いま、4技能を統合的に教える必要性
—そして、さらなる技能も!
2008年3月31日
2008年3月31日
|
東京国際大学教授 新里眞男 Niisato Masao 「4技能の総合的な育成」が改訂のコンセプト![]() 「英語教育」2008年4月号(大修館) → 目次はこちら → 定期購読はこちら From "The English Teachers' Magazine" April 2008 Vol. 57 No. 1 (Taishukan) なぜ今「4技能の総合的な育成」が求められるのか。答申ではいくつか理由らしいものが挙げられている。中学校では、「聞くこと」は良好だが、「コミュニケーションの中で基本的な語彙や文構造を活用する力が十分身に付いていない」とか、「内容的にまとまりのある一貫した文章を書く力が十分身に付いていない」などが指摘されている。高校では、「『英語I』で、文法・訳読が中心となっている」とか、「『オーラル・コミュニケーションI』において「聞くこと」「話すこと」を中心とした指導が十分になされていない」と指摘されている。これらの理由から「4技能の総合的な育成」が必要とされたのである。 実を言うと私は、上のような理由で「4技能の総合的な育成」をキー・コンセプトとして掲げるのには、少々無理があると思っている。例えば、現行の中学校学習指導要領では「聞くこと」「話すこと」がもともと重視されているので、「聞くこと」が良好でありながら、「書くこと」が不十分なのは当然予想されることであり、それを理由に今さら「4技能を総合的に育成」すべしと言うのはおかしいことになる。特に、中学卒業時での到達目標やcan-do listが具体的に示されていない中で、どうして「書くこと」の技能が不十分と判断されるのか疑問である。また、高校では「聞くこと」「話すこと」が中心的となるべき「オーラル・コミュニケーションI」で「聞くこと」「話すこと」が十分指導されていないと言う。おそらく、この科目が、「オーラル・コミュニケーションG」という文法指導の授業に化けている実態などを指しているのだろう。 いずれにしても、この科目の趣旨が徹底していなかったのであれば、そのことを直接的に問題にすべきであり、「4技能の総合的な育成」にすり替えない方がよいと考える。新しく提案された「コミュニケーション英語」という科目も、その趣旨が徹底されず、抽象的な「4技能の総合的な育成」だけをよりどころにするならば、従来の「英語I」がたどった運命と同じように、文法・訳読中心になる可能性がある。 しかし、答申で示された「4技能の総合的な育成」というキー・コンセプトそのものには賛成する。大学などで英語教育の専門家が個々の技能の指導法について研究を進めるのはよいが、中学校・高校での指導はこの考え方を基本にすべきである。そして、これは現行の学習指導要領でも繰り返し述べられている考え方であるからだ。例えば、高校の各科目の「内容の取り扱い」には、逐一4技能の総合的・有機的な関連を図った指導を工夫するように求めているのである。 「4技能の総合的な育成」とは「4技能の総合的な育成」とは何を意味するのか。上で述べたように、指導の結果、4技能のうち十分に育成されていない技能があるから、その技能にも配慮をすべきだという場合、指導の結果としての「総合的な英語力」が想定されている。つまり、「4技能の総合力」が理想であり、それを育成しようというメッセージである。もう1つは、そのような「4技能の総合力」としての英語力を育成するためには、授業の中で4技能を総合的に活用するような指導方法を取るべきであるというメッセージである。残念ながら、答申では、これらのうちどちらのメッセージが意図されているかよく分からない。おそらく答申の作成者は両方を意図していると言うだろう。もしかすると、そこまで議論が煮詰まっていない可能性もある。学習指導要領や『解説』で具体的な内容が示されるのを待つことにする。 「総合的な英語力」とは4技能が総合された英語力とは、一見自明のことのように思われるが、実態はつかみにくい。ネイティブ・スピーカーだって、4技能が総合的に身についているのだろうか。そもそも4技能の総合とかバランスとかは何を意味するのだろう。英語力テストの中には、4技能のそれぞれに同じ点数が配分され、その総和を総合的な英語力としているものもある。しかし、4技能が全く量的にも質的にも同じ重さをもつということが実際にあるだろうか。例えば、語彙力に絞っても、受容語彙と発表語彙では量的にも質的にも違いがある。つまり、「聞くこと」と「話すこと」には質的・量的な違いがあり、単純に両者の「総合」や「バランス」の議論はできない。まして「読むこと」「書くこと」を含めた4技能の総合とかバランスなどは、とうてい明確に定義できない。今回の学習指導要領改訂で、英語の「4技能の総合的な育成」をキー・コンセプトとするのであれば、それが何を意味するか明確にする必要がある。例えば、4技能それぞれにおける具体的かつ明確な到達目標(can-do listでもよい)を示してほしい。そうでなければ、「4技能の総合的な育成」が、単なるかけ声だけになってしまう。 4技能を総合的に活用した指導に向けてむしろ、「4技能の総合的な育成」の第2番目のメッセージである4技能を総合的に活用した指導方法のあり方こそ、今回の答申の核心かもしれない。しかし、これも、実はなかなか理解と実行が難しいコンセプトである。総合というのは、もちろん、ただ50分の授業の中に機械的に4技能を押し込めればよいというものではない。仮に、1つひとつの活動はおもしろく一見有意義に見えても、結局、授業全体としては「総合的」ではなくなる。 4技能の総合的な指導とは、普通は、指導すべき語彙、文型・文法事項などの言語材料やあるテーマに関する英語を、聞き、話し、読み、書くという4技能を相互に関連づけた活動を行って、取り入れ、整理し、内在化し、表現することを指すのであろう。4技能を連携させつつ活用することで定着のスピードと深さが増し、結果として総合的な英語力につながると想定されているのである。 では、そのような4技能の総合的な指導のためには、どのような工夫をすればよいのであろうか。ここでは、以下の7点を提案することにする。 (1) 基本的に英語を使って授業を行う。 (2) 語彙、文型・文法の導入に関して、L→S→R→Wの順序を基本的に守るとともに、それぞれに費やす時間を意識的に確保する。 (3) 教科書本文の内容を扱う中で、4技能を意識する。 (4) 現実の言語使用をもとに、authentic な活動の連携を考える。 (5) スピーチやディスカッション、ディベートなど、4技能の総合的な活用を前提とした活動を取り入れる。 (6) プロジェクトワークなどを取り入れる。 (7) 4技能の総合的な活用そのものを評価活動として取り入れる。 (1)の授業における英語使用は、LとSを日常化するための必須事項である。挨拶、指示、ほめ言葉などの教室英語だけではなく、教師と生徒が日常的なやりとりを英語で行うことが大切である。英語で生徒の健康状態を聞いたり、ニュースや行事、試験の結果などについて話し合ったりすることも授業内容である。それを意識したい。 もちろん、文法の複雑な説明は日本語でやるべきだが、1回の説明は3秒程度に限り、"Little by little, but again and again."の精神で少しずつ理解を深め、習熟を図ることが大切となる。 (2)は、言語材料の導入や習熟、定着を図るドリル的な練習活動においても、4技能のそれぞれを意識することである。例えば、新語の導入の際に、いきなりフラッシュカードで単語のスペリングを見せるのではなく、絵やイラスト、対話の中で音声と意味の結合を図ることから導入し、それから意味のある対話をさせて練習させるのである。これなどはぜひ守ってほしい順序であるが、多くの授業では、いきなり単語のスペリングを見せてしまい、意味も教師が与えることが多い。 新出の文型・文法の導入に関しても同じである。いきなり「今日は現在完了形の勉強をします」とか「仮定法の勉強をします」などと説明から入るようでは、たいがい4技能の総合のことは考えていない。新しい項目をどのような場面の中で紹介しようかとか、どのように生徒に「現在完了形」や「仮定法」の本質的な機能を体得させようかなどを考える教師にとって、4技能の総合的な活動はある意味で当然のことなのである。指導項目を含んだoral introductionを聞かせ、それについての Q&Aをし、次に文字で示したものを説明し、その後repeatさせ、さらに生徒自身の情報や気持ちをその文型・文法を使って書かせ、最後にはそれを口頭で発表させるのである。ここまで読んできて、「ああ、あの当たり前の手順のことだな」と感じた人にとって、以上のことは"preaching to the converted"であろう。 (3)の教科書の本文を扱う際に4技能の総合を考える点も、それほど目新しいことではない。悪い例は、ロクにoral introductionの形でLを行わず、いきなり教師のあとについて音読させてしまうものである。そして意味の確認は日本語に訳させるだけ。これでは、LもRも行われていない。少なくとも、本文のoral introductionを聞かせるとか、CDで聞かせた内容の理解を確認するとかのLの作業は欲しい。また、訳をさせることは、本来のRとは言えず、日本語に訳させることと本当に理解することとは別物であることは、英語教師自身がよく知っていることであろう。さらに、本文理解の後、音読は欠かせないが、その音読後、その成果をQ&Aで確認したり、サマリーを書かせたり、reproductionをさせることもできる。本文を批判的に読ませるために、選択肢を与えてその中から自分の賛成する意見を選ばせたり、本文の内容に関する例を考えて述べさせたり、生徒の立場に置き換えて「自分だったらどうするか」を考えさせたりするなどもできる。 上のように教科書を活用するためには、徹底的な教材研究が必要である。本文の1つの英文について2〜3個の英文質問文を事前に考えられるような徹底的な読み込みが必要である。 (4)のように、現実の言語使用を踏まえてauthenticな4技能の連携を考えることも工夫の1つである。ニュースを聞き、その内容を簡単に1文で相手に伝え、自分の感想を付け加えるというのは母語でも日常的に行っていることである。これを英語の授業でやるだけでもLとSの活動は確保できる。また、自分のこれからの予定を置き手紙のように英文で書き、それを読んだ人が返事のメッセージを書き加えるという活動では、RとWが保証される。このように、現実的な場面を想定してコミュニケーション活動を組み立てようとすれば、自然と4技能のうちの複数の技能をカバーできる。 (5)に挙げられている活動では、下準備としてLとRを通して情報と英文そのもののinputが行われ、次に、発表活動の準備としてWが行われ、さらに、書いたものを音読などで自分の表現にし、最後に実際にL、Sを行い、完成させる活動である。特に、これらスピーチやディベートなどの活動を小グループやペアで行うような工夫をすれば、多くの生徒を同時にinvolveでき、効果的である。 (6)プロジェクトワークも基本的に(5)と同じであるが、比較的長期間にわたるものなので、4技能の総合という側面をより充実させることができる。しかし、調査や考察の段階で母語に頼ることが多くなる傾向もあり、教師の側の制御が重要になる。 (7)では、まず、4技能の総合的な活動を日常的に実施しながら、その中で個々の生徒を観察評価することがある。次に、テストなどで客観評価する際には、評価のための活動そのものが4技能を総合したものになっていることが大事になる。ふだん4技能の総合的な育成を目指しながら、評価の段階では単一技能の活動しか用意しなければ、生徒はすぐネガティブな反応をするようになる。 4技能だけを総合すればよいのかここで、英語力向上のためには4技能の総合だけでよいのかということを考えたい。私は、英語能力の基礎・基本として「車両モデル」を15年以上も前から提案している。車の左輪が発音、語彙、文型・文法、パラグラフ構成などの言語材料に関する知識と技能を表し、右輪は、感情、思い、思想、情報などの表現内容を表している。そしてこれらの両者を結びつけ、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度が車のエンジンに相当するとしてきた。 この両輪とエンジンが1セットそろうのが基礎・基本であると考えている。左輪で示される4技能のどれか1つを扱う際にも、右輪であるメッセージの内容との関連が必要であり、また、コミュニケーションへの積極性というエンジンの存在も無視できない。まして、4技能の総合的な育成というとき、右輪とエンジンを忘れてはならない。 授業で生徒が何を表現すべきか困惑しているのをよく見る。それは、右輪である表現内容をじっくり考えて生み出し、それと自分の持っている英語力と結びつけて表現していくというプロセスを体験させ、訓練させていないからである。 4技能に加えて、第5の技能として"thinking power"を入れる人もいるが、総合的な英語力を論じるとき、単に一般常識や他の教科で学習する内容を英語で言わせようとしてもだめである。そのような知識と自分の英語力とを照らし合わせ、どのようにしたら自分が表現でき、かつ英語らしく、論理的な英語になるかを考える思考力こそ、総合的英語力には必要だと考える。 さらにもう1つの技能生徒は、もう既に日常的に英語を使う時代に入っている。これは、単に学校にいるALTと年に2言3言英語を交わすことを言っているのではない。小学校で週1回nativeの英語に日常的に触れてきている時代なのである。そこには、4技能、いや、5技能の総合だけではない、もう1つの技能との総合が必要になる。それは何か。鳥飼玖美子氏も数年前の岐阜での全英連大会で言われたような「異文化理解に基づいたコミュニケーション能力」である。これは、M. Byramなどが唱道している「異文化コミュニケーション能力」とほぼ同様なものであるが、4技能という言語技能の総合的な習熟にとどまらず、異文化理解と自己のアイデンティティ意識をも含んだコミュニケーション能力をさすものである。車両のモデルで言えば、車両が前進する先に異文化理解や自己のアイデンティティという凸凹やカーブの多い道路があり、それに向けて車両全体を調整するようなコンピュータの働きを加えたモデルであるといえる。 異文化コミュニケーション能力をどのように育成するか。前述のByramの著作やCouncil of Europeからの出版物などで指導の具体例が示されているが、まだまだ日本の学習者に合ったものは少ない。国内でも異文化理解に重点を置いて英語の授業を推進している教師もいるが、どちらかというと異文化理解に関わる知識と態度の指導に重点が置かれていて、4技能の総合的な育成と密接に関連させている実践はまだまだ少ない。これからに期待したい。 最後に文科省がこれから出版する『解説』に向けて要望めいたものを記しておく。4技能の総合的な育成の先にコミュニケーション能力があるのか、4技能の総合的な育成が到達目標なのかを明確にしてほしい。現行の学習指導要領で、私としては「実践的コミュニケーション能力」という言葉で上記の「異文化コミュニケーション能力」を念頭に置いていたが、これらは4技能の総合的な育成というコンセプトの中に含まれるのだろうか。これも明らかにしてほしい。 |
|
「英語教育」2008年4月号 |
|||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||
|
大修館よりオススメの新刊 |
|||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||
日本在住の外国人英語教師のためのサイト「ELT News」の求人広告をご活用ください。ELTBOOKS.comのお客様は、求人広告欄が1ヶ月間無料!