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英語教育エッセイ

国内外で活躍する英語教育業界関係者によるエッセイコーナー

電子辞書指導の視点:
必要は「使用」の母・「使用」は継続の友

2006年2月28日


埼玉県立皆野高等学校教諭
中畝 繁
Nakaune Shigeru


憧憬遥か

英語教育の最新版
「英語教育」2006年3月号(大修館)
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From "The English Teachers' Magazine" March 2006 Vol. 54 No. 13(Taishukan)
小学校4・5年生の時、先生の指導に従い、金田一京助先生監修の分厚い国語辞典を使い始めた。なんだか少し偉くなったような気がした。

中学2年の時の国語の先生は、辞書通で、クラス全員に毎授業必ず机上に国語と漢和辞典を置くことを義務付け、徹底した使い込みによる辞書指導を通した厳しい国語教育を1年間続けて下さった。それに対して英語の先生は今思うに最小単位の反復暗唱優先の習慣形成論者だったから、単語に関しては教科書の巻末の対訳語彙表で間に合った。そんなわけで単語帳はまめに作ったが、英和辞典を使ったことは無かった。当時は現場に応用をせかす「総合的学習の時間」などなかったから、各先生が専門家としての自分の信念に従い星一徹が飛雄馬に大リーグボール養成ギブスを課すように基礎基本を叩き込んでくれた。

高校に入り、こづかいで英和・和英・古語辞典を新たに買い足した。身銭を切ったせいか、「使わにゃ損損」とドライブがかかり、また自力で予習をこなす必要から、辞書指導などなかったが、これらの辞典も試行錯誤で使えるようになった。今思うに、前駆として国語・漢和を使い慣れていたことと、中学で叩き込まれた英語の基礎文法・語彙がしっかり定着していたことが高校での英和を友とした自学を支えてくれたように思う。

王道からの逸脱

辞書の王道は紙だ。電子ではない。それが証拠に携帯型電子辞書の筐体に搭載されている辞書のほとんどは紙のコンテンツを流用しているだけだ。だが、今の多くの生徒はこの王道を歩んではくれない。これが現実だ。

高校入門期はまず「紙」からという辞書協会の呼びかけはもっともだが、軽薄短小が好きな生徒たちの選択は、軽量小型で多機能の電子なのだ。孤塁を守るのはもう諦めた方がよいのだろう。

根っからのアナログ人間の私は、ケータイが苦手だ。だが生徒はケータイが大好きで、その耽溺(たんでき)の様は時には依存症のように見えなくもない。ならば彼らのこの熱意を流用・善用しよう。そんなふうに気持ちを切り替えて紙と電子が混在する教室で、断続的に辞書指導を行っている。狙いは、学校で科目として付き合い出した英語君(さん)と学校後も、自立した学習者として引き続きお付き合いをしてもらいたい、ということだ。役回りはお節介な仲人のようなものだろうか。指導者としての戦略は学習者のニーズに合わせるということになる。(記述の重複を避けるため、1年生に対する指導の視点とメニューの概要は拙稿『自立をめざして「前へ」』[『GCD 英語通信第38号』所収]をご参照のこと。また同内容の PDF 版は大修館書店の GCD English Teachers' Roomのサイト(http://www.taishukan.co.jp/gcdroom/)から入るとご覧いただける)

手持ちの学習資産を活用しよう・させよう

1)土台の日本語が段々小さくなっている
3年の担任として6月の面談で、ある生徒に進路の確認をした。「君は就職希望だったね。学校斡旋? それとも縁故かい?」「アッセン? エンコ? 何それ」「斡旋は学校紹介かな、縁故は家の人のコネで就職できるってことかな」と説明した。これらの漢語はこの生徒の人生で初めて接した語。日頃生徒と接していて気になることは、生徒の日本語語彙の小ささだ。更なる苦境に遭遇するのは、初任で困難校に配属された同業の後輩たちだ。その悲鳴は「先輩、大変っす。日本語が通じません」だ。

arrogant を紙の英和で引けて語義にたどり着けても、それにふりがなが付いていない場合が多いので読みもそしてもちろん意味も分からないという生徒は意外に多い。「横柄な」はヨコエ?、ヨコガラ? 電子なら英和から国語にすぐ飛んで読みと意味を確認できる。こんなふうに日本語が弱い生徒にとって電子は頼りになる存在だったのだ。

教授法として高校で以前ほど文法訳読法が批判の矢面に立たなくなったのは、授業のコミュニカティブ化が進んだというより、一般の生徒が持つ訳読の際の英文法力も母語力も衰退したため、この古典的な教授法自体が現場で展開しづらくなったということが案外真相に近いのではないか。文法訳読法はもともと学習者の高い語学力に支えられて初めて可能なものなのだから。

2)英英は怖くない
ある進学校の公開授業(読解)を参観した時は驚いた。そのクラスの40人のうち38人が電子を使い、2人が紙だったのだ。私が教えているクラスだと多くて割合は6:4でまだ紙が優勢だからだ。さらにこの上級学習者である生徒たちは教員の指示が無くても机上のgadgetを適宜使っている。だが、大胆に机間に入り込んで子細に観察して見ると英英を参照する生徒はまずいなかった。できる高校生でも、英英は読解に際して依然敷居が高いのだ。つまり優秀な彼らにも専門家の我々の手ほどきが必要なのだ。

電子辞書の良さの1つは、英語の基礎が分かっている学習者が英英を気軽に使えるということだ。紙の英英だと定義の英語が分からない場合、また別の英和をひっくり返さなくてはならない。これでは英英初心者はめげる。高校生用の電子辞書に搭載されている英英はEFL-ESL系なのだから、出会った英語が分からなければ引いて語義や例文を読めばよいのだ。定義文の中に分からないものがあれば、英和に飛ぶか、更に英英で該当の語へ飛べばよい。英英を中心に読解作業をすると、引く行為自体が本人の英文への露出時間増となる。その結果読みの総量を増やすことに繋がる。分からなければすぐ引くか類推してから引くかも指導上あまり気にしなくてよいと思う。手持ちの認識語彙が増えていけば、以前引いた語は引かなくなる。直近に引いた記憶が残っていれば履歴から該当語に行くことになり、それが自分にとって憶えにくい語だということもわかる。更に自分の類推が正しいかどうかの判定は電子の場合引いてその場で確認できる。辞書を相棒にひとりでも学べる生徒は卒業後の継続学習が成立しやすいはずだ。

教師の役割は患者に対する医師みたいなものだろう。生徒の症状に合わせ、学習段階を見て「この教材は辞書は使わず速読・多読」「この教材はきっちり辞書を引いて精読」のようなギアチェンジを助言していく必要がある。大切な視点は、紙ではいくつかしか出ていない英英和辞典の仕様が電子では常態なのだ、ということだ。

3)単語帳機能

引いた語は履歴に残る。この機能は引き直しに便利だ。また引いた語のうち別枠に囲っておきたい語は単語帳に入れる。以前はただ囲うだけで1つしか単語帳が作れなかったが、現在は複数の単語帳が作れ、しかもチェック欄が付き、ソートも複数可能な編集機能が付いた。学習者が簡単に自分の語彙学習を管理できるようになった。教科書の教材は単語帳1、演習問題用に単語帳2、リスニングの時聞き取れなかった語のリストに単語帳3、発音アクセント問題で頻出の語のリストに単語帳4というように自由にいじれる。生徒にとっては多機能のケータイをカスタマイズする感覚の延長で使えるはずだ。少し助言してアイデアを提供してやるだけで活用が増す。それに音声付きならその語の発音も確認できる。

4)学習コンテンツの活用

以前の電子辞書は拡張性のない、閉じた世界だった。だが、現在は内蔵のものに別売コンテンツやコンピュータから任意のtextも加えられ、ユーザーが内容を一部添加できるような「どこでも学習機」になった。

(1)例文の発音付き単語・熟語集

市販の売れ筋のものがhandheldのPSPソフトのような感じで扱える。未習と既習はチェック欄で区別していく。確認テストはクイズ形式で供給されている。音声付きの場合は例文が聞けるので、簡易のディクテイション・口頭和文英訳等発展的に使える。

(2)多読用レベル別Retold小説

語彙制限のあるOxfordのBookwormsなどが内蔵されている。読んでいて分からない語があったとき、紙の場合は巻末の英英グロッサリーを使うわけだが、電子だとカーソル移動・決定キー操作で任意の辞書が使え、元の読書画面に瞬時に戻れる。また再読の時は前回読み終わった画面から入ることも選べる親切設計になっている。ネット上で日本語連載物語を読んでいる生徒には違和感はないはず。

(3)センター試験リスニング・TOEIC問題集

現時点では新顔のリスニング問題も実施済みで旧聞に属するが、対策は日頃の練習が鍵だ。細切れの時間の有効活用に向いているだろう。

5)その他

電子辞書からの発展形態に携帯型英語学習機とでもいうような機種もある。具体例はDr.VoiceNeo(セイコーインスツル製)など。機能としては、学習テキスト・音声プレーヤー・辞書を1つの筐体に納める事ができるものだ。コンテンツは別売で、リスニング教材はTOEIC、英会話、センター試験、CNNライブCD全10巻、多読+リスニング教材(既述のBookwormsが6レベル100冊分入っている。そのうち20冊分は朗読付き)例えば、「CNN」の場合英文テキスト表示・対訳表示画面が選択可。キーワードチェック欄があり、獲得した新語の文字像と音声像の一致具合を聴取後確認できる。

6)辞書のおもしろさを伝えよう

昨今はテレビ番組にも『クイズ日本語王』のような辞書関連のものが出てきた。視聴しながら一緒にやってみると私の出来は悪い。自分の自惚れほど母語の知識はしっかりしていないことがわかる。教室で「こんなのがあった」「これってヘェーだよね」のノリで生徒に自らの発見を提示するのもよいのでは。例えば電子辞書に標準搭載されることが多い百科事典風辞典である『広辞苑』も実はなかなか面白い。例えば、犬の定義の最初は「(1)ネコ目(食肉類)イヌ科の哺乳類」で始まる。犬って猫の親戚? また春の定義には「天文学的には春分(3月21日頃)から夏至(6月22日頃)まで」とある。夏至は夏ではないのか?(この部分は次期6版では訂正になるだろう)広い意味での、ことば力をつけてやるのも必要かと思う。

おわりに

難しい辞書も自分が高校生だった時は「辛抱して一生懸命学んだあかつきに使えるようになる」と信じていた。これは現在でも間違ってはいないと思うが、教師として生き残るためには多少の意識の変革が必要だとも思っている。それは「英語を学びながら使い、使いながら学ぶ」だ。今の生徒は社会の雰囲気に敏感で「到達目標」「数値目標」「期限設定」と結果をすぐ求めてくるが、地道な根気・年期のかかる努力はいやがる。それでもケータイやネットや一斉授業でできること、できないことがある。一斉では不可能なことは落ち穂拾いしていくことになる。生徒が持っている英語関連の各種教材を、本人の学習発展段階に応じて指導していくことがこれからは大切になると思う。

もう少しすると卒業式だ。巣立つ生徒たちが継続して職場で、上級学校で、英語を使い続けてくれるだろうか? そんな気持ちで、今この原稿の傍らにある新聞に目をやったら、社会人向け大学院の広告の文句が目に入った。曰くYou never graduate from learning. Advance your professional skills. Upgrade your credentials.そうだ、最後の授業はこれをネタにしよう。手垢にまみれたGeniusをかざしながら、こう言おう。「学校は卒業できるけど、学びからは卒業できないからね」



「英語教育」2006年3月号

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【特集】「辞書」の使い方・使わせ方

紙の辞書、電子辞書、コーパスなど様々な「辞書」のある時代、溢れる情報の中で、すぐ答を知りたがる生徒にどう指導するか。教師自身はどう活用できるか。“使える”辞書の最新ガイド。

<生徒にどう使わせる?>  
中学校での辞書指導:ハジメの一歩 関 典明
高校での辞書指導 工藤洋路
電子辞書指導の視点:
必要は「使用」の母・「使用」は継続の友
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<教師も使いこなそう!>  
英語教師をめざす人のための辞書活用ガイド 村野井 仁
ネット辞書、コーパス、新しいレファレンスの使い方 西納春雄
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語義のあり方について 国広哲弥
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最初に教えておきたい辞書の読み方 池田真澄
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はじめに
第1章  文——英文全体を概観する
第2章  主語
第3章  助動詞
第4章  動詞
第5章  目的語
第6章  補部
第7章  付加部
第8章  従属節
主要参考文献
索 引

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