インターネットで協同ライティング指導
2005年1月31日
2005年1月31日
![]() 「英語教育」2005年2月号(大修館) → 目次はこちら → 定期購読はこちら From "The English Teachers' Magazine" February 2005 Vol. 53 No.12 (Taishukan) 北海学園大学 上野之江/天使大学 吉田翠/北海道文教大学 佐々木勝志 Oda Tomohiko / Morikoshi Kyoko / Ueno Yukie / Yoshida Midori / Sasaki Masashi 情報通信環境の発達は、英語教育の改善にも大きな可能性をもたらす。インターネット上のリソースを授業に生かすばかりでなく、プロジェクトを協同運営することにより、オンライン上で教員同士が情報や経験を共有し、新たな視点を得ることも可能である。ここでは、勤務校の枠を越えて構築、運営したプロジェクトの例を紹介する。 授業の目的と対象学生今回のプロジェクトでは、あまり英語でのライティングの経験がなかった学生を主な対象に、コンピュータやインターネットを活用し、英語での自己表現力を伸ばすことを目指した。併せて、このような活動の際に生じ得る問題点・留意点への注意を促すことも目的としていた。対象となる学生の英語力の指標としては、G-TELP注1) の Level 4 を用いた。同テストは学生にとっても取り組みやすく、安価・短時間(65分)で実施できることが魅力であった。また、参加校のクラス毎ではなく、プロジェクトチームとして一括で申し込み、実施時には各校それぞれにテスト資材を送付するなど便宜を図っていただいた。 授業の概要
プロジェクトの全体像は表に示したが、ここでは、その主要な部分について、順を追って述べたい。まず Class 3 と 4 は、どちらも文脈から乖離した逐語訳など、ことばの適切な使い方の問題に深く関わる。 1.オンライン辞書 学生は辞書で調べた語句を、文脈を考えずに機械的に文章に当てはめてしまいがちだ。和英辞典だけに頼り切ったと思える「ぎこちない」英文にいつも頭を痛めている教員は多いのではないだろうか。もちろん辞書指導から徹底するべきなのだが、ここではインターネット上の辞書を使って、たくさんの例文に目を向け、文脈をしっかり考えて語句を選択し使用するように指導した。英辞郎(http://www.alc.co.jp)や、音声も聞くことができるエキサイト辞書(http://www.excite.co.jp/dictionary/)を紹介し、実際に語句の意味を調べるアクティビティを盛り込んだ。さらに、オンライン英英辞書を紹介し、平易な英語の説明文や、それによる語のニュアンスの違いに気づかせることを目指した。Longman Web Dictionary (現在は Longman Dictionary of Contemporary English ONLINE: http://www.ldoceonline.com/) および、Oxford Advanced Learner's Dictionary: (http://www.oup.com/elt/oald/) が使いやすい。 2.機械翻訳サイト 辞書の問題に関連して、見逃せないのが、機械翻訳サイトである。多くの学生はすでにその存在を知り、実際に使用している。特に「英語は嫌いだ・苦手だ」という学生が、このサイトを利用しているようである。それでさらに問題が悪化する。教員からすれば、すぐに「翻訳サイトを使ったな」と察しがつくのだが、学生は翻訳機能にすがってどうにか課題をクリアしようとするのである。放っておいても蔓延するこの翻訳サイトに手を打たないのは、やはり問題であろう。そこで、場合によっては翻訳機能に危険性のあることを認識させ、活用するにはどんな点に注意するのか、また、その機能の限界を説明することが、われわれの使命ではないだろうか。 Class 4 では実際に、翻訳サイトにアクセスし実験をする課題を取り上げた。「今日、お昼にカレーそばを食べた」という文章が "*Curry side was eaten today at lunch." になってしまうのを見れば、かなりの恐怖を覚えるだろう。 3.ローマ字表記の言い換え Class 6 のテーマは、ライティングの中で安易にローマ字を使用してしまうという問題点に関連し、特に日本文化や若者文化に関連する内容を平易な英語で適切に言い換えることを重視した。これは海外の学生と E メール交流をする中で、頻繁に出てきた問題であった。日本文化や身近なことを説明するときに、ローマ字で表記しただけで、英語の説明を加えないという場面が何度かあった。やはり、それを簡単な表現で説明できる力も必要であると考え、rephrase の練習や、日本紹介のサイト(例:http://www.japan-guide.com;http://www.into.go.jp/eng/illustrated/index.html/)で、どのように英語で説明されているかを観察した。例えば、北海道の食文化でよく話題になるラーメンについての説明は、前者のサイトに詳しく掲載されていたので、このページを見ていればもっと楽に文章を考えることができただろうにと、数年前の学生の大変さを思い返した。 4.資料の明記 Class 8 は、情報化の進展で「コピー・ペースト」がますます容易になる中で、インターネット上の資料の明記とその必要性、及びネットからの正式な引用形式に慣れることを目指した。学生は罪の意識なく軽い気持ちでインターネット上の資料をコピーし、自分の文章のように貼りつけて使用することがあるが、その行為自体の問題性に気づかせなくてはならない。課題としては、英語学習者にとって最も取り組みやすい英字新聞サイトの1つ、『週刊 Student Times』(http://www.japantimes.co.jp/shukan-st/) を紹介し、記事に目を向けさせ、それを資料として活用するにはどのように明記するのか、練習問題に取り組んだ。 授業の運営1.指導の基本姿勢提出されたライティング課題に対しては、その内容やプロセスに重点を置き、伝えたいことが理解できるかどうかを評価に結びつけた。例えば、学生のライティングに対し、細部にわたる添削は行わず、意味が理解できない部分に下線や疑問点を記し、書き直しを求める、という方法を取った。多くの学生に共通する文法・語法などの間違いについては、一覧表を作り、クラス全体やグループで議論した。パラグラフの構成注2) については、ライティング課題を行う際に随時復習、指導をした。 2.パイロット・プロジェクトからの改善 私たちのグループは、前年度にも類似のプロジェクトをパイロット的に実施した。本プロジェクトの実施にあたり、大幅な改訂を加えたが、その主な変更点は次の通りである。 前年度のプロジェクトでは、学生により多くの情報を提供することに教員の意識が向き、多数のインターネットサイトの情報を与え、各回の教材のボリュームも多く、学生も教員もかえって消化不良を起こしてしまっていた。そこで、その経験をもとに、与える情報や活動内容に軽重をつけ、教員間で意見交換し、プロジェクトを改良し、もう一度取り組んだことが大変有益であった。 3.各クラスの事情に合わせて 各回の内容を45分で計画することにより、90分の授業の中で本プロジェクトを他の活動と組み合わせて実施することも可能になった。例えば、 "My Name" についてライティングした後に、 "My Name" について各自スピーチ発表を行うなど、ライティング課題をスピーキング活動・クラスディスカッションなどと結びつけることも可能である。また、他に授業用テキストなどがあれば、それと平行してプロジェクトを行うことができる。基本的な部分を統一し、運営方法を柔軟にしたことで、様々な学校のクラスが本プロジェクトに参加可能となった。 オンラインでの協同作業プロジェクトの実施にあたっては、開始前よりオンライン及びオフラインでの議論を重ねた。オンラインミーティングとは、E メールの「全員に返信」の機能を使ったにすぎず、特別なものではない。オフラインミーティングは、1か月に1度プロジェクトメンバーが顔を合わせる研究会を意味し、本プロジェクトを進めるだけではなく、様々な情報交換の場にもなった。また、勤務校に同じ興味を持つ教員がみつからない場合など、テクニカルサポートだけでなく、精神的なサポートとしての意味を持つと考えられる。なお、プロジェクト開始後は、オフラインでのミーティングは2か月に1度程度しか持つことができず、オンラインでの議論やサポートが大部分を占めた。しかし、face-to-face で培われた信頼関係があってはじめて、忌憚のない率直な議論がオンラインでも可能である。主要なテーマ(Classes 3、4、6、8)に関わる教材は、「学生用ハンドアウト」「ワークシート」「教師用説明マニュアル」の3部構成とし、参加教員が分担製作したが、随時他のメンバーからの情報提供やノウハウの交換を経ているので、むしろ協同制作という方がふさわしい。ここでは、それぞれの教員の個性が発揮された。面白いサイトを見つける人、興味深い例文を見つける人、学生にうけそうなアクティビティを考えつく人、冷静かつ客観的に教材内容を吟味する人。先輩教員のハンドアウトを見て「すばらしい!」とうなったり、違った角度からの説明に感心したり、教員間で学ぶこともこのプロジェクトの大きな成果であった。 オンライン会議が真価を発揮したのは、プロジェクトの開始後であった。実際の授業では、用意した内容や教材に対し、想定とのずれが生じたり、また、多人数で同じサイトを利用する場合の問題なども起こる。例えば、課題を厳選してもなお予想外の時間がかかった場合、どこを削り、どこを重点的に取り上げたか。また、どのような発展例を用意したらうまくいったか、などの情報が、オンラインで即座に交換できる。 一方、授業での学生の反応から、新たな展開が生じる場合もある。例えば、翻訳機能の利用(特に英和翻訳)を通して得られた、母語の特徴への気づきがある。正しい英文(英字新聞やテキストの例文)から生成された和文を検討し、日本語では通常どの部分を省略するのか、また、英文を作成する際にどのような部分を補うべきか等、学生との試行錯誤から新たな観点を得た。 これらの実践から得た情報を授業改善に生かすには、ひとりの教員であれば複数年を要するものも、オンラインで複数の教員が情報交換することにより、先行クラスでの学生の反応や問題点などが即座にフィードバックされ、それを別のクラスで生かすことができたのである。 便利なツール:オンラインストレージ今回のプロジェクト実施のためにわれわれが用いた手段は、特別な技術や管理体制を必要とせず、インターネット接続環境があればどこでも利用できるものである。まず、オンラインストレージ(Yahoo! ブリーフケース)を使用するために、メンバーで「ユーザー ID」と「パスワード」を共有する。その後、教材ファイルを MS-WORD で作成し、順次アップロードする。ファイル名に作成日時を併記することにより、容易に最新データを確認し、授業での利用あるいは改訂が可能である。また、プロジェクト用のメールアカウントを取得し、関連のメールをそのアドレスに同報する。このようにメールとファイルの管理をネット上で一元化することは、プロジェクトの運営にきわめて有効であった。ただし、情報管理には細心の注意が必要であり、学生の個人情報を含むようなファイルは、ネット上での扱いを避けた。オンラインストレージはいつでもどこでもアクセスでき、教材のアップロード・ダウンロードができる便利なツールであった。「あっ、プリントを忘れた。」という冷や汗のでるような場面でも、教室で教材をダウンロードし即座にプリントできた。 参加校の一部には、PC のみが設置され、語学教育用の環境(CALL 教室等)を利用できないクラスもあった。しかしながら、今回のプロジェクトはインターネットに接続されたコンピュータ実習室があれば、どこでも実施可能である。 まとめインターネットが学生にも確実に浸透する中で、英語教育に携わる者にとっても、その利点及び問題点を検討し、学生に伝えることは、大きな課題である。今回のプロジェクトは、学生に対する教育実践であると同時に、教員自身がインターネットを活用しつつ、情報化時代の英語教育を研究し、学ぶという構造を有する。プロジェクト構想時の議論をはじめ、教材作成や授業運営の多くの面で、参加教員が学び合うことは非常に多く、それは教育実践の協同運営を通して得られた面が大きい。このような継続的なプロジェクトをベースにした協同研究・協同実践は、今後学校種を問わず、変革期の外国語教育の改善に大いに資するものと考える。 皆さんも、例えば研修会などで親しくなられたグループで、一度プロジェクトを試みられてはいかがだろう。プロジェクトを核にした協同実践で得られるものは、学生・教師双方にとって非常に大きく、新鮮である。 【注】 1) G-TELP の詳細は、公式ホームページ (http://www.g-telp.jp/test/what.html)参照。 2) パラグラフ構成の指導に関し、同志社大学北尾謙治先生の以下のページ及び関連テキストを参考にさせて頂きました。この紙面をお借りし、謝意を表します。http://ilc2.doshisha.ac.jp/users/kkitao/library/student/textbook/essay.htm |
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