UG-based SLA 研究と英語教育
― 言語理論の立場から
2004年9月01日
2004年9月01日
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大阪大学教授 岡田伸夫 Okada Nobuo UG-based SLA研究![]() 「英語教育」2004年9月号(大修館) → 目次はこちら → 定期購読はこちら From "The English Teachers' Magazine" September 2004 Vol. 53 No.6 (Taishukan) 生成文法には次の3つの研究課題がある。
生成文法理論に基づくSLA研究には、(1)の i ~ iii に対応する次の3つの研究課題がある。
第二言語で第一言語話者に近いレベルに到達する学習者は、第一言語の話者同様、入力によって十分に決定できない、豊かで複雑な文法知識を獲得すると考えられる。このことは第二言語の獲得にも刺激の貧困という問題が存在することを含意する。この問題を解決するためには、第二言語の獲得に際してもUGの知識が再度利用されると考える必要がある。第二言語獲得研究のうち、UGに依拠する研究をUG-based SLA研究という。第二言語の文法が脳中に内在化されることは「獲得」と呼ばれる場合と「習得」と呼ばれる場合がある。第二言語の文法の内在化を説明するのに、生得的な言語獲得専用の仕組みであるUGの役割を重視する人は「獲得」、条件付けや習慣形成といった経験や、類推のような一般的な学習方略の働きを重視する人は「習得」とすることが多い。 1980年代から1990年代の前半にかけて盛んであった「原理とパラメータのアプローチ」と呼ばれる生成文法理論は、初期状態の言語知識は、束縛理論、境界理論などの原理と、主要部パラメータ、統率範疇パラメータなどの値の決まっていない(あるいは暫定的にデフォルト値が決まっている)パラメータからなると仮定する。パラメータの値は子どもが経験する(周りの大人から与えられる)肯定証拠(これこれの文は文法的であるという証拠)によって決定される。パラメータの値が決まると個別言語の「核文法」ができあがる。 SLAにおけるUGの利用可能性現在のSLA研究で問題になっていることの中に、子どもの母語獲得に際して働くメカニズムが大人の第二言語獲得に際しても働くか否か、働くとしたらどのように働くかという問題がある。第二言語獲得においてUGが働くか否かという問題に関しては、完全アクセス、部分アクセス、無アクセスという3つの仮説が提案されている(Flynn 1996)。完全アクセス仮説は、第二言語獲得途上の大人は、母語獲得途上の子ども同様、UGの原理とパラメータに完全にアクセスできるという仮説である。部分アクセス仮説は、第二言語獲得途上の大人は、母語の文法を通してUGの原理とパラメータに部分的にアクセスできるという仮説である。無アクセス仮説は、第二言語獲得途上の大人は、母語獲得途上の子どもとは異なり、UGの原理とパラメータに全然アクセスできないという仮説である。 部分アクセス仮説ないしは無アクセス仮説に立つBley-Vroman(1989)は、大人の外国語習得には、子どもの母語獲得とは異なり、
しかし、第二言語獲得を主として一般問題解決体系によって説明しようとするアプローチには次のような致命的な難点がある。まず、このアプローチは、第二言語獲得者が文法を構築するときに用いる「道具」が何であるかを述べているに過ぎず、最終的に学習者の脳中に蓄えられる文法内容が何であるかについては何もいわない。また、このアプローチは、文法が類推のような学習方略によって獲得されることを含意するが、第二言語にも生得的、普遍的な原理やパラメータが含まれているという事実を説明することがむずかしい。 SLA研究と英語教育SLA研究と第二言語教育との間には直接的な関係はない。第一言語獲得の研究と第一言語教育との間に直接的な関係がないのと同じである。実際、SLA研究に携わる人の中には第二言語教育に関心をもっている人もたくさんいるが、第二言語教育とは関係をもたず、第二言語獲得の論理問題と第二言語の発達の過程を純粋に科学的に研究しようとする人もたくさんいる。しかし、SLA研究の過程で第二言語教育に役立つ知見や示唆を見つけることは不可能ではない。日本の中・高における英語の学習時間は限られている。その中で最大の効果をあげるためには効率を考えざるをえない。SLA研究からは、どの学習段階にある学習者にどのような入力を提供するのがよいか、どのような文法事項を集中的に教えるべきか、どの段階でどの誤りを正すべきかなどに関する直接的、間接的示唆が得られる。 原理とパラメータのアプローチは、個別言語の文法の核の外に広がる広大な周辺部についてはほとんど何も言わない。英語教員の1人として言えば、英語が、より基本的な規則・構造から、より周辺的な規則・構造へと展開していくメカニズムを説明する普遍文法があれば、英語教育のどの段階でどの文法構文をどのように導入すべきかに関して有益な示唆が与えられると思う。 たとえば、梶田(1992)の動的文法理論は次の2種類の規則を想定する。
UG-based SLA研究の英語教育への利用UGは言語の普遍性をとらえ、パラメータは言語の多様性をとらえる。以下、UG-based SLA研究の成果が英語教育に貢献するケースをいくつか具体的に見てみるが、いずれもパラメータ値の違いに起因する相違を含むケースである。下の(5)にあがっている意味類の動詞は二重目的語構文で使うことができる。
Pinker(1989)は give と donate、tellとreport、buyとpurchaseの振る舞いの違いを次のようにとらえる。言語獲得途上の子どもは、まず、二重目的語構文で使われる特定の意味類に属する動詞が、1音節の動詞に限られているか、多音節の動詞でもよいかに着目する。二重目的語構文で使われる「与える」という意味類に属する動詞は、give、pass、handなどの1音節語だけなので、この意味類に属する動詞には「1音節語でなければならない」という音韻制約が課せられていると判断する。この音韻制約の有無はパラメータの2つの値でとらえることができよう。 日本人大学生・大学院生の中には上の(6)-(8)のbの文でdonated、reported、purchasedを使ったものを誤って文法的と判断する者がいる。これらの大学生は中・高で6年間、大学院生なら8~10年間、英語を学んできているのだが、この音韻制約は獲得していない。しかし、彼らにこの音韻制約を教えると、donate、report、purchaseを二重目的語構文で容認する間違いは減る。 この例は、日本の中・高・大で通常の授業を受けている限り、二重目的語構文で使われる動詞に課せられる音韻制約を獲得することはないということと、この音韻制約を明示的に教えるとある程度成果があがるということを示している。いろいろな動詞の二重目的語の文を今まで以上に大量に授業の中で与えることはむずかしいだろう。明示的に文法規則を与えるほうが確実だろう。 パラメータ値の違いに起因する相違を含む例をもう1つ見てみよう。道具は英語ではwith、日本語では「で」で表わされる。しかし、次の(9)aでは道具のタオルがwithとonの両方で表わされている。
大学生に次の(10)a、bの空所に前置詞を入れさせるとほとんどの者が両方にwithを入れるが、上の(9)を使って道具の場所化という現象を説明した後で、(10)bの空所に前置詞を入れさせると、正しくonを入れることができるようになる。
最後に、もう1つ別の例を見てみよう。次の(11)の動詞は、本来、移動を表わす動詞であり、次の(12)に見られるように、到着点や方向や通過点を示す句と共起することができる。
次の(13)にあげる動詞は運動の様態を表わす動詞であり、次の(14)に見られるように、必ずしも位置の移動を伴うとはかぎらない。
しかし、運動様態動詞は、到着点や方向を示す句と共起すると、移動の意味をもつことができるようになる。次の(15)に対応する日本語は、次の(16)aであり、(16)bではない。
英語ではGOと運動様態を融合(fuse)し、運動様態動詞1語で表現することがあるが、日本語ではGOと運動様態を別々の語で表現する。もっと詳しく言うと、運動様態を表わす動詞を‘-te’形にして移動を表わす動詞の前に置く。あるいは、次の(17)bに見られるように、運動様態を表わす動詞を連用形にして、移動を表わす動詞と融合させ、1語の複合動詞にする。
原理とパラメータのアプローチが説明するのは核文法の獲得である。このアプローチは、現実の文法から核文法を引いた広大な周辺部の獲得についてはほとんど何もいわない。Chomskyは、核文法のある種の条件を緩和したり、類推を働かせたりして、周辺部ができると言うが、広大な周辺部の獲得の説明にも本格的に取り組まなければならない。そうして初めて第一言語獲得と第二言語獲得の全体像を見ることができるだろう。 【参考文献】
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「英語教育」2004年9月号 |
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