よい「発問」・わるい「発問」 — 授業を変える発問とは
2010年3月30日
2010年3月30日
|
山梨大学准教授 田中武夫 Tanaka Takeo 発問で学びの必然性を作り出す![]() 「英語教育」2010年4月号(大修館) → 目次はこちら → 定期購読はこちら From "The English Teachers' Magazine" April 2010 Vol.59 No.1 (Taishukan) 「なぜ英語を勉強しないといけないの?」 どうすれば生徒一人ひとりが主体的に学び、知的に楽しく活気あふれた授業ができるのか、日々悩んでいる教師は多いと思います。そんな時、私たち教師がすぐにできることは、教師の発問を工夫することです。発問とは、生徒が主体的に教材に向き合うように、授業目標の達成に向けて計画的に行う教師の働きかけを指します(田中・田中、2009)。しかし、授業で実際に発問しようとしても、なかなかうまくいかないことがあります。ここで、授業の中核となる発問について、次のチェックリストをもとに振り返ってみましょう。 〈授業中の問いに関するチェックリスト〉 □教材の本質からはずれたことを尋ねていないか□教師がすべてを教えようとしていないか □考えなくてもすぐ答えられることだけを尋ねていないか □異なる意見や考え方が出る余地があるか 教師自身がまず教材を豊かに捉えるよい発問を作るためには、まずは教師自身が教材であるテキストを豊かに捉える必要があります。テキストを読んでみて、教師が面白いと思う部分があれば、どうすれば生徒にもその面白さに気づかせることができるかを考えてみるのです。では、次の中学校の教科書にある英文をもとに、具体的に考えてみましょう。 〈Text 1〉 Mike: What do you have for breakfast?Judy: I have cereal. How about you? Mike: I have rice and miso soup. Judy: Oh, really? (New Horizon English Course 1、東京書籍) 〈例1〉 ・MikeはJudyに何を尋ねましたか?・JudyはMikeの質問に何と答えましたか? ・JudyはMikeに何と言いましたか? ・MikeはJudyの問いに何と答えましたか? では、次のような問いかけを生徒にした場合は、どうでしょうか。 〈例2〉 Judy はなぜ “Oh, really?” と言ったのでしょうか?この問いを理解するためには、少なくとも次のようなことを生徒に考えさせる必要があります。 ・Judyが“Oh, really?”と言う前にMikeは何と言ったのか? ・Mike はどこの国の人なのか? ・欧米文化の人は朝食に何を食べているのか? ・Mikeが朝食にご飯と味噌汁をいつも食べているとJudyが知ったらどう感じると思うか? これらから、欧米文化をもつ国から来ているMikeが、朝食にご飯と味噌汁を食べていると答えたことがJudyにとって意外であったことに気づくはずです。“Oh, really?” と言った理由を考えるために、そのことばと会話全体に含まれる意味、そして、自分たちが既に知っている事柄をすべて統合させることになります。このような問いは、テキスト上の情報と読み手の既有知識を統合させる問いであり、推論を促す問い(inferential questions)と呼ばれます。 このテキストをもとにした推論を促す問いには、この他にも次のようなものが考えられます。 〈例3〉 (1) なぜ Mike は “What do you have for breakfast?”とJudyに尋ねたのでしょうか?(2) Judyが“Oh, really?”と言った後、Mikeはどのようなことを言うと思いますか? Mike のことばを考えてみましょう。 高校のリーディング指導での発問では、高校のリーディング指導での発問を考えてみましょう。次のテキストの場合、どのような発問が考えられるでしょうか。〈Text 2〉 World War II ended on August 15, 1945. On that night, the city lights were turned on again. Tezuka Osamu looked at them. At that time he was sixteen years old. During the war, there was terrible bombing. He faced death again and again. “I'm alive!” he thought ....(Big Dipper English Course I、数研出版) 〈例4〉 “On that night, the city lights were turned on again.” はどういう意味になりますか?日本語に訳してみましょう。〈例5〉 T:“the city lights were turned on again” とありますが、なぜか分かりますか?S1:「町に再び明かりが灯された」、だから…。 T:再び明かりがついたということは、それまではどうだったのでしょうか? S2:明かりが消えていた。 T:なぜ明かりが消えていたと思いますか? S3:〈テキストの細部を再度読んで〉“there was terrible bombing” とあるので、明かりがついていると爆撃されるからだと思います。 T:長い戦争が終わり、やっと明かりをつけることができたときの気持ちはどんなものなのでしょうね。 S4:〈再度テキストを読んで〉“I'm alive!” というところから、「ああ、生きてるんだ!」 このように、授業展開の中核になる問いを考えるためには、まずは教師自身が教材を豊かに読むことが大切です。 よい発問を作り出すポイントとはここまで、中学校と高校のテキストをもとに、よい発問の具体例を見てきました。知的好奇心をくすぐる、よい発問がなされれば、発問に答えようと生徒はテキストの中にヒント情報を探し始め、何度も繰り返し読むことになります。また、最初は表面的であった理解が、発問を考える中で豊かで深い理解になっていきます。では、このような発問を作る際に、私たち教師はどのような点に気をつければよいのでしょうか。4つのポイントを順に見ていくことにしましょう。(1) 教材の本質を突いているか? 表面的な意味だけを尋ねていたり、教材の主題からかけ離れたことを尋ねていたりすると、生徒は教材から離れていきます。そんな時、教材の本質を突く発問をしてみましょう。本質を突く発問とは、リーディング指導の場合、テキストが読み手に訴えかけているメッセージを問う発問を指します。よい発問例に共通するのは、文字通りの意味を理解させるだけでなく、ことばが含む意図やテキスト全体の中でのことばの働きを生徒に考えさせている点です。 Widdowson(1978)は、テキストの文字通りの意味を表意(signification)と呼び、そのテキストの背後にある意図や働きなどを真意(value)と呼び、テキストのもつ2つの意味を区別しました。コミュニケーションとして言語を指導する際に大切なことは、ことばの真意も含めた指導をすることであると主張しています。ここでいう教材の本質とは、まさしくテキストがもつ真意のことを指しています。 Text 1 で見た MikeとJudyの会話での、Judyの“Oh, really?”ということばにはJudyの驚きが、Mikeの“What do you have for breakfast?”ということばにはMikeの自慢の気持ちが読み取れ、Text 2 で見た手塚治虫に関する英文での “the city lights were turned on again”という文には、暗くてつらい戦争の終わりが読み取れます。 教師がこのような箇所に着目し発問することによって、生徒一人では理解しにくいテキストの真意を捉えさせることができます。教材の本質部分を問うことで、ことばのもつ働きや価値に気づかせることになり、生徒の学習に対する動機を高めると同時に、豊かな指導にもつながります。 (2) 生徒に気づかせているか? よい発問を作るためには、教材の本質部分を教師が先回りして教えてしまうのではなく、生徒が自分で気づくようにすることも大切なポイントです。手塚治虫の英文を例にとって考えてみましょう。 〈例6〉 町の明かりが灯るってことは、暗くてつらい戦争が終わり、自分が生きていることをやっと実感することができたってことですよね。自分の力で課題を解決するために学習者に与えられる支援は、足場がけ(scaffolding)と呼ばれます。たとえば、発問をする際、テキストのどこかに必ずヒント情報があるような問いを出すよう心がけることが挙げられます。また、テキスト内外の情報を見るよう補助的な指示を適宜出すことも大切です。テキスト上のヒントを探すよう生徒の意識を向けることができれば、必然的にテキストを何度も読ませることになり、自分で答えを導き出した達成感を生み出すことになります。 生徒から出される異なる考え方や解釈をクラスで共有することも重要な足場がけの一つです。例5のやりとりでは、テキスト上の情報をもとに、次々に自分の気づきを他の生徒と共有しています。これらのやりとりを通して、自分の理解をさらに深めることになります。 (3) 意外性があるか? クラスに意見の対立が起きたり、生徒の頭に葛藤が生まれたりするなど、生徒の知的好奇心を揺り動かす問いは、よい発問です。よく考えなくても答えがすぐに分かってしまうような問いは、知的に面白みがなく、よい発問とは言えません。既知と未知の間の矛盾を解消したいという心的感情は、認知的不協和(cognitive dissonance)と呼ばれます。授業の活性化につながるよい発問は、この認知的不協和を計画的に作り出すような、生徒の知的好奇心を高める要素をもっています。 概して、生徒は英文を日本語に訳すことができれば、その英文の意味が理解できたものと思いがちです。しかし、たとえば、例3の(1)の発問のように、教師が発問すれば、なぜ教師がそのようなことを尋ねるのか、生徒は意外に感じるはずです。既に理解できたと思っていたことが、実はまだよく理解できていないということに気づかせ、知的好奇心をくすぐることになります。また、その発問をきっかけに、単なる疑問文だと思っていたMikeのことばが、実は彼の自慢したい気持ちが読み取れる文であったことを発見した生徒は、きっとハッとするに違いありません。 (4) 多様性を引き出しているか? また、生徒たちからどんな答えが返ってくるか、楽しみかどうかという観点で、教師自身がワクワクする問いを作ることができれば、それは多様性を引き出す、よい発問と言えます。逆に、決まりきった一つの答えしか出てこない問いは、よい発問とは言えません。 生徒からの答えをある程度予想できるが実際は何が起きるか分からない、半ば必然に半ば偶然に起きることは、偶然性(contingency)と呼ばれ、そのような状況が学習者の学びへの集中を生み出すと言われています。偶然性をうまく活用している発問は、授業に集中をもたらします。たとえば、発問例3の(2)では、既出の会話の解釈をもとに、多様な答えが予想できます。Mike がいかに日本文化を好きか自慢することばを考えたり、日本食の良い所を説明することばを考えたりする生徒がいるはずです。教師が想像もしなかったことを考え出す生徒がいるかもしれません。テキストから読み取るメッセージや生徒の背景知識は少しずつ異なっているため、生徒の異なる解釈をクラスで共有することが大切です。教師も生徒もどのような回答が出てくるか授業が楽しみになります。 活気ある授業を考えるカギとしての発問ここまで、リーディング指導を中心とした発問例を見てきました。よい発問とは、教材に対する生徒の学習動機を高め、教材に何度も向き合わせ、教材の本質に生徒の力で気づかせながら、豊かで深い理解を促すものであると言えます。言い換えれば、学びの必然性を作り出し、生徒の活動への主体的な取り組みを促すものです。このような発問が重要な役割をもつのは、リーディング指導だけではなく、文法指導、スピーキング指導やライティング指導などにおいても同じです。今後、聞く・読む・話す・書くといった4技能のバランスや統合が、英語授業作りの中でいっそう重視されることになります。その中で、本稿で述べてきた発問作りは、重要な要素の一つになってくるものと思われます。教師の発問をきっかけとして、ことばの豊かな意味や働きを生徒に実感させ、ことばを学ぶ必然性を作り出していくことは、活気のある英語授業作りのカギとなってくるはずです。教材のどこに着目し、どのように生徒に問えば、その教材を面白いと生徒に感じさせることができるか、授業の準備段階でちょっと考えてみることから始めてみましょう。 参考文献 田中武夫・田中知聡(2009)『英語教師のための発問テクニック:英語授業を活性化するリーディング指導』大修館書店 Widdowson, H. G. (1978) Teaching Language as Communication. Oxford University Press. |
|
「英語教育」2010年4月号 |
|||||||||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||||||||
|
大修館よりオススメの新刊 |
|||||||||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||||||||
日本在住の外国人英語教師のためのサイト「ELT News」の求人広告をご活用ください。ELTBOOKS.comのお客様は、求人広告欄が1ヶ月間無料!