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語彙習得理論を“現場目線”で活かす!

実際に中学生・高校生の指導にあたってきた教師が、中学・高校現場目線で、語彙習得理論に基づく効果の高い語彙指導・語彙活動のあり方を探る。

「“山”といえばなぜ“川”か~メンタルレキシコンと語彙習得~」

コラム

2010年2月14日

  日本語を母語とする人に「”山”という言葉から連想する語は?」と聞いたとします。みなさんは、どんな言葉を思い浮かべたでしょうか?おそらく「川」や「海」、「頂上」「高い」「登る」などだと思います。

 英語にも同じ現象が見られます。「"mountain”から連想する語は?」と英語母語話者に聞いた場合、ほとんどの人が“hill", "top",“high",“sea”などと答えるといいます。
 

 同じ言語を共有する人たちは、なぜこのように同じような連想をするのでしょうか?その答えは「メンタルレキシコン」という、私たちの「脳内辞書」のあり方に見出されます。
 

 Aichison (2003)によると、私たちの脳の中には、単語は非常に理路整然とした形で貯蔵されています。母語が英語の方であれば、生まれたときからの英語の大量のインプットにより、一緒に出てくる可能性の高い単語同士を判断し、それらは脳の近い場所に蓄えられます。"mountain”と“hill“ "top”"high”"sea”は一緒に出てくる可能性が高いため、脳の近いところに蓄えられます。連想語を聞かれるとこれらの単語を答えるのはこうした理由によるものです。


 Aichisonは、特に以下の単語同士は、一緒に出てくる可能性が高いため、脳の近いところに蓄えられているといいます。

①等位語
たとえば、野菜の名前同士、"carrot", "radish", "onion" "tomato", などは、お互いに等位語同士という関係にあり、脳の中で非常に近いところに蓄積されていきます。ですので、英語学習者に、新しい単語、例えば、"eggplant" を覚えさせたいときは、学習者がすでに知っている等位語、"carrot", "onion" などと結びつけさせると、メンタルレキシコンの中に組み込まれやすく、すなわち、記億に残りやすくなります。
 
ただし、学習者が知らない等位語、例えば"radish" と、新出語である"eggplant" を一緒に提示するのは逆効果といわれています。どちらが「大根」でどちらが「なす」か、混乱をひきおこしやすいためです(Tinkham, 1993)。


②collocational links
よく一緒に出てくる動詞と名詞のつながり(たとえば、"climb"と"mountain"など)、形容詞と名詞のつながり(たとえば"high" と"mountain"など)、動詞と副詞のつながり(たとえば"run"と"fast")などの単語は、やはり脳の中で近いところに蓄積されていきます。ですので、たとえば、"send" という動詞を覚えさせたいときは、"send a letter" "send a present", " send an e-mail”などのつながりをたくさん提示すると記億に残りやすくなります。


③同意語・反意語
"huge", "big", "large", "medium-sized", "small", "tiny" のような同意語・反意語はやはり、脳の中で密接に繋がって蓄積されています。"huge"という新出語を覚えさせたい場合には、学習者にとって既知語である"large"や"big"と結びつけて覚えさせるようにすると、"huge"という単語が定着しやすくなります。


 
  では、このようなメンタルレキシコンのあり方を利用した、語彙活動を2つご紹介しましょう。

■連想ゲーム
"mountain”という語を覚えさせたいとします。"mountain"から、連想する英単語をペアやグループでいろいろと出し合います。10分など時間制限を設け、一番たくさん連想語が考えられたペアやグループが勝ち、というゲームです。
ただし、連想語をあげるときは、学習者がすでに知っている(脳の中に蓄えている)単語に限ります。知らない単語をわざわざ、辞書などで引かないようにさせます。

 
 連想ゲームは、ある程度の語彙力がないとできませんので、もう少し易しくするとこんな活動も可能です。


■くもの巣ゲーム
真ん中に入る単語を答えさせます。


 このように、新出語とつながりの強い単語(=連想語)を結びつけさせることにより、新出語は、メンタルレキシコンに組み込まれやすくなる、すなわち、記億に残りやすくなるのです。

参考文献
Aichison, J. (2003) Words in the mind: An introduction to the mental lexicon. Oxford:Blackwell.
Tinkham, T. (1993) The effect of semantic clustering on learning of the second language
    vocabulary. System, 21, 371-380.
岡田順子(2008)みるみる語彙力がつく!魔法の5分間英単語テスト 明治図書出版。
岡田順子(2010)少しの工夫で効果4倍!魔法の英語語彙指導アイデア 明治図書出版。



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コメント

どんな言語でも、ある語から連想する語彙がほんとんど同じであるということには驚きでした。単語の綴りを覚えさせるのにフォニクスは効果があると取り入れていますが、単語そのものを覚えさせるのにとても、参考になる理論を教えていただいました。既習の単語をグルーピングした中に未習の単語を一つ増やして覚えさせる方法をぜひやってみます。
くもの巣ゲームは「みるみる語彙力がつく!魔法の5分間英単語テスト」の10連想テストに載っていたので、さっそく使わせていただいています。秒数を競わせると生徒は集中してやってくれます。反対語・同意語なども新出単語を調べてくる予習の際に自分たちで調べさせています。単語は一度覚えても、生徒は忘れてしまうので、スパイラルに学ばせるために、グルーピングの方法はいいですね。また、新しいアクティビティーを教えていただき、ありがとうございます。

ある程度の語彙サイズのある生徒が実際にライティングやリーディングでせっかく覚えた単語を活用出来ていない生徒を数多く見ていますが、おっしゃる通り、単語同士のつながりや連想を取り入れることで彼らの知識が実用的になると思います。
是非、取り入れたいと思います。

 面白く読ませていただきました。
 なぜ連想するのか、そして関連語を一緒に覚えるというのは語彙学習がクイズのように出来ますね。英語学習初期だけではなく、リフレッシュのために中程度の学習者にも使ってみたいと思います。
 

今回も興味深く読ませていただきました。これまで高校生の授業では単語指導にあまり時間をかけていませんでしたが、生徒の単語の定着率が低いので、今年1月に入ってからは高校のリーディングの授業で単語指導に長めの時間を割くようになりました。

①等位語、③同意語・反意語はこれまでも授業で意識して指導してきたように思いますが、③collocational linksはあまり意識して指導してきたことがないような気がします。『たとえば、"send" という動詞を覚えさせたいときは、"send a letter" "send a present", " send an e-mail”などのつながりをたくさん提示すると記億に残りやすくなります。』の指導方法ぜひ授業の中で取り入れてみたいと思います!

いつも興味深いコラムをありがとうございます。

②のCollocation Linksというのをはじめて知ったので、これから語彙指導に活かしていきたいです。

コラムの内容に関して質問させてください。コラムに「学習者が知らない等位語を一緒に提示することは逆効果といわれている」と書かれていました。教科書の新出単語に等位語が複数含まれていた場合は、どのような方法で定着を図った方がいいでしょうか。
お時間あるときにアドバイスをいただけたら幸いです。

宮里様

コメントをありがとうございました。
>教科書の新出単語に等位語が複数含まれていた場合

ですが、こういう単語の配列は、児童英語の教材や、中学校でも低学年の教科書に多く見られます。
たとえば、果物の名前をいくつも提示し、買い物ゲームをする、といった活動が比較的多く見受けられます。

曜日、月、なども、このような部類に入ると思われます。

定着を促したい場合、実物や絵などを用いたり(イメージ法)、
自分の好きなものと結びつけたり、自分の経験と照らし合わせり(自己関与効果)などの手法を用いて定着を図るのもよいかと思います。

曜日などについては、キーワード法も使えます。

いつも興味深いお話、ありがとうございます。記憶の定着というのは、生徒にとっては永遠のテーマなのでしょうが、教える側が、それを意識するかしないかでは雲泥の差が付くことは間違いないでしょう。岡田先生はこれを、語彙習得理論という切り口から、具体的な方法を提示されておられ、教える立場のものにとっては、非常にためになると共に、すぐに現場で実践できるため、重宝します。

先生の著書にも沢山のアクティビティーが載っていて、どれも生徒の食いつきはよさそうです(実践はこれからです)。生徒の語彙力向上に、指導者側の働きかけが必要だと痛感しました。

いつも興味深い記事をありがとうございます。岡田先生のおかげで、詰め込み式一辺倒だった私の単語学習指導に光が見えました。これからもよろしくお願いします。 

さて本記事で一点質問したいことがあります。

絵、動画、動作、数式、表、グラフなど言葉以外のコミュニケーションツールで関連単語を考えさせる方法

単語だけで関連単語を考えさせる方法

では大きな差はあまりでないものなのでしょうか。 

もしよろしければご教示いただけましたら幸いです。

藤村様、

コメントをありがとうございます。

ご質問の件ですが、比較するのは難しいと思われます。

というのは、学習者要因(語彙サイズ、学習スタイル、好みの語彙学習ストラテジーなど)があり、前者が合う場合と、後者が合う場合があるからです。

非常に一般化していうと、絵などによるイメージ化は、年齢の低い学習者には効果的と言われていますが、大人でも効果はあります。


両方を上手に使いこなすのがよいかと思います。

連想による記憶のメカニズムというものがどこまで解明されたのかわは分かりませんが、少なくとも、経験則から連想による記憶が役に立つだろうということは想像されます。
 今回のワークをより効果のあるものとするためには、この記憶したものが混同しやすくなるのを避けることが重要に思われました。
 連想が日本語ではきくからといってむやみに英語での新語を出しすぎるとかえって負荷が強くなって覚えにくくなるという風に解釈したのですが、この点は非常に気をつけねばならないと思うに至りました。ありがとうございます。


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