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英語教育エッセイ

国内外で活躍する英語教育業界関係者によるエッセイコーナー

〈数量表現周辺部1〉鯨の悪夢

2005年9月30日


東洋女子短期大学教授
大西泰斗
Onishi Hiroto


ナンダイッタイソレハ

英語教育の最新版
「英語教育」2005年10月号(大修館)
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From "The English Teachers' Magazine" October 2005 Vol. 54 No. 7 (Taishukan)
数量表現の1つ、more をとりあげよう。more は一一よく知られているように一一数量をあらわす典型例以外にも、さまざまな比較にその意味を広げている。

a. There were more than 300 passengers on the flight.
 (乗客は300を越えていた:数量を比較)
b. His new book is more interesting than his first one.
 (彼の新作は処女作よりおもしろかった:程度を比較)
c. He's more a philosopher than a poet.
 (詩人というより哲学者:記述の的確性を比較)

品詞や内容にとらわれず気軽に比べればよい、単にそれだけのことだ。

ところでこの more には非常に有名な一一英語学習上の悪夢と言ってさしつかえないだろう一一文例がある。所謂「クジラ構文」だ。私は高校時代3日うなされた。

A whale is no more a fish than a horse is.
(鯨が魚じゃないのは馬が魚じゃないと同じだ)

「XがAでないのはYがAでないのと同等だ」
というのが標準的な「説明」だろう。イッタイナンダソレハ。


鯨の生態

この形は「XがAでない…」などという心のない算数の公式ではない。そこには豊かな感情が宿っている。

この形一一no more ...than一一が使われる典型的なメッセージは「とんでもないよ」だ。

He is no more an artist than I am.
(あいつは全然アーティストなんてシロモノじゃないよ)
This painting is no more a Picasso than my own sketch.
(この絵はピカソなんかであるもんか)
That is no more a Rolex than this plastic toy watch!
(ロレックスなんかであるもんか)
You, a detective? Ha! You're no more a detective than my grandmother!
(おまえが刑事だって?笑わせんじゃないよ)

そのメッセージがわかってみて初めてこの文の「感覚上の構造」が見えてくる。本当に必要なのは than 以前だけなのだ。そしてそれ以降は照明としてのみ機能する。

This painting is not a Picasso.
(ピカソではありません)

この事実の描写そのものの文と比べると、どれほどの照明を than 以下が当てているかがよくわかるだろう。この文に含まれたあざけり(derision)が目を射ることだろう。Who could possibly think or claim such a thing?

この文のもつ「とんでもないよ」の強さは、no の存在でも確かめることができる。「同じ意味」だと言われてきた、not any more ...than ... と比較してみよう。

He is no more an artist than I am.
He is not an artist any more than I am.

He is not an artist と「平たく」始まるこの any の文には no がもっていた力が抜け落ちてしまっていることがわかるだろう。no = not + any などという「公式」からこんな話がでてくるのだろうが、いいかげんにしてほしい。算数が苦手だから英語の先生をやっている私の気持ちも考えて欲しい。no と not any はあきらかに強度がちがうのだ。

a. I have no pens.(ペンなんてもってないよ)
b. I don't have any pens.

no が漆黒の強さをもっているとするなら、not any は茶色くらいか。

さてもちろんこのフレーズは一一more の自由に比較する力ゆえに一一名詞以外にもさまざまな「とんでもない」を可能にする。次の文の「とんでもない」が聞こえるだろうか。

I can no more lie to you than fly to the moon.
(君に嘘をいうことなんてできないよ)
He's no more fit to do this job than a monkey!
(ヤツはまったくこの仕事にふさわしくない)


鯨は海に

さて冒頭の「クジラ構文」に話を戻そう。文法的にはなんら問題のないこの文は、no more ... than ... の例文としては落第だ。それは私だけの感想ではないだろう。学生たちの表情をみて及第点を出せる教員は少ないはずだ。

このフレーズの「核」が「とんでもない」にあるのだとすれば、この例文がそれを十全に写し取っているか。

 「くじらはさかなではない」。こうした単なる生物学的な事実を言明する際、感情的な高まりが予想されるフレーズは一一普通、一一必要とされない。この文はある意味非常に「特殊」な文なのだ。もちろん「あんたね、クジラが魚なんてとんでもないよ。馬が魚だっていうようなものなんだから」など、あるドラマチックな効果を与えようとして作った文だろう、そこに罪はない。だがこうした「平ら」を予想させる文は、当然のことながら学習者に「平らなフレーズである」ことを予想させる一一事実とは逆に、だ。そして「XがAでないのはYがAでないのと同等だ」という「解説」がそれに拍車をかける。こうしたリスクのある特殊な文を、なぜ最大の効果を狙わなくてはならない学習の場に持ち出さなくてはならないのだろうか。

悪意のない、こうした不用心と鈍感が学習者からどれだけの機会を奪っているかをわれわれは考える必要がある。そして学習者に与えるべきは十分に吟味された例文であるべきだ。表現の感覚を伝えて余りある細心の例文であるべきなのだ。

文法書には、もはや使われない、自然ではない、不親切で鈍感な例文が溢れかえっている。誰もが気がついているにもかかわらず目をつぶっている事実。われわれはその事実に目を向ける必要がある。切実に。

鯨は海に帰そう。


〈数量表現周辺部2〉 quite の憂鬱

強意語の中で quite ほど性質(タチ)が悪い単語も珍しい。なんでまたこんな題材を私に与えるのか。編集部の陰謀か。

quite a few の数量

quite で学習者がもっとも面食らうのは quite a few、quite a lot だろう。「かなりの数の」が定訳となっているが、a few が「少数の」であることを考えると、quite がついただけでまったく逆の意味になっているように思われ直観的理解がむずかしい。またさらに quite a lot というコンビネーションもありやはり「かなりの数」と訳される。コレハイッタイイカナルコトナノカ。

quite a few の示す数量の多寡はおおよそ次のようになるだろう。

none < very few < some < quite a fewquite a lot < many < a lot

一見して「かなりの数の」という日本語と印象が異なることがわかるだろう。実際 quite a few はそれほどの「多数」を指すわけではなく、次のようなむしろ少数を示す例にもしばしば出くわす。

Quite a few women work outside the home.
(割に多くの女性が家庭外で働いている)

この文はある統計で使われた文であり、a few women は、実際には21%を指している。つまり quite a few は more than a few / a fairly large number 程度であるということだ。


quite の理由

それでは quite の「意味」を私たちはどうつかめばいいのだろうか。quite a few はなぜ a few よりも大きく、quite a lot はなぜ a lot より少ないのだろうか。

同じパターンは形容詞とのコンビネーションでも観察することができる。「善悪スケール」と重ねて考えてみよう。

a. bad < quite bad < quite good < good
b. a few < quite a few < quite a lot < a lot

quite の強意パターンは、「下(bad)」が引き上げられ、「上(good)」が引き下げられるという、一見複雑なパターンを取る。だが、それはこの単語が「外側」をその意味の中核一一私は「イメージ」と呼ぶが一一に含む単語であるからだ。次の文を考えてみよう。

She's quite good at English.
(彼女は英語がまあまあ得意)

この文は(通常の音調・強勢では)、「good とまでは言えないんだけど」、つまり good の枠外にあるという心理が含まれる。

quite bad(かなり悪い)は「bad そのものずばりではない(bad の外側)」ということだ。結果、quite bad は単刀直入な bad より評価が上がる。

quite a few、quite a lot も同じ感覚で考えることができるだろう。「a few というわけではない」「a lot というわけではない」、ここから「割と(そこそこ)多い」「かなり多い」が出てくるというわけである。

…あーゆーつだった。

だけどね、本当に憂鬱なのは、quite の強さが読み方や顔の表情で自在に変わるってこと。She's quite good at English. の quite、good それぞれに強勢をおいて(できれば眉毛を上げて)読むと、very good とほぼ同じ意味になる。あーどこまでいっても性質(タチ)が悪い。まるで某編集部みたいだ。


〈数量表現周辺部3〉 いい加減なサム

いや。何も世間の誰かを誹謗中傷しているわけではない。some だ。数量系・強調系の表現にはいい加減なものが多いが、ここまでいい加減なヤツはいない。

some の数量

おそらく一般のネイティブが漠然と some に想定する数量は、a few の上。several のやや上。many のかなり下。そこそこ数があるようにも思えるが、ちょっと考えてみると、sometimes はポツッ......ポツッ。someone は1人。つまり some は greater than none としか規定できない表現なのだ。


some の存在理由

some は通常「複数」を予想させる語である。

I don't like some of the boys.
(その子たちの何人かが好きじゃない)

ここで意味されているのは複数のboys である。だがこれをもってして「some=いくつか」では、この単語を見間違う。頻度はいささか落ちるが単数もとるからだ。

Where did you learn that? 一Some teacher told me.
(どこで覚えたの?—どっかの先生が言っていた)

some の中核は「ぼんやりと見える」にある。上の文からは、この子がどこの誰先生などという話題に興味がないことが伝わってくる。

I've seen his photo in some book or other.
(なにかしらの本で写真を見たことがある)
Some 50 guests attended the wedding.
(だいたい50人くらいかな、式にでたよ)

in a book よりもはるかにつかみ所のない感触、50に加えられたぼんやりとした感触が伝わってくるだろうか。次に some と近似の several と比べてみよう。

a. There're some good restaurants in town.
b. There're several good restaurants in town.
 (街にいくつかいいレストランがあるよ)

レストランを、具体的にいくつか思い起こしている several に対し、some は「まぁあるよ」程度である。「それどこ?」と言われると「えーっと」と考え込む程度の鮮明さしかもちあわせていないのだ。

some は、ネイティブにとっても、具体的な数量が定かではない「いい加減な」数量詞である。それは、数量自体にウエイトが置かれているわけではないからだ。その存在理由の中核には「ぼんやり」がある。われわれは、日常しばしば「ぼんやり」を必要とするのだ。

水清くして魚住まず。

私たちは、くっきりはっきりばかりでは肩がコッてしまう生物なのだ。

私の友人のサム君は、もう会いたくない女の子には、次のデートの日時を指定しない。

Let's have lunch... some day.
(いつかいっしょに食事しよう)

うーむ。最大限活用してやがるな。



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【特集】<徹底研究>英語の“数”に迫る

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可算名詞と不可算名詞の考え方 野村益寛
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「集合名詞」は数えられるか? 高見健一
[コラム:数量表現周辺部]
1. 鯨の悪夢
2. quite の憂鬱
3. いい加減なサム
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第2章 「リスニング」をテーマにしたアクション・リサーチ
第3章 「スピーキング」をテーマにしたアクション・リサーチ
第4章 「リーディング」をテーマにしたアクション・リサーチ
第5章 「ライティング」をテーマにしたアクション・リサーチ
第6章 「学習意欲」をテーマにしたアクション・リサーチ
第7章 「少人数指導」をテーマにしたアクション・リサーチ
第8章 「小学校英語活動との関連」を探るアクション・リサーチ

第3部 教員研修とアクション・リサーチ
第1章 英語教員全員研修でのアクション・リサーチ
第2章 コーディネーター育成でのアクション・リサーチ
第3章 市町村教育委員会レベルでのアクション・リサーチ
第4章 自主研究グループ:アクション・リサーチの会@近畿・・・

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