述の質問紙と聞き取りの2つの方式で追調査を行った。前者の回答は58通、聞き取りは青森、大阪それぞれ5名であった。

更新制に絡んで英語教員が求めているもの

更新制条件整備に関する8項目のうち、大多数の教員が「重要である」「ある程度重要である」と回答した項目は次の5項目であった。
  • 免許更新の評価委員会の審議過程は公開する
  • 免許更新の認定基準、評価基準は国が現場の教員の意見を参考にして作成し、公開する
  • 英語力、授業力、研修実績、勤務実績などによって、総合的に評価する
  • 教員の資質能力の基準を明確にする
  • 免許更新を控えた教員には、持ち時間数と職務を軽減するシステムを作る
一方、更新講習の制度設計(16項目)で、大多数の教員が「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答した項目は次の3項目であった。
  • 更新講習は、授業にすぐ役立つ実践的な知識や技能を中心とする
  • 更新講習で受講する科目は、受講者が選択できるようにする
  • 更新講習の修了認定は、講習に参加したという事実で行う
以上の8項目のキーワードは、「基準化」「情報公開」「現場重視」「評価システム」「職務軽減」となろうか。クロス集計では、この結果はほぼ全国的な傾向であることがわかった。

また、追調査では、「基準化」という観点から、2004年に教問研が地方教育委員会対象に行った調査「採用にふさわしい英語教員の要件」において特定し順位をつけた15項目と、2003年に英語教員研修研究会が授業観察でまとめた「授業力の要件」が妥当であるかどうかをたずねた。

両者とも回答は、概ね「妥当である」というものであったが、前者については「教員全般の資質能力」と「英語教員としての資質能力」が混在しているとの指摘があった。例えば、「教育に対する情熱と熱意があること」、「わかりやすい授業を展開できること」、「他の教員と連携する協調性があること」などは教員全般、「英語コミュニケーション活動の技術を持っていること」、「英語の語学的知識をもっていること」、「日本語と英語の違いについての知識をもっていること」などは英語教員に特化した資質能力になるだろう。

一方、後者については、高校教員の要件は検討を要するという指摘があった。これらの指摘は的を射たものであり、この全国調査のような実証的な調査・研究を積み上げて、教員全般の基準と英語教員の基準、中学と高校の英語授業力の基準をこれから特定していくことが必要であろう。

「英語力の基準」で見えてきたこと

免許更新制は、一種の教員評価制度と言える。評価制度ならば、必然的に評価基準を伴う。基準のない評価などは考えられない。この意味で、基準化を求める英語教師の声は当然の帰結である。逆に言えば、現実にはほとんど基準がないことを物語っている。英語力と授業力の基準についての調査結果は、明確な基準のないことがかなり反映したと考えられる。

英語力、授業力に関する質問項目に対する回答形式は、「判断できない」「適切ではない」「初任者の基準」「中堅教員の基準」「指導教員の基準」の5段階とした。英語力基準の10項目は、英検などの能力試験による基準3項目、授業内における英語運用力の基準3項目、授業外で必要とされる英語力の基準4項目の3つの観点に分類される。

まず、「行動計画」の英語力の目標値(英検準1級程度)に対しては、32.7%の教員が中堅教員の基準と答えたが、「判断できない」「適切ではない」との回答は40%を超えた。また、英検1級程度については、39.2%が指導教員の基準としたのに対し47.4%が「判断できない」「適切ではない」とした。この結果を要約すると、
  • 経験を積むにつれ、より高い英語力を備えているべきである
  • 指導年数によって英語力の基準を設定するのは、妥当ではない
  • 能力試験で、英語教員が必要とする英語力を測るのは難しい
と考えている教員がそれぞれ1/3程度からそれ以上いることがわかった。

授業内における英語運用力の基準については、次の観点が妥当と考える傾向にある。
  • 中堅教員の基準として、「コミュニケーション中心の授業を単独で英語を用いてできる」
  • 初任者の基準として、「教科書などの英語を適切な発音で読める」および「ALT と協同して英語で授業ができる」
しかし、上記3項目に関しても20%〜30%程度「判断できない」「適切でない」という回答があった。追調査結果によると、これらは英語教員ならできて当たり前で英語力の基準にするほど「難しくない」上に、「適切な発音」や「協同して英語で授業」という表現は基準として「わかりにくい」と考えている教員も多いようである。

一方、授業外で必要とされる英語力の基準では、以下が妥当であると考える傾向にある。
  • 中堅教員の基準として、「ALT を柔軟に指導・活用する英語運用力がある」および「『指導要領』にある言語活動の定着度を判断できる」
  • 指導教員の基準として、「他の教員の授業での英語力を正しく判断できる」
「英語力」と「授業力」に関する自由記述の中には、「英語力より授業力の方が重要である」、「英語力があるからといって授業力があるとは言えない」という意見が多く見られた。しかし、これらの指摘は事実であろうか。英語能力試験の結果と、授業力は本当に相関関係がないのか。今後も実証的な研究が必要であろう。

「授業力の基準」でわかってきたこと

英語力と比べ、回答結果は比較的明確に出た。初任者と中堅、中堅と指導教員それぞれの間に10ポイント程度の差しか現れない項目も含まれるが、概ね20〜30ポイント以上のギャップがあり、40%以上が妥当と答えた項目を整理すると次のような結果となる。

[中堅教員の基準]
  • 生徒のニーズを分析し、授業の計画に役立てることができる
  • 学習者に応じて適切に教材を選定したり、補助教材を作成できる
  • 授業全体を客観的に評価し、改善できる
  • 学習者の英語学習に対する動機づけを喚起し、維持するのに有効な方法(ストラテジー)について知識があり、実践することができる
  • 学習者が教室外でも自主的に学ぶために手助けできる方法を知っており、自律性を促進することができる
  • 授業をいつでも公開できる
[初任者の基準]
  • 授業の目的を適切に定めることができる
  • 授業に必要な補助教材やタスクを適切に準備できる
以上の結果について、追調査で確認できたことは、中堅教員と初任者との差は、経験年数の違いによる柔軟性であること。指導教員の基準が明確に示されなかったのは、概念に馴染みがなく、その職務や資質能力について明確な判断ができなかったためであろうということである。

おわりに

今回の調査で明らかになったことを整理すると、次のようになる。
  • 免許更新制導入に際し、教員教育全般の基準化が求められている
  • 免許更新制導入に伴い、現場の実情に即した柔軟な研修システムの構築と運用が求められている
  • 「英語力の基準」については、今回の調査項目で基準は設定できるだろうと判断する教員は全国に30%程度いる
  • 「授業力の基準」で、中堅教員の基準はできつつあるが、初任者および指導教員の基準は今後策定する必要がある。さらに、授業観察によって基準項目を追加できる可能性がある
  • 「英語教員の採用基準」は特定できる可能性が大きい
教員全般の資質能力は、免許更新制導入との絡みで、基準化は避けられないだろう。同時に、「英語教師に求められる力」も基準化の方向に向かうだろう。更新の認定は、一定の基準をクリアしていることの証明であり、それによって教員の質が確保され、保証されるということになるはずだからである。これは国、教育委員会、認定大学の説明責任(accountability)に通じるものである。

最後に、2007年の教問研の全国調査に協力いただいた先生方には本誌上をお借りし、厚く感謝申し上げます。また、その報告書をご希望の方はまで問い合わせてください。


◆参考文献
金谷憲編著(1995)『英語教師論』、河源社
国吉丈夫(1995)「21世紀にむけて期待される英語運用力」『現代英語教育』8月号、研究社

→過去の記事一覧はこちら


「英語教育」2008年7月号

英語教育の最新版
月刊「英語教育」について

定期購読申し込み
【特集】英語教師にいま求められる力

世の中のニーズの変化や生徒の多様性に柔軟に応える対応力が、教師に求められている。「新しい力」を探るとともに、教師が本来持つべき「基本的な力」を振り返り、この困難な時代に魅力的な英語教師像を考える。

英語教師に求められる力 —「行動計画」から「免許更新制」へ
久村 研/神保尚武
雑談力
真野 泰
世界水準の発音力を習得させる「訓練力」
靜 哲人
中1の1学期の授業を運営する力:さまざまな英語学習歴の生徒にどう対応するか
大内由香里
学生に自主的に活動させる授業プロデュース力:英字新聞をつくる
根岸 裕
生徒の英語の悩みを聞き、的確な処方箋を出せる力
滝澤 武
生徒を授業に引き込む術:変わったところ、変わらぬところ
北原延晃
教育メディアの活用力をつけよう!
竹内 理

■英語教育時評
■アノ先生・ヒロ先生の日々の授業にひと工夫
■Multi-competenceでいこう!:元気がでる実践英語のススメ
■木綿子先生の小学校・英語活動のお悩みQ&A
■<リレー連載>進化する学習者コーパス
■英語教育 ここだけの話

◆ワシントンDCで活躍するプロフェッショナルたち
◆Notes from a Small Island
◆ミュージカルを深読みする
◆映画で英語
◆イギリスのしたたかな女たち
◆アングロ・サクソン文明落穂集
◆今月の時事英語[若者ことば編]


大修館よりオススメの新刊


入門講座 英語の意味とニュアンス

[入門講座] 英語の意味とニュアンス

吉川洋・友繁義典 著
1,470円(A5判・192頁)


はしがき

第1章 動詞句の分類と意味——「スル」と「ナル」からのアプローチ
1.動詞句の意味特性「スル」と「ナル」
2.意味特性「スル」「ナル」と動詞句の分類
3.動詞句分類の実際

第2章 あいまい性と意味
1.語、句、および文のあいまい性
2.数量詞によるあいまい性
3.前置詞句によるあいまい性
4.被影響名詞のあいまい性
5.名詞句のあいまい性
6.完了形のあいまい性
7.副詞句のあいまい性
8.分配・集合読みのあいまい性
9.省略によるあいまい性
10.法助動詞のあいまい性
11.慣用表現のあいまい性
12.to-不定詞のあいまい性

第3章 類似表現と意味
1.名詞
2.代名詞と再帰代名詞
3.注意すべき所有格表現
4.冠詞
5.形容詞の限定用法と叙述用法
6.副詞
7.動詞
8.法助動詞と準助動詞
9.前置詞
10.関係詞構文
11.接続詞構文
12.IT 構文、THERE 構文
13.否定構文
14.比較構文
15.その他の類似表現

参考文献
索引

大修館書店ホームページ「燕館」はこちら



« 理系学生の読解・プレゼン・ライティング力を鍛える  大学での実践 | Main | 英語教師よ、好奇心をいだけ—シンガポールとクアラルンプールで多文化体験 »

→過去の記事一覧はこちら


質の高い、外国人英語講師を雇いたいなら…

生徒を世界デビューさせる一冊を、あなたのワンクリックで

英語教材のオンラインショップ「ELTBOOKS」 : 各種リーダーズと教材を割引価格で

質の高い、外国人英語講師を雇いたいなら…

質の高い、外国人英語講師を雇いたいなら…

日本在住の外国人英語教師のためのサイト「ELT News」の求人広告をご活用ください。ELTBOOKS.comのお客様は、求人広告欄が1ヶ月間無料

月々たった2,965円(一日相当約99円)の日刊英字新聞。

月々たった2,965円(一日相当約99円)の日刊英字新聞

最新ニュースを英語でチェックすれば、日常生活&ビジネスに役立つ英語力がグンッとアップ!

英会話が身につく秘訣を動画で公開!

英会話が身につく秘訣を動画で公開!

実践では思うように聞き取れない、話せないのはなぜ?その理由は初歩的な問題でした。

やる気のある方のみ

やる気のある方のみ

社会人の実践英語塾!本当の初心者も大歓迎!英会話学校や英語塾の講師も受講中!

 
 

イベント情報

Subjects

スポンサー