"めざせ100万語"とは!?
2004年2月01日
2004年2月01日
100万語突破報告が急増中――「100万語多読」の現状から伺いたいのですが、今100万語を達成した人は何人ぐらいですか。酒井 「めざせ100万語」のwebサイト掲示板に、この9月に200番目の人が100万語通過報告をしていました。私の周りにも、達成したが報告していないという人がたくさんいるので、おそらくその数倍はいるんじゃないかな。サイトにはインターネット書店があって、多読を始めるためのセットを何種類も売り出していますが、それを買って始めた人がこの2年間で5,000人ぐらいいます。2年前にwebサイトを立ち上げたときは、1年間で1人か2人、100万語通過を報告してくれる人がいれば御の字だと思っていたので、これは本当に驚くべきものでしたね。 ――酒井先生が「100万語多読」を始められたのは2年前ですか? 酒井 いちばん最初は、私が非常勤講師をやっていた立川高校で始めたんです。25歳のときに。その当時は、とにかくたくさん量を読まなきゃ話にならないと思っていたけれども、まず洋書が高くて読もうにも材料がないんですよ。だからたくさん読むということ自体が無理だった。実際に一橋大学で多読を始めたのも、今から20年ぐらい前ですね。 研究費でやっと買った100~150冊ぐらいの本を抱えて、そのために運転免許もとって、大学にもっていきました。選択の授業なので、ただ本を読むなんていうメチャクチャなこともできたわけですね。 太田 私は中学で多読の授業をしていますが、特に語数のカウントはしていません。先生が100万語といわれたのは、何か根拠があるのでしょうか。 酒井 電気通信大学の学生で、すごくよくできるようになった学生が私の書いた英語をいろいろ批判するんですが、彼に聞いてみたら、それができるようになったのは165万語ぐらいだと。そうすると一応読めるようになるのは100万語ぐらいだろうと思っていた。ほかにも根拠はあるんですが、すべて経験的なものですね。 太田 現場で実際に生徒と対している先生が感じている経験則というのは、私はそんなにはずれていないと思っていますが、いろんな方の報告を聞くと、やっぱり100万語は目標の第1ステップとして非常に魅力的だと思いますね。 酒井 実際に「100万語」と言い始めてみたら、遠そうにみえて実はそんなに遠くなくて、しかも語呂がよくて、とてもうまい数字だったなとは思っています。 ――100万語を達成された人たちは、具体的にどんな成果が上がっているのでしょうか。 酒井 電気通信大学の場合は、100万語を読んだ人はまず間違いなくハリー・ポッターは読み始められる。シドニー・シェルダンも大体読み始めると言っていいと思いますね。社会人の場合には、ずいぶん長い間英語から離れていたなんていう人もいて、200万語くらいからシドニー・シェルダンという人もいます。一方、中学生ぐらいで始めた人で、7月から始めて8月の末にはハリー・ポッターを読んでいたという人もいます。そういう場合でも、結局累積すると100万語ぐらいで読めるようになっているんじゃないかな。 ――ハリー・ポッターがひとつの目安ですか。どの程度の英語で書かれているのでしょう。 柴田 ネイティブ・スピーカーの小学校高学年だったら、自分の力で読むでしょうね。低学年だと個人差があるでしょうが。 辞書は本当に引かなくていいの?――「100万語多読」では三原則を立てられていますね。酒井 ええ。(1)辞書は引かない、(2)わからないところは飛ばす、(3)読み進めるのがつらくなったらその本はやめちゃう、というのが三原則なんですが、「辞書なし」というところから現在のように広がってきたんだと思います。今までいろんな種類の多読があったけれども、「辞書なし」でいいというのがすごく気持ちを楽にするみたいですね。大修館書店には申しわけないんですが…(笑)。社会人の場合は特に、辞書を引いてすべて100%わからなければだめ、少なくとも100%わかろうとして本に向かわなきゃいけないというのが、実はたいへんな足かせになっていたんだと思います。僕もかつて辞書大好き人間だったのでよく分かります。 太田 辞書を引くことをいちばん熱心に言うのは、高校の先生だと思います。中学生の場合は、教科書だけを読んでいる限り、巻末に単語の意味が全部出ているので和英辞典を引くことはあっても、英和を引くことがあまりない。だから中学では、生徒は「自分で読んで合わなかったらやめていいんだ」というほうに比較的反応があるように思います。勉強だと思うと途中でやめることに罪悪感があるようで、最初は「本当にやめていいの?」という声があります。 柴田 私は辞書を丹念に調べて、じっくり読んで勉強することも否定しませんし、いい辞書は個人的にもたくさんもっていますし、生徒にも辞書を使うときは使えと言います。ただ、一方で、辞書がないと勉強した気にならないという人たちがたくさんいることについては、これはいかんと思っているんですね。辞書がないとだめだというのは、同時に日本語に訳さないとわからないということとつながっているでしょう。特に学校では訳をするとそこで終わりでしょう、生徒は。意味がわかったら、今度はそれを繰り返し音読したりしているうちに、日本語に訳さなくてもイメージできるようになって心のなかに英語がしみ込むというところまで指導したいと思っています。 酒井 訳したら絶対いけないと思います。一方でやさしいものを辞書なしで読んで、一方で一生懸命辞書を使って精密に読んでいるうちに、いつか訳さずに読めるようになるといいますが、その方法では、私自身の経験からいっても、訳すという習慣がなくなるには相当な時間を要するだろうと思います。本当は訳すのは一切やめたほうがいいですね。そのほうが結局早いと思います。 楽しく読んで評価はしない酒井いろんな先生から、訳させないでどうして生徒が理解していることがわかるのか、という疑問がよく出されますが、僕は試験をやらないし、理解度チェックをやらないし、感想も書かせない。 次の本に手を出すようならば前の本は理解できている、理解したことにしましょうというふうに答えます。ここはなかなか受け入れられにくいところです。 評価には点数による評価と、先生による主観的な評価と2つありますね。先生による主観的な評価というのは、点数による評価と同じぐらいに客観性のあるものだそうですが、私のクラスの学生とは常に毎時間話をして、どの人がどんなふうに読んできたかという記録は全部見ている。だから主観的な評価は常にやっています。 太田 先生が一人ひとりに「いまのところはわかっている?」とか「面白い?」とか声をかけられるときは、今読んでいるものは大丈夫かということを聞きたい感じですか。 酒井 そうですね。「わかってない」と答えることはまずないですから、「わかります」と答えるまでの間とか表情でもって、ちょっと苦しそうだなとか判断しています。それに私は回りながら、ちょっと難しめのものを読んでいる学生については、分速どのぐらいで読んでいるかをいつもチェックしているんですよ。ページをめくったら時計をみて、次のページをめくるまで間にどれくらいかかったかをみて、大体分速70語だと、これは無理して読んでいるのは間違いない、あるいは日本語に訳しながら読んでいると判断して、どう?と聞きにいく。ちょっとでも「…わかります」というのにためらいがあるようだと、やめようと言っています。 私は読書手帳に必ず近況報告をやってもらうんですよ。バイトがたいへんだったとか、仮免までいきましたとか、あさって誕生日ですとか書いてあるんですよ。そういうのを話題にして、先生は生徒がどのぐらい読んでいるかを監視するために歩き回っているんじゃないんだというメッセージを出すようにしています。 太田 先生が生徒をうまくエンカレッジしているんだなというのがよくわかります。生徒がよく多読の授業で書くのは、「この授業は自分のペースでやれるからいい」と。自分のペースで自分のやりたいようにというのは、生徒にはすごく魅力的なのかなと。 酒井 そうなんだと思いますね。大学生の場合にも、自分のペースで好きなように読めるからよかったというのは、学生による授業評価の中によく出てきますね。 最終的に成績をつける材料は、私は出席だけなんですよ。去年は1回休んだだけで「良」になってしまいました。 ――それでは風邪も引けないですね(笑)。 酒井 そうです。大学だとそういうムチャなこともできますからね(笑)。 進学校で「100万語多読」に挑戦――柴田先生は実際に「100万語多読」の方法で実践していると伺いましたが。柴田 私は今の学校の英語教育を変えたいと思っていろいろ模索してきましたが、多読は今までやろうと思ってもなかなかできなかったから、この「100万語多読」に飛びついたわけです。今勤めている学校は私立で、6年間の全寮制の中高一貫校、生徒は中学が45人の3クラス、高校が5クラスです。 私は今高2を教えていますが、昨年レベル3までの本を250タイトル、やさしい本は複数ありますから約300冊を買いました。予算がないので全部保護者に負担してもらいましたが、各クラスに学級文庫という形で同じセットを5つ買いましたから、本代が生徒1人当たり4,000円弱かかっています。で、授業を始めたのが1年生の3学期。これは別の先生にやってもらったんですが、週3時間の授業のうち1時間を本を読む時間にしました。 酒井 つまり45分か50分を? 柴田 50分ですが、小テストなどもするので、実質30~35分ぐらいですね。それで読書手帳を毎回提出させて、生徒が何を読んでいるか、どれくらい読んでいるかを担当の教師が見て、判を押して生徒に返す。評価は何もしていません。提出したかどうかは評価に入れていますが、定期テストにも入れようがないから入れていません。 ――授業中以外も読むのですか。 柴田 生徒にはもって帰っていいよと。紛失する心配があるので、最初は1冊借りて、読んだら返して次のを借りなさいと言っていたんですが、生徒の取り組みの差が激しくて、読まない子は授業のときしか読まない。もっと読みなさいという意味で、今は3冊ぐらいまで借りていいと言っています。 1月から始めて3月までやって、学年がかわって5月の中間考査のあとから、今度は私の授業でまた指導を再開しましたが、授業の切れ端の時間があると「あと10分あるな。じゃあ本を読む?」という方法です。それを夏休みまで続けたところ、その時点で1月からの累計が、202人中、50万語を超えたのが1人、20万語以上の子も案外おりました。10万前後まで達している子はかなりいました。 かなりの生徒が、英語を読むことはいいとは思っているようですが、それは、たいへんよい、楽しい、役に立つ、英語の力がつくと思っている子と、普通の授業でつまらないことをされるよりは、英語を読んでいるほうが楽しい、まだまし(笑)というレベルまで。 酒井 授業中にしか読まない人はどのぐらいいますか。 柴田 全体の3割。もしかしたら4割ぐらい。1割は必死に読んでいますね。 ――1週間に何冊とか、目標は何かありますか。 柴田 1月に始めた段階ではノルマは決めていませんでしたが、5月に再開した際に、「君らが読めるのは、おそらく1分間に100語前後の人が多いだろう。1年後に100万語を達成するためには、1日30分で3,000語。これなら途中で休みが入ったとしても1年で100万語になる。つまり、1週間で約2万語読まないと100万語は達成しないよ」と言いましたが、なかなかそのペースでは生徒は読めません。 夏休みにハリー・ポッターを読んだという子と話をしたんですが、こういうことを言ったんです。「自分が読んでいるとき、訳している?」―「訳していない。」、「ではどんなふうに読んでいる?」―「英語の文字をみていると、英語で読んでいる声が心のなかで聞こえてくる」。つまり音読の速さで読んでいるわけです。「それは自分の声かというと、自分の声じゃない」と。 全員 ほう! 柴田 私は中1からこの子たちを教えていてたくさん英語を聞かせていますから、そういうモデルリーディングのような声が聞こえてくるので、それを追っているだけだと言うんです。この子は発音が非常に上手な子ですが、最近の模試の成績をみると、読解のところの成績がよくなっていますね。 中学の実践―これなら読める!――太田先生は中学校で多読の実践をされていますが、具体的には、どのように。太田 まず採択している教科書以外の教科書を読ませています。検定教科書はものすごく安いので、大量に買って英語教室に置いてあるわけですね。 最初は中1の1学期末に1時間、期末テストが終わったあと「今までレッスンのここまでをやったね。それはほかの教科書でいうとここまで読めるんだよ。今日はとりあえず読みたい教科書を読んでごらん」と言って、どの教科書のどこを読んで、どんな内容だったかを簡単に日本語か英語でメモさせます。そういうのを1・2学年の各学期末に1時間ずつやります。2年の3学期になるとずいぶん読める範囲が広がりますから、自分が楽に読めるものを教科書20レッスン分読もうと言います。だから1年の教科書を読んでかまわない。 それで3年に入ってからいよいよ本格的に英語の本を読んでもらいます。生徒にとってはひとつの憧れというか、「ほんとに日本語がないネ」というものを読んで、たとえ薄くても1冊読んだんだという達成感を持たせたいと考えています。 ――英語の本というと? 太田 どこから始めるのがいいかまだ試行錯誤中ですが、今のところ、中3に入ってOxford Bookworms Starter(250語レベル)から始めると、生徒が「とっても簡単だね!」と言うんですよ。1冊が薄くて、本当によくできています。中でもSurvive!が生徒にいちばん好評ですね。これは読みながら生き残るためには、どっちに行くか選択していく形式の本なんですが、生徒が「先生、4回死にました」「わたしはゼロ」と言ってくる。なかには「先生、この本って、こんな簡単な英語を使って、ストーリー的には予測できるんだけど、なかなか凝ってるよね」と。つまりちゃんと楽しんでいるわけですね。 酒井 英語についてではなく内容についてなのですね、難しいとかやさしいというのが。 太田 ええ。私は何の本を読んだかと、どれぐらいわかったか、おもしろかったかと、感想を日本語で書いてもらっていますが、そのなかに、「私みたいに英語が苦手な子もこういう本なら読めると思って、うれしくなりました」とあって、うれしかったですね。 酒井 PenguinのEasystarts(200語レベル)は使いませんか。 太田 それも使っています。ただ、Oxfordのはマンガ仕立てになって、教科書っぽくないのがいっぱいある。しかも量を読むことが大切なので、それには自分の今のレベルよりちょっとやさしいものを読まなきゃ絶対だめですね。苦しんで読んだら意味がないと言っています。でもStartersをどんどん読める子は、そろそろ上のレベルにいこうかなと、私がすすめる前に、大体自分で気がつき始めますね。そうするとPenguinに入っていくとか。 3年生は、今年は実験的にやったんですが、4月の終わりから始めて6月末までの2か月間限定で、毎週水曜日に1回は多読と、あとはリスニングの教材を自分のペースで聞く。クラスを半分に分けて、交替でいっぱい聞くのといっぱい読むのをやってもらっています。読む時間は週1回というと実質25分ぐらいしかないので、あとはとにかく「どんどん借りて、どんどん読んで」と言っています。 ――実際にはどれぐらい借りていますか。 太田 どんなに薄くても自分の好きなレベルで週に1冊は読もうよと言っています。つまり2か月で8冊ですが、大体生徒は8~10冊は読みますね。多い子はもっと読みます。とりあえずOxfordでいうとレベル3、Penguinでいうとレベル3まで一応置いてありますから、あとは希望が出てくると私が本屋さんかアマゾンで買ってくるという形です。 ――書籍代は? 太田 基本的には英語科の予算があるので、そのなかから少し買うんですね。それから図書館でけっこう買ってもらえます。あとはあらゆる機会を利用して。それで今300~400あるかと思います。 酒井 成果はどんなふうに感じられていますか。 太田 今言ったような形で教える前に、去年、同僚と中3の選択授業で、3月に3週間、9月に3週間、「英語をたくさん読もう」という講座を開きまして、私は多読は絶対力がつくだろうなと思っていたんですが、それを検証したかったのでプレテストとポストテストをやったんですね。結果は、両方参加した子と両方とも参加しなかった子には、リーディングに有意差が出ている。残念ながら、前期か後期どちらか3週間だけとった子ととらなかった子との有意差は、全然なかったということでした。 (※当記事は座談会前半部分です。全文は『英語教育』2月号をお読み下さい)
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「英語教育」2004年2月号 |
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