先生だって元気になりたい!
2007年8月01日
2007年8月01日
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名古屋学院大学教授 佐々木みゆき Sasaki Miyuki 教えることに関わる一冊![]() 「英語教育」2007年8月号(大修館) → 目次はこちら → 定期購読はこちら From "The English Teachers' Magazine" August 2007 Vol. 56 No. 5 (Taishukan) ある時、ぷっつり「やる気」が出なくなって、長い間低迷した。会議に出ると偏頭痛の発作が出る。同僚の顔を見ると吐き気までしてくる。重症だった。毎日救いがなく、よろよろと迷い入った本屋で、齋藤孝の『働く気持ちに火をつける』(文藝春秋)という本を手に取った。私みたいな「湿った棒切れ」でも「火」がつくかなあ、と疑いながら買って帰った。さすがに「火」がぼうぼうというところまではいかなかったが、ともかくこの本に救われた。もし、読者の方が私のような「重症」なら、表題作よりこの本の方がお勧めである。字が大きく短時間で読める。この本のメッセージで特に私に効いたのは、「上機嫌を技化する」という1行である。上機嫌が仕事上の「技」なら、それでお金をもらっているプロとしては、技を尽くさなければという気になった。なにより、「上機嫌のふり」は結構楽しくて、いつしか「ホントの上機嫌」に移行していることも多かった。 もし読者の方が、それほど「重症」でなく、1学期の疲れを癒して、2学期に備えたいだけなら、同じ著者の表題作がお勧めである。底辺に流れているのは、『働く気持ちに火をつける』と同じ、「仕事を祝祭にする」という齋藤氏独自の哲学だが、こちらは「教える」仕事に特化している。「祝祭」だから、見返りを求めない。「それは、神輿を担いだエネルギーを返してくれという人が、一人もいないのと同じ事なのだ」。しかし、神輿を担ぐにも努力がいる。苦しい。でも楽しい。だって、学ぶことは本来楽しいことだから。このメッセージがまっすぐ心に届く人は教師に向いている。 随所に具体的な授業の工夫が書かれているのもうれしい。「発問で、考えるための道具立てをどれだけ用意できるか」、「学習というのは、自分が関わったと思えると急に吸収が深くなる」、などなど、どれも、明日からの授業に役立ちそうだ。どの提案も、齋藤氏の教育学者としての研鑽の成果と思われる理論が(多分)支えている。しかし、理論がむき出しの形でなく(引用が無い!)、思わず引き込まれる具体例とわかりやすいノウハウを付けて提示されている。読み終わると、この本自体が齋藤氏が見せてくれた「祝祭」だったのだという気がした。「ね、教えることって、楽しいでしょ?」と一緒にお神輿を担がされているうちに最終ページに至る。 時々ぷっつりやる気が無くなる私としては、楽しかったお祭りのように、「この本のことを思い出せば元気が出る」と思えるだけで、なんだか幸せである。 学ぶならこの一冊八島智子『外国語コミュニケーションの情意と動機』(関西大学出版部、2004)私の専門分野である応用言語学では、「動機付け」は今ホットなトピックの1つである。1970年代にカナダで盛んになった動機付け研究は、低迷期を経て、90年代に若い研究者たちが教育学や心理学からの新しい知見を加え、再びワクワクするようなおもしろい研究対象になりつつある。私自身の「第2言語ライティング習得」の研究でも、留学から帰ってきた大学生がみな、「英語でもっとうまく書けるようになりたい」と以前とは違った動機付けを口にするので、ここ10年ほど、動機付け研究の動向に注目していた。 すると、「新しい動機付け研究を担う研究者」として国際雑誌に何度も出てくる名前Tomoko Yashimaに気づいた。日本人女性研究者である。うれしくなって、彼女の論文を読み始めたら、おもしろい。今まであまり光をあてられなかった「(英語圏以外で学ぶ)外国語としての英語学習者」を対象に、全く新しい概念「国際的志向性」を用いて、日本人の英語学習への動機付けを説明している。従来の動機付け研究が、英語を勉強する日本人学習者にはしっくりこない気がしていた私は、「これだ!」と膝を打つ思いだった。八島氏の一番最近の論文が日本語で書かれていないのは残念だが、その土台になった考え方や動機付け研究のこれまでの変遷が、表題作にわかりやすく書かれていてお勧めである。「動機付け」が自己認識や文化的価値、指導者との力関係もからむ複雑な要因に常に影響されていることがよくわかる。 この本の中で特に興味深かったのは、「学習者が『理想の自分』を想起することで動機付けが高まる」という考え方である。英語教育で言えば、「英語を使っている将来の自分の姿に意味と誇りを見いださせる」というようなことだろうか? この考え方は前述の『教育力』にある「あこがれにあこがれる関係作り」に通じるのではないだろうか。指導者自身が何かにあこがれ、その姿の向こうに学習者が「理想の自分」を見ることができるような教室があれば、確かにそこは祝祭だろう。 今年の春、八島氏ご本人とお話する機会があったのだが(大変チャーミングな方である)、長い間コミュニケーション学をご専門にされ、上記「国際的志向性」という概念が生まれるまで10年以上の地道な基礎研究があったことを知った。日本在住で颯爽と活躍する八島氏の姿に励まされる研究者は多いと思う。これからのご活躍も期待したい。 愉しめる「一冊」J.K.Rowling (Performance by Jim Dale) Harry Potter and the Prisoner of Azkaban (Random House Audio Publishing Group, 1999)今年の3月まで16年間、自宅とは別の市にある勤務先に片道1時間半かけて通っていた。自転車、地下鉄、JRと乗り継ぎ、最後の30分が峡谷を走るノンストップのスクールバスである。このバスで活字を読むと酔ってしまう。というわけで、だいたいは、英語の小説を朗読したテープを聞いて過ごした。特にここにあげたハリー・ポッターのシリーズは秀逸で、ナレーターのJim Daleは第1巻の語りでグラミー賞にノミネートされたほどである。主人公のハリーは少しやんちゃで冒険好きな少年として、親友のハーマイオニーは優等生の多感な少女として、ホグワーツ校長ダンブルドアは、慈しみ深い老人として語り、泣き、笑う。朗読テープに親しむまで、人間の声がこんなにも感情や性格、その人の歴史までもくっきり映すものだとは思いもしなかった。 このアメリカ版のシリーズは、どの巻もすべてJim Daleが朗読を担当していて、みんなお勧めだが、私はこの3巻が特に好きである。かなりの長編だが、最初に提示された謎が最後までハラハラドキドキの状態で持続し、たるみが無い。しかも、最後のどんでん返しであっと驚くと、最初からの伏線がなるほどと納得できるという、上等のミステリー仕立てになっている。その上、この巻での重要人物であるルーピン先生の素敵なこと。みすぼらしい格好をして風采のあがらない彼が、人間性と教授力で、すぐにハリーたちホグワーツ生の心をつかんでいくくだりは、本当に胸がすく。そう、彼は、まさに、上掲『教育力』で齋藤氏の言う「教育力」を十分に備えた教師なのである。 どの巻も全て unabridged(全文)で語られているので、日本語版のファンの方には、英語のいろいろな表現が勉強できるという楽しみ方もあると思う。原作もすばらしいので、たくさんの宝石のような台詞がちりばめられている。特に私が好きなのは、父親の死を嘆くハリーにダンブルドアが言う "Your father is alive in you."。何度聞いても、ハリーの気持ちになって、涙が出てくる。 今年4月に勤務校が自宅と同じ市に移り、スクールバスの通勤はなくなった。もう、バスに揺られながら、主人公になりきって泣いたり笑ったりできないのかと思うと、ちょっと残念である。 |
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「英語教育」2007年8月号 |
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