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英語教育エッセイ

国内外で活躍する英語教育業界関係者によるエッセイコーナー

コーパスと語法
— 用例を位置づける視点

2007年7月01日


英語語法研究家
滝沢秀男
Takizawa Hideo


理論と現実(データ)の狭間で

英語教育の最新版
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From "The English Teachers' Magazine" July 2007 Vol. 56 No. 4 (Taishukan)
私はコーパスの研究者でも専門家でもない。ただ、さまざまな有用な理論と現実のデータに注意し、その間を行ったり来たりしながら、納得のいく理論や説明を探し求めてきた。

さまざまな理論から有益な観点を見出してきたが、今はJespersenやHuddlestonのような路線に一番、安心感を覚える。彼らの分析と記述の多くにバランス感覚があり、たぶん常識的にかなり納得のいくものであるからだと思う。

以前、University College London(UCL)の英語学科の大学院で学んだが、そこは、Randolph Quirk等がThe Survey of English Usageを作り、コーパス研究の先駆けとなった場所であった(幸運にもBas Aarts先生が授業に一度だけそのQuirk先生を呼んでくださり、1時間ほどであったが、Quirk先生からお話をお伺いしたことを思い起こす)。そのコーパスを利用した最大の文法書がA Comprehensive Grammar of the English Language(1985)であった。しかし、私がUCLにいたころ(1996‐1997)は、既にコーパス研究の最先端は、ランカスターやバーミンガムになっていたと思われる。

UCLではコーパスに関する授業は特になく(それ以前もなかったのかもしれないが)、理論を追求する態度を大事にしていたと思う。まだHuddleston and Pullum著のThe Cambridge Grammar of the English Language(2002)が出る前であったが、Quirk et al.著の記述に関して、それが生まれた場所で教えている研究者(先述のAarts先生)が問題点のいくつかを指摘していた。Quirk et al.(1985)は現実の用例を大切にしたが、それを説明する理論や整合性が足りないところがあるというのであった(私が UCL へ行く前にいたエディンバラでも、Keith Mitchell先生が似たようなことを指摘していた。いずれもHuddleston and Pullum(2002)の草稿を既に見ていた人たちである)。例を1つ挙げれば、たとえば、従属節の分類の仕方などである。

そのような空気を肌で感じられたことは、健全な批判力を養ってくれたと思う。自分の納得のいく説明を探し求める私の姿勢を、UCLのValerie Adams先生が、He combines, perhaps unusually, an open-minded interest in theoretical issues with a meticulous concern with data and with the details of English usage. と記してくれたことがある。この言葉が自分に当てはまるとは思われない。けれども、そのようにありたいと思い、この言葉を大切にしている。

ここでは、用例というものに関して、自分の身の丈で現実にこれまで感じてきたことを記してみたい。コーパスの有用な点について実例をあげ、また、その反面、コーパスに限らず、実例という名の落とし穴について触れたいと思う。コーパスの上手な検索といった技術面については触れない。

コーパスが役立った例

1999年、本誌で文法に関する連載をしたとき、someとanyに関して、「肯定文ではsomeを使い、疑問文、否定文ではanyを使う」という説明は、そのまま正しいわけではないことを指摘し、assertion、non-assertion の概念と強勢を考慮すると、例外を設けることなく説明がつくことを述べた。ちなみに、「肯定文ではsomeを使い、疑問文、否定文ではanyを使う」のような説明は、日本だけのものではない。英語を母語とする著者による学習文法書の多くにも用いられているし、英語を母語とする(外国語としての)英語教師の多くがこの説明を用いている。したがって、この文法領域は日本人に限らず多くの外国人にとって理解が難しいのである。この件に関して以前、フランス人とも話をしたことがあり、彼らにとっても難しい項目であることを確認したことがある。

この説明がどの程度妥当なものなのかを考えるために、次の4つの命題に置き換えてみることができる。それぞれの命題に関して、以前、数冊の本を言語資料とし調査したところ、[  ]で示した数字が出た(それらの言語資料の中に出てくるすべてのsomeとanyの用例を調査した数字である。もちろん、言語資料の種類や大きさにより、結果は多少異なるであろうが、自分には納得のいく結果であった)。

(1)someは(否定文や疑問文よりも)肯定文で用いられる。[約90パーセント]
(2)someは(anyよりも)肯定文で用いられる。[約80パーセント]
(3)anyは(肯定文よりも)否定文、疑問文で用いられる。[約60パーセント]
(4)anyは(someよりも)否定文、疑問文で用いられる。[約80パーセント]

この結果から、それぞれの命題の有効性の関係を示すと、次のようになる。

 (1)>(2)、(4)>(3)

だが、統計的には(3)の命題を除けば、およそ80パーセント以上の使用は上記の説明に当てはまると言える。それゆえ、肯定文のanyは頻繁に用いられるにもかかわらず、多くの学習文法書や教師がそれを例外的に扱うことも理解はできる。

では、それでいいかというとそうではない。「肯定文ではsomeを使い、疑問文、否定文ではanyを使うことが多い」のように、規則ではなく、傾向性であることを示した方がよい。このように説明することで、学習段階が進んだ分だけ、用法の全体像に近づいていけるのではないだろうか。

コーパスの落とし穴と用例を位置づける目

次の例は、ネットで検索した際に、検索結果の解釈に注意が必要だと思った1例である。それは、不定冠詞と数詞oneの違いを如実に示す用例に関するものである。

不定冠詞は、数詞one(1つの)が原義である。だが、次のような場合、oneとaは交換できない。

(1)There is only one man living in the village.
(2)*There is only a man living in the village.

不定冠詞aはoneほど強く「1つの」という概念を表出しない。むしろ、不定の概念の方が強い感じがする。だから、onlyと共起するのは不自然なわけである。

このことに関して、数年前、ネット検索をしてみたら次のような数字が出た。

(3)There is only one man ...6900件
(4)There is only a man ...140件
(約2パーセント)
(5)There is only one man living ...13件
(6)There is only a man living ...1件
(約7パーセント)

面白いことに、livingを加えると用例が極端に減るので、(6)のように1件しかなくても、約7パーセントも占めてしまう。これは、サイコロなどを振ったときの出る目の確率と同じで、母集団が多くないと正確なものにならない場合が多いので、扱いに気をつけなければならない。

また、ネット検索の場合は、ネイティブスピーカーのものでない例が多く混じっているので、その点を心得ておかなければならない。

昔よく「ゴキブリを1匹見つけたら、数十匹は隠れている」ということを聞いた。しかし、ドアを開けておいたら、たまたま1匹だけ入ってきたものを目にしたということもあると思う。

ある現象を見たとき、それが突発的な、その場かぎりのものなのか、氷山の一角あるいは1つの流れとなっていくものなのかを考えることが大切である。そういう意味で、頻度を調べられるコーパスは役に立つ。

その用例は正しいか?

しかしながら、日本語の例で考えればよくわかることであるが、用例が多くあるからといって必ずしも正しいとは言えない。

2000年のあるニュース番組で、アナウンサーが「これらのデータから、決して回復の動きを見るのは難しい」という表現を使った。このアナウンサーは「決して回復の動きをみることはできない(だろう)」と言おうとして、途中でもう少し断定的でない、「難しい」にスイッチしたと考えられる。

このような例(ちぐはぐな表現)はよくある例である。どうしてそのような表現になってしまったか説明はつくが、正しいとは思わない。つまり、ネイティブスピーカーが使った表現であるからというのは、正用法を考える上では必ずしも参考にならないことがあるのだ。ただ、どのようにしてそのような表現が生じたのか分析してみることは、言語に関する興味深い洞察を与える。

その逆の、正しいが耳慣れない例もある。実際、(英語を専門としない)ネイティブスピーカーが容認しないと言った文でも、Huddleston等の文法学者にお伺いしたら、容認できるとわかった例が今までいくつかあった。さらに、たとえば、生成文法等に出てくる用例の一部は、性質上、実例として通常のコーパスに出てくることが稀であるのは当然である。

したがって、その用例がどのように位置づけられるものなのかという洞察が必要である。


最近気になった語法

Steven Pinker の The Blank Slateという書を読んでいたら、play air guitarという表現に出くわした。この表現を見たとき、なるほどと合点がいった。

エアギターというのは、ギターを弾いているふりをすることなので、実際にギターを弾いているわけではない。だから、guitarにtheつけないのは自然かもしれないと思ったのである。

早速、ネット検索してみた。その際調べたのは次の6つである。すなわち、guitarとairguitarのそれぞれに不定冠詞、定冠詞がついた例、そして、無冠詞の例である。

(1)play a guitar (2)play the guitar (3)play guitar/(4)play an air guitar (5)play the air guitar (6)play air guitar

おもしろいことに、ネット検索では6つの表現がすべて出てきた。

そこで、Huddleston先生にメールでお伺いしたところ、guitarに関しては、(3)の play guitarは、通例の意味ではほとんど不可ということであった。

air guitarに関しては、私の意見を支持されつつも、まだその表現に出くわしたことがないとのことであった。まだ比較的新しい表現であると思うので、今後出てくる実例を見守りたいと思う。


語法と用例との関係

伝統文法や語法と個々の用例との関係は、ある程度、法律と判例との関係になぞらえることもできる。判例の影響力によって法律が変えられていくこともある。

また、さまざまな道になぞらえることもできる。舗装された道路もあれば、道とは名ばかりの細いものもある。

魯迅の『故郷』の一節を変えて言えば、「思うに語法とは、もともとあるものとも言えぬし、ないものとも言えぬ。それは地上の道のようなものである。もともと地上に道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」とも言えるかもしれない。よく知られた例として、"Long time no see."などはその最たるものであろう。

とはいえ、いかなる語法であれ、人間の認知に関わっているので、いわゆる普遍文法の枠組みの範囲内でということになる。

現実の個々の用例を位置づける視点として大切なのは、理論と現実を見渡す全体観とバランス感覚である。


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