「意図的学習と偶発的学習~コミュニケーションで使える語彙学習とは~」
コラム
2010年1月14日
コラム
2010年1月14日
単語集や単語テストなどで覚えた単語は、実際のコミュニケーションの場では使えないのではないか、という声をよく聞きます。
ある意味では、そういう傾向はないとはいえませんが、コミュニケーションで使える単語は、(擬似的)コミュニュケーションの場面でしか習得されないかというと、そんなこともないのです。
語彙習得は以下の2つの場面で起きます。
(1)単語だけに焦点を当てて集中的に覚える方法
(2)英語の大量のinputの中で単語を覚える方法
(1)の代表例は、単語テストで、単語のみで(文脈なしで)、日本語から英単語を書いたり、英単語の意味を日本語で書いたりするような単語の覚え方のことです。最近の生徒はあんまり単語カードを作っているのをみかけませんが、表に英単語、裏に日本語という単語カードで覚えるものこの仲間に入ります。単語集にもよりますが、市販の単語集で単語を覚える、というのもこちらでしょう。
(2)の代表例は多読と多聴でしょう。このコラムでも「English Libraryのすすめ」などで、多読による、語彙習得のあり方をまとめてきました。多読、多聴をしながら、あるとき、知らなかった単語の意味に気付き、その単語の意味を覚えてしまうことを指します。
(1)の語彙学習をintentional learning(意図的学習)といい、(2)の語彙学習をincidental learning (偶発的学習) といいます。この2つは、どちらがいいということではなく、いわば、語彙学習の両輪です。両方に長所と短所がありますので、どちらが欠けても語彙学習はうまくいかないものです。
「意図的学習」は、単語を覚えようという目的で学習するわけですから、「単語学習だけに注意を集中できる」という利点があります。そのかわり、単語のみで覚えた単語は忘れやすく、文章の中での使い方が分からないという欠点があります。
「偶発的学習」は、英語のinput全体の意味に学習者の注意が向くので、単語のみを覚えることに集中できない、覚えるべき単語を見逃してしまう、という欠点があります。しかしながら、いったんその単語にきづき、覚えた場合には忘れにくく、コンテクストの中でその語彙が使える、というのはこの学習法の長所といえましょう。
Nation (2001)は、2000語レベルの語彙サイズくらいまでは、(1)の意図的学習を重要視しています。2000語程度の語彙サイズはないと、あらゆるコミュニケーションそのものに支障をきたすためです。特に、英語のinputが少ない日本のようなEFLの学習環境では、意図的学習は不可欠と主張しています。
ですので、単語のみで学習する意図的学習も、特に、英語学習の初期においてはコミュニケーションで使える語彙学習の土台として、重要な役割を果たします。中学校などで、ビンゴなど、単語単独の語彙活動をよく行うことが多いのは、理にかなっているといえましょう。
私見では、語彙サイズの少ない初期学習者は(1)の意図的学習の割合が高く、その後、語彙数が増えるにつれて(2)の偶発的学習の度合いが増すと考えています。語彙数が増えるにつれて、偶発的に単語を覚える確率は増えていくからです。
また、意図的学習をより深めるために、例えばfavoriteという単語を覚えさせたあと、授業で以下のような簡単なインタラクションすれば、よりコミュニケーションで使える語彙学習になります。
A: What's your favorite subject?
B: My favorite subject is math.
A: What's your favorite sport?
C: My favorite sport is baseball.
さらに、語彙は4技能使うと定着が高くなることから、このようなやりとりをしたあとまとめの簡単な英作文をさせるとよいでしょう。
(例)B's favorite subject is math. C's favorite subject is baseball.
意図的学習 と偶発的学習 は、相互補完的といわれています。たとえば、意図的に学習した単語を、多読や多聴の中で偶然見たり、聞いたりすることによって、その単語を忘れにくくなります。
逆に、多読、多聴のなかで、覚えさせたいと思うターゲットワードを決めて、そのターゲットワードに、学習者の注意を向けるようにすると、学習者の単語への注意度が増し、その単語を習得しやすくなります。
たとえば、リスニングをさせているとき、覚えさせたい単語をあらかじめ黒板に書いておき、その単語が出てきたときに、一時的に音声をストップさせて、黒板を見させるようなことをすると、学習者はその単語を覚える確率が高くなります。
このように、単語のみで覚える語彙学習と、多読、多聴など、コミュニケーションの中で覚える語彙学習は、車の両輪です。読者のみなさんも、おそらくは、単語テストや、受験用単語集で最初に覚えた単語も、使う機会さえ与えられれば、十分に役に立つということを実感していらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
参考文献
Nation, I. S. P . (2001) Learning vocabulary in another language. Cambridge: Cambridge University Press.
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大人に英語を教えている者です。前回および今回の岡田先生の記事で、私の疑問に思っていたことが大分解決できたように思います。大人の世界で英語に困っている方々は、やはり中学・高校時代より英語に困っていた方々が非常に多く、とても参考になります。これからもご指導宜しくお願い申し上げます。 何点質問がありますので、またご回答いただくとありがたく存じます。
(1)コミュニケーション学習と「意図的学習」としての単語学習を両立させるため、Picture Distionaryの使用を考えているのですが、これについてのご意見と効果的な指導法がありましたら、ご教授いただけませんでしょうか。
(2)「意図的学習」と「偶発的学習」のバランスのとり方について。初学者~上級者まで、どうバランスをとるのが良いか、ご意見がありましたらお聞かせ願えましたらと思います。
藤村様、
コメントありがとうございました。ご質問について、答えられる範囲でお答えしたいと思います。
(1)のpicture dictionary についてですが、私自身は使用経験がなく、推論でしかお答えできないのですが、視覚にも訴えるものですので、それなりに語彙の定着度は高いと予想いたします。
picture dictinaryでなくても、たとえば、普通の辞書の例文を雛型にして、自己表現活動をさせる、というようなことは、意図的学習をより深めるものと考えます。
(2)のバランスですが、コラムにも書きましたとおり、語彙サイズの少ない初級学習者は、「意図的学習」を多くとらないと、なかなか語彙は定着しません。最初から多読、多聴をさせると、知らない単語が多すぎるので、語彙習得にはあまり効果的とはいえないと思います。語彙サイズが増えるにつれて、つまり、英語上級者になるにつれて、英語のインプットから、未知語に気付き、偶発的に語彙を学習できる割合は増えていきますが、上級者でも、上級者なりに、今度は難しい英語の文章を読んだり、聞いたりすると思われますので、その文章の未知語を取り出して「意図的学習」を行うのは、語彙習得には非常に効果が高いと思います。
以上、お答えになっていれば幸いです。
中学生、高校生に英語を教えている者です。語彙指導について、どのように指導したら効率的に語彙を定着させられるか日々思案していますので、岡田先生の記事、非常に参考になりました。
私自身、中学時代に英語を学習していたときには(1)意図的学習のみで単語を覚えていましたが、高校時代には(1)意図的学習が中心ではありましたが、少し(2)偶発的学習も取り入れ始めたように思います。私が通っていた高校では受験用単語集は使用せず、たくさんの長文を読み、長文に出てきた単語を覚えることで語彙力をつけるという指導が行われていました。なので、長文に出てきた自分が知らなかった単語を意図的学習をして暗記したような記憶があります。
単語を覚えさせた後、インタラクションさせる活動は明日からの授業で早速使えそうです。ぜひ、実践させていただきます。
「リスニングをさせているとき、覚えさせたい単語をあらかじめ黒板に書いておき、その単語が出てきたときに、一時的に音声をストップさせて、黒板を見させるようなことをすると、学習者はその単語を覚える確率が高くなります。」
↑とても参考になりました。授業でリスニングをさせるときにやってみたいと思います。
岡田先生の記事からいつもいろいろと勉強させていただいています。これからもご指導よろしくお願いいたします。
これから高校生に英語を教えるものです。いつも岡田先生の記事や書籍を拝読させていただいており、勉強にさせていただいております。
私自身、語彙力を上げるにはどうしたらいいかをいつも考えておりますが、先生の記事を拝読し、「意図的な働きかけなくして、語彙力向上はありえない」と確信しました。英語の教師たるもの、明確な学習計画、進捗確認、フォローがやはり大切だと感じました。
「意図的学習」と「偶発的学習」が両輪であって、どちらも大切ということは分かりましたが、教師としては、単調で退屈になりがちな(しかも記憶に定着しにくい)意図的学習を、如何に楽しんで、しかもしっかりとした記憶に結び付けられるか、ここは、先生のご著書にもいろいろあるので、自分なりに工夫して、個別に達成度を確認しながら、働きかけをしたいと思います。
いつも勉強にさせていただいています。これからもご指導をお願いいたします。
単語習得指導は以前に比べ、大変時間がかかるようになったと長年の教員生活から感じているのが現状です。岡田さんの
(1)の語彙学習をintentional learning(意図的学習)といい、(2)の語彙学習をincidental learning (偶発的学習) といいます。この2つは、どちらがいいということではなく、いわば、語彙学習の両輪です。
このことに大変納得しています。以前はintentional learningの方にやっきになって単語テストの鬼のようになっていましたが、数年前からこれを定着させるために、より効果的なフォニックス教授法を取り入れ満足していました。
数年前にある大学の教授の講演をお聞きし、「単語をどのように使うかを知らなければ、意味をなさない」という言葉が印象的で納得し、生徒の予習の段階で単語を調べるだけでなく、その単語を使った文章を作ってくる、または辞書の例文を写してくる形に変えました。そして、さらに岡田さんと交流を深め、さまざまな本を読ませていただき、incidental learning を定着させるためにほぼ毎日行う小テストにも工夫をするように変えました。また、中2には多読として、True Stories をカード状にして、生徒に辞書を使わずに読ませて、その内容を50字の日本語で要約させ、感想を短く英語で書かせています。生徒の真剣に小テストや多読に取り組む姿に感動しています。力をつけていってくれていると信じています。本当にいつも理論を具現化するアイディアをいただき感謝しています。自分自信も教材を作ることに楽しみを感じています。
最近思いますけど、
接続詞のbecauseとかwhenって特に、機能までマッピングされていないと全く使えないのではないかあなと。
because「なぜなら」、when「~のとき」という訳語は誰でも知ってると思いますが、意味伝達の中で使用する必要性が出てはじめて、「ああ、こうやって使うんですか。」となる気がするんです。
うまく言葉にできないですけど・・・。
今度この二つの指導法に関して発表することで、教員をやっていらっしゃる方々の実践での経験も色々聞かせていただくのが楽しみです。
いつも勉強させていただいております。
意図的学習と偶発的学習は、語彙学習の両輪です。という言葉にはもっともだなあと感じます。
今、教えているのはあまり英語が得意ではない子供たちなので、飽きないように意図的学習のためのゲームを取り入れることが多いです。
でも、英語の歌が好きな子はなんとなく知っていると言ってさまざまな単語や表現の意味を聞いてきます。どうやらそのほうが覚えているらしいという実感があるので、岡田先生の論を読んで納得してしまいました。
先生のアイディア--、意図的学習をより深めるために、例えばfavoriteという単語を覚えさせたあと、授業で以下のような簡単なインタラクションすれば、よりコミュニケーションで使える語彙学習になります。
これ良いですね。子供たちは発言するのが好きなので、ぜひ実践したいと思います。
どうもありがとうございました。
英語の教師を目指している学生です。将来、教壇に立った時のことを思い浮かべながら拝読いたしました。岡田先生の著書やコラムを参考に効果的な語彙指導を行えたらと思っています。
私自身の語彙学習に関して質問させていただきたいと思います。
私は、意図的学習として市販の単語集の英単語と日本語訳を覚える努力をしています。その後に、その単語が用いられている文を音読(主にRead and Look-up)をしています。
音読はコラムの中で書かれていた、「意図的学習を深める活動」と同様の効果を期待できますか。
個人的には、文を音読することで単語の日本語訳以外の要素(統語情報、音韻情報、すぺリング等でしょうか)も定着させることができるのではないかと考えているのですが、いかがでしょうか。
よろしくお願いします。
宮里
宮里様
コメントとご質問ありがとうございました。
宮里様が行っているというread and look up は、おっしゃるとおり、「意図的学習を深める」効果があると思います。
むしろ、一時的に流れてしまうコミュニケーション活動よりも、音読、筆写、read and look up のほうが、効果が高いのではないか、と思うくらいです。
教員志望の方ということですので、付け加えますと、私の高校での経験なのですが、read and look up を実際に授業でやって、失敗したことがあるのです。生徒がやってくれないのです。なので少し変形して「読んで、話して、聞いて、書いて」というペア活動にしたら、うまくいきました。ペアのAさんが文を読み(read)、覚えたら顔をあげ(look up)、ペアのBさんに向かってその英文を話し、Bさんはそれを聞いて、英文を書き留める、という活動です。
詳しくは拙著「効果抜群!他技能指導の中でしっかり語彙定着」(アルク)をご参照くださいますと幸いです。
「うん、うん、そうだ」と思いながらご拝読させてもらいました。
確かに語彙語句学習には意図的と偶発的な学習の両方が必要だと思います。それで初めて語彙の「形式」「意味」「機能」「音声」がつながるのかと思いました。
些細な質問ですが
意図的学習は基礎作りとしてする必要があると思います。(脱線したら申し訳ありません)
中学校で単語テストや定期テストを採点させてもらったことがありました。すごく授業も熱心でに受けているのにLD・Dyslexiaなど特別な支援の必要な子が語彙を覚えるのに困難が見られました。そのような生徒たちの意図的学習を成立させるにはどうすればいいでしょうか?また、そのような生徒でも偶発的学習に持って行きたいのですが、どうすればいいでしょうか?
田中様、
ご意見、ご質問ありがとうございます。
LD,Dislexiaに関しては専門では
ないのですが、フォニックスはある程度有効だという話は聞いたことがあります。
専門外のことを無責任にお答えできないので、参考文献を挙げておきます。
「つづりエラーの傾向と対策」齊藤理一郎(2008) in「効果抜群!他技能指導の中でしっかり語彙定着」第3章。岡田順子編著。アルク。
Nationの述べる2000語レベルの語彙サイズくらいまでの学習は意図的学習が必要だというのは、どの言語を学習するに当たってもそうなのかもしれませんね。基本的語彙のinputの充実なしにoutputする力の伸長は図れないです。
個人的には、意図的学習は、初学者でなくとも、特に名詞(複合名詞)を覚える際には極めて有効だと考えています。しかし、動詞、形容詞、副詞などは文脈に依存して使用方法を考慮する必要があり、その語法がどのようなものであるかを知るために、偶発的学習も取り入れることで語彙学習の相互補完が可能になるのではないかと考えます。
また、岡田先生が例で示されたように、コミュニケーションで実際に使える場面設定をすることで、特に生徒に覚えてほしい汎用性のある語や表現をよりスムーズに体得させられるのではないかと思いました。
最後の例で示されていた、リスニング後に黒板を見させる活動は、私には目新しく面白いものでした。この活動にあたって生徒に「脳科学的にこんな活動をすると記憶されやすくなるらしい(実証されたかどうかは存じ上げませんが)」などといってみたら、さらに興味を持ってやってくれるのではないかと想像が膨らみました。
単調で非効率になりがちな語彙学習が少しでも効率的で興味の持てるものになるような活動に、今後も期待しています。