教案作成の基礎・基本
2006年3月31日
2006年3月31日
![]() 「英語教育」2006年4月号(大修館) → 目次はこちら → 定期購読はこちら From "The English Teachers' Magazine" April 2006 Vol. 55 No. 1(Taishukan) 卯城祐司 Ushiro Yuji 教案は授業の進行表であり、舞台のシナリオに譬えられることが多い。しかし授業では、演劇以上にアドリブが求められ、また、列車の時刻表とは異なり、生徒の理解に応じて常に軌道修正の判断が必要となる。従来の「一方通行型」の授業であれば、淡々と予定通りに進めることも多いであろうが、「インタラクティブ型」を目指す上で、どのような教案を作成すべきであろうか。 単語と文法を調べて安心していませんか?教育実習生の多くが先ず心配するのが、「わからない単語や文法があったらどうしよう」という点である。だから、ひと通り新出単語や文法事項を調べ、教師用指導書に目を通して、きれいに教科書に書き込み終えると安心してしまうことが多い。もちろん、プロの教師にこのようなことはあり得ないが、それでも、学習事項のチェックが終わると、少し安心するものである。学ぶ側の生徒であれば、それで予習は終了であろうが、私たち教師は、そこからが授業のプランニングの始まりである。当然のことながら、「学ぶこと」と「教えること」はイコールではない。では、教案作成に当たって、どのような準備が必要であろうか。教案作成にあたってすべきことは大きく分けて2つある。先ずは、(1)「言語理解プロセスの意識化」、そして(2)「効果的な提示方法の考案」である。(1)の「言語理解プロセスの意識化」は、教える生徒にとっての未習事項そして苦手な既習事項を把握し、つまずく箇所を予測することである。これが意外と難しい。何故なら、われわれ英語教師は、教科書で扱う英文であれば、おそらくほぼ無意識に処理することができるからである。その英文で一番大事なポイントであるトピック・センテンスなどもさっとつかめるであろうが、生徒は意識的に考えなければ探し当てられないかもしれないし、その場合、指示文などどんな情報からたどり着くかという生徒のプロセスを頭に入れておく必要がある。その上で、(2)「効果的な提示方法の考案」では、生徒にとって、どんな例文や説明が最もわかりやすいのか準備しなければならない。 授業案は二刀流ですか?教育実習生の例に戻ると、最後の研究授業などでよく見られるのが、授業の最後になって、教案のかなりの部分を残し、時計を気にしながら真っ赤な顔をして機関銃のようにしゃべり続けている姿である。おそらく、教案作成の段階で、生徒の内容理解の検討が不足していたのであろう。しかし、ベテラン教師であっても、予想以上に生徒がよく理解したり、あるいは新出学習事項の導入がうまくいかず、何度も説明をして時間が足りなくなることは、常に起こることである。生徒の理解を見ながら授業を進めていく姿勢を持っていれば、なおさら、このような可能性は高くなる。教案は、前述の通り大まかな進行予定表なのだから、必要以上にこの予定に縛られることはないし、また、最初から、柔軟な教案を作成することが可能である。ベテラン教師は教育実習生とは異なり、生徒の理解を見極めながら臨機応変に授業を修正する「柔らかさ」と「おおらかさ」を持ち合わせている。これが授業中の「教師の意思決定」(吉崎 1991)である。ベテラン教師は、その1時間の授業よりも、より大きな単元の視点に立つことにより、柔軟に授業計画を作り変えることが出来るのである。 授業計画のリ・デザイニングは、授業の前半は指導案の「内容の妥当性を高めるために」、そして後半は「デザインと生徒の実態のずれを解消するために」など、ベテラン教師であればあるほど1時間の間に何度も行われる。ベテラン教師は、無意識のうちに、生徒の視線、発問に対するやりとり、そしてペア活動中は教室内をまわるなどして、できるだけ的確に生徒の理解状況を把握しようと努める。単に生徒の理解不十分な状態を発見するだけでなく、授業計画とのズレを発見した場合、計画変更を必要とするほどかどうか、どのような選択肢をとるかなど瞬時に判断を下さなければならない。 このリ・デザイニングを成功させるためにも、できるだけ複線型の教案を作成すべきである。と言っても、それほど複雑な教案を作る必要はなく、例えば授業を大まかに「導入」、「展開」、「発展・整理」などと分け、「導入」を受けた後の「展開」、「発展・整理」をそれぞれ、「時間が足りない場合」、「時間が余った場合」などと分けて複数のプランを用意するだけでもよい。 次は関係代名詞目的格がターゲットの課の発展活動例である。 (発展活動:8分)※残り時間により1つ選択。 (1) チャンツ(時間がない場合) ・リズムに合わせて歌う。 さらっと生徒とチャンツを歌う。 This is the boy that I love. This is the boy who loves me. This is the bike which is nice. This is the bike which I bought. Well . . . life is not easy. (中本幹子. 2001. CHANTS for Grammar.『アプリコット』) (2) お絵かきクイズ(時間がやや残っている場合) ・先生の絵と説明を聞き、クイズに答える。 黒板に絵を描きながら、関係代名詞を用いてクイズを問う。 This is an animal which you see in the pond sometimes. This is an animal which you see on the ground sometimes. This is a bird which we don't eat. This is a bird which some foreign people eat.
This is an insect which flies above or near the water. This is an insect which has four wings. This is an insect which has big eyes.
This is an animal which some people keep at home as a pet. This is an animal which some people keep as a pet, but outside, not inside. This is an animal which you can see in the zoo.
(3) Warm-up 使用のプリントで友達同士で活動。 (時間が十分残っている場合の活動) ・教室を動き回り、友達同士で質問をし合う。 ・動きが出るように、自分の机を囲んでいる友達には質問しない。 Who is the sport player that you like the very best? (Singer / TV star / Food / TV program) 授業最初のウォームアップの目的を明確にしていますか?導入を考えるに当たって、生徒が家庭や塾でどれだけ予習をしているのか把握することが不可欠である。前時における予習の指示から、既に次の授業はスタートしている。例えば、最初の感動を大切にしたい英文を扱う場合は、「本文の予習はしないこと。タイトルだけを読んで内容を想像し、本文は読まないこと」という指示もありうる。前時の復習あるいはウォームアップの目的は、(1)前時までの理解の確認、そして、(2)学習事項について、前時終了段階までの言語感覚を取り戻すことにある。ウォームアップは、英語の歌やビンゴゲーム、オーラル・イントロダクション、What(Who)am I? などさまざまな活動がある。英語の授業へと気持ちを切り替えたり、英語の口慣らしなどの目的があるが、本時の中心となる活動とのつながりを大切にしたい。ロンドンを舞台とする本文を読む場合は、インターネットから探した観光案内を探し読みしたり、観光ビデオを見たりするなど、導入からまとめに至るまでの流れを大切にしたい。 学習事項が繰り返し登場しますか?学習事項を板書して説明し、数回リピートしたら生徒に定着するとは誰しも考えていないだろう。しかし、大事な文法事項などは1時間の授業の中に何度も登場させ、生徒の学習機会を増やす工夫が、教案の中に欲しい。次は現在分詞・過去分詞が復習事項、接触節がターゲットの課の教案からの抜粋である。現在分詞、過去分詞を用いた英語のあいさつ(2分)の後、次のような復習を行った。 (復習:10分) ある国旗を示し国名を当てさせる。生徒がItalyと解答した後で、サッカーの中田英寿選手の写真(当時)を提示し、This is a picture taken in Italy. という英文を提示する。次にNew Zealandの国旗を当てさせ、kiwiの写真を見せ、次に、These are three kiwi fruits sent from New Zealand. という英文を提示。全部で5つ国旗や写真を提示。 (言語材料の導入:5分) 筑波大学の紹介スライドをPowerPointで作成し、スライドにあわせて、They are students I teach in my class. / This is the meal I had yesterday. / This is the cafeteria I like best. / This is the campus bus we use every day. / He is a teacher everybody knows. などと解説し、その後で、もう1度、英文入りのスライドを提示する。 (まとめ:8分) This is the color I like best. と色を当てさせるゲームを行い、All You Need Is Love. を聴く。 3年間のゴールが見えていますか?長勝彦先生(武蔵野大学教授)は常々、3年生3学期の最後の授業から逆算して、その学年、そして本時の指導目標を設定すると力説されている。中嶋洋一先生(出町中学校教頭)も英語の「卒業文集」というゴールに向けて、力をつけるためには「どこで何をどう仕掛けるか」を考えて生徒を指導されている。私たちも、教師用指導書についている年間計画をただ丸写しして授業計画を立てるのではなく、中学校、高等学校それぞれ3年生最後の授業における到達目標を設定してから、より小さな単元目標、本時の目標設定に入りたい。そして、中学校であれば3年分の、高等学校にあっては、せめて英語Ⅰと英語Ⅱの教科書全体に目を通し、どの程度、学習する語彙や文法事項がスパイラルに登場するのか、ジャンルの並びはどうかなど確認したいものである。 教育実習生が研究授業で作成する指導案のような詳細な教案を毎時作成するのは大変である。しかし、公開授業や指導主事訪問の時だけ指導案を作成するとすれば、行き当たりばったりの授業が多くなり、自分の授業を振り返る好機を逃してしまうであろう。 先ずは肩肘張らずに略案からでも始めたい。日々の授業を向上させるためには、略案通りに進んだかどうか、生徒と教師の活動を客観的に記述し、進行時間や気がついた点などを略案にどんどん書き込んでいき、常に授業をふりかえる機会を持ちたいものである。略案作成の積み重ねが日々の実践のポートフォリオ(Portfolio)となり、授業再構築への大きな示唆となるであろう。 ◆参考文献 |
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「英語教育」2006年4月号 |
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