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英語教育エッセイ

国内外で活躍する英語教育業界関係者によるエッセイコーナー

英語にだって「敬語」はある!

2005年5月31日


東洋学園大学教授
脇山怜
Wakiyama Rei


Q. 何かが欲しい時の表現に I want . を使うのはいけないのですか? ホームステイ先で「を下さい」というお願いのつもりで使ったら、不快な顔をされてしまいました。

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From "The English Teachers' Magazine" June 2005 Vol. 54 No.3 (Taishukan)
A.日本人はI want orange juice. / I want more bread. / I want another blanket. というような言い方をしてしまいがちですが、所望や依頼の表現としては「問題な英語」です。「とにかくオレンジジュースにありつければ、どんな言い方だっていいじゃないの。文法的にも正しい文だし」と反論する方があるかもしれません。でも、どの言語であれ外国語でコミュニケーションする時は、文法的に正しい (correctness) だけでは不十分で、発話がその言語が話されている社会で適切と認められる言語行動であるかどうか (appropriateness) にも留意することが必要です。

のどが渇いてホストマザーにジュースを所望するような場面で I want . という言い方をすることについて、ネイティブスピーカーは impolite, rude, imposing, offensive であると反応しています。これが彼らにとって無礼で、押し付けがましく、不快に響くのは、話し手の意向を一方的に押し付ける含みがあるからです。同様に、ホストファミリーの都合を考えず、I want to take a shower. などと一方的にこちらの欲求を伝えるのもことばのマナー違反です。

英語を母語とする民族は個人主義を尊ぶ文化をもっています。彼らの言語行動もこれを反映して、相手の行動や意思決定の自由を侵さないように配慮することを丁寧表現の柱としています。いわゆる negative politeness と呼ばれることばのストラテジーです。

Please give me some orange juice. も「問題な英語」です。いくら please を付けたところで命令文に変わりはなく、文として correct ではあっても appropriate ではありません。そこで相手の意向を伺うかたちの表現が英語社会では多用されるわけですが、では Can you give me some orange juice? というお願いの表現は適切でしょうか?

実際にはこのような場合、ネイティブスピーカーは Can I have some orange juice? という表現を多用します。相手に依頼する表現より許可を求める表現が好まれるのです。これは英語社会の価値観が言語表現に反映されているからです。ジュースを相手にもってこさせるか、自分でとりにいくのか、つまり相手の行動に頼る Can (Could) you ? という言い方より、相手の許可に基いて自分で行動する Can (Could) I ? という言い方が、彼らの感覚にしっくりするようです。

さて、ジュースをもらいたい程度のことなら、Can I ? ぐらいの丁寧度が適当でしょうが、もっと重い用件の依頼では、前置きや説明を添えると共に could / would を多用します。Could you do me a big favor? Would you mind looking after my seven cats while I'm gone on business? のような文中では、could / would は仮定法の意味があり、「もし、あなたさえよければ」という相手の意向を遠慮がちに伺うことになるからです。

私たちがアドバイスの表現として覚えている You had better . も実は高圧的な言い方で「問題な英語」とされていますが、例えば日本庭園を見たがっている人に対して、代わりに You could (might like to) visit Kenroku-en. というような言い方をすれば、「もしよければ、そうなさったら」という相手の意向を尊重する含みが加わります。何かが欲しい時も、I'd like some orange juice, please. とすれば丁寧になります。「問題な英語」は、would / could / might をうまく使って negative politeness のコツを掴めば、かなり解消されると思います。


「場違いな」英語は避けよう


関西外国語大学教授
豊田昌倫
Toyota Masanori


Q. 英検二次対策の模擬試験で you know を使いすぎると言われました。fluency を高めるためのつなぎ表現と教わったのですが。

Q.指摘されたように、you know は口頭試問では避けるべきである。

かつて全米テニス選手権で初めて優勝したマルチナ・ヒンギスが試合後の記者会見で、you know を連発した、とお偉方から批判されたことがあった。彼女にしてみれば、10代の友達同士で交わす口癖をつい披露したまでのことだが、フォーマルな場に合致した適切な選択ではなかったようだ。

You know, you see, I mean などの「つなぎ表現」は、自分の発言がインフォーマルであるとの判断を示す決まり文句である。形式ばったインタビューで、正確な思考と明晰さを欠く you know などを用いるのは、文字通り「場違いな」英語となる。政治家をはじめとする公人にとっては、こうした談話標識はタブーとされてきた。

ただ、少し留保が必要かもしれない。ブレア英首相のパロディーでは“y'know”がつきものである。ジーパンを愛用し海外での休暇は格安航空会社を利用するなど、大衆受けするイメージ作りが得意なブレア首相は、対談形式の番組では“y'know”と言ってはばからない。東西ともに首相の発言が「軽い」のは最近の特徴なのだろうか。

英セント・アンドルーズ大学の卒業を控えたウィリアム王子は、昨年11月、BBC テレビのインタビューに出演した。この日の王子は黒のセーター姿でゆったりとくつろいだ様子。きわめてインフォーマルな会見で、問題の you know も登場した。Times 紙(The Daily Yomiuri, Nov. 28に転載)は、その一部を“I would not want to be kept back for being precious, or whatever, that's the last thing I'd want.”(「身分が高いとかそういう理由で隔離されたくないし、それこそ一番いやなことです」)と紹介したが、実際の発言では“kept back”の前に“you know”(“y'know”と発音)が挿入されている。そういえば、“or whatever”(とかなにか)も卑近な日常会話独特のイディオムである。気取らず親しみやすい皇室といった演出さえ感じられる。

というわけで、インタビューで“you know”がないわけではない。しかし、就職試験をはじめとする口頭試問などでは避けたほうが無難である。

では質問者の「fluency を高める」という点はどうか。日本人の会話はぶつぶつ途切れがちなので、「つなぎ表現」を用いるようにとの忠告をよく耳にする。これには一面の真理がありそうだ。事実、日本人英語学習者の沈黙には耐えられない、と不満をこぼす英米人は少なくない。たとえば、Michael McCarthy は文化と沈黙の関連性にふれて、ある文化圏では「会話での応答にいたる『思考時間』は苦痛を覚えるほど長く感じられる(日本人学習者の間に見られる顕著や傾向であるが)」(Discourse Analysis for Language Teachers, Cambridge University Press, 1991)と批判する。

とはいえ、これは英米文化中心の発想であり、ミニ・アメリカ人やミニ・イギリス人ではない外国人に対してあまりにも厳しすぎるのでは、と反論したくなってくる。意外なことに、アメリカ在住の田村明子氏は「沈黙をおそれるな」の項目で次のように言う。—「意味の無い音で沈黙を埋めてしまおうとはせずに、[you know などの]verbal pause をできるだけ発しないように意識してみよう」(『知的な英語、好かれる英語』、日本放送出版協会、2004)。筆者としては、日本人のアイデンティティーを持ちつつニューヨークで活躍する田村氏に軍配を上げたくなるのだが。

どうしても沈黙が気になれば、協力的な話者であることを示す er[]や um[]を機を見て使うのはどうだろうか。場に応じて適切に「つなぎ表現」を操れる人は、それだけで英語上級検定に合格である。



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【特集】問題な英語・問題なマナー

いくら通じればいいといっても、教養のないと思われる発音は避けたい、誤解される語彙も困るし、品性を疑われる言い回しはNG。 特に中高大学生が日本語的な感覚で、ついやってしまいそうな困った英語を洗い出す。

<座談会>これだけは生徒に教えたい
問題な英語 問題なマナー
Y. Flower
K. R. Jones
遠山 顕

Q&Aで読む問題な英語
■音声
問題なイントネーションもある 豊田昌倫
英語らしさはリズムで決まる? 豊田昌倫
■語彙
カタカナになっているのに英語じゃない語 西澤正幸
直訳は誤解のもと 西澤正幸
■文法
進行形は‐ing ですよね!? 滝沢秀男
確かに“Yes.”と言ったのに 滝沢秀男
日本語の干渉に注意 平井正朗
■表現
英語にだって「敬語」はある! 脇山 怜
その言い方は不自然です 岩城貴宏
「場違いな」英語は避けよう 豊田昌倫
■書きことば
口語と書きことばは違う! 木村友保
論文を書くときにはここに注意 木村友保
パンクチュエーションでこんな誤解も 今井邦彦
■メール
相手を怒らせる表現とは 塩澤 正
この書き方はNGです 塩澤 正
■会話場面
避けるべき話題・相手が喜ぶ話題 今井邦彦
Body Talk J. Shaules
Gesture taboos and body language warnings! J. Shaules

■〈リレー連載〉英語教育時評
■菅先生に聞こう! 授業の悩みQ&A
■〈リレー連載〉英語の辞書を考える
◆〈巻頭エッセイ〉英語ダイアリー
◆本当はコワイ! イギリスホラー
◆カタカナ語文化論:日本語と英語の狭間に漂うもの
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