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国際ビジネス英語エッセイ

世界を舞台にビジネスの世界で活躍してきた筆者が、自らの体験を交えて知的に綴る、スペシャルエッセイ

【第75回】
「番外編」イスラムを知らずして世界は語れない

2015年09月02日

何故英語(ことば)を学ぶのか?「異文化理解の為」。
その異文化のうち、日本人にはなじみがなく、他方、世界人口の1/5以上とも言われるイスラム教を検証してみた。


はじめに:

「コーラン」井筒俊彦 (岩波文庫)

「9・11事件を予見した」と日本では評判になった「文明の衝突」(S. ハンティントン)。しかし、石油担当商社マンとして中東イスラム圏に駐在し、転職後NYCに移住した筆者は「衝突するのは(文明ではなく)文化=宗教」と違和感を持っている。
2001年の9・11以後、米軍によるアフガニスタン、バグダッド侵攻。一連のアラブの春。アルジェリアでのプラント襲撃事件。そして今年のIS(いわゆる「イスラム国」)による日本人質殺害事件。以来、急速に脚光をあびてきたイスラム地政は複雑(深遠)で専門家の解説もいきおい難解だ。筆者はイスラム教徒(ムスリム)でも学者でもない。が、イスラム学の碩学黒田寿男教授の「イスラムの理解は難しい。一番良いのはそこで生活すること」に励まされて、「ことば(理解・誤解)」を軸に基礎事項を点検したい。


1) IS(自称「イスラム国」)≒ 中東版オウム真理教:

ISに殺害された後藤健二氏の実母は記者会見で盛んに「イスラム国」に言及し、シリア人記者から「それは国家ではなく、犯罪集団」と指摘され「知らなかった」と答えている。ことほど左様に言葉の誤解は深刻で、イスラム教徒は困惑している。
自称イスラム国IS=Islamic Stateとは、ISIL=Iraq and the Levant乃至ISIS=Iraq and Syria/Shaam。レバントは地中海東岸地域を、シャームは広域シリアを指す。カリフ制イスラム国家の樹立宣言をしたアルカイダ系過激派組織である。
そのアラビア語の頭文字をとったDAESH(ダーイシュ)と言う表記は「裏切り者」に近い発音で、これが現地では使われる。「中東版オウム真理教」と考えればわかり易い。


2) 時に誤解され、あるいは理解不足の「ことば」:

  • アッラーはアラビア語で「神」の意味。
  • イスラムとは「唯一の神アッラーに絶対帰依すること」。信仰の基本は、アッラー・天使・啓典・預言者・終末・天命の六信(ろくしん)
  • ユダヤ教キリスト教と並ぶ一神教で、同じ神、旧約聖書を共にいだく。
  • その信者はムスリム(絶対帰依する者)と呼ばれる。
  • ムハンマドはイスラムの開祖。字義は「より誉め讃えられるべき人」。
  • カリフは預言者ムハンマド亡きあとのイスラム指導者。原義は「代理人」。
  • アラブイラン/ペルシャは同じ回教国(概ね前者はスンニ派、後者はシーア派)だが、言語・人種・民族が違う。世界最大のイスラム国インドネシアも勿論Arabではない。因みにSaudi Arabiaは「サウド家のアラビア」の意。
  • ジハードはクルアーン中の「(神の道のため)奮闘、努力」。「聖戦」ではない。

3)「アラブの春」に見る誤解 :

分布図 出典:livedoor.blogimg

中東砂漠の地における「春」は砂嵐の季節で、灼熱の始まりゆえ「待ち望むもの」ではない。ではなぜ北アフリカおよび中東での民主化運動がアラブの春と称されるのか?それは、1968年のチェコスロバキアでの「プラハの春」になぞられた言葉遊びに過ぎない。
民主主義の基本は指導者を選ぶ選挙制度であろう。が、男女の差が謳われる家父長制の文化の中では困難である。
クルアーン4章女38節「アッラーはもともと男と(女)との間には優劣をおつけになった」。(注:類似は旧約聖書、新約聖書にもある)
尚、9・11事件直後にブッシュ米大統領(メソジスト)が口走った十字軍とはキリスト教徒によるイスラム教徒の迫害の歴史だし、同じくMillennium」千年統治もイスラム圏では認められない。同様、中東イスラム国では赤十字ではなく赤新月が使われている。つまり「文化・宗教」はすぐれて原理主義であり、=テロというのは短絡に過ぎる。


4)最も重要なクルアーン 〜 ムハンマドがアラーから受けた啓示の記録:

ムハンマドの言行スンナの記録ハディースと並ぶ、イスラム法(シャリーア)上もっとも重要な法源。「詠唱すべきもの」を意味し、ムスリムにとって絶対生活訓である。そこでは信仰告白礼拝、喜捨、断食、巡礼五行(ごぎょう)が課せられる。
イスラム教徒は酒も豚も口にしない。何故か?「クルーアンにあるから」。
5章食卓4節「汝(なんじ)らが食べてはならぬものは、死獣の肉、血、豚肉」
5章食卓92節「酒と賭矢と偶像神と占い矢とはサタンの技」
ピリオド。アッラーの絶対命令である。
これらの掟を「アメリカ文化」(右欄)と対比して見ると、いかにアッラーの教えに背いているかがわかる:
・金利禁止(2章276節)   対 マネーゲーム、デリバティブ、
・男性優位(4章38節)   対 ウーマンリブ、男女同権、
・同性愛の禁止(7章78節) 対 ゲイ運動、同性結婚、
・偶像禁止(29章17節)   対 ハリウッド、テレビ、アイドル、等々――。
問題はこの「堕落文化」が自国圏に留まらず、イスラム社会へ「侵入」してることが異文化挑戦と映る。


5)「文化・宗教」の衝突 = 挑戦と反撃:

この挑戦に対する「反撃」が9・11事件だった(ビン・ラーデンの言い分)。
2章牝牛186節「汝らに戦いを挑む者があれば、アラーの道のために堂々とこれを迎え撃て」
「文化とは人間の生活上の内面的、精神的なもの」(広辞苑)であり、先祖代々引き継がれ、生まれてこのかた擦り込まれた心の状態でその典型は宗教と言える。他者が腕力をもって変えることができようか?


まとめと提言:

「怖いイスラム」という先入観を払拭すること。
2章牝牛188節:「しかしむこうが(戦いを)止めたら汝らも手を引け」
丁々発止の議論はあるとしても、「挑発」「挑戦」としないこと。
異文化コミュニケーションには、相手の思想・行動の理解が不可欠である。
筆者はイスラム圏に出張時はクルアーンを携えていく。それで相手と融和が図れたことが一度ならずあった。
イスラム(16億人、世界人口の1/5)を知らずして世界は語れない。ましてムスリムの最大人口は(中東ではなく)「アジア」なのだ。


一般社団法人日本在外企業協会「月刊グロ―バル経営」(2015年5月号)より転載・加筆。

■ 関連拙稿サイト
夜のブレクファースト
思い出のSanforize
何故英語を学ぶのか 〜 世界平和のために!



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