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語彙習得理論を“現場目線”で活かす!

実際に中学生・高校生の指導にあたってきた教師が、中学・高校現場目線で、語彙習得理論に基づく効果の高い語彙指導・語彙活動のあり方を探る。

「深い処理」仮説と語彙活動の実際

コラム

2009年12月20日

 「深い処理」仮説は、Craik and Lockhart (1972), Craik and Tulving(1975)によって立てられたものです。簡潔にいうと、ある単語の「形状情報(発音・つづり)」に目を向ける語彙活動よりも、「意味情報」をできるだけ深く処理する語彙活動のほうが、その語の定着が高くなるという説です。

 この仮説は、そのあいまいさを批判する声も研究者の間では聞こえますが、今でも、語彙習得理論の中では欠かせない理論のひとつとなっています。特に、仮説の厳密さを要求しないクラスルームでは、生徒の語彙活動を考えるときに、とても役立つ理論だと思います。

 たとえば、「単語を何回も書く」という語彙活動では、生徒は主に「つづり情報」を処理するので、浅い処理の活動ですし、「単語を何回も発音する」では、主に「音声情報」を処理するので、やはり浅い処理の活動といえるでしょう。

 それに対して、「単語とその単語の意味をあらわす絵をマッチングさせる」という語彙活動では、生徒はその語の「意味情報」に主に目を向けるので、より処理の深い語彙活動といえます。

 「意味情報」に目を向けさせる活動にも、その処理の深さには段階があります。
たとえば、新出語の導入時に、先生が、その語の日本語訳をあたえれば、生徒は浅い処理しかしないでしょう。教科書の巻末についている日本語訳を見て意味を調べるというのも浅い処理にしかなりません。
 しかし、先生が、その新出語をやさしい英語で言い直して提示したり、その語の意味を文脈から推測させるようにすれば、生徒はもっと深い処理をするはずです。

 
いくつかの語彙活動を処理の浅い順に並べてみましょう。今度は、語彙の定着を目的とした活動です。

1 ビンゴゲーム(生徒が英語をビンゴシートに書き、先生が日本語を言うビンゴ)。
2 新しく習った単語の絵を描いてみる。
3 新しく習った単語から、連想する語をたくさんあげてみる。
4 新しく習った語を使って、自分のことについて英語で書いてみる。

 ただし、処理の浅い語彙活動も、工夫次第で深い処理を促す語彙活動に変身します。一番処理の浅いビンゴゲームでも、生徒が英語をビンゴシートに書き、先生が英語での言い換えをいうビンゴ(名づけて“言い換えビンゴ”)なら、ずっと深い処理の語彙活動になるでしょう。

 絵を描く活動でも、自分の描いた絵を、友達に、“半分隠し”たり、“さかさまに”みせて、「その絵はなんの単語か」を当てさせるようにすれば、より深い処理の語彙活動になります。


 しかしながら、実際のクラスルームでは、「処理が深ければよい語彙活動か」というと、そう単純なものではないのです。

というのも、「処理の深い語彙活動」は難易度も高いことが多く、上記4の「新しく習った単語を使って自分のことについて英語で書いてみる」という活動が、いくら深い処理を促し、語彙の定着を促進する活動であったとしても、生徒ができないとなれば、なんの意味もありません。

 このような場合は、逆に、少し、処理レベルをやさしくしてあげるように調整します。
たとえば、favorite という単語を覚えさせたくて、この単語を使って自己表現の文を書かせるときは、

My favorite subject is math.

のような“例文の型”を提示しておき、その型にあわせて、書かせるようにすれば、自分のことについて、書ける生徒が増えるでしょう。


「連想する語を挙げてみる」も、そんなに易しい活動ではないですが、連想する語を選択肢として与えておけば、かなりの生徒ができるはずです。たとえば、「mountainの連想語をあげなさい」といわれても、英単語が出てこない場合はよくありますが、「次の中から、mountainから連想する語を選びなさい」に変えて、hill, top, sea, high, climb, などを選択肢として入れておけば、活動が出来る生徒は増えるはずです。

 したがって、生徒にとって一番効果の高い語彙活動とは、“生徒ができる範囲でありながら、その中で、一番深い処理を促す”活動といえます。

 生徒の実態はさまざまですから、どの処理レベルの語彙活動がよいかを決めるのはその生徒さんたちを教えていらっしゃる先生方おひとりずつの判断になるでしょう。


<参考文献>
Craik, F. I. M., & Lockhart, R. (1972). Levels of processing: A framework for memory research.
Journal of Verbal Learning and behaviour, 11, 671-681.

Craik, F. I. M., & Tulving, E. (1975). Depth of processing and retention of words in episodic memory.
          Journal of Experimental psychology: General, 104, 268-294.



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コメント

仮説と実際の活動との関わりあい方がとても簡潔に述べられていて、わかりやすいコラムでした。特に、student-centeredの指導で生徒の実態に合わせるという点が肝だというのは、納得のいくところです。

 深い処理の具体的な指導方法を提示された点がたいへん参考になりました。より深い処理をアイディアによって促すことができるのは教師の腕次第であると痛感いたしました。

 深い処理については更に活動を示していただけるとありがたいのですが、一方、より浅い処理の具体例が本文で提示されていると、指導する側の選択肢が広がり、ますます充実した活動に繋がるのではないかと考えました。生徒の語彙サイズや表現力を伸ばすために、こうした活動をさりげなく取り入れられるように心がけたいです。

語彙活動について大変共感できました。小学校で漢字の書き取り練習を行う際にもヒントになると思いました。一人一人の到達、発達段階にあわせて指導を行うことの大切さを実感しました。ありがとうございまいた。

dyslexiaのことを考える場合、綴りや発音のことばかりを考えていましたが、そうではないアプローチの仕方もあるのではないかと考えるようになりました。先生のアイディアをいただきつつも、浅い処理の学習から脱出することができない部分もあります。たとえば、家庭学習。学校全体では、とにかく1日に1ページ書く宿題を全学年でさせています。家庭でも深く処理をさせる宿題を、先生の語彙活動を利用してさせることがありますが、やはり学校で仲間と共にする方が盛り上がります。家庭でも深く学習する方法を、私共々考えていきたいと思っています。

「深い処理」仮説という言葉は正直初めて耳にするものでした。(英語教員でありながら勉強不足です)しかし、内容を読んでいくととても納得のいくものでした。語彙を習得するということは単につづりが書け、意味を知るということではなく、語彙をどのように使いこなしていくかということだと中学生の指導をしていて感じることです。深い処理を促すことで単語を知るに留まらず、理解し覚えるということに繋がり、さらには自分のものとして使いこなしていけるのだと同感します。深い処理のために教員にできることは本当にたくさんあるんだろうとアクティビティーの例を拝見しながら感じています。いつも色々な考え方、指導の方法を学ばさせていただき、感謝しています。後は自分の指導している生徒のレベル・実態そして興味関心の方向性などを考えながら色々とアレンジしていう力量が問われますね。いつも具体的な例があるので考えやすく、自分の中でアイディアが膨らみやすく助かっています。私は深い処理につながるようにインパクトのある例文やアクティビティーに心がけています。

 今TTで言っている中学校では「単語を書いて5回ずつ練習」で行われています。それと、単語の意味も教えていないのに”Repeat after me"と「音声の再生」のみに焦点が行っていたりするのを見ました。そういう私たちもその手法で語彙指導を受けてきました。
 逆にカナダの高校で深い処理を使った語彙指導を受けていました。
具体的には、クロスワードなです。新しい語句などはすべてクロスワードなどでされていました。
このコラムでまた一つ勉強になりました。

深い処理と聞いて最初に頭に浮かんだのは語彙サイズテスト(望月,1998)でした。
cookieをクッキーとせず「小麦粉を焼いた菓子」と表記してあったのを記憶しています。
favoriteの例文から用法を一般化する方法は確かに有効的だと思います。実際、短期間で語彙の理解だけでなく文法の面でも効果がありました。
マンツーマンや個別指導であればすぐに実践出来ますね。

教科書ベースにこのような活動マニュアルがまとまったものがあれば、学校の先生方はとても助かるように思います。

 岡田先生、コラム興味深く読ませていただきました。どうもありがとうございます。
 家庭学習で単語を繰り返し書かせる宿題も出しているんですが、なかなか定着しないという現実がありますね。生徒の中には1人伝言ゲームで単語が変化していったり・・・
 意味をつけるというのはとても効果的ですね。アウトプットのときに、あのときこう言って覚えたよね、というと思い出すことがままあります。以前、先生のご本でビンゴを日本語と英語で行うというのは授業でよく取り入れています。みんな、一瞬考えることがいい。その瞬間にああ覚えているんだなあと実感しています。理論的に話を読むと、合点がいきますね。
 今年も先生のコラムで勉強させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

時間の効率、習熟の効率のせめぎ合いの中で、授業をどう設計するのか?その指針として、処理の「深さ」という視点は興味深いですね。

岡田先生

コラム大変興味深く読ませていただきました。普段の授業では発音練習、英→日、日→英の練習ぐらいしてしてこなかったので、今年からできる限り深い処理をこころがけて語彙指導をしていきたいと思います。また、次のコラムも楽しみにしています。

大変有益なコラム、ありがとうございます。私は大人に英語を教えていますが、中学レベルの英語で苦労なされている方々もおり、相通じる部分を感じます。

深い処理に関して少し気になった点がありました。

(1)「単語の絵を書いてみる・連想する」などと比べて

「単語を別の似た意味の単語で言い換えてみる。」

もしくは

「単語に日本語で説明をほどこす、もしくは日本語(母語)で意味を述べる。」

は上の1~4の間にどうランク付けされるのでしょうか。 あるいは、深い処理による意味情報の理解確認は母語を使わないことが前提になるのでしょうか。

(2)新しく習った単語を使って英語で喋ってみるというのは、英語で書いてみる、のと比べて処理の深さ的にどう違いがあるのでしょうか。

現場を知らないで書いておりますが、中高生の子達はやはり「新しい単語を使ってしゃべる」という行為はどうしてもむずかしいのでしょうか。

それともしゃべるというクラスエクササイズは、クラスの規模上、確認が難しいのでしょうか。

気になりましたので、書かせていただきました。またご指導いただけましたら幸いです。

藤村様、

コメントありがとうございます。できる範囲でお答えさせていただきます。

(1)のご質問ですが、「深い処理仮説」の欠点は、そのあいまいさにある、と書きました。「先生が単に日本語訳をいう」より、「単語の絵を書いてみる・連想する」のほうが、深い処理になるだろうという大まかな判断は可能ですが、厳密な部分になると語彙活動Aが語彙活動Bより処理が深いかどうかを比べるのは、難しいところも多々あります。

また母語を使っても、処理の深い語彙活動は可能です。多義語などの場合、教科書本文に出てきた単語を英和辞書で調べ、どの訳語があてはまるかを考えさせれば、「先生が訳語を与える」より、ずっと深い処理が可能でしょう。

(2)ですが、「単語を話す」と「単語を書く」とでは、どちらが深い処理になるとはいいきれません。ただし、初学者の場合、「単語を書く」ほうが、じっくりといろんなことを考えながら取り組めるので、単語の定着度は高いのではないかと予測します。「話す」という行為は一過性のものなので、その分定着率は落ちる可能性はあります。「話す」「聞く」のような一瞬の語彙活動は、もうすでに習った単語を「commmmunicativeに使う」訓練により適すると思います。しかしながら、「単語」は4技能すべて使うほうが、記億に残りやすいことから、「英単語を使って話してみた」後「話したことをまとめて書く」の両方を行うと一番よいだろうと考えられます。

「新しい単語を使ってしゃべる」という行為に関しては、次回コラムで書きたいと思っていますので、お待ちください。


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