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英語教育エッセイ

国内外で活躍する英語教育業界関係者によるエッセイコーナー

発音指導における教師の役割
怪しい発音指導の正体

2005年11月30日


関西国際大学教授
有本 純
Arimoto Jun


発音指導の実態

英語教育の最新版
「英語教育」2005年12月号(大修館)
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From "The English Teachers' Magazine" December 2005 Vol. 54 No. 10(Taishukan)
文法の説明に熱心な教師は多いが、発音指導に力を入れている教師についてはどうであろうか。夏の教員研修で挙手によるアンケートを取ると、約3割の先生は「まったく発音指導をしていない」という回答であった。また、私が関わっている高校の検定教科書で、実際に使用した先生に内容に関するアンケートを依頼したが、発音の頁は「あまり利用しない」または「不要」という回答が多く寄せられた。消極的な姿勢の実態が読み取れる。

従来実施されてきた典型的な発音指導の場面は、以下の通りである。
1)発音記号を体系的に説明せず、
2)テープかCDで音声のモデルを聴かせ、
3)その後に続いて発音させる。

矯正に関する指導はほとんど行われず、ひたすら2)と3)の繰り返しをさせる。あるいは、教師自身が発音し、学習者にオウム返しだけを求める。

このような方法には、発音指導と呼べるものが何も含まれていない。モデルの音声を聴いて正しく発音できるのであれば、自習も可能であるが、発音に関する限り、学習者は自分の発音の善し悪しを判断できない。文法やその他の学習と異なり、発音に関しては自習が困難であることが分かる。ここで、発音指導においては、特に教師の役割の重要性が認識されるはずである。

【発音指導における教師の4つの役割】
1)日本語・英語の発音に関する知識を持ち、専門用語を用いないで調音法を学習者に分かりやすく説明する。
2)ネイティブスピーカーの録音を用いないで、そのモデルを自分で提示する。
3)学習者の発音を聞いて、その場で適切に判断する。
4)問題のある発音と判断した場合、それを矯正するための指導・助言を行う。

発音のモデルと目標

音声教材としてはアメリカ英語が圧倒的に多いのが現状であるが、ALTの出身国によって、それ以外の変種を耳にする機会も増えている。さらに、非英語圏からも来日しており、発音に関しては外国語訛りの英語発音を聞くこともある。しかし、教師の固定的な考えとしては、ネイティブ並みのアメリカ発音をモデルとして想定していることが多い。しかし現実にはモデルと目標の間に大きな溝があり、発音指導の成果が十分に出ているとは言えない。教師も学習者も、発音に自信がないために、英語を話す際に口が重くなるのである。

そこで、先生方にEIL(English as an International Language)を提案すると、そのような発音では目標として低すぎるという反応が返ってくる。世界中の人を相手に、通じる英語発音という考え方に移行するには、抵抗があるようである。もちろん、人によって発音の到達目標はさまざまな段階があって構わないのだが(ネイティブ並みの発音を目指すことを否定するものではないが、すべての学習者が共通に持つ目標とは言えない)、教室で教える発音は、実現可能性を考慮すればEILになるはずである。すなわち、日本語訛りが一部に残ってはいるが、コミュニケーションにおいては支障なく通じる発音である。

また、大学生に中学・高校で発音指導を受けた経験があるかと質問すると、大半の者はその経験がないと答える。通じない自己流の発音をしている大学生は多い。筆者の勤務校では「英語発音クリニック」という科目を今年度からカリキュラムに加え、1年次の必修科目として実施している。学生は間違った知識による思いこみから、変なクセを持った発音をしており、これに対してEILの立場から矯正指導に主眼を置いて授業を実施した。週1回の授業でも3か月経過するとかなり修正でき、夏のオーストラリア研修では、さまざまな国から来ている留学生たちと同じ教室で英語を学び、学生も自信を持つことができたようである。

実際、英語を使ってコミュニケーションをする相手は英語のネイティブ・スピーカーだけとは限らない。むしろ、ノンネイティブ同士が英語を用いてコミュニケーションする機会がますます増加している。最近の研究では、英語のネイティブとの対話では、プロソディ(リズムやイントネーション)の正確さが重要であり、ノンネイティブとの対話では、母音や子音の正確さが円滑なコミュニケーションに必要な要素であるとされている。

指導書のタイプ

先に述べた通り、発音教本を読み、付属のCDを聞いただけで発音が上達するのは無理なことが、お分かりいただけたはずである。書店では、多くの発音教本・指導書を見かけるが、おおむね以下の4つのタイプに分類できる。

1)調音音声学に基づき、専門用語を用いた解説が示されており、英語のネイティブスピーカーの発音について述べられている。教師には理解できるが、通常の学習者には適していない。
2)英語音声学の素人が、英語圏に滞在した経験に基づき、自分の耳にはどのように聞こえたか、また、そのような発音をするための方法が述べられている。しばしば、誤解を招くような記述(巻き舌で発音すると英語らしくなる)も見られる。
3)さまざまな工夫を凝らしたカナ表記を用いて、日本語との距離を近づけようと試みたものもあるが、やはりカナで表記する限り、日本語の発音になる危険性を含んでいる。カナ表記を用いる場合、教師による指導が無い場合は、相手に通じないカナ読みになってしまう。
4)フォニックスの手法で綴り字と発音を組み合わせた教本であるが、調音の説明が分かりにくく、例外的なルールが多い、等の問題点がある。

いずれの場合も、教師が直接指導に当たらなければ、学習者は正しい発音を習得することが困難である。

意味不明の説明

多くの指導書に見られる怪しげな記述、および教師の間で信じられている不思議な発音指導の説明を例に挙げて、問題点を議論してみたい。

(1) エの口でアを言う
/æ/の調音法では有名なものである。確かに母音四角形では、日本語のエとアのほぼ中間点にこの母音が位置していることから、このような説明が生み出されたのではないかと推測できる。しかし、このような説明を聞いて調音できる生徒が現実にいるとは考えにくい。また、実際エの口でアを言うと、やはりアにしかならないはずである。

(2) /i/を長く伸ばすと//になる
日本の教科書および英和辞典の多くは、/、i/という表記を採用している。学習者から見ても、2つの母音の違いは「長さ」にあるという誤解を抱かせるに違いない。教師もそう思い込んでいることがある。英語音声学の立場からは、緊張母音と弛緩母音の差であると説明できる。従って、厳密に言えば長さの違いではない(正確な表記は/i、I/である)。一方、EILの立場からは、長さで区別したからと言って、通じない訳ではない。結果として、「怪我の功名」とでもいうべきで、この指導は問題にはならない。同様のことは、/u、/においても言える。

(3) 歯で下唇を噛む
/f、v/の調音を説明しようとしているが、噛んでしまうと隙間が無くなるので、摩擦音は出しにくくなり、逆効果である。「軽く乗せるように」という説明に切り替え、その接触位置を持続させることの方が大切である。

(4) 舌を上下の歯で噛む
/θ、ð/の説明であるが、舌の位置は上下の歯で軽く挟まれるだけで、隙間が無くては摩擦音は作れない。あるいは、舌先が上歯の裏に触れているだけでも調音できる。舌先の位置が歯茎に接近していると/s、z/になるが、最近舌先がさらに前寄りになり、歯裏に接近して/θ、ð/と区別ができない学生が増えている。

(5) 強く発音する
強勢の指導でよく耳にするが、学習者には強さという感覚が捉えにくく、声の大きさに置き換わることが多い。強さは呼気の速度に関係しているが、そこまで厳密に考えず、声の大きさ・母音の長さ・声の高さの複合体として実現すれば、聞き手には強勢として受け取られる。

(6) 疑問詞付きの疑問文では下降調
イントネーションの指導で、疑問詞付きの疑問文には上昇調と下降調の2種類があるにも拘わらず、下降調だけしか指導されていない。

What is your name?

下降調は確かに普通の言い方であるが、時には事務的で冷たい響きになることがある。この例文では、警察官が不審者に尋問している場面で「名前は何だ」という状況が考えられる。逆に、低い上昇調を使うと、迷子の子どもに「坊や、名前は何て言うの」と問いかける優しさや暖かさが表現される。

矯正指導の立場から

(1) /αrr/
アメリカ英語に独特の/r/の音色を含む母音であるが、日本語話者には調音が難しい。一方、イギリス系の英語であれば/r/の音色が含まれていない。無理に/r/の音色を付けさせる練習をしなくても、EILの立場からは何の問題も無いと言える。英米の発音が混在することがあったとしても、日本語話者の特徴(あるいはノンネイティブの発音)として認知されるはずである。

同様に、hot、lot、dogなどの母音の英米差をあまり意識せずに、発音しても構わない。

(2) /s、∫、θ/
日英語に共通して存在する音であるため、日本語のサ行音で問題はないように見えるが、実際には多くの問題を抱えている。まず、/si/では1)シあるいは/∫i/との区別ができない、2)/θi/になっている場合がある。子音単独ではなく、母音との組み合わせで、発音に問題が生じることがある。特に後者の場合は、最近の若者の中でかなりの割合で/si/を/θi/で発音しているようである。サ行音全体についても、舌が前に出すぎて歯と接触していることから/θ/になっている。

(3) /f、v/
ほとんどの学習者は調音の開始位置が正しくできていても、すぐにその接触を離してしまうので「摩擦が生じない」ことがしばしばある。持続音の特性を生かして、歯と唇の接触を持続させる練習による矯正が必要になる。他の摩擦音に対しても「持続」させる練習が重要になる。合わせて、呼気の強さにも留意しなければならない。

(4) 鼻音/m、n、/
口蓋垂が下がることで、呼気が鼻腔から出る際に作られる音であるが、特に語末にある場合に、有声音として聞こえないことが日本語話者には多い。有声音になっているかどうかを確認することが、通じる発音につながる。

最後に

発音指導では、教師の役割が重要であり、自らの発音能力と指導力が求められる。最近、人気の高い音読指導においても、学習者の発音を注意深く聞き、どのような助言をして、修正を加えるかが問われている。ネイティブ並みの発音ができないからといって自信を無くすことなく、日本語の影響が多少は残る英語発音であっても、通じるレベルの発音を用いることで、発音指導に自信を持って臨んでいただきたい。また、発音指導をすることは、リスニング能力の養成とも表裏一体の関係があり、発音だけの問題ではないことを付言しておく。


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