理系学生の読解・プレゼン・ライティング力を鍛える 大学での実践
2008年5月31日
2008年5月31日
![]() 「英語教育」2008年6月号(大修館) → 目次はこちら → 定期購読はこちら From "The English Teachers' Magazine" June 2008 Vol. 57 No. 3 (Taishukan) 村上直久 Murakami Naohisa 理工系大学での英語教師は微妙な立場に置かれている。そもそも教師自身は理工系大学の出身ではなく、そのため当然、理工系分野での専門知識は持ち合わせていない。さらに事態を複雑にしているのは、理工系大学では英語は他人が書いた研究論文を読んだり、自分の研究成果を発表したりするためのコミュニケーション・ツールと位置付けられていることが多いという点だ。換言すれば、理工系大学では英語教師はメインの科学技術知識を教える立場にないことから傍流視されがちだという状況がある。しかし、そうした逆風にめげずに、理工系学生に英語力を付けさせるためにさまざまな試みが行われている。 文法軽視のつけと基礎力不足大半の大学では学部の一般英語を必修と選択に分けている。必修科目は、市販のテキストを使う先生が多いようだが、気にかかるのは、近年、テキストがますます薄くなり、取り上げられる文章も短く、やさしいものが増えたという点である。ゆとり教育を受けた世代が大量に入学するようになったことや、大学全入時代に入り、大半の大学では入試英語の難易度が低下傾向にあることが一因だろう。もちろん、やさしく、とっつきやすい英文を多く読んでマスターすることはそれなりに意味があると思うが、実社会に出て難解な、歯ごたえのある英語に直面したとき、役立つかどうか大いに疑問だ。 それ以上に頭を悩まさせられるのが、基本的な文法事項の定着度の低さである。文型や品詞から説明しないと話が始まらないことが多い。筆者は、大学に奉職する前に長年、英文ジャーナリズムの世界に身を置いてきた。まだ駆け出しのころベテラン編集者から、正確で簡潔かつ読みやすい英文を書くには文法知識は必須であり、そのためには高校文法教科書の主要事項を覚えるだけで足りると言われたものだ。 フランス語やドイツ語など英語以外の外国語を学習する際、文法を軽視することは習得の妨げになるのは言うまでもないことだが、英語に限って軽視する傾向が今でもあるのは不思議であると言わざるを得ない。ただ、高校まできちんと英語の文法を習っていなくても、大学入学後、集中的に取り組ませればキャッチアップは十分可能であると信じている。主部と述部の見分け方や基本5文型の識別から始まり、仮定法あたりまで、英文を読む上でいくつかのツボとなる文法のポイントを絞って学習させると効果があるようだ。そして、優秀な学生に対しては、現在は絶版となっている、ジャパンタイムズ社の『和英翻訳ハンドブック』掲載の、誤用、時制の一致、定冠詞の用法、複数形の用法、無冠詞形の用法などを教えている。 ニュース英語——科学技術英語への橋渡し入学する学生が皆、英語が好きで、得意なわけではもちろんない。苦手意識を持っている学生にとって英語の授業を「苦行」としてはならないのは言うまでもない。そのため、筆者は必修英語のクラスではニュース英語を扱ったビデオ教材を使ってきた。それも米 ABC や米 CNN、英 BBC など英米放送局で実際に流されたニュース番組を材料に編集した教材だ。生きた、生の英語に触れられると同時に、高度なリスニングの訓練にもなり、教材も毎年新しいバージョンが発売されるので、教える側も飽きないという一石三鳥の効果を期待している。さらに、高校の英語教科書ではまず取り上げられないと思われる、イラク戦争やテロとの戦い、妊娠中絶や同性婚など論議を呼んでいるホットな話題も入ってくるという楽しみもある。語学を学ぶには語彙や文法に加えて使用されている国・地域の文化的背景を知る必要があることは言うまでもなく、その点でもニュース英語のメリットは大きい。 選択英語の授業では、英米の新聞の最新記事をネットで検索して、それを教材にすることが多い。特に日本をめぐる動きが英米のメディアでどのように報じられているか筆者自身も興味が尽きないので、学生の興味を引くためということもあり、日本関連のニュースを学期の初めには集中して取り上げる。その場合、背景説明はほとんど不必要で、その分、時間の節約になるという利点もある。 理系学生(学部)に対しては、ニュース英語に加えてやさしい科学系の読み物や科学トピックを扱ったビデオ教材を使用することもそれなりに効果的と思われる。科学系の読み物としては、英国のNatureや米国のScienceなどの論文集の中からニューススタイルに書き換えたものを編集したテキストが何冊か出ており、授業に役立てている。 ただ、留意しなければいけないのは授業のためにニュース番組を無断で録画して、著作権を侵害しないことだ。英BBCなどは全国の大学のシラバスをチェックしているとも聞く。そのため、市販のビデオ教材を利用するのが安全だ。 さらに筆者の勤務する大学では、選択英語として「コンピューター英語」や「化学実験英語」がある。前者は、インターネットやコンピューターに関する基礎的英語の文献を辞書を使って読めるようにするのが目的だ。『英語でインターネット』(南雲堂)という教科書を使用、インターネットとは何であるのかということから説き起こし、Eメールや the World Wide Web(www)を使った検索に関連した英語を学習させる。後者は、筆者の勤務する大学で実施される化学実験を英語で表現したオリジナル教材を使い、実験で用いられる表現を聞き取り、読めるようになることが目標だ。例えば、実験でよく用いられる「ビーカーを振る(shake the beaker)」「2つの溶液を混ぜる(mix the two solutions)」などの動作を表す表現を学び、実験器具の英語の名称も覚える。 このほかに、「科学技術英語(English in Technology)」という選択科目が、電気、機械、環境など専攻分野ごとに用意されている。各専攻課程の日本人教師とネイティブの外国人英語教師がチームを組み、各専攻の専門書を学生に講義するというものだ。日本人教師は、さまざまな科学法則や原理などの内容(factual information)を、外国人教師は英語の構文の把握や文法など英語の使用法について説明する。 さらに各専攻課程の先生方は専攻に関連した論文を読む準備として、必修・選択の一般英語課目とは別にテクニカル・タームなどを集中的に教えている。これは文系出身の英語教師には難しいと思われる。 このほかに付け加えなければいけないのは、工学部など理系に限ったことではないとも思えるが、最近のTOEIC重視の傾向だ。TOEICについてはさまざまな議論もあるが、学生の読む力・聞く力を測る尺度として筆者の大学では重宝されている。学生が就職活動で申告する重要項目の1つであることは言うまでもないが、学部から修士課程への進学の際、成績審査の1項目ともなっている。 abstract writing, written and oral presentation大学院(修士課程)ではプレゼンテーションの能力を涵養することが重視されている。abstract writing と written and oral presentation だ。日本人学生が英語で論文を発表したり、海外での学会で口頭発表できるようにすることが主目的だ。専門分野によってもちろん違いはあるが、科学技術の世界では英語の論文を求められるケースが多い。さらに筆者の勤務する大学では海外からの留学生が約10%を占めており、彼らの大半は英語で修士・博士論文を書くため、必要に迫られて英語での論文のライティングを学習する学生は多い。 しかし、プレゼンテーションのクラスは少人数でないと教師の負担が多大なため、定員を15人程度に設定することが多い。それでも数コースが用意されており、学生からの需要をどうにか満たしている。 abstract writing は論文の abstract(概要)や introduction の書き方を教えるコースだ。手紙など普通の英文ではなく、アカデミックなスタイルとはどういうものかも教えていく。abstract 自体はそれほど長くないが、一定のスタイルがあったり、読み手の興味を引き付けるためにどうやればインパクトのある英文を書けるかなどのハードルがあり、それほど容易ではない。これはニュース英語の導入部分(リード+第2、3パラグラフくらいまで)を書くつもりで、簡潔にかつ vivid な表現を使うよう教えている。例えば、序論(introducton)、本文(main body)、結論(conclusion)の3部分にきちんと分けることを指導している。 written presentationのクラスでは、まず学期の初めにモデルとなる論文を読み、その構成などを検討させたうえで、実際に構成・要旨を作成させる。学期の中間あたりをめどに、論文の主要ポイントをパワーポイントを使って発表させ、それに対して教師だけでなく、ほかの学生もコメントすることになっている。その後、コメントを反映させた英文の論文執筆に取り組ませる。日本語の論文でも同じだが、正確でもガチガチに硬くて読みにくい論文を避け、流れのある、読みやすい英文の論文が書けるよう指導に努めている。これに関連して、例えば頭でっかち(top-heavy)な文章にしないとか、原則としてワンアイデア・ワンセンテンスにするなどの点を強調している。また、論文の新規性(originality)はどこにあるのか、ほかの論文などから引用した場合、原典を明記しているかについても留意するよう指導している。そして、最終的に学生がそれぞれ自己の修士論文を英語で書き上げられるよう指導していく。 oral presentation 1のクラスでは、オーディオテープやビデオテープを使い、presentation のスキルや、使用する特有の語彙・表現を教える。英会話の授業を発展させた形態とも言える。 まず、(1) 国際学会での現場で登録に必要な英語、(2)presentation 資料の準備、(3) beginningと ending に留意した実演、(4) 声調やボディーランゲージ、(5) 質問のさばき方、などに焦点を合わせる。(1)については物怖じせずにはっきりと大きな声で自分の氏名や所属を述べ、相手の言うことが分からない場合、何度でも聞き返すよう指導している。(2)ではパワーポイント資料の作成、(3)では、効果的な盛り上げ方、(4)ではマイクを使う場合と使わない場合の声調の調整、身振りについてはポインターの有効活用などを教えている。(5)に関しては、“Thank you very much for your valuable comment.”(貴重なコメントをありがとうございました)、“Let me first summarize your valuable but a bit long question, as I understand it.”(あなたの貴重ですが、少し長めの質問を私の理解に従って要約させてください)などを教えている。 理系英語へのチャレンジ理工系の学生は、膨大な量の論文を紙媒体だけでなく、電子ジャーナルなどの電子媒体で絶えずフォローし、研究成果を英文の論文で発表することが求められている。ひと昔前と比べると、電子媒体の発達に伴い、読解とライティングのスピードも要求されるようになった。基礎的な文法をきちんと身に付けていない学生を数年間でこうしたレベルにまで引き上げていくのは至難の業だ。しかし、グローバル化の進展や“情報爆発”の時代に、科学研究者やエンジニアとして生き延びていくためのツールとして、理系英語の必要性は今後、一層増大するだろう。 |
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